辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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第五十三話 凧

「…対空レーダーに感あり!」

 

 艦橋にて報告が飛び、隊長がそれを受け取る。船員は戦闘配置に切り替わり、格納庫では人型兵器が歩き出した。機体のOSが立ち上がり、燃料電池が電力を生み出し、人工筋肉が張力を発生させた。

 

「遂に来たか、光学で捉えられるか?」

 

「今やってます!」

 

 望遠レンズを向けた先に居たのは茶色の布で作られたグライダーで、峡谷からの風に乗って空へと浮かび上がっていた。砂賊だ、遂に彼らのテリトリーへと足を踏み込んだらしい。

 

「凧です!」

 

「峡谷からはまだ距離がある、偵察か」

 

「我々が通るルートを監視しているのではないでしょうか、予定通りの航路から変更しますか?」

 

「いや、このまま進む」

 

 最も往来の多い道ということは、それだけ選ばれるに足る理由があるということだ。襲われるというのはほぼ確実、ならば通りやすい道を通る方が良いと隊長は判断したようだ。

 

「このまま予定通りの航路で峡谷内に侵入する!各員警戒を怠るな!」

 

 エレベーターが上昇し、機関砲を手に持つ傭兵の機体が甲板へと上がる。その様子を艦橋へ中継するカメラに向かってトバリカスタムはサムズアップをして見せ、片膝をついて射撃姿勢を取った。

 

「アイツめ…迎撃は人型に任せる、我々は我々の仕事に専念するぞ」

 

「さ、砂賊の十八番は艦橋への攻撃で…」

 

「奴らが撃ち漏らすなら誰でも無理だ、舵を握っておけ」

 

 傭兵の次に甲板へ上がったのはレンヤとカナミが駆るアイギス、後部ハッチから船内へと飛び出るのは屑鉄長男の愛機ことタンブルウィードだ。そして予備機は甲板の機体へ弾薬を運ぶために待機、船員は武器を手に扉を閉めて所定の配置に付いている。

 

「さあ突っ込むぞ」

 

「じ、地雷の警戒は!?」

 

「この船の無限軌道がどれだけ分厚いと思ってる、コイツを止めるには航路にクレーターを作るレベルの爆薬が必要だな」

 

 それに航路を潰せば船は寄り付かなくなる、砂賊がそこまでやるとしたらとっくの昔にこの道は穴だらけだ。それに凧を利用しての移乗攻撃に重きを置くのは船の航行能力へのダメージを最小限に抑えつつ、積荷を奪えるからに他ならない。

 

「…うーん、少し変な気もするが」

 

 艦橋でそう呟いたのは航路図を見ていたカザマキ嬢であり、それを聞いた隊長は立ち上がって彼女と同じ物を見るべくディスプレイを視界に収めた。

 

「どうした」

 

「本来ならばここ、もっと奥に布陣しているのがいつものパターン。しかし今回は峡谷の外で既に待ち構えていた、少しばかり不自然な気がする」

 

「ホームグラウンドから多少離れてでも獲物を探す程度には懐が寒いのか、それとも別の理由があるのか…」

 

「うーむ、私では分かりかねるが」

 

「が?」

 

 彼女はニヤリと笑ってみせたかと思うと、現在地と目的地を指でなぞった。そして指を動かしたままの勢いで腕を前に向け、機関砲を構えるトバリカスタムを示す。

 

「突っ切るのだろう?」

 

「ああ、一切合切を蹴飛ばしてな」

 

 傭兵が空中炸裂モードに切り替えた榴弾を撃ち放ち、こちらを見ていた凧を叩き落とす。それに呼応するようにレンヤのアイギスも武器を構え直し、分かれ道から現れた敵車輌に狙いを定めた。

 

「陸上艦でも持ってくるんだな、でなければ我々は止められん」

 

ーーー

ーー

 

 少し遡り、コンテナ船が峡谷を前にして無限軌道の点検を行っていた時のこと。二機の特務仕様機は燃料を半ば使い切りつつも走り続け、船が止まっていた六時間で遂に追いつくことが出来た。

 

「中央工廠を目指すとは…中々…大胆な手を」

 

 第二世代機ということもありコックピットに伝わる振動や衝撃は抑えられているが、それでも長時間受け続けて良い物ではない。だが疲れ果てた男とは対照的に、女の方は特に問題なさそうな顔をしていた。

 

「商人共が考えそうなことだろ、陸上艦をバラして一儲けなんて」

 

「中央付近の施設以外へ第二世代機を配備、販売することは統治機構によって禁止されています。わざわざ貴重な戦力を割いてまで行くということは、何か我々にとって面倒な理由があるということです」

 

「ほーん、そうかい」

 

 女の方は深く考えずに物を言うばかりで、初老の男性は半ば呆れながら眼鏡の位置を整えた。長時間ぶっ続けの追跡で身体も参っていた所だ、ここは子飼いの戦力を動かすに足る状況だろう。

 

「…峡谷の砂賊を試金石とします、ここで船を奪われる程度であれば手間が省けるでしょう」

 

「そうじゃなきゃどうするんだ」

 

「貴女でもけしかけますよ、腕っぷしだけは自身がおありなんでしょう?」

 

 特務仕様という名は伊達ではない、この星の第二世代機の中でも高水準と言える性能を強行軍の後ですら維持している。しかしここで姿を見せれば要らぬ情報を与えることになる、このまま姿を見せないのが現状の最適解だろうと男は判断したようだ。

 

「最近は何かと問題が多い、これ以上仕事を増やされても困ります」

 

 傭兵達には傭兵達の、統治機構には統治機構の考え方というものがあるようだ。それがこの星に住む人々にとってどちらが有益かどうかは別として、相容れない物というのは得てして存在するものだ。

 

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