辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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第四十六話 後日談

「…案外賑わってるな」

 

『逞しいことこの上ないですね、売れ筋商品は陸上艦から剥ぎ取った物のようです』

 

「開拓初期からの遺産が見るも無惨な姿に、ここまで解体が早いなんて思わなかったぞ」

 

被害を受けた街の市場はいつのまにか活気を取り戻し、店頭には様々な物が並んでいる。治安維持隊は早急な立て直しのためにある策を講じた、陸上艦の解体権を販売したのだ。金鉱脈と同義の存在であるそれに人々は群がり、街の外からも多くの労働者が集う。

 

「解体権を売ると同時に売上額から街の取り分を幾らか貰う、上手い落とし所だな」

 

『不正も起きるでしょうけど、下手に締め付け過ぎるよりは余程大きな収入になりそうです』

 

「治安維持隊も無傷じゃないしな、格納庫の人型兵器はどれもボロボロだ」

 

高度な部品は常に不足傾向にあるこの星で人型兵器を修理するのも一苦労だが、供給元である中央工廠も統治機構の息がかかっている疑いがある。誰も信じられないこの状況で外から人を大々的に呼び込むという判断を下したという事実に傭兵は少し驚いていた、疑心暗鬼になり過ぎないのは良いことだ。

 

「こちら遺伝子改造済みのテラフォーミング用植物!これを辺りに撒くだけで根を伸ばし、地下深くの水脈から水を…」

 

「もしもし隊長、バイオハザード起きそうだから摘発してくれ」

 

『あの手の植物って緑地化の第一段階に撒くタイプなので、人が居るような所で使うと大惨事じゃあ済まないんですよね』

 

無尽蔵に増え続ける植物や、その植物の育成用に作られたプラズマ発生器、更には各種微生物など危険な代物が大量に見つかっている。傭兵が粒子砲の収束射撃で陸上艦を撃沈しなかったのはこれらが理由だ、街が別の要因で滅んでは意味がない。

 

「禁制品を売るなァ!」

 

「治安維持隊が来たぞ、逃げろー!」

 

「逃げるってことは分かって売ってんのか、確信犯なら遠慮は要らんなぁ!」

 

バイクで市場に突撃して来たのは隊長の部下であり、それを見た店主は最低限の荷物だけを抱えて人混みの中へと逃げた。

 

「バイタリティ溢れる奴らだなぁ、それくらいじゃないとこの星で生き残れないってのもあるんだろうが」

 

『今のうちに禁制品を確保しておきましょうか、中身が漏れても危険ですし』

 

「そうだな」

 

二人は分厚い金属製の容器を抱え、治安維持隊の格納庫へと戻ることにした。足に使った多脚車輌には人が群がっていたが、近付き過ぎると機銃を向ける設定にしておいたお陰で弄られてはいないようだ。

 

「おかえりー、ボクだけお留守番なんて酷いや」

 

「あの人混みの中で生きて帰れる自信があるなら出ても良いぞ」

 

「うっ…」

 

「お土産はあるから、取り敢えず帰るぞ」

 

「やったあ!何買ってきてくれたの?」

 

アルビノ少女が紙袋を漁って中身を見ると、その中には缶ジュースが入っていた。傭兵が自分の船から持ち出して来たものだが、安全性を考えるとこれが一番だった。

 

「何これ」

 

「プルタブ持ってこう…手前に起き上げて開けるんだよ」

 

「へぇー、保存容器なんだ」

 

「陸上艦の中にはなかったんだな」

 

『元々レトロな外観を売りにしてる商品ですしね』

 

格納庫に向かった多脚車輌だったが、道路には多くの車両が行き来するために渋滞が続いている。空調が効いた傭兵達は多少待たされる程度問題ないが、周囲はそうではないらしい。

 

「前の車が動いてないみたい、故障かな」

 

「よくあることだろ、こんな環境じゃあ本来の性能を発揮出来るだけのメンテナンスを受けられる方が稀…」

 

『あ、発砲しましたね』

 

「は?」

 

人が集まって来たことで治安は悪化しているようだ、トラックに乗った男達が手に持った小銃を発砲しながら降車していく。

 

「こりゃ不味いな、止まってる車は?」

 

『持ち主が移動させようと試みていたようですが、先程の発砲により作業を中断しています』

 

「暴れても長引かせるだけだってのに、ちょいと脅すか」

 

傭兵達の横を通り過ぎようとした男は背中を誰かに押され、振り返りながら銃を構えた。そしてその視界一杯に映ったのは脚部を前に突き出した多脚車輌であり、これ見よがしに主砲を動かした。

 

「やめとけやめとけ、治安維持隊に全員撃ち殺されたくないだろ」

 

彼らは驚いて動きを止めたが、近付いてくる足音にもう一度驚かされることになる。振動の正体は治安維持隊が運用する第一世代機であり、その頭部は第二世代機の物に換装されていた。

 

「レンヤの機体か、久しぶりに見たな」

 

「そこの銃撃犯動くな!市街地での許可なき発砲は禁止されている、速やかに武器を置いて膝をつけ!」

 

『アイギスが壊れちゃいましたからね』

 

人間は案外逞しいものらしい、この街は思っていたほど弱くはなかった。準備を整えたら中央工廠へと旅立つわけだが、それまでに話しておかなければならない人々は多く居る。

 

「お仕事お疲れ様、頑張れよー」

 

「教官でしたか、ありがとうございます!」

 

『ショッピングなんてズルい、今度私も連れてって!』

 

『いいですとも、幾らでも付き合ってあげますよ』

 

レンヤとカナミの二人に挨拶を済ませて先に進めば、やっとのことで格納庫だ。そこには未だに多くの人型兵器が修理を待っており、整備士達は一刻も早く稼働率を元の水準に戻そうと躍起になっているらしい。

 

「傭兵殿か、何処に行っていたんだ?」

 

「ちょいと買い物にな、あと禁制品を回収したから引き取ってくれ」

 

「なんだか危険そうな代物だな」

 

『落として割ったら街が緑に埋め尽くされますよ』

 

「し、承知した」

 

カザマキは実家が復興支援を行いつつ陸上艦の解体事業で相当儲けているらしく、治安維持隊と商店の橋渡し役として働いているとのことだ。

 

「隊長殿は今多忙で会えないぞ」

 

「少し見に来ただけだ、これ差し入れ」

 

「嗜好品セットか!」

 

開拓惑星でよく労働者達に配られる嗜好品セットは、通常の食料配給ではカバー出来ない物が収まっていた。甘味や珍味、コーヒーや紅茶といった飲料、更には煙草の類までが一堂に介している。旧統治機構の崩壊によって今では高級品だが、それでも細々と流通していた。

 

「三セットある、上手い具合に分けられるか」

 

「元から量が多いからな、出来るとも」

 

「頼む」

 

これで用事は済んだ、傭兵達は踵を返して再度市街地の方面へと進む。そして一際大きな敷地を持つトバリの修理ドックへと向かい、以前とは違って活気に満ちた格納庫に入る。

 

『作業が始まったのは知っていましたが、様変わりしましたね』

 

「最初は俺達三人しか居なかったからな、それにスクラップ置き場同然だった」

 

「…ね、ねぇ、ボクって一緒に乗ってて大丈夫な感じ?」

 

「もう全部知られてるんだから気にしないさ、まあ見ていけよ」

 

ドックに収まっているのは移動させた傭兵の装甲コルベットだ、小柄な身体に武装を詰め込んだ設計は少々扱いが難しい。トバリは作業に当たってくれており、現在は損傷した箇所の確認中だ。

 

「トバリ、直せそうか?」

 

「行けますとは言いたいんですが、やっぱり部品も何も足りません。跳躍装置以外よくある汎用部品で代替出来そうな気配はするんですが、装置自身はかなり高度な技術の塊なので…」

 

「ありそうな所を探すしかないか。ありがとう、現状を把握出来て少しは希望が持てたよ」

 

「そう思って頂けるなら私としても嬉しいですけど…やっぱり直せないのは悔しいです、設備も人も技術も足りない」

 

船の修理は彼女の家族が生業にしていたものだ、大会への出場も修理設備の購入を行うためのものだった。しかしゲリラによってその計画は頓挫、今ある物での対応が限界だ。

 

「修理設備を発注すると統治機構に勘付かれますよね、傭兵さんの船を本気で沈めに来るんでしょうか」

 

「ゲリラのお粗末さを見るに何とも言えないが…そう考えると俺はなんで大気圏突入時に発見されてないんだろうな、船を全部沈めるならこの星に来て直ぐに襲われる筈なんだが」

 

なんとも言い難いが、統治機構の現状が何も分からない以上仕方ない。仮説に仮説を重ねて話したところで意味はない、今は情報を集める時だろう。

 

「私がやれることを終えたら、中央工廠行きの部隊に参加させてください」

 

「…なんだ、置いていくと思ったのか?」

 

「船が、ありますから」

 

「修理が進まないのに優秀なメカニックを張り付かせろってのは違うだろ、元から誘うつもりだったさ」

 

思い出深い初期メンバーだ、腕も確かというならば是非遠征に参加して貰いたいと傭兵は自身の気持ちをそのままに語る。行った先でどう転ぶか分からないが、やるだけやるのが彼らのやり方だろう。

 

「これからもよろしく頼む」

 

「はい!」




小説家になろうの方で加筆修正版を連載始めました。
行った作業は挿絵の入れ替え、戦闘シーンの密度増し増し、整合性の強化といった塩梅です。第一章分は毎日投稿が行われる予定ですので、よければ是非。
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