「見えるか?」
「何も、振動計はどうなんだ」
「動いたらとっくに知らせてる、生憎平常通りさ」
治安維持隊の装甲車は人員と偵察機材を載せ、街の周囲で索敵網を張っていた。人の目と砂嵐を感知するためのレーダー、そして巨大な陸上艦が走行する際に発する振動を検知する振動計の三つが彼らの頼りだ。
「…ゲリラが陸上艦か、豪勢だよな」
「アレを交易に使えりゃいいなんて言った奴も居たけどな、今じゃアレに潰された街がどれだけあるか分かんねぇ」
彼らは勝てるとはあまり思っていない、だが逃げ出す先もない。この星の現状は悲惨だ、人として生きられるこの街は死ぬ理由になり得た。
「勝てると思うか、話じゃ奴ら第二世代機を持ってるらしい」
「その質問に何の意味があるのかが知りたいねぇ。負けたとしても行くところなんざないんだ、勝って街の平和を守るか…砂漠で野垂れ死ぬかの二択さ」
逃げる場のない彼らは結果的に死兵となる。全てを突入部隊に託し、文字通り死ぬ気で戦う彼らをゲリラはそう簡単に制圧出来るだろうか。街の中は乱戦になるだろう、降り注ぐ砲弾は建物を木っ端微塵に吹き飛ばすだろう、だが彼らは治安維持隊として最後まで職務を全うするのは目に見えていた。
「…おい、これ見ろ」
「振動計に感ありか、司令部に繋いでくれ!」
ーーー
ーー
ー
陸上艦接近の報を受け、治安維持隊は遂に動き出した。街に布陣する陽動部隊はありとあらゆる火砲を砂嵐の中へと向け、射程内に収まるのを今か今かと待ち構えていた。
「俺達まで連れて行くとは、穏やかじゃないな」
「だがゲリラの野朗共を纏めて潰せるってんなら乗るぜ!」
「奴らは散々俺らの縄張りを荒らしてくるからな、ここで息の根止められるんなら万々歳だ!」
『そうなんですか?』
「堕ちてきた輸送船を何度横取りされたか分かんねぇよ、苦い記憶さ」
『…なんだか後で聞きたい話が出てきましたね』
陸上艦に向けて突撃するホバークラフトの周囲にはなんとか修理を終えた屑鉄兄弟が随伴しているが、今回の作戦に対して二つ返事で参加することを決めていた。ゲリラとスカベンジャーには深い溝があるらしい。
「こちら隊長機。傭兵が持ち込んだ化け物で作戦が変わったからな、最終確認を行うぞ」
ホバークラフトに搭載された戦力は隊長、傭兵、レンヤの人型兵器三機、あと一機分のスペースには治安維持隊仕様の多脚車輌が乗っている。その中に収まるのは防弾装備を着込んだ歩兵部隊であり、ミナミの子機を護衛する隊長の部下達だ。
「陸上艦に対してホバークラフトで並走する形にまで持って行く。その間の防御はアイギス頼りだ、盾の裏から出るんじゃないぞ」
『アイギスは絶好調よ、絶対に守り切ってあげるから感謝しなさい!』
「砂嵐が解かれれば傭兵のビーム兵器で砲台を破壊する手筈になっている、問題は無いか?」
「粒子砲の収束率を下げて拡散モードで発射するが…それでも数発分の砲撃が必要だろうな、破壊し切るまではレンヤに守ってもらうさ」
傭兵はホバークラフトの一番前に乗り込んでおり、背後の機体を庇うように盾を広げていた。アイギスの放熱が間に合わなかった場合、あるいは慣性制御装置で対応出来ないレーザー兵器での攻撃が行われた場合に備えているようだ。
「側面に取り付いた後は歩兵部隊とミナミの子機…だったか、もう一人の彼女を内部に投入する。傭兵以外は内部に突入、格納庫を制圧して出来る限り被害を拡大させる」
「俺とミナミはそのまま砲台を潰して回ればいいんだな」
「頼む、街への被害を最小限にするためにはそれしかない」
地下格納庫に住民は避難しているが、建物が無くなれば復興は難しい物になるだろう。設備が整っているからこそこの街は交易拠点として栄えてきたのだ、廃墟になればどうなるかは想像がつく。
「第二世代機が出てきた場合は格納庫への襲撃は断念して船外に退避、吊り出しての撃破を狙う。ホバークラフトが潰されると歩兵部隊を回収出来なくなるからな」
「釣り出されてきた奴は外に居る俺達で撃てばいいわけか」
「その通りだ、しかしその粒子砲とやらは第二世代機に効くのか?」
「収束モードなら一発だな、あの装甲配置は耐弾製を重視していた時のトレンドだから上等な耐熱装備はない筈だ。明らかにビーム兵器を考慮した後の機体じゃない」
ビームやレーザーと言った兵器は人型兵器に用いられる装甲が強力な耐弾性を手に入れたからこそ発展した分野であり、最新鋭の第四世代機ともなると小型化した電磁兵器を身体中に搭載するなんてことは珍しくない。
「分かるのか、流石だな」
「切り飛ばした腕をミナミがちょいとな」
『私の解析能力は伊達じゃありませんから』
ホバークラフトは方向転換を始め、砂嵐の中にいるであろう陸上艦と速度を合わせる。アイギスの慣性制御装置を起動し、カンナギはケーブルを介しての電力供給を開始した。
「街との距離を考えるとそろそろ敵の射程内だ、いつ姿を表すか分からん」
「ああ、何が起き…」
耳を劈くような破裂音が鳴り響き、砂嵐を突き破って一発の砲弾がホバークラフトに飛来する。アイギスは瞬時に砲弾のベクトルを捻じ曲げたが、対象物の速度が高すぎたために逸らし切ることが出来ない。飛来物は傭兵が展開していた盾に命中し、斜め上に弾かれていった。
「…今のは!?」
「逸らし切れなかった、通常の火砲じゃありません!」
砂嵐の向こう側から正確にホバークラフトを撃ち抜く精度、相当特殊なセンサーでも有していなければ不可能な芸当だ。それに火薬式の砲であれば防御に問題は無かったアイギスの防御を破る砲弾、穏やかな話ではない。
「レールガン、それも長砲身の大型だな。盾への損害は?」
『入射角が浅く砲弾の角度も傾いていたので貫通ならず、損害軽微です』
「傭兵、今レールガンと言ったか!?」
「当たれば機体の上半身丸ごと吹っ飛ぶぞ、気をつけろ」
しかし既に陸上艦とは並走している状態であり、この場を離れれば敵艦への突入は難しくなるだろう。それに敵艦の懐に潜り込めば射角を制限できるかもしれない、逃げても撃たれるのであれば逃げない方が良いのは明らかだ。
『砂嵐が解けます、敵艦からの砲撃来ますよ!』
「立て続けだな!」
砂嵐の中から姿を現した陸上艦だったが、既に側面に設けられた夥しい数の砲台には砲弾が込められていた。砲身がホバークラフトへと向き、次々と放たれていく。
しかしレールガンと比べると遅い、その全てがアイギスによって軌道を捻じ曲げられて逸らされていく。カナミによる補助もあってか機体への負荷は想定よりも少なく、予定通り時間は稼げるだろう。
「とんでもない弾幕だな、曳光弾で視界が埋まる」
『ですが今なら粒子砲が通じます』
「ああ、反撃開始だ」
粒子砲の収束率を下げ、拡散モードへと切り替える。傭兵の駆るカンナギは大量の砲撃に物ともせず武器を構え、ただ当たり前のことかのように引き金を引いた。
「的が大きい、図体がデカいと外す心配が無いな」
放たれたビームは正しく散弾と言ったような広がり方を見せ、お粗末な装甲で固められた砲台群の一角を蒸発させる。弾薬庫も誘爆したのか、爆炎が他の砲台の照準を遮った。
『レールガンは想定外です、どう動きますか?』
「こっちで抑えるしかない、射点は?」
『陸上艦の上部、甲板です』
何かがデカブツの上に陣取っているらしい、中々厄介な相手だ。これではアイギスに守られつつ砲台を破壊するというプランですら危険性を孕む、傭兵はここは大立ち回りを演じた方が被害が減るかもしれないと思い脚部に力を込めた。
「サッサと行け、砲台もレールガンもこっちでどうにかする!」
「一人でやる気か!?」
「突入が早まったと思ってくれ、アレは潰さないと離脱が出来ない」
「クソッ…仕方ないか、頼むぞ!」
傭兵は陸上艦との距離を詰めるホバークラフトから飛び降り、脚部の推進器に火を入れた。完全な自由飛行が可能ではないものの、下手な航空機よりも小回りは効く。
「第二射用意、目標甲板!」
『待ってください、レーダー照射を受けました』
「何処からだ、盾を前に…」
分厚いハッチを開いて現れたのは大会で大暴れをして見せた第二世代機であり、アレだけ苦労して切り落とした片腕も付いていて五体満足と言わんばかりに武器を構えて見せる。
「…二正面作戦かよ」
『反応増大、一機じゃありません』
「オイ何の冗談だ」
出てきたのは一機だけではなく、背後から二機、三機と姿を表す。格納庫の中にどれだけ溜め込んでいたのだろうか、一機ですら突入部隊が危険に晒される機体を複数機用意するとは容赦が無い。
「これは、一体どうしたもんかな」
『敵機、突入部隊ではなくこちらに向かって来ます』
「やるしかないか、向こうに行かれても困る!」
隊長達の方に向かわれれば部隊は壊滅するだろうし、かと言って傭兵が相手するとなれば甲板のレールガンが野放しだ。更には街を狙う砲台もまだ破壊し切れていない、後手に回され続けている。
「教官、甲板はアイギスで抑えます!」
「無茶言うな、その機体でも逸らし切れん!」
「さっき言いましたよね、長砲身のレールガンだって!」
『それなら懐に入ればこっちが有利よ。ミナミ、カンナギの推力を貸して』
『なるほど、考えましたね』
陸上艦の外へと飛び出したアイギスの手をカンナギで掴み、推進器の出力を一気に上げる。そして傭兵は思い切り機体の腕を回し、教え子を真上へと投げ上げた。アイギスはそのまま第二世代機の跳躍力を活かして砲台を足場に上昇し、甲板へと着地して見せる。
「やけに思い切った判断だな」
『カナミへの入れ知恵が原因かもしれません』
「入れ込んでるな、俺も人のことを言えた身分じゃあないが…」
収束モードへと切り替えた粒子砲を構え、迫る第二世代機に放つ。直撃は避けたものの、あまりの熱量に半身が溶けて歪んだ。他の機体も発射後の隙を狙ってナイフを突き立てるが、独立している盾に刺したところで機体へのダメージは無い。傭兵は盾の縁で敵機を殴り付け、その衝撃で動きが止まったところにいつの間にか抜刀されていた刀による一撃を加えて見せる。
「この話はまた今度」
『ですね』
波乱に満ちた陸上艦迎撃作戦は想定外と共に始まったが、相手にとっても傭兵という特大のイレギュラーが居たことで一方的な戦局とはならずに済んでいるようだ。