呪霊を孕ませる特異体質   作:LABO

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21・邂逅

 

 

 [1998年4月26日(日)]

 

 

 今日は、春にしては暑い日だった。

 雲一つない快晴で、太陽がギンギンに輝いていて。そんな中を、俺は脇目も振らずに走っていた。

 

 

 

 くそ、くそ、くそ。心の中はそれだけで埋め尽くされていた。

 でも最早動揺している暇もないほど、俺の頭を後悔の念が過ぎっては消えていく。

 

 

 ───佐藤さんは、“八重さんちの娘が失踪”って言っていた。つまり、遥ちゃんが失踪したということだ。

 

 

 俺があの日、探女と会えなかったから。殺せなかったから。

 

 

 走る、走る。

 いや、もしかしたら探女のせいじゃないのかもしれない。本当は誰か人間がやってるか、探女じゃない陰湿な呪霊がやってるのかもしれない。実はこの島に呪詛師でもいて、隠れてコソコソ何かをやってるのかもしれない。

 

 

 ───なんて。甘えた思考を余所に放る。

 

 違う。違うだろ。濱井君のときからそうだ。こんな狭い島を、あんなに隈無く村のみんなが探して証拠一つ見つからなかったんだぞ!なら人間の仕業な訳がない。

 

 そして、なら、呪霊が何かしてたって言うなら!それは俺の責任だ。くだらないことに悩んで、呪術が使える(力がある)癖に、呪霊祓除の努力を怠ったっ!

 

 

 俺のせいだ。俺のせいだ。

 

 

 

 

「くそッ、クソがぁ─────っ!!」

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、は、はっ………」

 

 

 

 

 そのまま走り続けて、俺はいつもの山に辿り着いた。

 

 会わなくちゃ。助けなくちゃ。

 その一心だった。

 

 

 冷静に考えれば、いつもの神社に遥ちゃんがいる保証はない。だからもしかしたら、また誰もいないだけで終わるかもしれない。

 でも、それでも。

 島中を虱潰しに探すより、まずは心当たりがある場所から潰していくべきだ。

 俺はそう考えた。

 

 

 ……いや、違うだろ。本当は、まだ探女に会えるんじゃないかとって考えているんだ。

 

 

 

 なのに。こんな時に限って────。

 

 

 

 

「アレぇ?可愛イネ、可愛イネェ?名前ハ何テ言うのぉ?」

 

 

「────ッ」

 

 

 

 良からぬことってのは起きるものだ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 山中を走る刹那、突然背後に嫌な感覚が過ぎった。

 

 まるで走馬灯のようにスローになる意識。

 それが殺気だと分かった瞬間に、俺は横に飛び退いた。

 

 

 ───直後、爆音。遅れて地響き。

 

 視線をその方向に合わせて、漸く起こったことの全体像を理解する。

 

 

 

「可愛イネェ、可愛イイネェ。ドコカラキタノォォオ」

 

「………チッ」

「舌打チもカワイイねぇエ」

 

 

 認識した現実に、思わず舌打ちをする。

 

 

 地面にできたクレーターの上に佇むそいつは、人型の呪霊だった。

 完璧な人の形をしている訳ではない。だがその姿、感じる呪力量、そして、探女以外に見てきた呪霊の中では抜きんでた言語能力───格上だと、直感で理解した。

 

 首元に手をやる──くそ、焦っていたあまり穏柄を持ってくるのを忘れたッ。

 つまりだ……俺は今からこいつと、武器無しでタイマンしなきゃいけないって訳だ。

 

 

 

 

「あー………お前、話せるか?」

「話セル!話セル話セルセルルルルル!」

 

 

 軽く声をかけてみると、呪霊は気持ち悪い動きをしながら返答した。

 会話は一応成り立った。しかし、ギリギリといえばギリギリな感じもする。

 それと、探女程は感じない呪力の圧から、一級相当の呪霊と当たりをつける。

 

 

「………………」

「みっみっミツメテル……もしかして俺のコトスキナノカ……!?」

 

 

 相手の状態を観察する。

 見た目はほぼ半裸の人間。ただ性別を示すような特徴は無い。強いていえば体表にいくつかの傷跡が見える。

 傷跡というか縫い目か。

 フランケンシュタインのような様相だ。

 

 

「………お前、名前は?」

 

「!!!ナマエ!名前は『為人(ヒトトナリ)』ッテンダ!」

 

 

 やり取りを続ける。質問の内容は何でも良かったが、取りあえず名前を聞くと、『為人』という答えが帰ってきた。

 名前はあるのか。持って生まれたのか、誰かに名付けられたのかまでは分からないが、やはり確固たる自我があるようだ。

 

 すると、今度は為人の方から、俺に向かって話しかけてきた。

 

 

「キッ、キキ、君の名前ハっ!!?」

 

「…………あー……アイジン、かな」

 

 

 名前から何かされる可能性も考慮して、適当な偽名で答えた。

 すると、為人は何故か身悶えし、自分の体を抱きしめる。

 

 

「アイジン、アイジン……ななな名前キイチャッタヨォ、コレってさぁ、コレってコレって、愛シ合ッテルてことダヨ───ナァッ!!!」

「!?」

 

 

 刹那、爆発的な加速。

 今の会話のどこに琴線があったのか分からないが、為人は呪力を高ぶらせながらこっちに突っ込んできた。

 

 

「スキダッ!!!」

「ガッ────」

 

 

 ───速い。

 不意をつかれたのもあって、ガードを上げるのが遅れた。

 しかし念の為の警戒として、呪力は常に身に纏わせていた為、ダメージそのものは微々たるもので済んだ。

 

 次。左腕での殴打が来る。

 体格差的に頭に来る軌道を、身を逸らして躱し、全力の左ストレートを叩き込む。

 

 

「アギャア!」

「死ねッ」

 

 

 そのまま右でもう一発。当てようとしたところを、しかし仰け反って躱される。

 

 

「ン……何カシタカ?」

「やってきたのてめぇだろ!!」

 

 

 そのまま、今度は俺から仕掛ける。

 右からのワンツー。途中で足の入れ替えやフェイントを挟み、兎も角当てることを意識する。

 しかし。

 

 

「イテェ、イテェけど……アレ?」

 

「………くそ」

 

 

 連打をやめて一度飛び退く。

 見ると、為人は殴ったところを掻いて首を捻っている。

 

 ……駄目だ。普通に呪力を纏わせただけの攻撃じゃ、効いてる感じがまるでなかった。

 圧倒的な戦力差。やはり格上という見立ては間違っていなかった。

 

 だが、勝機はある。

 通常の呪力による攻撃が効かないのであれば、正のエネルギーを流し込んでやればいい。

 ───しかし、問題もある。それも二つ。

 それは俺が、呪力と正のエネルギーの同時運用をまだ行えないということ。そして、このレベルの相手に有効な量を流し込むには直接触れる必要があるだろう、ということ。

 

 つまり俺は必殺の一撃を放つ瞬間、逆に致命傷を受けるリスクに己の身を晒さないといけないということだ。

 

 

「ンナァ……ちょこまかウゴクナヨ」

「……いや、動くだろ。動かなきゃ死ぬんだし」

「当たり前ダロ!殺すんダカラ!なんで素直に殺されてクンネェンダヨォ!!」

「何だその理論!!」

 

 

 再び呪力が爆ぜる。

 今度仕掛けて来たのはあっち。但しさっきとは違い、変則的な軌道を織り交ぜてきた。

 

 

 やはりスピードが違う。そして攻撃も重い。連打のうちの二三発を食らってしまった。

 

 ──思考を切り替える。今は避ける、逃げることにリソースを割くことにする。

 今は兎も角油断させる。隙を作る。

 

「ダカラ!ニゲンナッデ!!!」

「──っ、ち」

 

 

 

 ☆

 

 

「ンァアアイライラスルゥ!!!!」

 

 

 それから──何分経った?分からないが、いよいよ為人に焦りが見え始めた。

 逆にこっちは最低限の呪力消費。そして観察を重点的に行った為、相手の動きに目が慣れ始めた。

 いい感じだ。

 

 

「ウォオオオオッ!!!」

 

 

 そしてついに、為人はイライラを吐き散らすかのような咆哮を上げ、こちらに飛び掛かって来る。

 速いが、最初と同じ、直線的な動き!

 瞬間、正のエネルギーを一気に練り上げる。

 そして素の身体能力だけで突進を躱し───ッ

 

 

「ここッ」

「ウガァアアアアアアッ!!???」

 

 当たった。流し込めたッ!やった────

 

 

 

「ナンチャッテ♡」

 

 

 

 響いた声に思わず振り返り。

 

 そして目の前には、醜悪に歪んだ顔が───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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