そのため後半において大規模な加筆、修正を行なっています。
整備士達がレンヤと話し合い、何処からかスプレー缶を用意して来た。そして肩に何かを貼り付け、その上から塗料を塗っていく。
「これは?」
「名前を入れて貰うんです、カナミがデータベースにあった中から良さそうなものを見繕ってくれたので」
「アイギス、神話の盾か」
「少し名前負けをするかもしれませんが…」
「しないさ、どんと構えておけ」
機体には識別番号と共に"Aegis"の名が刻まれ、地下から運び出されてきた武装群に囲まれている。どの武装を搭載するかは悩む所らしく、無理矢理搭載された管制制御装置とその冷却機構が背中側のスペースを潰してしまっている。
「制式装備の20mmでは火力不足が否めません、30mm砲にしようかと考えていますが」
「第二世代機が相手になるなら30mmでも豆鉄砲だぞ、少し嵩張るが80mm滑腔砲にした方がまだ戦える」
「…やはり第二世代機と第一世代機には埋めようがない差があるんですね」
ゲリラが第二世代機を運用しているという事実は治安維持隊の皆が薄々知りつつも信じたくなかった話だろう、隊長達が乗る第一世代機も20mmから別の兵器に換装している。
「だが無敵じゃない、何発も当てればその箇所は駄目になるし…関節なんかは変わらず弱点のままだ」
「なるほど」
レンヤは胸ポケットから取り出したメモに傭兵の言葉を書き留め、自分の頭の中で戦術を組み立て始めたようだ。この思考能力も動作の自由度を操縦士に委ねる人型兵器に乗る上では非常に重要と言える。
「参考のために教官の機体をもう一度見たいのですが、よろしいでしょうか」
「良いんだが…その…参考になるか分からんぞ」
フル装備のカンナギは地下格納庫の第一世代機用ハンガーに収まらなかったため、今は資材置き場に駐機させているようだ。機体には上半身を重点的に覆う追加装甲、背中から伸びるサブアームとそれによって保持されている巨大な盾、更には小銃型の粒子砲が装備されていた。
「これは…」
「な、言ったろ」
「星の外で運用されてる機体はここまで進んでいるんですか、凄い重武装ですね」
「小型化された重力制御装置で重量は見かけほど重くなくなるからな、機動力はそこまで落ちてない」
「重力制御、ということはまさか慣性制御装置も?」
「搭載してる」
重力制御装置は機動力の向上だけでなく光学兵器への防御にも使用され、慣性制御装置は敵の砲弾を逸らす以外にも搭乗者への負担軽減のためにもその力を割り振っている。高い機動力と防御力の両立、テクノロジーの暴力だ。
アイギスの役目が無くなるのではないかと危惧するような顔を見せるレンヤだったが、そんなことはない。これらの装備は全て個人用なのだ。
「だがアイギスほどの効果範囲が無いんだ」
「えっ?」
「大型のホバークラフトを防御範囲に収められるような機体は珍しい、全員で突入するためにはアイギスが必須なんだから自信を持ってくれ」
アイギスの最大の欠点は莫大な電力消費だが、核融合炉を搭載するカンナギの参戦によってその問題も解決した。ケーブルで二機を接続し、有り余る電力を供給するのだ。
「もしミスっても大丈夫だ、その時のために武器じゃなくて盾を担いで来てるんでな」
追加装甲のお陰で機体全体を盾として扱える、脆い第一世代機を庇うにはうってつけの装備だろう。
ーーー
ーー
ー
『ねぇミナミ、これどう思う?』
『アイギス…なるほど、機体名入りのジャケットですか』
『整備班の人達が用意してくれたの、危険な任務だからこれくらいはさせてくれなんて言われたら受け取るしかないわよね!』
ミナミはもしもの時に備えて死地に相応しい死装束を用意してくれたのだろうと思いつつも、口に出すことは無かった。彼女は生き残る可能性を高めるために機体と同じく船から持ち出したアンドロイド用の修理キットを使い、カナミに対して応急処置ではなく本格的な修理を行っていたからだ。
『これでマニピュレーターは治る筈です、軍用の人工筋肉なのでリミッターをかけて調整しないと華奢なフレームが捻じ曲がりますけど』
『えっ』
『冗談です、もうある程度調整してありますから大丈夫ですよ』
狼狽える彼女を見て幼い個体は人間の子供のようだとミナミは思いつつ、持ち込んでいたコンテナに手をかけた。中に収まっていたのは戦闘用のアンドロイドであり、銃火器を装備しているのが見てわかる。
『これは?』
『子機です、使う前に見せておこうと思いまして』
ミナミは自身の後頭部にケーブルを差し込み、反対側の端子を彼女に持たせた。接続したカナミが受け取ったのは子機運用に必要なソフトウェアと諸注意が書かれたミナミ謹製のテキストファイルだ。
『子機にはオリジナルの私達と同様に振る舞える電子頭脳がありますが、低コスト化のために学習機能が省かれてます』
『…子機って遠隔で操るんじゃなくて、自分のコピーを作るってこと?』
『遠隔操作にはラグの問題が付きまといますし、義体二機分の処理を一体の電子頭脳で行う必要があります。こちらの方が合理的なんですよ』
人間であれば同じことをしろと言われたら抵抗したかもしれないが、彼女達は元々情報で構成された存在だ。コピーが得た記憶を取り込んで統合してしまえば問題ない、倫理観というのも人とは少し違ってくる。
『疑問なのだけれど、どうしてミナミはここまで私に良くしてくれるの?』
『…貴女には私の経験を受け継いで欲しい、と言ったらどう思いますか』
レンヤ達は真実を知ってしまった、これから先戦いは激しくなるだろう。そんな時に未熟なパイロットとアンドロイドが生き残れるだろうか、彼女はそうは思わない。
久しぶりの可愛い教え子を溺愛していた…というのもあるのだが、傭兵と同じくこの街の人々が死んでほしくないと思うようになっていたのだ。
『言い方は悪いですが手っ取り早く貴女が強くなるにはこれしかありません、口頭での教育の方が個人的には好みなのですが…有線でも?』
『ええ、私はレンヤとまだ経験したいことがあるの』
『即答ですか。まあ経験値の積み重ねには長い年月が必要ですからね、長生きするのは良いことですよ』
愛玩用として設計された彼女が補助を行おうとしても限界がある、だが彼女の自我以外を戦闘用に書き換えれば話は別だ。有機的な構造を持つアンドロイドの電子頭脳に手を入れるというのは中々に難しいことなのだが、百戦錬磨の傭兵と共に戦場を巡ったミナミにとっては朝飯前だ。
ミナミは戦場で得た経験全てを彼女に渡すのはむしろ負担になると考え、最適化した上で扱い易いよう変換した記憶を用意したようだ。
『初体験なのに初々しくないというのもアレですし、その手の情報も消しておきますね』
『ちょっと!?』
『これも経験値ですよ、経験値』