呪霊を孕ませる特異体質 作:LABO
【1997年9月21日(日)】
およそ三ヶ月ぶりの日記になる。
ここまで期間が空いたのは、もはやいつもどおりの理由として書くことがなかったからというだけである。
反転術式の感覚を掴んでからのおよそ三ヶ月間は、夏休みに入ったというのもあり、朝食→廃神社で日課の掃除→トレーニング→トレーニングでの怪我を反転術式で治癒するという毎日を繰り返していた。
学校に行くのは極偶に。夏休み前には同じクラスの女の子から遊びに誘われることがあったが、そういうのはもう全部母親の体調を理由に断った。
まあ実態は山籠りしてるだけなんですけどね。
しかしその甲斐もあって、反転術式の扱いは中々に上達した気がする。
感覚の話をするが、今なら指がもげるぐらいの怪我はその部分が失くなっても完治できると思う。
かなりの呪力消費と集中が必要になる都合実践で行うのは厳しいが、それでもこのレベルの回復力はかなり有用であると言える。
そしてなんと、正のエネルギーのアウトプットも意外とすんなり行うことができた。
これは正直システム的には呪力を物に込めるのとそんなに変わらないイメージだ。
ただ、正のエネルギーって呪力を編み込むイメージで生成する都合上、常にそのコントロールを意識化に置いておかないといけないんだよな。
体内で完結させる分には別に問題ないんだが、体外に放出しようとすると途端に霧散してしまうのだ。
つまり体外での正のエネルギー維持は難しく、アウトプットもできなくはないが出したそばから呪力として解けていってしまう、てのが現状である。
ロスが滅茶苦茶多いってことね。
これについては、なんとなくだけど結界術の習得が重要になっていく気がする。
あれって要するに、自身の呪力を体外で維持して空間を作り出すって感じだろ?
呪力の体外での維持。そこをしっかりと体得すればどうにかなりそうな感覚がある。
普通に住宅地とかに呪霊が出たときのために、帳とかも習得しときたくはあるんだよなぁ。
まあ今は無い物ねだりでしかないが。
あ、それと最近改めて気になっていることがある。
それは、俺自身に生得術式は存在しているのかという点だ。
今までは、呪力という不思議パワーの研究解明が楽しくて意識の外にあったが、本来俺が呪術師を志望するのであれば、生得術式とは最も気にしないといけない部分なのだ。
五条悟曰く、術師は才能が八割だという。
呪力操作のセンス、という意味では才能がある方だと自負しているが、それでも生得術式が無ければ、少なくとも禪院家では落ちこぼれ扱いになってしまう。
冷静に考えてやばいよなあのクソ家。
だから自分に術式があるかないか、もしあるとするならその内容について、大まかにでも把握しておきたいんだが、未だにそういう兆候は表れていなかった。
これは無しってことなのかなぁ。それだとちょっとしんどい。
金貯めて高い呪具買うルートを狙うしか失くなってしまう。
まあ、今は取り敢えず独学で結界術を始めてみるとするか。
だらだらと現状維持なトレーニングを続けるよりは、新しい試行錯誤に挑戦した方が楽しいしな。
じきに、わらわがおしへたてまつろうぞ
[1997年9月22日(月)]
今日も今日とていつも通り、俺は一人で登校していた。
程々の時間につき、なるべく静かに自分の席へ着席する。
前世もバリバリの陰キャだった俺である。こういう気配の消し方はお手の物だった。
さて。普段だあればこのまま授業が始まり、そして授業が終わり。日によっては図書館に寄るなり、そのまま廃神社へ向かうなりのルーティーンをこなすのだが、本日は少しイレギュラーなイベントが起こった。
「あっ!もうきてるー!いつからいたの!」
「けはいけすのうまいね」
なんと、同級生の女の子達から声をかけられてしまったのである。
「あっいやはい、全然ついさっき来たっす」
「いやはいってなに!なんかお父さんみたい」
「きたっす〜〜」
「……………………」
あまりにもな言葉につい黙り込んでしまったが、ここで二人の紹介をしておこうと思う。
お父さんみたい、なんていう無垢な言葉で傷つけてきたのが鈴木舞香さんで、『きたっす〜』と言いながら変な踊りを踊っているのが八重遥さんである。
どっちも黒髪だが、長髪をポニーテールで纏めているのが鈴木、ボブくらいなのが八重って憶えた。
で厄介なことに、彼女らは夏休み前くらいから、ちょくちょく俺を遊びに誘うようになったのだ。
しかも割と強引な方法で。
「だまってないでさー、今日こそあそぼう!学校おわったら!」
「しんぼくかいってやつだね」
「アッいや……お母さんが妊娠中なので」
「またそれ!もしかしてまなとくんってマザコンなの!!」
「えっいやソンナコトハ」
「おまえマザーコーンなのかよ〜」
「イヤ……ハハ」
参った。困る。
前述の通り、前世からブッ通しで陰キャだった俺は、その都合上女性複数人との会話に慣れていないのである。
予め補足しておくとタイマンだったらいける。質問マシンになれば良いだけだから。
ただ二対一以上で、しかも相手は遊びに誘ってくるとなるとやっぱりめちゃくちゃ困ってしまう。
だって子供とはいえ女の子にこんなグイグイ来られた経験無いから!!
……自分で言ってて悲しくなってきた。
「いい!?今日という今日はにがさないからね!またこの前みたいににげたらしっぺだから!」
「にげんなよ〜まいかんち64あるぜ〜」
「エッアッマァ覚えてたら……」
と、こんな風にしどろもどろになりながら、なんとか隙をついて廃神社に向かっている毎日なのである。
☆
そして放課後。今日も今日とて逃げ出そうとしたところ、何故か担任の先生にまで帰り道を遮られてしまい、三ヶ月にも及んだ逃亡劇はついに終幕した。
今は両方の腕を二人にそれぞれ掴まれながら、鈴木さんのお宅に向かっている最中である。
『はるか、今日はなにやりたい?』
『わたしはマリオやりたいぜ』
『ありね!あ~でもせっかくならボンバーマンも三人プレイしてみたかったな〜』
『またつれてくればいいぜ』
両隣でやまない二人の会話をBGMに、少し考える。
まさか先生まで敵になるとは、してやられたって感じだ。恐らくそもそも先生の提案だったりもするんだろうな、この遊びも。
なんなんだ、お節介な──と、こっそりため息をついたところで、これは至極当たり前なことであることに気がついた。
そうだ。俺から見た視点では、毎日トレーニングと呪霊討伐をしてるって現実があるからいいけど、担任の先生からしたら、基本ぼっちだしすぐに家に帰るし、秘密基地があるっていって山登りしてる変な子だもんな。
父親が死んだことや、村中で一時期話題になってた母親の悪評。更には行事のときも学校に来ないみたいなとこだけしか見えない以上、気を配るってのは本当に、ある程度常識のある大人なら当たり前のことだ。
二人にズルズルと引きずられながら、夢中になるあまり周りが見えなくなっていたな、と反省する。
そりゃそうだ。でもこの経験があって改めて、この世界は呪術廻戦の設定が反映されている世界ではあるが、一方で人は生きていて、それぞれに考えることがあるんだということを再確認することができた。
簡単なことなんだけどな。変な思考回路を持つとそういうのって忘れがちになってしまう。
「────ねぇ!聞いてるの!?」
「あ、え俺?ごめん聞いてなかった」
「おかしは何が食べたいって聞い、たの、よっ!!」
「えっあ痛た、痛た、ちょ、モモカンは、モモカンはやめて!」
「なんてざんこくなばつなんだ……」