呪霊を孕ませる特異体質 作:LABO
[1998年4月26日(日)]
「さて。そしたら次は
再び動くのを辞めた為人の前にて。
俺が生の喜びを噛み締めてから暫く、温かい目でこちらを見ていた探女が、ややあってそう呟いた。
彼女の方を見ると、まるで玩具を手に入れたかのよう顔をしている。
「どうって……祓うんじゃないの?」
「そんなの勿体無いじゃろ!折角こんなに
メラメラと燃え上がる炎を、探女の後側に幻視する。
「そうじゃ!ならこいつを使って、其方が持つ生得術式について、妾が
☆
俺の持つ生得術式と聞いて思い出すのは、日記に書かれた探女のぼやけ文字のことだった。
「あー。そういえばそんなこと書いてたな」
「おっ、なんじゃ、やっぱり読んでおったのか。全然聞いてこないから、ホントは己の生得術式に興味が無いのかと思っておったぞ」
「いや、ちゃんと読めたのは日記持って帰ってからだよ」
話しながら思う。勿論、本当に生得術式があるなら使いたいとは考えていた。
しかし──
「生得術式ってさ、幼い頃に自覚するもんなんじゃないの?それに呪力を普段から使ってて、ここまでうんともすんとも言わないことってあるのか?」
それが俺の中にある疑問。あの日記の内容には確かに少しの期待を抱いた。しかし客観的な事実や感覚から、やっぱ無いなんだろうな、と諦めていたのだ。
「通常はな。しかし其方───自分自身で自覚している部分もあると思うが、
「っ、うん」
うっ、と一瞬言葉に詰まる。
そりゃまぁ、日記を盗み見られてるんだから知ってるか。
ただ、ちゃんと言葉にして説明してないことを説明されると、なんだかバツが悪く感じる。
探女はそんな内心を見透かしたのか、ふふと一度笑うと、そのまま言葉を続けた。
「別に前世の記憶を持って生まれること自体は、珍しいが無いわけではない。ただ、其方が普通じゃない部分は、そのやって来た魂にあるのじゃ」
「魂に?」
「そう。其方の魂は、見たところ正常の輪廻を経ていない。より分かりやすく言うならば───」
こちらを見やる探女は、一瞬意味深な溜めをつくった。
「───怨霊なんじゃよ」
俺が、怨霊?
突然突き付けられた事実は、想定外過ぎて俺の頭を真っ白にさせた。
「……その様子じゃと、やっぱりこのことは気づいていなかったようじゃな」
「………、いや。そりゃそうだろ。だって俺今生きてるし、呼吸してるし、さっきは死にかけたし。死にかけるってことは生きてるってことだろ」
「普通ならな。しかし其方は、
淡々とこちらを否定する探女の口調に、俺は何か、薄ら寒いものを感じた。
「それってつまり、どういうことだってばよ」
「其方の肉体は確かに生きておる。しかし其方の魂は怨霊──つまり死んでおる。本来『死』という壁を挟んで隔てられるべきその二つが、無理なく成立しておるのじゃ。それが其方の抱える異端じゃよ」
その説明で、漸く腑に落ちる。
つまり、俺から見たらただの『異世界転生』だったことは、客観的にみると、例えば、心霊番組で悪霊を憑依させた霊媒師が、本人みたいに生活しているってことだ。
そうか。そりゃそうだ。異世界転生ってそういうことだもんな。
え、怖。俺ってそんな怖い、いや、気持ち悪い存在だったのか。
ん。それってつまり───。
「じゃあ、母親に嫌われているのとかも」
「まぁそれはそうじゃろ。特に血の繋がりがあるのであれば、なんとなく感じるものもあるのではないか?」
ゾワ、と鳥肌が立つ。
つまり、俺は母親に、あの人に、そんな恐怖を感じさせながら生きてたってことだったのかよ。
「………一つ忠告しておくが、其方の肉体は確かに其方に与えられたものよ?魂と肉体の繋がりに違和感は感じない」
「いや………それでも、それでもだろッ。どんなストレスだ、どんな苦痛だよそれ。それを俺は、何をのうのうと………っ」
現実を理解して、思わず膝から崩れ落ちる。
息が自然と荒くなり、治したばかりの手は頭を掻き毟る。
あの人がやってたのは、ネグレクト何かじゃなかった、
それを俺は、仕方ない奴みたいに扱って───ッ。
「じゃあ、死ぬかの?」
「…………え?」
浅くなっていた呼吸は、横から呟かれた探女の一言で停止する。
「其方の存在が其方の母親を苦しめているのなら、其方は死ぬのか?」
「…………それは」
「死なぬじゃろ。怨霊というのは、人間が死んでも捨てきれぬ思いを持って命果て、初めて産まれ落ちる存在じゃ。怨霊と化すほどの想いを抱えていて、第二の生を享受して────望外の幸運を掴みながら、斯様な無様な態度を見せるな」
「───醜いぞ」
そう告げた探女は、いままでに無いほど冷たい目をしていた。
心底気持ち悪いものを見るような、見下すような、無機質な視線だった。
「………クソが」
そして俺は、それに何も言い返すことが出来なかった。
悔しい、苦しい、腹が立つ。でも、それは探女が言っていることが、図星である証拠に他ならない。
俺は探女の言う通り、どんなに罪の意識を持ったって、この第二の人生を自発的に終わらせることだけはしないだろう。
探女に今の言葉を言われなければ、一丁前に悩んで、傷ついて、まるで自分も被害者かのように錯覚して──それでいつか、勝手に自分の中で現実を丸め込んで、許された気になっていただろう。
本当の意味で自覚する己の弱さ、醜さ。
目眩がする。だが、それさえも醜い。気持ち悪い。
正直、死んでも捨てきれない想いというものに、今の所心当たりはない。
しかしそれでも俺は死にたくない。あの人がどんなに苦しんでいるとして、するのは精々なるべく早く島を出て、あの人から離れる、くらいのことだ。
───喉まで込み上げた胃液を、グッと飲み干す。
そうだ。俺は屑だ。
だがそれでも生きていたい。人生を楽しみたい。
曲げたくない、死にたくない、悲しみたくない。
「───悪い、切り替える。教えてくれ、俺の術式について」