辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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第三十一話 遭遇

「機体の細かい調整は終わったし、これで必ず必要なものは揃ったわけだ」

 

『次やるべきはそれ以外を揃えることですね』

 

「準備は万全にしたい、長期戦になるだろうしな」

 

そう言ってやって来たのは治安維持隊御用達の武器屋、多種多様な火器が勢揃いだ。以前も小銃の調達に来ていたが、今回は少し大きな額を使う予定になっている。

 

「おお、アンタらかい」

 

『このリストにある物、調達出来ますか?』

 

「…ハ、ハハッ!戦争でもおっ始める気かい、それでなきゃ大会は大荒れだねぇ!」

 

カウンターに座っていた老婆は笑い出し、ペンを片手に奥の部屋で旋盤に向かっていた男性を呼び付けてリストを押しつけた。

 

「婆ァさん!何スか急に!」

 

「若いの集めて最優先で取り掛かりな、久しぶりに良いのが来たよォ〜」

 

「えぇーっ!?」

 

楽しそうなのは老婆だけに思えたが、わらわらと集まって来た作業服姿の男達は奪い合うようにしてメモを見始めた。そして各々の仕事を割り振ったのかあっという間に離れていき、材料やら何やらを掻き集めている。

 

「ちょいと厄介なのはあるが面白い依頼だ、金が貰えるなら若い衆が喜んでやるさ」

 

『助かります』

 

「これだけ買ってくなら配送はサービスしとくよ、ただしコイツだけは明後日まで待ちな!」

 

確保が難しいと思っていた物も用意できるようで、リストにはひとつだけ赤く印が書かれた状態で返された。これが用意に時間がかかる代物ということだろう、調達出来るというのには驚かざるを得ない。

 

「…他の店を回るまでもなかったな、どうするよ」

 

『トバリさんに何か買って帰りましょう、働き詰めですし息抜きは必要かと』

 

「それもそうだな」

 

建物の中に店を構える者も居れば、天幕を張って露店を営む者も居る。大規模な交易拠点ということもあり、大通りには行商人の姿も多く見える。だがそれと同様に、この街の住人でも外から来た商人でもない人間も多い。

 

「ウチはね、施しやってないんだよ」

 

「…」

 

「ほら帰った帰った!警官さん呼ぶぞ!」

 

この街が特別豊かなだけなのだ、最初に遭遇した集団のように後がない奴らも多く居る。だからこそ治安維持隊の規模は大きく、その権力も強いと言うことなのだろう。

 

「もう少し奥の裏路地は浮浪者だらけだ、スカベンジャーだって暴れてるし大規模な治安維持出動は出来んのかねぇ」

 

『聞くところによれば統治機構が掌握された後は防衛隊が治安維持隊からの協力要請を殆ど無視しているのが今の状況を産んでいるとか、カザマキさんが嘆いてましたよ』

 

「情報収集は助かるけどさ、いつの間に聞いてくるんだお前は」

 

人通りが多いため、避けるのにも限界がある。汚れた外套を着た女性がふらつきながらぶつかり、そのまま膝から崩れ落ちた。

 

「おいアンタ、大丈夫…」

 

『待ってください、これは』

 

ぶつかった箇所には血が付いており、足元を見ると夥しい出血量であることが分かる。何かしらの外傷を抱えたまま歩いていたのだろう、これだけの血を失って助かるとは思えない。

 

「…奇遇ね、あの時のパイロット…じゃない…」

 

「あの時の泥棒女か、お前」

 

この顔は見覚えがある、船から機体を強奪した女だ。気絶させた後で他に居た仲間に引き渡したが追撃を受けていた、皆殺しにされたと思っていたが生き残っていたとは。

 

「この際…貴方でもいいわ、この場所に行って」

 

「誰が行くか」

 

震える手で渡そうとしたメモを傭兵は受け取ろうとしなかったが、既に持っていられる力を維持するのも難しいのか手から落ちる。それをミナミが地面に落ちる前に捕まえたが、それはかなり簡素な地図に見える。

 

「あの大会、出るんでしょう…周りを出し抜ける有益な情報が対価よ」

 

咳をしながらの言葉だったが、彼女は傭兵がそれを聞き取れたかを確認せずに何かを押しつけた。血まみれのそれはチップ型の記憶媒体だ、これが依頼料ということらしい。

 

「切羽詰まってたとはいえ、悪いこと…したわね…最後に謝罪するわ」

 

「いやお前、おい」

 

「…」

 

彼女は死んだ、血の匂いに気がついた周囲の人々はいつのまにか傭兵達から距離を取っていた、このままでは殺人犯として捕まりそうだ。

 

「そんな最後に託して満足したみたいな死に方されてもさ、困るんだけど」

 

『治安維持隊呼びます?』

 

「疑われたくもないしな、そうしよう」

 

傭兵は隊長直通の通信機を手に取り、スイッチを押し込んだ。

 

ーーー

ーー

 

隊長は大通りの一区画を閉鎖、調書を取りながら血の跡を睨んでいた。

 

「なるほど、人型兵器の窃盗犯だったと。お前に自分の機体が無かったのはそういうわけか」

 

「あー……そんなもんだ、渡されたチップはどうする?」

 

「良ければ見せてくれると助かる、内容は共有しよう」

 

装甲車で急行して来た隊長とその部下達は泥棒女がゲリラに所属している人間だと判断し、しっかりとした調査を始める気らしい。

 

「協力感謝する、この調査対象は中々に切羽詰まっていたらしいな」

 

「指定された地図もどうするか悩んでる、確認に行くべきか?」

 

「ふむ…何かの隠し場所か、それとも…」

 

もしゲリラの仲間が居た場合、治安維持隊が向かえば証拠隠滅を図るかもしれない。それにこの状況は傭兵が本当にスパイかどうかを確かめる試金石にもなる、隊長にとって利用しない手はないだろう。

 

「レンヤとカナミのペアを付ける、二人を連れて確認に向かってくれ」

 

『「えっ!?」』

 

同行して来た二人は驚いた顔をして隊長を見るが、彼はサムズアップをしたままレンヤの背中を押した。

 

「良いのか?」

 

「お前が居た方が怪しまれずに済むだろう、上手くやってくれ」

 

現場検証やら死体の分析、周囲の調査など彼らの行うべき仕事は多い。死因は胴体に撃ち込まれた拳銃弾数発からなる失血死と思われ、街の中で撃ち込まれた可能性が高いのだ。

 

『貴方の主人は話題に事欠かないわね』

 

『退屈しなくて良いじゃないですか』

 

『どうだか…』

 

男二人の後に続くアンドロイド二人は面倒ごとに巻き込まれたことを自覚しつつ、機械でありながらため息を吐いた。

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