砂漠を歩くたびに舞い上がる砂が機体に当たるが、砂塵は内部へと入り込むことはない。ほぼ完璧とも言える整備を受けた傭兵の機体は、墜落したという船がある場所まで向かっていた。
「隊長、聞こえてるか?」
『今のところ問題ない、ジャミングまでは行っていないようだな』
「スカベンジャーはそこまでの設備を持ってるのかよ」
『場合によってはな』
演習の時にも使われていた無人機は遥か上空にて飛び回り、通信の中継地点としてこちらを支援してくれている。現在地の把握にも使えるため、迷う心配も無いというわけだ。
『貸し出している20mm機関砲だが、偵察のために長距離狙撃用の照準器を取り付けてある。望遠鏡替わりに使え、出来れば撮影も頼む』
「助かる、頭部のカメラじゃ心許なかったところだ」
『スカベンジャーの機体は少なくとも10を超える数が居るはずだ、死ぬなよ』
墜落船までの距離はあと少しだが、スカベンジャーを刺激せずに内容物を確認するというのは中々難しい。中身が外から見えるのなら楽だろうが、まず無理だろう。恐らくは今回の廃品回収に協力する建前にしてくれたのだろう、風巻嬢のことがあったとはいえ優しい奴らだ。
「この丘から覗けるか試そう、無人機は前に出ないでくれよ」
『狙撃用センサと接続、視界に映像出力します』
「ミナミ、20mmの弾道演算出来るか」
『撃つ気ですか?』
「最悪必要になるだろ、こっちから撃つ気は無いから安心しろって」
目当ての墜落地点の周りには、大量の人型兵器と車輌群が集結していた。対空車両の姿も見えるため、無人機には下がってもらうことにした。
「見える範囲で…20機は居るぞ?」
『画像から識別します、少々お待ちを』
「識別結果は無人機に送ってやれ、隊長の予想より倍の数が居るとはな」
スカベンジャーの機体はどれもボロボロに見えるが、武装はある程度充実していた。中には戦車砲を改造したような武器を構える機体もおり、火力は侮れない。
「さて、どうするかな」
『聞こえるか傭兵。偵察はもう十分だ、本来の目的である廃品回収に…』
「待ってくれよ隊長、あと少しでチャンスが来るんだ」
『何?』
「この空気、この辺りは絶対に荒れるぜ」
治安維持隊の無人機よりもさらに上を飛ぶのは傭兵のステルス機だ。機体のレーダーから得た情報は砂嵐が来ることを警告しており、このことを知っていた傭兵は千載一遇の好機だとして墜落現場にやって来たのだ。
『まさか…砂嵐に乗じる気か!』
「その通り!」
『こちらでも気象データを確認しよう、無茶はするなよ』
とは言っても砂嵐が来るまでにまだ時間はあるため、スカベンジャー達の動向を見張りながら待機する必要がある。コックピットの設備も状態の良いものに置き換わったためエアコンの効きも良く、砂漠の炎天下でも快適なのは救いだろう。
「さて、武器を確認してくれ」
『船に乗り込む気ですね?』
「ゲリラ退治の報奨金で買ったんだが、まあ骨董品だな」
火薬は僻地でも量産が効くため、治安維持隊の紹介を受けた銃砲店に並べられていた中に電磁式の銃は無かった。傭兵は店主にそれとなく聞いてみたが、そんなのは中央工廠に行くしかないねと返された。人型兵器の部品を供給するこの星で唯一の大規模な工業地帯、中々怪しい場所があったものだ。
「慣らし撃ちもしたし、弾も選別した。見た感じ大昔の傑作銃をそのままコピーした設計だから、まあ土壇場で詰まることもないだろ」
『過信は禁物ですよ、砂嵐の中を行く訳ですから』
「それは分かってる、油断しないさ」
船の内部まで人型で入り込むことは出来ない、ここに来て人間の出番という訳だ。
「少し確認して離脱する、治安維持隊への義理立てはそれで済む」
『…簡単には終わらない気がするのは私だけでしょうか』
天候が荒れ始めた、作戦開始だ。
ー
少し先も見えないような砂嵐の中を進み、墜落船に張り付く。傭兵は機体から降りて損傷した外殻の間から中に入り込み、大きく傾斜した船内で銃を手にした。
「ミナミは機体を頼む」
『了解しました、どうかご無事で』
「ああ」
貨物室への道は歪んだ扉で閉ざされており、開けて進むことは出来ない。そこで持ち込んだ単分子カッターで扉を切断し、三角形の穴を開けて潜り抜けることにした。
「これもこの星じゃ手に入らないだろうな、落とさないようにしないと…」
ナイフを鞘に戻し、暗く砂が積もった船内を歩く。ヘルメットの暗視機能によって問題なく先へと進めているが、先程から気になる振動を検知していた。
「…歩行音か、俺と同じ考えのスカベンジャーが居たな」
『どうされますか?』
「先に荷物を探し当てる、そんで写真撮って逃げる!」
このタイプの輸送船は古すぎて見たことも少ないが、設計している企業の傾向からして船体中央に貨物室がある筈だ。なのでひたすら中央に向かって進むのが吉、そう思った傭兵は迷いなく足を前に出した。
「スカベンジャーの奴ら相当本気だな、船の墜落はアイツらにとってかなりのビッグイベントらしい」
貨物区画へ入り、ワイヤーで比較的小さなコンテナが一纏めにされているのが目に入る。大きな物を格納する部屋はもう少し奥だろう、このまま進めば良い筈だ。
「あっ」
「えっ」
ドアを装甲服のパワーアシストで蹴り破った先には、防塵装備に身を包んだスカベンジャー達が居た。相手の方が早く辿り着いていたらしい、こんな所で遭遇するとは双方が思わなかったが咄嗟の判断は傭兵の方が先だった。
「邪魔だァ!」
持っていたライフルで一番手前のスカベンジャーを撃ち殺し、そのまま後続の奴らにも引き金を引く。反撃しようにも細長い通路では多対一の強みを押し付けられない、それに固まれば動くこともままならないだろう。
「ご機嫌麗しゅう!砂被り共!」
「グレネード!?」
「た、退避…」
通路に固まっていたスカベンジャー達が避ける間も無く吹っ飛び、飛散した破片が彼らの防塵装備を貫通して肉体をズタズタに引き裂く。
「ふざけやがってェ!」
「おらよっ」
ライフルの再装填の隙を狙い飛び出した者は思わぬ反撃を受けた、地面に転がっていた仲間の銃で殴られたのだ。
「ギャッ!?」
傭兵は装甲服の人工筋肉と自身の肉体を上手く使うことで人間離れした膂力を発揮し、ぶつけられた銃床はスカベンジャーのヘルメットと頭蓋骨を纏めて叩き割った。
「…これで最後か、可哀想な奴らだこと」
背中から撃たれるのも嫌なので手榴弾をもう一つ取り出し、死体の山に放り込んだ。ピンを抜く音を聞いて死んだふりをしていた奴が飛び上がって逃げ出したが、負傷していたらしく走れていない。
「嫌だッ!ああぁ!」
「ご愁傷様」
そのまま伏せていれば仲間の死体が盾になって助かったかもしれないが、立った上に背を向けて逃げたので破片を思い切り身に受けてしまった。爆発と同時に身体が跳ねた後、断末魔もあげずに倒れて死んだ。
「掃討完了、奥に進む」
『こちらでも振動を観測しています、恐らく彼らを送り込んだ部隊が何処かに張り付いているかと』
「通信が途切れたことを不審に思われるかもな、死体から通信機を奪ってみるか」
手榴弾ではなく銃で殺した死体のヘルメットを剥ぎ取り、内側に付いていたヘッドセットに繋がるケーブルを見た。そして胴体の通信機を探し出し、そこから帯域を調べて自前のヘルメットで傍受する。
「これで聞こえる筈だが」
『何故通信が途切れたァ!返事しろクソ野郎共!』
「うわっ」
『ここまで役に立たん奴らだったとは…死ぬ時くらい何で死んだのか言ってからあの世に行け!』
「相当キレてるな、まあ十数人があっという間に死ねばこうもなるか」
通信越しでも怒り狂い周りに当たっているのが分かる、碌でもなさそうな指揮官だ。この男が冷静になって次の手を打つ前に船の格納庫を調べる必要があるだろう、先を急がなければ。