辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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第十七話 整備

「分解整備と機体の修理だが、あと3日ってところだな」

 

「早いな」

 

「そりゃ第一世代機に関しては知り尽くしてるような整備士が山ほど居るんだぞ、傭兵には信じ難い話かもしれんが」

 

慌ただしくも人と機械が動き続ける格納庫を眺めるのは、傭兵と隊長の二人だ。トバリは機体に付きっきりで、ミナミは先の戦闘で得られたデータを解析中のために居ないのである。

 

「ここは大会の開催地に選ばれるような街で交易に強い、コイツらを維持する金も出せるってことだ」

 

「同一の機種でここまで固められるってことは、稼働中の生産施設があるのか」

 

「そう思うのも無理は無いが…この街には無い、交易先の中央工廠が頼りだ。部品も何年も高騰してるために市井には中々出回らない、民間で使える機体を組み上げるのは難しいだろうがここじゃあ違う」

 

隊長の口ぶりからして、何処かに大きな工業地帯でもあるらしい。しかもそれは常識として知られているほどの知名度らしく、知っていないと言うのは不味そうだ。

 

「なるほど、話は変わるんだが良いか?」

 

「何が聞きたいんだ、言ってみろ」

 

「第一世代機以外は無いのか、街に来る前にゲリラと戦ったが奴らは第二世代で武装してたぞ」

 

「…それか、まあ複雑でな」

 

傭兵は持っている情報が少ない中で他人から話を吐き出そうとしているわけで、不審がられる可能性も大いにある。だが今回の質問は彼らからしても当然の疑問だったようだ。

 

「上層部が海賊に掌握されてから第二世代用のパーツは回ってこなくなった、奴らは俺達の戦力を削いだのさ」

 

「じゃあ何故ゲリラはアンタらすら使えない機体を使えるんだ?」

 

「奴らは海賊に壊滅させられた防衛隊の残党だ、船は全て沈められたが地上の基地なんかは無事な物が多かったらしい」

 

だからと言って訓練を受けているとは思えないような泥棒女の一団が貴重な筈の第二世代機を使えるのだろうか、傭兵はどうにも納得がいかないと感じたようだ。

 

「…なるほど、本当に複雑なんだな」

 

「すまんが俺達もゲリラの内部事情には詳しい訳では無くてな、街中でドンパチなんて滅多に起こらなかったというのに」

 

彼らにとってもゲリラの行動は不可解な物らしい、これは一筋縄ではいかない案件だ。最低限の情報収集を済ませた傭兵は、ひとまず世間話はここまでにして休憩中であろうトバリに会いにいくことにした。

 

傭兵が階段を降りる中で感じたのは、格納庫の巨大さだった。人型兵器を運搬可能な巨大エレベーターに各種重機と、中々の運用体制が整えられているのは間違いない。壁や設備に残る刻印を見るに惑星開拓初期から残る建造物のようで、その規模の大きさも頷けるというものだ。

 

「街を覆う壁といいこの建物といい、中々大きな開拓計画だったんじゃあないか?」

 

情勢悪化により手放されたとはいえ、ここまでの設備を整えておいて尚損切りに値する状況だったのだろうか。この乾燥した星とその周囲一帯が手放された理由は気になるところだが、調査が目的ではないので一旦考えるのを止めた。

 

「そろそろ試験運転の時間の筈だが、どうしたもんかな」

 

広い格納庫の中では大量の人型兵器がハンガーに収められ、それを整備士達が取り囲む。装備や人型兵器の輸送車両が警告音を鳴らしながら通り過ぎ、目当ての場所まで移動する前に轢き殺されそうだ。

 

「ふふっ、お困りかい?」

 

「カザマキ…さん」

 

「呼び捨てで構わないぞ、傭兵殿」

 

小柄な四輪駆動車に乗って現れたのは、青い制服に身を包んだカザマキ嬢だ。恐らくこの状況になることを見越していたのだろう、傭兵は有り難い限りだと言いつつ助手席に乗り込んだ。

 

「慣れないと移動もままならないからな、案内しよう」

 

「助かるよ、丁度困ってたんだ」

 

彼女は感謝の言葉を聞いて自慢げにハンドルを回し、トバリと愛機が待つ区画へと向かう。しかし大型車両が曲がり角から現れたため、通り過ぎるまで車を止めることになった。

 

「演習についてなんだが、その、すまなかった」

 

「機体が壊れたことか?」

 

「疑念を払拭するという名目はあれど、不完全な状態の機体で貴方を戦わせてしまった。車上で言うことでは無いかも知れないが、謝っておきたかった」

 

「いや大会目前であの機体状況ってのが悪いんだ、勝てた以上文句は無い。それにここまでのバックアップを受けられることになって、お礼を言いたいくらいさ」

 

出場のために出来る限りの手を尽くしたが、傭兵は分の悪い賭けだと感じていた。それでも比較的信用出来るメカニックと自身の裁量で動けるチームを飛び入り参加で手に入れたと言う事実は、人脈が全く無いこの星では奇跡に近い。

 

「そうか、なら良かった」

 

「こっちからも一ついいか?」

 

「なんだ?」

 

やっと大型車両が通り過ぎ、彼女は他の車両が来ないことを確認してからアクセルを踏んだ。

 

「少し前に怪我してないか見に来てくれた時あっただろ、その時は失礼なことを…」

 

「あ、アンドロイドの性別診断機能が間違えただけだろう!そう貴方が気にすることではない!」

 

「いやいや女性に対してあの非礼を詫びずに済ませるのは」

 

傭兵は彼女に一応謝っておこうという気しか無かったが、カザマキ嬢は目に見えて狼狽えた。ここまで分かりやすく表情や声色に出されると心配になってしまうが、すれ違う人々が彼女に手を振っているのを見るにそこを含めて好かれているということだろう。

 

「ふ、ふーん、女性か」

 

「…どうかしたのか?」

 

「なんでもない、それよりもう着くぞ」

 

彼女が車を止めたその先には、整備が進められるトバリの機体があった。劣化した潤滑剤の匂いはせず、人工筋肉の焦げた悪臭も無い。装甲に汚れ一つない状態に生まれ変わった旧式機は、以前よりもずっと頼もしく見えた。

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