辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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お久しぶりです。


第四十九話 密偵と演技と出立と

 コンテナ船の艦橋、その中で傭兵と隊長は机型の端末に映し出された空撮映像を前に頭を悩ませていた。

 

「…砂漠迷彩の特務仕様機か、統治機構も本気だな」

 

「今なら撃てるが、得策じゃあないか」

 

「ああ、様子を見る他ない」

 

 傭兵が飛ばしていた偵察機が捉えたのは陸上艦の解体現場を監視する人型兵器二機と、泳がせていた脱走ゲリラだ。街に入った密偵は既に治安維持隊が尾行している、何かあれば即座に捕えられる。

 

「真実を知った今では統治機構も防衛隊も敵だが、それは知らないことにした方が都合がいい。結局のところこの街を支えるのは交易だ、政府と殴り合いをしても損しかしない」

 

「知らぬ存ぜぬで準備を進めるか、出発を急がないとな」

 

「防衛隊を使わずにゲリラを使って居るあたり、建前はまだ大切にしていると思いたいが…」

 

 コンテナ船を中央工廠へ向けて出発させれば、あの特務仕様機も追わざるを得ないだろう。動かない街を調べるのは後からでも出来るが、動く船を追えるのは今しかないからだ。

 

「一芝居打つ、付き合え」

 

「いいともさ、何をする気で?」

 

 隊長は彼にだけ聞こえるような声量で作戦を伝え、咳払いをした後で通信機材の調整を始めた。

 

「出発を早める、積み込みはほぼ終わっているからな」

 

「じゃあ俺は部隊を動かせるようにしておくさ、頼むぜ船長」

 

「ああ、任せろ」

 

 傭兵は船内格納庫へと走り、隊長改め船長は通信機を手に取る。統治機構が動いた、これからは今まで以上に辛い戦いとなるだろう。

 

「現時刻を持って全積み込み作業を中止、出航準備に切り替える。人型兵器部隊はパイロット搭乗の上待機、周囲への警戒を厳となせ!」

 

ーーー

ーー

 

 格納庫の中には砂漠塗装から灰色の塗装に改められ、装甲が一新されたトバリカスタムが収まっていた。センサーの配置などに大きな違いは無いが、鹵獲した第二世代機の装甲を流用したことで軽量化されているようだ。

 

「傭兵さん、行けそうですか?」

 

「感触は良い感じだ、問題ない」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 装備された大型機関砲は陸上艦に配備されていたもので、人型兵器を砲台代わりに使うためか大量に在庫があった。威力が高く様々な弾種がある40mm弾を使うこと、それに加えて射程が長く弾幕を張れることから採用された。

 

「弾倉の中身は?」

 

「徹甲と曳光です」

 

「配分は…」

 

「5:1、でしたよね」

 

 ニヤリと笑う彼女に対し、傭兵は機体の手でサムズアップを返した。改造が重ねられた機体だというのに癖が少ない、最早元になった機体の部品は残っていないのではないかと思う程だ。

 

「レンヤと長男は準備出来てるか?」

 

「アイギス自体は出せますが、追加装備が未調整です」

 

「こっちはホバー込みでOKだぜ、まあ好きに使いな」

 

「じゃあひとまず待機だ、わざわざ見せてやる必要もないからな」

 

「「了解」」

 

 二人を格納庫に残し、傭兵の機体だけが動き出す。向かう先は格納庫の付近に設置された大型の昇降機であり、人型兵器の重量にも耐えることが出来た。

 

「エレベーターで甲板に上げてくれ、船長殿が派手に出航するらしい」

 

「やっぱりですか、仕込みは終わっていると思いますけど」

 

「煙に巻くってのはどういうことか、まあ見せてやろうじゃあないの」

 

 甲板で機関砲を構えると、治安維持隊の格納庫から何かが飛び出した。それは付近に居た人型兵器から武器を奪い、コンテナ船へと砲口を向けて引き金を引く。

 

「鹵獲した敵無人機が暴走した!本船は緊急時につき予定を繰り上げ、本時刻をもって出航する!」

 

 隊長の声は船内放送でもよく響く、中々派手な仕込みを用意していたようだ。無人機の回収と修理はまだ終わってはいないが、整備班がこういった芝居用に一機だけ先行して組み上げておいたのだ。

 

『私が組んだ芝居用ルーチンですが…弾は器用に外しますし派手に動き回ってますね、上々です』

 

「流石ミナミ、仕事が出来る」

 

 無人機の中身にも抜かりはない、演技だとは思えない動きで事情を知っているはずの隊員達すら困惑している有様だ。少々やり過ぎかもしれないが、騙すにはこれくらいは必要だろう。

 

「司令室へ伝達!こちら機関室、重力制御機関及びメインエンジンの始動完了!」

 

「司令室了解、行けるか?」

 

「行けますとも、埃かぶってたとはいえ腐っても大型船の心臓ですからねぇ!」

 

 甲高い共鳴音に似た何かが響いた後、コンテナ船内の重力が和らいだ。陸上艦では大き過ぎて広く薄く展開されていた重力場だが、こと半分以上小さいコンテナ船ではその効果は顕著に現れる。

 

「うおぉ!?」

 

『重力の変動を確認、0.5G程に調整されたようです』

 

「やり過ぎじゃあないか、銃を撃ったら機体が浮いちまうぞ」

 

『こういう時のために私が居るんです…よっと!』

 

 機関室直下、本来なら燃料タンクがあるはずの場所には一機の人型兵器が格納されていた。機体から伸びたケーブルは船の制御系と繋がっており、重力制御機関を運用するために必要な演算能力を提供しているのだ。

 

『影響範囲を船体と積荷に限定、これで問題ないでしょう?』

 

 旧式船に剥ぎ取った重力制御機関を載せるという滅茶苦茶な計画を支えたのは、カンナギを船のメインコンピュータとして転用するという案があったからだ。あの機体は目立ち過ぎるが故に統治機構の前では使えない、ならば見えない形で利用してしまえばいいのだ。

 

「こちら司令室、飛ばすぞ!」

 

「飛ばすってオイ」

 

『簡潔でいいじゃないですか』

 

 街を飛び出したコンテナ船は砂塵を巻き上げ、一気に加速した。それを見た統治機構の特務仕様機は即座に追うことを決めたようで、偵察機が移動する二機の物体を捉えている。

 

「スリリングな旅立ちだなァ、この星に来てからは暇になることが無くて良いや」

 

『イベントには事欠きませんからね、死と隣り合わせということも覚えておいて欲しいものですけど』

 

 中央工廠へ向けて移動を始めた傭兵達だったが、その先に待ち受けていた物が想像以上に大きく、かつ複雑な事情を抱えているとは夢にも思わなかったのである。

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