辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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第二十六話 調整

『貴女には後でソフトスキン用の補修剤をあげましょう、出動は遅らせて貰って最低限のメンテもしなくては』

 

駆動系に入り込んだ砂塵を取り除き、応急処置用の保護シートを破損箇所に貼り付ける。使われていたシーリング材も劣化が進んでいるため、オーバーホールが必要だろう。この星で手に入る物は粗悪品ばかりでハイエンド品の彼女には到底合わないのが大きいのだろうか。

 

『あんなこと言ったのに、いいの?』

 

『これでも長生きしてるんですよ、幼い個体相手にみっともないことはしません』

 

アンドロイド仲間を見つけたミナミは相手がボロボロだということも相まって、トバリが貸した工具と自前のメンテナンスツールを使って彼女の世話をしていた。年齢差を考えると孫、いやひ孫かそれ以上だろう。

 

「ありがとうございます、やっぱり自分では限界があって困ってたんです」

 

「この砂漠型惑星でここまで維持出来てるのが奇跡だ、腕は誇っていいから安心してくれ。専門的な整備方法は後で教えるとして、まだ名前を聞いてなかったな」

 

「レンヤです、貴方が噂の傭兵さんですか?」

 

「ああ、名乗れる名前は無いんで好きに呼んでくれ」

 

隊長を正面から撃破した傭兵は、今や治安維持隊で話題にあがらない時は無い。彼はアンドロイドと行動を共にしていると言う共通点から親近感か何かを感じたのか、少し憧れの入った眼差しを傭兵に向けた。

 

「僕もカナミと一緒に人型兵器のパイロットをやってるんですが、強みを活かせていないと感じていて…」

 

「隊長から話は聞いてるよ、今回は指導も頼まれてる。アンドロイドとの付き合い方には覚えがあるからな、出来る範囲で教えるさ」

 

「よろしくお願いします!」

 

アンドロイドの補助が本領を発揮出来るのは第二世代機以降のOSからだ、第一世代機の場合は非常に高度かつ柔軟なAIの介入を想定したシステムを有していない。

 

「操縦方式は?」

 

「手動です」

 

「脳波制御に切り替えた方が良いな、試してみようか」

 

「はい!」

 

彼の機体は既に隣のハンガーに移送されており、他と同じ機種に見える。ただ一つだけ違うのは、他とは違ってキチンとした頭部が増設されていることだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「機体は同じだが、頭を無理矢理乗せてあるのか」

 

「カナミの情報処理能力を使うために移植したんです、放棄させられた第二世代機のパーツを引っ張り出して来たとかで」

 

「この基地の地下に動かせる第二世代機があっても不思議じゃねぇな…」

 

梯子を登り、彼の機体のハッチを開ける。持って来ていたラップトップを開き、彼に接続用のケーブルを手渡した。

 

「少し中身を見せてくれ」

 

「分かりました!」

 

「…俺が言うのもなんだが少しは疑った方がいいぞ、他人に触られたら最低でも整備士にチェックしてもらうよう頼んでおいた方がいい」

 

「あ、確かにそうですね」

 

彼はメモを取り、梯子の下でトバリと話していた整備士に後で機体のシステムチェックをするよう頼んだ。そしてその後でコックピットに入り、ケーブルを機体に差し込んだ。

 

「繋がりましたか?」

 

「…分かってはいたが、まあ第一世代のOSだな。多少アップデートされてはいるが、それでもカビの生えた骨董品だ」

 

「第二世代機は仰るような脳波制御が出来たと聞いていますが、第一世代機の装備でそんなことが可能なのでしょうか」

 

「カナミが居るだろ、あの子の電脳はその機体よりよっぽど高性能だ。それに機材不足ってんならこのヘッドセットで脳波を読み取ればいい、幾らでもやりようはあるのさ」

 

傭兵は市場で調達しておいた脳波読取デバイスを彼に渡し、準備を終えていたPCのキーボードを数回叩いた。するとOSの書き換えが始まり、ものの数十秒で中身が入れ替わった。

 

「そっちの相棒のメンテが終わったら二人で試運転をしてもらう、それまではコレに目を通しておいてくれ」

 

「マニュアルですか?」

 

「脳波制御での操縦は習うより慣れた方が早い、だが知識が必要なのもまた然りだ」

 

「目を通しておきます」

 

「頼む」

 

ラップトップPCを折りたたみ、階段を降りてトバリの元に向かう。彼女は渡された資料を見て、この依頼を受けるかどうか吟味している最中だ。

 

「傭兵さん、次は実戦になりますが…大丈夫ですか?」

 

「問題ない、機体も絶好調だしな。組む相手のフォローは必要だが、後方支援がある分やり易い」

 

「メカニックとしては受けるべきだと考えます、機体も万全であるというのも同意見ですから。依頼額を見る限りメリットは大きいかと」

 

「ミナミが後輩の面倒を見られて嬉しそうだしな、じゃあ受けるってことで」

 

二人して振り返ると、カナミは動きの悪かった左腕を取り外されていた。千切れていた人工筋肉を抜き、まだ動くものを別の場所に移し替えることで全体のバランスを取っていく。

 

『やり方、覚えておいてくださいね』

 

『でもこれ片手じゃ出来ない気がするけど』

 

『他の子にやってあげられるように覚えるんですよ、貴女の持ち主にやって貰うにも自分でやり方を知っていたら教えるのも楽でしょう?』

 

『…そうね、分かり易いように記録しておくわ』

 

甲斐甲斐しく世話を焼いている、なんとも微笑ましい光景だ。機体のコックピットから顔を出したレンヤ青年もそれを見て驚いた後、笑みを浮かべてから操縦席に戻っていった。設定されていた人格の刺々しい部分が取り払われ、柔らかくなった彼女は彼にとって目新しいのだろう。

 

「アレだよな、本当に孫の世話する祖母って感じて…」

 

『マスター、今なら一緒にやってあげますよ。器具も揃ってますし、貴方も腕のメンテします?』

 

「すみませんでした」

 

『わかればよろしい』

 

腕を外されてもその場で付け直せるほど、人間の部品は優秀ではないのだ。

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