呪霊を孕ませる特異体質   作:LABO

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 [1997年3月12日(火)]

 

 

 

『大丈夫だからね。俺が側にいるから。勿論お金もあるし、お産にだって立ち会うよ、だから俺と一緒になろう?』

 

『…………………うん』

 

 

 

 扉越しに聞こえる会話は、ずっとそんな調子だった。

 今まではこの距離では詳細な会話を聞くことはできなかったが、不思議パワーを耳に集めて強化すると聞き取れるようになったのだ。

 

 だがまぁ、聞けたからといって聞きたいとは思わない。

 いかに自分を嫌っていようと、彼女が俺の母親である以上、複雑な気持ちになるのも事実だ。

 なんならまだ父親が死んで二月程しか経っていないというのに。

 

 

「……………っ」

 

 

 それは何に対するどんな感情なのか。俺自身も言語化することのできない昏い感情が胸にうずまき、ぎりりと歯を噛み締めた。

 

 痛てぇ。最近グラグラしてきた歯にも負荷をかけてしまった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 暖かくなってきた山道を行く。

 いつもであればトレーニングがてら走る道を、今日は歩いて登っていた。

 

 

 何となくだが、前世の自分は『転生』というものにお花畑なイメージを抱いていたように思う。

 勝ち組人生を歩めるだとか、幼い頃から活躍してハーレムだとか。

 それは多分、趣味として見ていたアニメやネット小説などからくるものなのだろうが。

 

 しかし、現実はこんなにも甘くなかった。

 結局は運なんじゃないか。もしくは人との巡りあわせ。

 これがもし都会の金持ちなら。そうじゃなくてもせめて地続きであってくれれば。

 孤児院に転がり込むなりなんなり、能動的に動く方法はいくらでも思いつくのに。

 

 

 

 折角の生まれ変わりなんだから、もう少し自分で切り開いてみたい。

 こうなったら船盗んで東京まで夜逃げしてやろうか。

 

 

「………………無理だなぁ」

 

 

 考えて、諦める。そもそも船の操縦方法なんて分かんねぇわ。

 それに東京がどっちの方にあるかも大体でしか分からないから、下手したら太平洋で遭難して餓死する事にもなりかねない。

 

 ……今は兎も角待つしかない。ここがほぼ孤島だと言っても、定期便なり何なりで、少ないながらも人の行き来は必ずあるはずだ。

 ならば、その少ない巡りあわせを必ず掴めるように準備しなければ。

 

 

 

 そう、決意を新たにしたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アアアアレェ?カワイイイイイネェ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ、こいつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【1997年3月12日(火)】

 

 

 

 結論から言おう。死ぬかと思った。

 

 

 やばい生き物がいた。場所は山道の中腹、この前の雨で小規模の土砂崩れが起きたとこだった。

 そいつはトカゲのような身体と、目が三つある人間の顔を持ち、意味は分からなかったが日本語を話している。

 

 思わず立ち止まると、足音に気づいたのか視線がこっちを向いた。

 そして暫く見つめ合った後、そいつはやはりというべきか、奇声を上げながら襲い掛かってきたのだ。

 

 日記に書いてるから冷静な文章になっているが、まーーーじで死ぬかと思った。

 幸い全体の大きさは小型犬くらいで、動きもそこまで早くなかったお陰で逃げ切れたが、もしも何かの要素が欠けていれば俺は殺されていたかもしれない。

 

 

 

 

 …………しかし、悪いことばかりではない。

 今回の件で俺は一つ思い当たることがあったのだ。

 

 

 端的に述べると、『呪術廻戦』という漫画。前世にあったやつ。あれに出てくる呪霊という存在に、今回出会った化物は酷似していたのだ。

 

 もしもこの世界が呪術廻戦の世界なら。そうなると、今まで感じていた疑問が色々と腑に落ちる。

 

 

 まず一つ目、俺の使える不思議パワーについて。

 ここが呪術廻戦の世界であるのなら、あれは呪力という認識で間違いないだろう。

 感情──それも、負の感情の高まりで目覚めたパワーであるという点、更には身体強化に使えるという部分も共通している。

 二つ目に、この前空を飛んでいた謎の生物について。

 かなり上空を飛んでいたから、大まかな形しか確認することができなかったが、思い返すとあれは『蝿頭』と呼ばれていた呪霊のなり損ないだったのではないだろうか。

 

 そして三つ目。さっきの化物だ。あれは間違いなく呪霊だろう。

 まずいた場所が、土砂崩れが起きた跡地だったこと。更にはあの人間の声のような鳴き声。そうでなければ説明がつかない。

 

 

 今まではこの山を走り回っていても見かけることはなかったのだが、それにも二つの仮定をおけばすんなり理解できる。

 すなわち、俺が呪力に目覚めることで、今まで認識できていなかった呪霊を見ることができるようになった。

 もしくは、父親の死亡事故から人々の恐怖心が高まり、呪霊が生み出されるようになった。

 このどちらか、もしくは複合的に影響していると見るべきだろう。

 

 

 ……先程は死ぬかと思ったが、今となっては少しワクワクしている。

 何故か。やれそうなことが見つかったからだ。

 

 

 やるしかねぇっしょ。呪霊狩り。

 んでこの村の平和を人知れず守りつつ強くなって、青田買いみたいな形で俺は呪術高専に入るわけよ。

 で原作キャラと仲良くなったりな。タイミングによっては原作キャラの死ぬ未来を回避するみたいなこともできるかもしれない。

 

 

 陰鬱としてた人生に光が差した気がする!!

 

 

 

 ……俺はやっぱり俗だ。それも低俗で、人間の愚かさの塊みたいな頭をしてる。

 ただ、それでも死にたくはないし、生きるなら楽しく生きるか、心に充実感を持って生きたいのだ。

 

 ああ、生きてやるとも。孤独に負けず、やりたいように!

 

 

 ということで帰り道で、あの呪霊の討伐に挑戦してみようと思う。

 

 

 

 

 

 

 【1997年3月13日(水)】

 

 

 

 

 無事に狩ることができた。

 

 

 昨日の帰り道のことだ。いるかなと考えてまたあの土砂崩れ現場に寄ってみると、人面トカゲは最初のときとほぼ同じ体制で居座っていた。

 一応追いかけられたときには結構離れたところまでついてきていたんだけどな。

 それについては、確か原作で宿儺が『呪霊は元来生まれた場所に留まる』みたいなことを言っていた気がするし、そういうものなんだろう。

 

 

 閑話休題。

 

 

 昨日の日記にはイキって書いたが、実際のところはなかなかのへっぴり腰だった。

 要するにお化けを倒してやるってことだし。なんなら異形とはいえなかなかに生物的な見た目をしているわけだし。

 更には殺した生き物といえば、部屋に出た蜘蛛が最大サイズな俺が、チワワサイズの動くナニカを殺すのだ。

 恐怖とは別で躊躇する感情もあった。

 

 しかし俺にはもう何も残ってなかった。そんな中で垂れてきた蜘蛛の糸である以上、多少の無理はどこかでしないといけない、そういう風に考えていた。

 

 

 ……今でも、感覚は残っている。

 

 

 俺を見つけて、獲物に齧り付くみたいに飛びついてきた顔。

 それを呪力で強化した目で見切って回避して、着地したところを踏み潰した感覚。

 

 

 一撃だった。

 

 

 不幸中の幸いとしては、飛び散った体液のようなものも、煙と共に消えてくれたことだろうか。

 消失反応といったか。それだけはよかった。流石に死骸まで処理しないといけないとなったら、ちょっとキツかったかもしれない。

 

 

 恐怖なのか興奮なのか、未だに足が震えるし、アドレナリンが出ているんだろう、不思議な高揚感もある。

 

 

 

 これからはこれに慣れなきゃいけないんだ。やらなきゃいけないんだ。

 怖いけど、頑張ろう。俺ならできる筈だ。

 

 

 

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