呪霊を孕ませる特異体質 作:LABO
[1997年5月24日(土)]
『オカァサァアア!!』
「うるせっ!」
燕のような異形が突撃してくるのを、横っ飛びで回避する。
そのままカウンター気味に殴打を一発。倒すには至らないが、一度ぶっ飛ばして距離を取らせる。
『ぎりぎりりりりりら』
その隙をついて、狼のような呪霊が背後から飛び掛かって来る。
お生憎様、呪力探知でそれを認識し、姿勢を低くして躱してから着地際を蹴り飛ばす。祓えた。
『サワラナイデェェエエ工!!』
『コッチダヨ』
「うるせぇ!次から次へと!」
しかしまだまだ呪霊の猛攻は終わらない。
次は二体が、挟み撃ちのような形で左右から飛びかかってきた。
逡巡。
右から来ていた奴を掴んで、そのまま受け流して相打ちさせる。
姿勢を崩しているうちに蹴りを二発。一体は祓えた。
『オカアアア!!!』
そして、改めて突っ込んできた燕型の呪霊に対して、迎え撃つ形で鉄拳。
呪力を固めるイメージで込めた左手と、燕の嘴がぶつかるが、一瞬の拮抗ですぐに破壊成功。そのまま殴り抜いて祓除。
『コッチダヨォオ』
「ふぅ………ラスイチ!」
そのまま、起き上がってきた最後の呪霊とタイマンを行う。
観察する。人型、鋭利な爪、牙。
今までの経験からしてそれなりに等級が高く、二級相当と見た。
ならば一発じゃ祓いきれない可能性がある為、カウンターを考慮した行動を取る。
「───シッ」
短く息を吐いて、加速。
取り敢えず武器である爪をもぐために、こちらに攻撃しようと合わせてきた左手をジャブで弾く。
ぐっと入り込んで、インファイトに持ち込む。
そのまま左でストレート。右、左。呪力を弾けさせるのではなく浸透させるイメージで、距離を取らせずに同じ部位に追撃する。
、七、八!
無呼吸で一瞬。出来る限りのスピードでパンチを打ち込むと、八発目でようやく表皮を貫いた。
「オラァ!」
そのまま更に追い打ちをかけて、うめき声さえ上げさせずに祓除。
「─────っ!はぁ、はぁ…………くそ、流石に一気に四体は、キツかった───」
暫くそのままの姿勢で残心した後、周囲を警戒してから地面に倒れ込む。
いや、しんど。
まさか日課のつもりで熟してた呪霊討伐で、こんな過酷な連戦をする羽目になるとは。
多対一ってのは、いつかはすることになるだろうとは考えていた。
しかしそれが、よりにもよって運動会当日の夕方になるとは思わなんだ。
只でさえ全種目参加とかいう地獄の運動会を、しかも呪力抜きでこなした後にこれはきつ過ぎる。
いや、よく生きてたよ、俺。
…………地べたに寝転んだまま、乱れに乱れた息を整える。
まあ結果論、普段は呪霊探索に使っていた呪力感知をフル活用することでなんとかなったが。
「はぁ…………」
なんというか、自分の運のなさが嫌になる。
俺はただ今日あったことを日記に書こうとしてただけなのに。
こんなことなら、ちょっと詳細を忘れてしまうとしても無理せず家に帰ればよかった。
そんなことを考えながら、俺は心臓が落ち着いてきたのを確認してからゆっくりと起き上がり、のそのそと廃神社の方へ向かうのだった。
【1997年5月24日(土)】
いやぁ、酷い目にあった。
まさか運動会帰りに呪霊四体と遭遇戦する羽目になるとはね。
本来であれば、運動会であったことをちょちょいとまとめて、今日は鍛錬もそこそこにして帰宅するつもりだったのに。
最近はホントに呪霊の発生数が多くなってきた。
今週だけでも十二体、さっきのを入れたら十六体も祓っている。
しかもその中には強いのもチラホラ。
まぁー思い返してみれば、呪霊ってのは初夏が書き入れ時だって誰かが言ってた気がするしな。こういうもんなのかもしれない。
これ慈善事業だぜ?マジで早く呪術師になって金を貰いたいわ。
とまあ御託はココらへんまでにして、さっさと書きたかったことを書いてしまおう。
なんと濱井君とのいじめ問題が、思わぬ形で本日終息を見せたのだ。
というのも。前述の通り本日が運動会当日だった訳だが。行った種目の中に全員リレーがあった。
先月の全体練習でもやったあれである。
その最中、順当に俺と濱井君は同じタイミングで走ることになったのだが、そこでハプニングが起きた。
なんと濱井君、気が逸るあまり派手にすっ転んでしまい、まさかのまさかに泣きだしてしまったのだ。
確かに痛そうな転び方はしていたが、しかし怪我以上にド派手に泣いていた。
そこにどんな感情があったのかは分からない。だが、もうそのまま全てを諦めたかのように座り込んでしまったのだ。
一瞬迷った。これってこのままゴールすべきなのかなって。
でも流石にそれは空気がヤバくなりそうだなってことで、(別に勝敗もどうでも良かったので)俺はすぐに走るのをやめて濱井君に肩を貸しに行ったのだ。
そしたらさ、なんか濱井君、ありがとうとかゴメンなとかめっちゃ言い出して。
俺も顔面を涙と鼻水と土でぐちゃぐちゃにしてる子供に許さないとか言えないからさ、そのままなし崩し的に肩を貸しながら一緒に走って、同時にゴールすることになったのだ。
その後、保健室に行ってから戻ってきた濱井君は、なんとなくスッキリとした顔をしていた。
なんなんだろうな。別にそこ以外で話した訳じゃないから内訳はほんとに分からないんだけど、雰囲気的にもういじめは行われないんじゃないかなと思う。
いやぁ、思わぬハプニングだったがうまく活用できたな。
というと計算高いようにも聞こえるが、今日の出来事はほんとに偶然だし、あそこで取った選択肢は客観的に見ても正解だったろう。
なんにせよ、一つの憂いが消えたのだ。これで学校にも行きやすくなる。良かった良かった。
【1997年6月29日(日)】
呪霊の出現数が疎らになってきた。そのお陰で日常に余裕が戻ってきたので、久方振りに廃神社にやってきた。
直近の一ヶ月は、ほぼ学校→呪霊討伐→直帰して爆睡の連続だったからね、仕方ないね。
運動会帰りに襲われたあの日から、呪霊の出現数は更に上昇して、酷いときでは体感二級相当の呪霊四体×三連戦みたいなもっとエゲツないのもあった。
しかしそれも六月の中旬まで。明らかに下降線で減っていく出現数と、それに伴って日常に余裕が出てくると、いよいよ夏だなぁと感じる今日この頃である。
それはそれとして。
折角だし、ここ一ヶ月であったことを大まかにまとめようと思う。
まず一つは母親関連の話だ。服の上からでもわかるくらいにはお腹が膨らんできた。
それに伴って、マタニティブルーとでも言うべきなのか、癇癪を起こすことが多くなったように感じる。
なので家では最大限気配を消して過ごしている。幸い佐藤さんはうちの家庭環境に理解を示してくれているので、なんとかうまいことやっている。
あんな昼ドラみたいな取り入り方した癖に良い人なのな、とはやっぱり毎回思ってしまうが。
次に学校関連か。先週くらいからプールの授業が始まった。
あと濱井君については、やっぱりあれ以降いたずらっぽいことは鳴りを潜めた。
バツが悪いのか話しかけてくるようなことはないが、これで学校が安息地になったのが大きい。
ただ逆にちょっとピンチなこともあった。
というのも呪霊討伐が激化していた頃、担任の先生から
『山園君っていっつも山の方に行ってるよね、何しに行ってるの?』
と聞かれてしまった。
最大限警戒していたつもりだったのだが、まさか見られていたとは。
その際は山の向こうに秘密基地を作っている、と答えてお茶を濁したが、この話が他の大人に広まったりして山に、ひいてはこの廃神社に訪れる人が増えるとしたらしんどいなとも思う。
話題の一つで終わってくれることを願うばかりである。
んで、そう!!!
ついに反転術式の感覚を掴むことに成功した!
イメージとしては、まさしくひゅーんとやってひょい、である。
なんというか、頭で呪力を編み込む感覚というか?
右脳と左脳に別々に呪力を貯めて、そこからセーターを編むみたいに一つの流れを編むというか。まあ言語化に限界はあるがそんな感じである。
まだこの感覚を掴めただけで実用化には至っていないが、さっき指先を軽く傷つけてその傷口に使ってみたところ、傷が回帰するような形で治っていくのを確認できた。
苦節二ヶ月。漸く成長の糸口を発見できた……。
え?冷静に考えると俺って二ヶ月で反転術式使えるようになってるってこと?
なんか大分才能ある臭くね?
これは流石に調子に乗ってしまいそうだ。
いや駄目だ駄目だ、この世界は呪術廻戦。
調子に乗った奴から死ぬ。調子に乗ってなくても死ぬ。
じゃあ駄目じゃん。
……まあ、糸口は掴めたとは言っても、まだ実践で使うには明らかに発動タイミングが遅い。
それに呪力も、明らかに生成される正のエネルギー以上に消費されている感覚がある。
恐らく反転術式の発動過程にロスが多いのだろう。
使いまくって、経験を積むことが課題になるだろうな。