辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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第五話 街

「目が覚めたか、泥棒女」

 

「…やられたわね、殺さないの?」

 

「殺して何になるんだ、聞きたいことがあるんで生かしてるんだよ」

 

トレーラーは遠隔操作された多脚車両が、人型兵器はミナミが操る愛機によって押さえられている。たった一人傭兵の前に立たされた泥棒女が下手な動きをしようものなら全員が一瞬で死ぬだろう。

 

「こっちとしては穏便に行きたい、船の修理をしたいだけだからな」

 

「…難しいでしょうけどね、この星の事情を知れば分かると思うけど」

 

「お前達みたいな詐欺集団が蔓延ってるからか、被害者を前にして面の皮が厚いな」

 

「さっきの見たでしょ、これでも追われる身なのよ。使える戦力も物資もないからあんな怪しい修理工の手を借りる羽目になったと言えば良いかしら、たまたま通りがかったのよ」

 

泥棒女の事情など傭兵にとってはどうでもいい、殺しても何も問題がないなら全員片付けて砂の下に埋めるだけだ。だが問題がないという確証もない、曲がりなりにも人型兵器を調達して運用している連中だ。

 

「どうなろうとこのまま追われるだけよ、貴方が見逃してくれるなら居なくなるわ」

 

「そこまでして生きたいか」

 

「生きて欲しい仲間が居るのよ、そのためなら私はなんだってする」

 

相当な覚悟だ、やはり殺しておいた方がいいかもしれない。だがこんな連中に手を出せば、今度はこっちが彼らの一派に追われる身になりそうだ。

 

「…取引しないか、対価は海賊とやらの機体だ」

 

「わかったわ、何が欲しいの?」

 

「この辺りで一番大きな町を教えろ、そして俺のこと誰にも話すな」

 

「優しいのね」

 

「地の果てまで追いかけて来そうな相手には手を出したくなくてな、だからこれ以上関わってくれるな」

 

コックピットを潰した人型を手切れ金として放置しておく、本当に使うかどうかは知らないが少なくとも傭兵達には使い道が無い。

 

「ミナミ、船から偵察機を出して奴らを監視させろ」

 

『多脚は随伴モードにしておきます、偵察機は出しておきますが…ひとまず船まで帰りますか?』

 

「ああ」

 

愛機は取り戻した、これで一息つけると言うわけだ。しかし船の修理に目処が立ったわけではない、これからも活動を続けなければ脱出は難しい。

 

「船の隠し場所も探さないとな、街に行くにもカンナギは目立つか」

 

『当面は多脚車両で活動するか、それなりの人型を手に入れる必要がありそうですね』

 

「やっぱり海賊の機体を貰っておけば良かったか…いやあそこまで改造されてるとな…」

 

悩ましいところだ。

 

ーーー

ーー

 

帰ってきて早々に何が起こったかと言うと、船に近寄ろうとして消し炭になった人間の死体を大量に見る羽目になった。敵味方識別装置があるので自分はなんともないが、少々恐ろしいものがある。

 

「…なーんでこんなに死んでるんだか、分からんね」

 

対デブリ用のレーザー砲群は飛来する小惑星すら容易く消し去るが、大気中では威力が大きく減衰する。しかし対人用として扱う場合、あまりにオーバースペックだ。

 

『何者でしょうか』

 

「遺留品はガスマスクにお粗末なライフル、決まったようなもんだろ」

 

死体であろう物の一つに近寄れば、修理工が着ていた作業服の切れ端が残っている。恐らくガスマスク達と共に何かやったのだろう、結果はこれだが。

 

「ここに居ても仕方ない、さっさと移動するとしようぜ」

 

『了解』

 

「…あー、ハンガー壊されたんだったな」

 

機体を固定しようとしたが、いつも使っていたハンガーは盗まれる際にこじ開けられ破壊されていた。仕方なく空いているハンガーに機体を固定し、多脚車両も格納庫に入ったのを見届ける。

 

「機体は暫く使えない、ミナミも降りて来てくれ」

 

『操船のお手伝いをしましょうか』

 

「いや俺がレーダーで地上を観測するんで、そっちで船を隠せそうな場所を探してくれ。あと処理出来るなら泥棒の追跡報告も頼む…それと光学迷彩も!」

 

『なるほど、お任せください』

 

船内は一人で生活すればノイローゼになるほど巨大であり、設備も明らかに個人用では無い。ここまで広大な面積を持っていると移動も面倒だが、それも彼は気に入っていた。

 

『彼女達に関してですがバッチリ追撃されてますね、追っ手はあの一機だけではなかったようです』

 

「早いとこ離脱して良かったな、巻き込まれていたらと思うと背筋が凍る」

 

これで全滅してくれればこの後が楽でいい、助ける義理は無いどころか追撃する方に手を貸したい程だと傭兵は内心思う。だが機体は取り戻せたし情報は得られた、これ以上盗人に対して思考することも無駄だと切り捨てて操縦席を一回転させる。

 

「個人で300m級の船を持てるこの優越感、所有欲が満たされるぜ…」

 

『造船所で直接交渉してまで最上級クラスの装備を搭載した理由を是非お聞かせ願いたいものです』

 

「これより上の駆逐艦クラスは個人で所有出来ないからな、一番いいのを頼むって言っただけさ」

 

軍の士官でも乗れないような高級仕様を一人で乗り回している辺り、本当に腕は立つのだろう。

 

『流れ弾に当たって壊れましたけどね』

 

「…前回の戦闘で耐熱シールドがぶっ壊されてたんだ、修理する前にこのザマさ」

 

嫌になると悪態を吐きながら船内移動用の三次元エレベーターから降り、中央司令室に入る。そして中央の一番大きな席に座り、操縦桿を握った。

 

「地上で動かすのは久しぶりだな、重力制御機関は生きてるよな」

 

『本当に次元跳躍機能以外は無傷ですね、どうやったらここまで綺麗に壊せるんです?』

 

「さあな、俺が聞きたいよ」

 

船は重力に逆らって浮くように上昇、大気圏内用の推進器により推力を得て動き出す。重力を制御するというのは長らく人類の夢だったが、今では普遍的な装備の一つだ。

 

「宇宙からもっとよく見ておくべきだったな、今思えば海賊とやらと出会わなくて良かったとも思えるが」

 

『この辺りの惑星はコロニー共同体と協商連合が手を組んで開発を進めていた宙域に属しています、尤も情勢の悪化により開発は40年前に止まりましたが。情報が足りないのは事実ですね』

 

「やっぱりテラフォーミング予定のまま放置された惑星ってわけか、環境改善を待っていた入植者も纏めて置いていかれてるらしいが」

 

高度を上げても高層建築物は見えず、ひたすら荒野が続くだけだ。ガスマスク達が住んでいたようなプレハブ小屋の街も何ヶ所か見えるが、どれも荒廃していて人の姿は無い。

 

「マトモな集落の一つも無い、こりゃあ大惨事だな」

 

『停止してください』

 

「お、どうした」

 

『通信が活発に行われている場所を見つけました、規模からして街か軍事施設です』

 

「泥棒女の情報通りか…低空から近づいて岩陰に船を隠そう、船の大型無人機で偵察する」

 

『了解です』

 

船に設けられたカタパルトを用いて無人機を追加で射出、ミナミの操作により偵察を行う。それなりに高度なステルス機であるため、この星の設備レベルを考えればそう簡単に捕捉されない筈だ。

 

「…お、おお?」

 

『マトモそうな街ですね、比較的』

 

「無線の内容は殆どが交易に関する物、てことはギリギリの状態ってことも無さそうだな」

 

何か動くものがあるのでカメラのピントを合わせて見れば、複数の人型兵器が闊歩している。重機として扱われている機体もあれば、武器を持って街の外に向かう者も居る。

 

「人型兵器を運用出来るなら相当な技術力、ひとまずあそこに寄ってみるか」

 

『賛成です』

 

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