呪霊を孕ませる特異体質 作:LABO
【1998年4月27日(月)】
今日は自分の局部を襲った想像を絶する痛みで目が覚めた。
やばかった。痛みというか、もはや灼熱って感じ?
特に玉の方がやばくて、脂汗をかきながら確認したら、真っ赤になって通常時の二倍くらいの大きさに膨れ上がっていた。
いやぁ、昨日の夜はなんともなかったから油断していたよ。
探女曰く、昨日は俺の体を神託で騙して子作りのできる体に見せかけていただけらしい。
だから術式効果が切れて神託が解けたことで、現実との
起こったのだろうじゃねぇよ!って流石に全力で怒鳴った。
その後は反転術式もあんまり効かないタイプの痛みだったので、只管熱が収まるまで布団の中で悶え続けた。
夜までそんな感じで、なんとか落ち着いたから日記を書いている。
不謹慎な話だが、今日学校が休みで良かったと心底思った。
んで昨日のことなんだが。
文字にするのはキツイので詳細な内容は省略するが、俺は色々あって生得術式を自覚し、更には探女と為人という二体の強呪霊との支配関係を築くことができた。
つまりポジティブに捉えればだ。
探女との仲直りとこれからの伸びしろの自覚という二つの重要事項を行うことができたのだ。
代わりに人として大切なナニカを喪失したが。
…………なんなんだよ。呪霊を取り込む方法が『孕ませること』って。
イカれてんだろ。
もしこれから先で夏油傑と会うことができたとして、俺はどんな顔して彼と会話すればいいんだ。
そもそも俺って中身怨霊なんだよな。もしかして俺って呪霊操術の術式対象になったりするのか?
ちくしょう。人間の中に怨霊っていう存在を原作で見たことがないせいで、これから起こりうることが想像できない。
てか六眼に俺ってどんな風に映るんだろう。確か脹相が受肉体ってことも見ただけで見抜かれていたよなぁ。
これ場合によっては呪霊操術の術式対象どころか、そもそも討伐対象になったりしない?
原作への関わり方も、一度しっかり考えなきゃいけないなぁ。
あ、ちなみに昨日は一度神社に寄って、ビリビリの服を隠してから家に帰った。
忍び込んだので下半身丸出しだったのはバレずに済んだが、普通に家を飛び出したことの方で佐藤さんにこってり絞られた。
すみませんでした。
【1998年4月28日(火)】
昨日一日はなし崩し的に休息にあてることになってしまい、今日。
本当は遥ちゃん探しに行こうとしたのだが、佐藤さんからのマークが厳しくてどうにも家を抜け出せなかった。
勿論事態が一刻を争うことは分かってる。
だが今の青原島では、佐藤さんに止められていなくても、当てずっぽうに動き回るのは難しそうだった。
というのも、だ。
失踪者が連続して二人も出たからだろう。昨晩から島の見回りが強化されたのだ。それもかなり厳しく。
それは今朝窓越しにちらっと見ただけでも、街中で警察や有志で集まった捜索隊の人々が動き回っているのが分かるほどだった。
佐藤さん曰く、警察側でも今回の件は重く受け止められているらしい。
事件性が高いと見て、本腰を入れての調査が改めて進んでいるんだとか。
つまり今の島には、俺みたいなガキが一人で徘徊するだけの隙が存在しないのだ。
勿論呪術的な要素が絡んでいる可能性を想定して、可能であれば俺も捜索に出たいところではある。
しかし昼夜問わず誰かが見回りに出ている以上、それも大分難しそうだった。
でだ。
外に出れない分何をやっていたのかというと、今日は術式について改めて確認していた。
あんま把握していない力をぶっつけ本番で使うのは怖いからな。
呪詛師や呪霊との戦闘も想定しておかなきゃいけない以上、ここを疎かにはできなかった。
ということで色々やってみた。勿論家の中でできる範囲のことだけだが。
しかしそれでいくつか分かったことがあった。
それは通常の呪霊操術との差異についてだ。
俺の方の呪霊操術───一々区別するのが面倒くさいため、以下呪霊操術・偽とする───は、どうも通常のそれより支配の効力が緩いようなのだ。
実際に術式を行使した際、探女と為人を呼び出す──というか、住まわせている生得領域から具現化させるところまでは特に問題なく行うことができた。
しかしそこから行動を操ろうとしても、二人共全然言うことを聞いてくれないのだ。
動け!とか念じたり、言葉で命令しても全然言うことを聞かない。
でも、動いて!って言うと、“仕方ないなぁ愛人は”みたいなテンションで言うことを聞く。
なんだろう。
なんか気分としては、呪霊操術の術者ってよりはポケモントレーナーみたいな感覚だった。
なんなら為人とか、ちょっと時間が空くとすぐ抱き着いてくるしね。
それに探女がキレて言い合いが始まる。そんなくだりが今日だけで五回はあった。
マトモに検証させてくれや。時間ないねん。
そして結果的に、俺が完璧に支配権を握れるのは呪霊を外に出す・ひっこめるという部分だけ、というのが分かった。
なんでこんなに支配力がないのか。それについては探女と話し合ってみた。
そして色々考えた中で一番しっくり来たのが、やはり支配方法の歪みが影響しているのではないか、というものだった。
倒す、ないし弱らせて取り込む、という通常のソレとは異なり、俺の取り込み方は『孕ませる』ことによる血縁関係の構築が根底にある。
つまり呪霊と術者はある種家族というか親子というか、そんな関係性になる訳だ。
んでそこには、通常ほどの「支配・被支配」の絶対的な差が無い。
だから操るのが難しいんじゃないか。
そう言われて、まあ確かに家族に命令口調でなんか言われても動かんわなぁ。と思った。
反抗期かよ。
まぁ正直ここら辺は未知で、考えても結論の出ない部分ではある。だから今はこう思っていていいんじゃないだろうか。
とそこまで話し合ったあたりで、『え、俺って呪霊と実質家族なんですか』という絶望の疑問点が浮かび上がった。
これもう俺人間じゃないね、分かってたことではあるけど。
あでも原作主人公たる虎杖悠仁君はメロンパンの悪魔の息子なんだって考えたら、どっこいどっこいかもしれない。
な訳あるか。
と。一頻りの絶望に膝から崩れ落ちたわけだが。
一方で俺の術式はデメリットばかりというわけでも無いようだった。
呪霊操術・偽のメリット。
その一つ目が、呪霊二人にある程度の『正のエネルギーへの耐性』があったことだ。
きっかけは探女からの提言である。
もしかしたらというので、為人の体を一部切り離して、そこに正のエネルギーを注ぎ込んでみた。
するとかすり傷がつくだけに収まったのだ。俺自身としてはそれなりの量───それこそ、取り込む前の為人にぶち当てたのと同じくらい注いだつもりだったのに。
その後、反転術式越しに触れてみたりもしたのだが、少量じゃピリッとするぐらいの反応だった。
不思議な現象だが、コレも恐らく『孕ませる』という部分が原因なんだろう。
結論としては今のところ、彼女らは孕む・産まれ直すという過程を経て、呪霊の中でも“人間に近い分類の存在”になったのではないかと考えている。
花御が“呪霊の中で精霊に近い存在”なのの人間版的なね。
だから正のエネルギーにちょっと強い。
要検証ではあるが、これも今はそういう把握の仕方でいいかな。というかもうわからん。
そして次に。
これが結構便利なのだが、なんと肉体を探女や為人と共有することができたのだ。
感覚としては、原作での虎杖と宿儺、天使と来栖の関係と似ているかな?
やり方は簡単で、生得領域にいる彼女らと交代するというか、うーん。
なんか俺の肉体を操作するためのハンドルがあって、それをもたせるって感じ?。
すると肉体の主導権を渡せる。
例えば探女と共有した場合、その状態だと俺の体は探女の意思で動かせるようになり、また呪霊操術が使用不可になる代わりに
これは本家の呪霊操術では行われていない、というか恐らく不可能な使い方だろう。
推測でものを言うことしかできないが、俺の魂が怨霊であることに関係してくるんだと思う。
普通の使い方と区別するために、こっちを『拡張術式・
…………あーーーーー疲れた。
結構な文量を書いたから腕が痛い。
ということで、今日の成果は一先ずここまで。
そして本日検証を重ねる中で、遥ちゃん捜索の為に
[1998年4月29日(水)]
自室にて。
勉強机に向かい合うふりをしながら、呪力感知で家の気配を探る。
「………」
……うん。母親も佐藤さんもどっちも出掛けたみたいだ。
佐藤さんは仕事かな。母親は何だろう。まあどこに行ってたとしても、十分やそこらで帰ってくるってことはないだろう。
自宅にメバル以外がいないことを確認した後、俺は意識を自分の内側に集中させた。
瞬間、内側に引きずり込まれるような錯覚と共に、目の前の景色が一変した。
「っお、来たのか」
その場所───俺の生得領域は、何本もの
時代劇にありそうな感じというか、殿様が座ってそうというか。
兎に角不思議な感覚だ。自分の内側にそんな景色が広がっているなんて。
「おー、ようやっと来たのじゃ」
俺が暫く生得領域をしげしげと眺めていると、横の襖がひとりでに開き、そこから探女が姿を現した。
あの後、色々あって無事取り込むことに成功した探女は、野良呪霊であった頃と同じように巫女装束のような格好をしながら、そこに女性的な丸みを帯びて人間に近い見た目になった。
血色のよくなった頬に手を添えながら、探女は大きくあくびをした。
「おはよう、寝てた?」
「んー。
「ならよかった。でも呪霊って寝るの?そういうとこも人間に寄ったのかな?」
「さぁ?しかしただの呪霊であった頃とは、些か感覚が違うのも確かじゃの」
そう言うと、探女は大きく伸びをしてからこちらに向き直った。
「ところで。本当に
「それを確かめるための、だろ。とにかく今は少しでも情報が欲しいんだ」
「そうだけど~………」
頬を膨らませる探女は、明らかに乗り気ではなかった。
どうにも、今からやることは彼女の信条からすると気持ちの良いものではないらしい。
不満げな彼女に少し心が痛むが、俺は今はそんなことを言っている場合ではない、と心を鬼にする。
「不満は後でいくらでも聞く。だから今は力を貸してくれ」
「………しょうがないなぁ。わかったのじゃ」
「ありがとう」
了承してくれたことに礼を言ってから、意識を生得領域内から引き上げる。
目を開くと、いつもの自室に風景が切り替わっていた。
これから訪れる感覚に少し緊張しながら、息を一度大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「ふぅー……っ、『
詠唱に合わせて、急速に呪力を練り上げる。
すると腹で渦巻く自分の呪力に合わせて、裡から別の呪力がせり上がってきた。
それらは段々と混ざり合い、色を変え、俺の意識が遠のきながら明瞭になるという、不可思議な感覚を齎した。
「………っと、成功じゃな」
その言葉が、術式の発動が完了した証拠だ。
慣れ親しんだじいさんみたいな口調。だがそれは今、俺の口から発されている。
「誰がじいさんじゃ、誰が………にしてもこれは、久方振りの感覚じゃの~~~」
喜びを抑えきれない言葉。それに合わせて、
「美味い!生身で感じる空気!美味い!!!暫く一服させてくれ!」
いや、ただの呼吸のことをそんな煙草みたいにいうなよ。
☆
なんやかんやと騒ぐ探女を
俺が探女に無理を言ってまでやりたいと考えていたこと。それは探女の術式である『神名偽』を用いて行う『遥ちゃん探し』だ。
昨日の話し合いの最中。
自分の術式について大体の把握を終えた俺は、探女に気になっていたことを尋ねた。
『そういえばさ、探女はどうやって俺の生得術式を知ったの?』
『あれ、言ってなかったけ?』
『言われてない。多分』
そんな感じのふんわりとしたやりとりを経て、探女は彼女が持つ術式の、
探女曰く、そっちも同じく『
最初は読み方同じじゃん、何言ってんだ?と思ったのだが、実際のところは『神名偽』の方が本来から崩した使い方なんだとか。
彼女の術式、というより彼女の根源。それは見た目からも察しがつく通り巫女であり、『巫』ではその役割が術式として再現されている。
巫女の役割とは何か。それは神と人間の仲介役。
巫女が行う仕事自体はそれ以外にもいくつかあるらしいが、彼女の術式は特にメッセンジャーとしての役割にフォーカスされている。
つまり術式効果の説明としては、『神から神託を受け取ってそれを人に伝える』が正しいものになるのだそう。
それを聞いて俺は思った。え、その説明だと『神名偽』はどうやってやってんだよ。って。
その答えは大分賢い、というか、正直言ってインチキだなと思うようなものだった。
曰く、彼女は己の術式の術式効果を、①神託を受け取る②神託を人に伝えるの二つに分けて考えたのだとか。
そしてこうも考えた。
『あれ?神託って嘘ついてもいけるくね?』と。
それを聞いたときは愕然としたね。
だって神道を詳しく知らない俺でも、神託で嘘をつくなんてヤバそうだって分かるもん。
しかしなにやら反抗期じみていた探女は、そこを起点として術式の
そして自身の術式を人知れずチューニングしていく中で、
───人を神と見立てて情報を神託として引き出す『巫』、だったのだ。
説明が長くなってしまい大変申し訳ないが、つまり言いたかったのはこういうこと。
遥ちゃんを対象に『巫』を使い、その居場所や下手人の正体を探ってしまおう、というわけだ。
「はぁ~……やりたくないけど、仕方ねーのじゃあ………『巫』!」
気だるげに言いつつ、
っ。領域展開を喰らったときも思ったが、相変わらずなんて呪力出力だ。しかもコントロールのキレも桁違い。
自分として認識して、改めてこんなのに勝てるわけがないと感じる。少し前の自分がいかに無謀だったのかを思い知るね。
「───反省するのは構わぬが、一応其方にもこの体の支配権は残っているのだからな!物思いに耽るあまり呪力を乱さないようにの!」
ネガに入りそうだったところを、探女に引き戻された。
そうだ、今は目の前のことに集中しなくては。
───『拡張術式・融合』は、俺の肉体で取り込んだ呪霊の持つ術式を使える半面、制御については若干の癖があり、コントロールするのが少々難儀なものになっている。
癖とは何か。
例えば今、俺は肉体と呪力の制御をわざと放棄し、それを全て探女に委ねているのだが、俺がそうやって体の支配権を譲渡できるのは、俺が意識的に操作できる部分に限るのだ。
つまり意図的でない部分───呼吸や心臓の鼓動を初めとした生きる為の前提となる行為や、感情、咄嗟に出る反射などの、無意識の行動までは呪霊に委任することができない。
今の状況でいえば、俺の感情が乱れれば、探女の制御とは関係なく呪力がぶれてしまうということなのだ。
ただ委ねるだけではなく、なるべく平静で委ね続けなくてはならない。それがこの拡張術式が難儀だと言った理由だった。
そしてなぜわざわざそんな不安定な状態で『巫』を行使しようとしているのか。
それは、『巫』の発動条件に起因する。
人を神と見立てる『巫』は、その前提にかなりの無理難題を抱えている。
当たり前だ。少し呪術を齧っただけの俺でもかなりの制限、縛りが必要となるのは分かった。
そして『巫』に存在する縛りは全部で四つ。
まず一つ目が、『対象にできるのは人間だけで、且つ生きていること』。
二つ目が、『知ることが出来るのは「今」のことだけ』。
三つ目が、『一人に使えるのは日に一度まで、更に「巫」をかけた相手には、その後二十四時間「神名偽」を使用できない』。
そして四つ目が、『対象と、ある程度の繋がり(面識)があること』、である。
この四つ目の縛りである繋がりという部分が、単純に探女を外に出して術式を行使してもらうという選択肢が取れない原因だった。
当たり前の話だが、探女と遥ちゃんの間には面識がない。
それは勿論縛りに抵触するため、どうにかして探女に
そのために必要になったのがこの肉体の共有である。
こうすることで、俺は呪術的に山園愛人でありながら、天探女でもある、ということになるのだ。
まぁ知らんのだけど。正直ほとんど探女からの受け売りだ。
この拡張術式も、探女のもしかしたらできるかも発言で挑戦してみたらできただけだし。
マジでおんぶにだっこどころの話じゃないな。
ともかく。
そんなこんなな経緯があって、俺はこんな回りくどい方法をとっているのだ。
まぁここまでやっても遥ちゃんがもう既に……ってことだったら無駄骨になるけどね。
───と、そんなブラックジョークを内側でこぼした瞬間だった。
それは正しく、脳に電流が走ったかのような感覚。
「───賜った。愛人よ、遥ちゃんとやらはどうやらまだ生きているようじゃの?」