辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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第二話 愛機

「オッサン、こんなことになったのを先ずは謝っておく」

 

修理工があの街のことをしらばっくれたのを見て、ぶん殴ってから拘束した。錆の目立つ椅子に座らされ、その辺りにあったワイヤーで四肢を固定したというわけだ。

 

「まあガスマスク共の件は別に怒ってないさ、つまり銃を突き付けてるのは別の要件だ」

 

「…流れ者の傭兵が何様のつもりだ?」

 

「ド辺境の修理工よりはマシな人生を歩んでるよ」

 

彼を蹴り、椅子ごと横に倒す。身動きが出来ない彼は受け身も取れずに地面に衝突し、呻き声を上げる。

 

「俺の船から何か運び出したよな、全部言ってみろ」

 

帰ってきたら遠くからでも分かるほどに格納庫が荒らされていた、愛機の姿も無い。コンテナも幾つか運び出され、中身も持ち出されているという完全な契約違反を見せてくれた。

 

「傭兵が一人消えたところで何も変わらん、変わらんさ!」

 

「…あっそ、聞いても無駄か」

 

訳ありなのは何処も同じらしい、だが知ったことではない。話にならないなら時間を浪費するだけだ、彼は顔面に蹴りを入れてからその場を後にする。

 

「さて、勝手に調べさせてもらうかな」

 

小さな建物から出てすぐにあるのは宇宙船用の修理ドックであり、彼のもの以外に船の姿は見えない。こんな所に来る奴は居ないからか、それとも自分のように騙されて全てを奪われたかのどちらかだろう。

 

「トレーラーのタイヤ痕、俺の機体を運びやがったな」

 

機体を収めるためのハンガーは破壊され、固定具は無理矢理外したのが即座に理解出来るほどに歪んでいた。

 

「セキュリティを外せる奴も居ないのか、侵入を許した俺も俺だが」

 

自衛用の無人機銃はロケットランチャーか何かを撃ち込まれて大破している、これは不味い。

 

「メンテの途中で機体のAIも眠ったままだ、動かせるとは思わんが…」

 

部品取りのために解体されたら目も当てられない、急ぐ必要がありそうだ。格納庫の扉を閉め、船のシステムを立ち上げる。自衛モードを起動し、近寄った物は射殺するよう設定しておく。

 

「俺の機体だ、絶対に返してもらうぞ」

 

格納庫から持ち出されたのはごく少数、輸送能力も貧弱なようだ。最優先で機体が持ち出されたために他は手が付けられていない、これなら後を追うのも簡単だ。

 

「他にも足を用意していて良かった、こういう時の多脚車両ってね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

足の生えた装甲車に燃料電池を積み込み、姿勢を変えさせて人工筋肉をほぐす。人間で言う準備体操をさせながら、食糧やら弾薬やらを引っ張り出し、車に積み込む準備を始めた。この手の兵器は起伏の激しい惑星でも戦えるために研究と開発が進められていて、今では戦車と肩を並べる兵器となっている。

 

「急ぎたいが準備に時間がかかるな、犯行の証拠を押さえておくか」

 

船の端末を弄り、格納庫に幾つか取り付けられている監視カメラの映像を見る。二台ほど壊されていたが、分かりにくい位置に設置されていた他のカメラは無事だったようだ。

 

「さーて、犯行声明を聞かせてもらおうか」

 

再生ボタンを押して音量を調整すると、大きな作業音にかき消されていた会話が聞こえ始める。

 

『人型兵器とは、あの傭兵はアタリだった!』

 

『…そうかもね』

 

修理工が中々のテンションの高さを見せつつ、愛機をジロジロと見る。それに付き添うのは一人の女性、かなり若いように見えるが口元を覆う布のせいでよく分からない。

 

『海賊の第二世代なんて旧式じゃあない、これは三世代か?』

 

『使えるならなんでもいい、早く載せて』

 

『代金は?』

 

『船は要らないから、それで結構』

 

「星系間航行船、それも武装した装甲コルベットだぞ!要らんとはなんだ要らんとは!」

 

この男は貯蓄を切り崩してでも装備を整える傾向にあり、傭兵一人が使うには大柄な船もその拘りによるものだ。それはさておきどうにも仲が悪いらしい、機材ごと彼女が撤収したためにこれ以上荒らされなかったのだろうか。

 

『そうか、戦況は?』

 

『こんな手段に頼る時点で良い訳がない、じゃあ行くから』

 

愛機はあっさりと載せられ、何処かへ連れて行かれてしまった。何かあるのは間違いない、海賊という言葉も引っかかる。

 

「どいつもこいつも…」

 

準備体操の終わった多脚車両に乗り込み、脚部のタイヤを回転させる。砂漠用のタイヤに換装したためか問題なく速度は上がる、後はタイヤ痕が消える前に追いつかなければ。

 

「出撃だ、トレーラーから機体を取り返す!」

 

ーーー

ーー

 

意気揚々と飛び出して来たのは良いが、多脚車両では人型兵器との相性が悪い。戦えないわけではないが敵の口ぶりからして自分の機体が最後の一機ということは無いだろう、正面戦闘は避けなければ。

 

「方向は合ってる筈だが、それっぽい動きが見えないな」

 

人型兵器が乗るほど大きなトレーラーが移動すれば、砂が舞い上がって分かりやすい目標になってくれる。だが四方を見渡してもそのような物は見えず、多脚車両のセンサにも反応はない。

 

「一旦潜伏して身を潜めてるのか、いやしかし何のために」

 

自分が追ってくることを計算に入れたとは思えない、そこまで用意周到なら修理工が武器を手に歓迎してくれた筈だからだ。つまり自分以外の何者かから隠れている、ということになるか。

 

「タイヤの痕も消えかけてる、風が強まる前に追いつきたかったんだが」

 

車載のUAV、無人航空機は前回の仕事で使い切っている。こういう時のための偵察機だというのに、補給先のコロニーに到着する前に緊急着陸とは運がない。

 

「…ん?」

 

センサの一つが何を捉えた、それは解析すると小口径のプロペラを用いた飛行音の可能性が高いらしい。ハッチを開けて外を見ると、空には黒い無人機が翼を広げて飛んでいた。

 

「UAV!?」

 

誰が飛ばしているのだろうか、だがそう簡単に見つかるような装備で来てはいない。灰色に塗装されていた筈の装甲はいつの間にか変色しており、周囲の砂と同じ光を反射するように変質していた。

 

しかし動くとバレる、ここは機体の姿勢を固定して通り過ぎるのを待つしかない。少し危険な状況だったが、無人機は別の方向へと飛び去っていったようだ。

 

「…安物UAV程度のリモートセンシング能力で居場所がバレるかよ、ビビらせやがって」

 

機体のロックを外し、姿勢を変えることで浮いていた機体の腹を設置させる。これで装備されていた音響センサを使うことが出来る、地上で潜水艦の真似事というわけだ。

 

「さーてさてさて、小型のUAVが低空を飛んでるってことは近くに何か居るってことだろ」

 

届いて来る振動の波は周期を感じさせず、法則も大きさもバラバラだ。しかしこの振動には聞き覚えがある、重量物がひたすら叩きつけられる音を出し続ける兵器など一つしかない。

 

「遠距離からの撃ち合いじゃあないな、近接戦の歩幅か?」

 

音をもう少し細かく聞いた後、姿勢を元に戻して前進する。何が起きているかは大体分かった、なんとも聞き慣れた音だ。

 

「人型兵器が戦ってるな、それもこの先で!」

 

恐らく愛機を乗せたトレーラーと何者かが接触したのだろう、一刻も早く向かわなければ機体が危ない。車体脚部の超伝導モーターを唸らせ、速度を上げた。

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