TS憑依ソフィーのアトリエ 不思議な魂の錬金術師 作:不思議シリーズマン
私の魂が【彼】と混ざり合ったせいなのか、まだ幼かった私の精神は【彼】の記憶にある【ソフィー】と同等にまで成長したらしい。それとも【彼】の精神年齢に引っ張られたのかは分からないけれど、今こうして物事を考えれるのはそのおかげだと思う。
そして【彼】は絶望した。
私の代役を務めることが出来ないと、私ほどの才能がないとずっと落ち込んでいた。
気持ちはわかるよ。私だって【ソフィー】の、私の未来をあんな物語みたいに見せられたらどれほど異常か理解できるから。あんなに幸せな未来を私が作ったなんて信じられないしそんな自信もない。第一、
でも、【彼】が私を助けてくれると言った時は嬉しかった。方法はプラフタさんに体をあげたときみたいな感じらしいけど、そっちに行くのは【彼】らしい。自由に動けるなら私は人形の体だっていいのに、【彼】はずっと体を私に返すことを考えているっぽい。
おばあちゃんが死んじゃった。全てを打ち明けても私と【彼】を肯定してくれた、大好きなおばあちゃん。私は何も出来ないから諦めがつくけど、【彼】は違う。ハロルさんがいくら呼びかけてもおばあちゃんのお墓の前で泣きながら祈ってる。うん、おばあちゃんのことを1番好きなのは【彼】だから当たり前だよね。
………うん、やっぱりもう決めた。私は【彼】に幸せになってほしい。【ソフィー】が言ってた『皆で幸せになる』って目標、すごく感動したししっくりきた。だったら私は、【彼】の幸せを目標にしようと思う。
そのためにはまず…………
「…………あれ?」
あれ?うご、ける?
「ふぁあ〜……眠い……」
感覚がある、今私はあくびをした?もしかして、私……
「体の所有権が、私になって【彼】は!?……眠ってるだけかぁ。よかったぁ」
私が表に出てきて、【彼】がどうなったのか不安だったけどどうやら根絶の錬金術で摩耗した魂を休ませてるだけらしい。その代わりに私が出てきたってところかな。
「あちゃー、まったくもう……【彼】ったら無茶しすぎだよ。そりゃあ人助けは大事だけど自分のことを無碍にしたらダメなのに」
私の体でもあるんだからね、とか思うけど思ってたより体が怠くないなぁ。【彼】の理論で言うと体のHPは回復したけど魂のMPはまだ回復してないってことだよね。
「体動かすの久しぶりだなー。普段は【彼】を通してみたり感じたりしてるし〜。あ、そうだ!!せっかくだし【彼】が起きてくるまでにお料理しておこう!!そうすれば【彼】も困らないよね!!」
えーと、ふむふむ……おお!!モニカが補充してくれてるね。やっぱ気がきくね〜さすが大親友。なるべく日持ちするように干し肉と……って、錬金術で作る方が日持ちするんだった。
「じゃあ早速、ぐるこーん♪ぐるこーん♪」
楽しい!!自分でやる錬金術は初めてだし、いつも【彼】がやってるのをみてただけだったけどこんなに楽しかったなんて知らなかった。素材と素材を混ぜるときの感覚、温度、質感、全部が面白い!!
「でっきたーー!!」
「私の分は普通にお料理しよっと」
起きたばっかりだしやっぱりお腹空いてたよ。まあ無難にサンドイッチとソティーでいいや。エプロンは確か……あ、あった。
「ふっふんっふふ〜ん♪」
それからちょっと時間をかけて適当に作ったサンドイッチを食べた私はあることに気づいた。いや、気づいてしまった。
「やっぱり料理は【彼】の方が上手でちょっとショックゥ……ま、まあ錬金術なら私の方が出来がいいし……
……さっき調合をした時に気付いてたけど気づかないふりをしてた。いつも【彼】は【ソフィー】と自分の才能を比べて嘆いてたんだけど、私はやっぱり【ソフィー】らしい。
【ソフィー】の才能と【彼】の知識っていうこの世界で生きていく上で最高の素質を手に入れてしまった私。こんな事を【彼】が知れば、今みたいに私ばっかりが表に出て【彼】はずっと閉じこもってしまうんじゃないかって感じる。ううん、絶対そうする。【彼】は酷く私に同情的で私に体を返せるなら消えても構わないって思ってるから。今はモニカとかハロルさんとか、精神的な支えになってくれる人達が居て頼ってくれる街の人が居るから多少落ち着いたけど、これから知識と経験を経て行くうちに私の存在に気づいて昔みたいになって行く。分かってるけど、どうしようもない未来。
「今私にできる事は……一つしかない」
チラッと、棚の1番上に飾られた豪華な装飾の本を眺める。【彼】の知らないうちにプラフタさんを目覚めさせる。しかも【彼】の知識にあるレシピをありったけ書き込めば、少なくとも500年前の偉大な錬金術師プラフタは蘇るはずだし先人として【彼】を導いてくれるかもしれない。『根絶の錬金術』の才能がある【彼】の師匠になってくれるかは分からないし私の存在がすぐにでもばれるかもしれないけど、【彼】が救われるならなんでもいい。
私はもう、【ソフィー】になりたくない。知ってしまったから、識ってしまったから……【ソフィー】は【彼】、異物は私。
そして私はプラフタさんの本に手を伸ばし……
コンコンッ
「入るわよー……って、え?」
「あ」
ソフィー・エルレンマイヤーが目覚めている姿を、大親友モニカに見られた。
◆
「なるほどね、一応話は理解したわ」
「……あはは、私も自分で言ってて無理あるなーって思うし信じてくれなくて全然大丈夫だから。ほら、こうしてると女の子らしいってだけじゃない?ソフィーが慎みを覚えたって言えば納得してくれるよ」
「…………」
うん、仕方ない。仕方ないんだよ!?モニカったらとんでもない勢いで抱きついてきたと思ったら急に泣きながら、「心配したんだから」とか言うし。宥めるのにすっごく時間かかったんだからね!?
しかも私の様子がおかしいのに気づいて色々問い詰めてくるし……言っちゃったよね。ほとんど全部。もちろん【彼】の記憶がゲームの知識だってことは言ってないけれど、私たちが二重人格のようなものであるとは話した。正確には二つの魂なのだけど多分理解されないからいいや。
「じゃあいつもオレオレ言っているのもソフィーで、あなたもソフィーという事でいいのよね?」
「うん、二重人格の物語を一緒に読んだことあるでしょ?あんな感じだよ。【彼】は私のことを知らないんだけどね」
モニカが紅茶を一口飲んだ。やっぱり綺麗な所作だなぁ。
「じゃあ貴女も幼馴染ね。よろしくソフィー」
「え……信じてくれるの?」
「信じられないくらい不思議な話だけど、ソフィーは約束を破ることはあっても嘘はつかないのよ」
「あー、確かに。そういうところが皆に好かれるよね、【彼】って」
「だから、あの子を信じてみるわ」
私は信用されてないと……いやまあ仕方ないんだけどね?うん、一応10年間【彼】を通して一緒に過ごしてきた気になってるから結構悲しい。
モニカは【彼】が変なことをしてもちょっと呆れるだけでなんだかんだ助けてくれる。オスカーもそうだけど、こんなにいい友達がいるなんて【ソフィー】は幸せ者なんだよね。そうじゃなくても、【ソフィー】の周りには良い人がたくさん居た。
「……はぁ、もう、そんな顔しないの。悪かったわよ。あなたもソフィーなんだもの、ちょっと揶揄ったつもりだけどそんな感じなのね」
「ふぇ、モニカ……?」
「あの子が心配なのは私も同じだから、これからは一緒に頑張りましょう。大親友、でしょ?」
「っ!!うん、ありがとうモニカ!!」
モニカに頭を撫でられた。えへへ……モニカは撫で方が上手いなぁ。やっぱり教会のお手伝いで子供と触れ合ってるからなのかな?
「【彼】はね、すごい錬金術士になると思うんだ」
「というと?」
「ちょっと素直じゃないけれど、他人を思いやれる錬金術士。無茶をするから周りから心配されやすいけどその分好かれやすい。他人との縁を大事にできる【彼】ならいつか……だから、見ててあげてほしい。私はもうすぐ眠っちゃうから、次目覚めれるのはまた【彼】の魂が消耗して眠った時かな?本当はそうならないのが、私が出てこないのが1番自然な形なんだ〜」
「そんな……せっかくお話できるようになったのに」
「私がいると、また無茶しちゃうから。そろそろ寝るね!!」
強引に話を切ってモニカを帰らせる。幸いまだお昼前だからおかしくはない。でもねモニカ、【彼】は嘘はつかない。それは正しいけど、私はそうとは限らないよ。
「さーてと、じゃあやっちゃおうかな」
急にモニカがやってきたから中断したけど、私がやろうとしていたことはプラフタさんを目覚めさせること。私が【彼】の記憶で見た【本】【旅】【絵画】そして【夢】のすべてのレシピを書き込む。【本】のレシピだけでも重要な記憶は全て思い出せているし、ここに残りのレシピを加えれば、【夢】で忘れた記憶すらも取り戻すことができるんじゃないかと思う。もちろん推測だから実際にやってみないとどうなるか分からないけどね。
今の私は、素材さえあれば全ての物を作ることができる才能と知識を持っている。何を言ってるか分からないと思うけど、やろうと思えば【ライザ】だって【アーランド】だって、ありとあらゆるものを作れる。【彼】は自分の記憶を見るなんてできないから忘れてることの方が多いけど、私はその記憶を物語としていつでも見ることができるから。
これは私の最初のプレゼント。お節介だと言われても、私が【彼】にしてあげれる数少ないことだから迷いたくない。
「こう言う言い方は、【彼】の事を見下す言い方になるかもだけど」
そして私はプラフタさんの本を机に置いてページを開く。真っ白で、本当に何百年も存在しているのか疑ってしまうくらい保存状態のいい本。おばあちゃんがどれだけ大切に保存してきたのかがよくわかるよ。
「これは、私が【彼】に課す最初の試練」
まずは山師の薬。レシピは敢えて【ソフィーのアトリエ】の通りにして【彼】独自のものではない。そして本が一瞬輝いた。
「おはようプラフタさん。目覚めたばっかりでまだ意識がはっきりしてないだろうし何も言わずに聞いてくれるだけでいいからね」
夢のレシピまで書き終わった。あっ、でも普通の調合品だけだからね?【彼】の言い方をするならイベントフラグで重要になるレシピは書いてないよ。
「今、たくさんの記憶が流れ込んできてると思う。もしかしたら魂に負荷がかかるかもしれないけどそれはごめんね」
【本】と【夢】と【旅】が完了した。ずっと思ってたけど、これだけ書き込んでもまだまだ余裕があるってすごいなー。
「どうか【彼】の助けになって欲しい。【夢】では貴女の師匠でライバルだったかもしれないけれど、【本】だと貴女が師匠だったんだよ?不思議な話だけど現実に起こってた。世界は広いしどんなことが起こっても不思議じゃない。一つの体に二つの魂がはいっちゃってるし」
思わず自分で苦笑しちゃったけど、実際問題よく分からない話だよ。魂云々は何度も経験してきたけど、魂が二つだなんて聞いたこともない。【彼】の記憶からの情報だから私たちはわからない。
「どうか、どうかお願い……【彼】を、助けてっ」
【絵画】のレシピを書き終えると、本が今までに一番強く発光した。これが何を意味するのかはわからないけれど、プラフタさんの記憶が大量に戻ってるはずなのは間違いない。だってこの本は
「ふぅ……手が痺れちゃった。疲れたし……って、もう夜!?わわわ、早く寝ないと体の疲労が溜まりすぎちゃう!!」
私は書き終えたプラフタさんの本を元の位置に戻してから、パジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい。これからがんばってね、ソフィー」
そして、私の意識が落ちる。
あぁ……体を動かす感覚が、少し惜しくなっちゃうな。