魔女夜行録 作:えらいこっちゃ
多量の魔力を伴った物質は色を変える、含有されている魔力の量が多いが故に、その性質に合わせて肉眼に見えるように色を変えるのだ。
周りを包むは妖しく光る紫。砂の様に細かな粒の寄せ合わせは宙を浮き、何層もの霧として彼女らの周りに現れた。
これらは術者の魔力によって編まれた立派な魔術の一部であった。魔術の色は、術者の性質によって異なる。星好きの魔術師であったならこれらの霧は夜空に光る星の如く輝いていたであろう。
しかし、眼前に現れたのは邪悪を思わせる様なじっとりとした厭な気であった。事実、魔術師でもないバンディには肌にまとわりつく異質な不快感が感じられた。
彼女にとっての異質は一般人にとっての感覚とは大きく異なる。横で涼しい顔をしているテルンは魔術を修める者だ。もし仮にこの霧の影響を受ける魔力耐性の無い者が居たとしたら、数分と保たず意識を失い、その後死に至るであろう。
ここは何の変哲も無い平穏を享受している街だ。従ってこのままでは何人の被害が出るものか分かったものじゃ無い。
そして、その被害を見逃す程緊迫感を持たぬ彼女らでは無かった。正確には危機感を感じているのはバンディのみ、人並未満の倫理観の持ち主であるテルンは「あ、なんかやばそう」程度の感覚であった。
しかし、お互いに次に行うべき行動は一致していた。テルンは懲りずに現れたアステラを退場させること。バンディはこの霧の発生源である目の前の人型モンスターの討伐を。各々がその思惑の元共闘を開始した瞬間であった。
「キモいです。『
先手を取ったのはテルンからであった。意気揚々と語るアステラの不意を取る形での一撃となった。
彼女が言葉を唱えると同時に、彼女の身体は光に包まれる。高度な魔術は使用されてはいなかった。彼女の持つ魔力を小さな球体へと変化させ、多数のそれらを編まれた魔術によって高速回転させると言うものであった。
しかし、それら一つ一つの魔力球が高密度で高出力、かつ超高速で行われているため、その光に触れれば容赦無く消し飛ばされる事になるであろう事が想像出来た。
次いでその意味を理解する間も与えず、テルンの身体は瞬きと消える。単純な飛行魔法の併用であった。しかし普段から行う様な移動目的のゆったりしたものでは無く、目で追う事すら不可能なスピードである。
つまり完全なる不意打ち。アイコンタクトによる簡易的な意思の疎通を行なったバンディですら認識するのに時間を要した、必殺に近い一撃。
文字通り空を流れる星の様にアステラに向かって突撃するテルン。霧の層を突き抜け、遠くへと吹き飛んだ標的と共闘仲間。その様子に若干の不安と呆気なさを感じながら、晴れていく霧を見つめるバンディ。
一瞬にして霧が発生し、それから間もなく光が通過していくと同時に消えていく霧の様子に困惑する街の人々。
霧による被害も、テルンの攻撃による被害も無い事を確認してから、彼女らの飛んでいった先をバンディは追って行った。
超人的な速度による移動は街の中央から外までを素早く移動し、テルンの攻撃により残った魔力の残滓を追って彼女の姿を発見する。
テルンの周りには人影は見えず、彼女が着地した付近の地面が焦げている事が確認できた。あの一撃で屠ったのだろうか。
少し違和感を感じながらも、バンディは攻撃を放った本人であるテルンへと近づいた。
「…なんだ、もう終わったんだ。」
肩透かしと言わんばかりに声を掛けるバンディに対し、テルンは一瞥もくれずに答えた。
「いえ、終わってませんよ。最悪な事に。」
やはりか。そんな風に感じていた違和感を解き、肩を落とすと同時に、辺りには先程見た霧が現れた。
「『
その声が聞こえると共に、辺りの霧が変化し出す。歪み始めたその形は、徐々に線を持った輪郭へと変わり、最後にはその相貌は人型へと移ります。
察するに、相手の魔術であろう。霧を執拗に出現させ、かつバンディを誘い込んでから展開された魔術。
勘と経験から厄介なものであると察したバンディはまず前方の人型の霧に、懐から取り出した魔術阻害の刻印を刻んだ投げナイフを投擲。貴重な刻印ナイフであるが、相手の実力から危険視をし、消費を決意。
投擲されたナイフは素早く飛び抜け、さらにそのスピードに追いつく様に後ろを駆け霧の包囲網を抜け出そうと画策するバンディ。しかし霧を抜ける寸前、その足を止め急ブレーキ。
投げたナイフが止まったのだ。魔術での介入が不可能なはずのナイフが空中で止まった。その事実だけで霧に踏み込む事を躊躇するのには十分であった。
「あら〜危ないわね。抜けられちゃうところだったわ。」
消し飛んだかに思われた奴の声に、警戒を強める二人。
「…一応、ギルドの腕利が鍛えてくれた一級品なんだけどね…」
対峙してから数分、未だに一端すら掴めない相手に嫌な汗が滲み出す。
「あー、成程。自身の形状を霧に変化。それから物質の変換で自身を好き勝手変化させた訳ですか。また面倒臭い事を考えましたね。」
霧は魔術によって発生された魔術的な物質。これならばナイフで無効化して解決。しかしその霧を更に魔術により物理的な物質に変化。これにより飛んできたナイフを直に掴み無効化したのだ。
テルンに言わせれば手順が無駄に多い陰湿な魔術。しかし魔術師でないバンディからすると手足両方を拘束された気分であった。
「うふふ、惜しいわ、テルン。この魔術はもう一手順。性質の上書きを加えてるの。」
「…あー、そう言う事ですか。貴女、性格最悪ですね。」
勝手に語り、勝手に理解する二人の魔術使いに置いてけぼりな気分のバンディ。その意味を聞き出す前に、真意は形となって彼女の前に現れる。
「「「「こう言う事ですよ。」」」」
困惑するバンディを嘲笑うが如く、四方から聞こえるのは同じ声。辺りを見渡すと全く同じように姿形を保つアステラの姿があった。
仕組みは分からぬバンディであったが、要するに分身体。それに唯の分身ではなく同じ魔力や知能のある増殖に近いものである。肌に纏わり付く厭な感覚が増加した事で、バンディはその状況を理解した。
「「「「さて、どの私をお相手してくださる?」」」」
バンディの正面に位置するアステラは握るナイフを何事も無かったかの様に塵へと変化させていく。やがて塵すら残さず消えたナイフを見て、バンディは大きく溜息を吐く。
「唯の息抜きで来たのになぁ。」
状況の悪化に嫌気が止まらないバンディはどこから攻撃が来てもいい様に構える。
一方魔術の構成もやり口も大体理解できるテルンは解決策を考えていた。真っ先に思いついたのは辺り一帯を消し飛ばすこと。霧を媒体とするこの分身はこの地帯限定の分身である。
つまりここを抜け出すか場所自体を消し去れば解決するのである。実に脳筋な考え、しかし効果的な方法であった。杖先に魔力を集中させ吹き飛ばそうと詠唱を開始しようと構えるテルン。
しかし、その口から詠唱が唱えられることは無かった。理由は今も尚攻撃に備えているバンディにあった。
流石に死にますね。脳内で色々とシュミレーションした結果、ここら一帯を飛ばそうとするとバンディが巻き込まれる事に気づいたテルンは動くに動けなかった。
ここに来て罠に嵌められた事に気づいたテルン。最初からテルンのみを霧で囲わず、わざわざバンディの侵入を待ったのはこの為であった。
「やっぱり貴女、性格最悪ですよ。」
一度受け身に回るしかない。現状をそう位置付けたテルンは身体中に魔力を巡らせ攻撃に備える。
「「「「さぁ、遊びましょう。」」」」
絶望の4対2が始まった。
はいどうも、霧に囲まれている私です。残念ながら三行で片付きませんでした。やっぱり相手の性格が陰湿だからでしょうか。
なんか危機的な状況っぽいですが、最悪バンディを巻き込めばなんとか成るのでまだ危機的じゃありません。ギリ軽食を挟めるレベルです。
後唐突に始まった三人称ですけど、天啓によると私視点だとデスマス言ってて雰囲気を掴みづらいからそうです。理不尽です。
今後も三人称になることがあるかもらしいです。どうでもいいですね。後、戦闘の流れも適当に書いてるから雰囲気だけ味わってくれれば良いそうです。上から目線でムカつきますね。
と言うことでそろそろ四人に増えたアステラをなんとかしないといけないので終わります。
次回「面倒臭いです」
これからもっと面倒くさくなるらしいです。やめて欲しいです。では、次回もよろしくです。