「機体を探すわけだが、一応の検討は付いてる」
「はい」
「第二世代機も価格帯に幅があるとはいえ、予備機含めて三機調達することを考えると自ずと範囲は限られてくる」
取り扱っている機体のリストを開き、第二世代機のページを開く。第一世代と比べて機種は少なく、汎用性の高い機体のバリエーション機が大半を占めていた。
「それで買える機体を見つけて、明らかに安い中古やレストア品を弾いて、更には予備パーツの在庫が十分流通しているとなると…」
「殆ど残らないんスけど」
「第二世代の整備は大変だからな、整備性が良い堅実な機体を探しておいた」
リストにペンを向け、条件に合わない機体に線を引いていく。そして最終的に残ったのはたったの数機だったが、カタログ上のスペックは第一世代とは比べ物にならないものばかりだ。
「こんなもんか、じゃあ行くぞ」
「何も分かんないっスけど」
「いいからついて来てくれ、ただの機体が愛機になる条件の一つは納得感だからな」
第二世代機が第二世代機であるための条件とは、案外単純である。一つは最初から戦闘用として設計・開発されていること、二つ目は強固な新型装甲を採用しているか否かだ。
「選定で第一に考えたのは装甲だな、今の機体じゃ一発で死ぬぞ」
「うっ…」
「初めて一緒に仕事した時なんかは本当に危なかったからな、次の機体は真正面から撃ち合えるだけのタフさが欲しいと思っていた」
各国の戦訓や運用思想、求められた役割や課せられた制約などによって機体が持つ性能は様々なものになる。中央工廠での戦闘は激しいものだ、出来れば頑丈そうな機体を調達したいと考えるのは道理だろう。
「着いたぞ」
「PMCの奴らが乗ってたような機体ばっかりっス」
「入ってみるか、すみませーん!」
そう言って入ると、装備からして冷やかしではないと判断した店員が颯爽と現れる。先に身なりを整えたのにはこういった理由もある、舐められないためのドレスコードというのを把握するのは、傭兵という職業に必要な能力の一つだ。
「はい!なんの御用でしょうか!」
「リストを見て来たんですがね、この機体って在庫あります?」
「…なるほど、この機種でお間違いないですか?」
「ええ」
「幸い在庫ならありますよ、倉庫の方までご案内します」
店員は何やら含むものがありそうな言葉を溢しつつ、二人を連れて受付から倉庫へと向かう。第二世代機が多く駐機されていたが全てが売り物というわけではないようで、損傷した機体が修理のために運び込まれていた。
「最近は抗争が多くてですね、販売やメンテナンスよりも修理の方に人手を取られていまして…」
「どれも第二世代だな」
「第一世代は直せないくらいになりますからね」
そうこう話している間に倉庫の奥へ辿り着くが、そこには埃を被ったカバーをかけられた機体が鎮座していた。指示を受けた作業員によってヴェールが剥がされたが、そのシルエットは第二世代というより第一世代に近かった。
「…ずんぐり、むっくり?」
第二世代と言えばより人に近い骨格が採用されていることが多いが、この機体は身長が低く、肩幅があり、四肢が太い。しかし傭兵はこの機体に見覚えがあるらしく、腕を組んでそれを見上げた。
「Type-24の…前期型じゃないな」
「よくご存知で、この機体は後期改修型の設計図を元に作られた新品ですよ」
型式を見抜いた傭兵に対して店員は説明しつつ、仕様書を渡す。設計の変更は行われていないようだが、砂塵対策用のオプションは搭載されているらしい。
「その割には長いこと倉庫番をしていたみたいですが、何か理由でも?」
「正直に行ってしまえば、この骨格構造は現在普及しているOSとは相性があまり良くないんです」
「…この機体専用のOSがある筈ですが」
「第二世代機用は協商連合の汎用OSしか無いんですよ」
四肢のバランスが違うからだろう、この機体本来の制御システムまでは用意出来なかったのだろうか。脳波制御が殆ど普及していないのを見る辺り、ハード面ではそれなりでもソフト面にはなんらかの問題を抱えているらしい。
「装甲やフレームの剛性はかなりのものですし、市街戦への適性も高いです。ですがどうしても扱い難くなってしまって…」
「確かに汎用OSじゃあ難しいでしょう、独自色の強い帝国製の局地戦用機を動かせないのは道理というかなんというか」
この星で運用・生産されているのは殆どが協商連合という勢力によって設計された物だ、彼らはテラフォーミング計画にも一枚噛んでいたとミナミが言っていたのを傭兵は思い出した。
「よくご存知で、センサや人工筋肉の装備の配置にも癖があるものですから」
「確かに癖だらけ、このタレットも上手く設定しないと自分を撃つ羽目になる」
機体の背中に装備された砲台は市街戦において全方位に攻撃を浴びせ、待ち伏せをする歩兵に地獄を見せた。だがそれにより重心の制御は複雑なものになる、専用のOSが必要になるわけだ。
「本当ならばお勧めしないんですが、お客様は分かっている方のようですし…安くしておきますよ?」
「取り敢えず試乗した後に…三機、予備パーツと使えそうな武器もお願いします。これが予算で、安くしてくれた分だけ買うんで見積もりを」
ガワだけ作れても中身が伴わないのは問題だが、彼らには頼れるアンドロイドが居る。安く済ませてくれるというのなら万々歳だろう、機体の状態も悪くない。
「…買っちゃいました、ね」
「ああ、次の機体はコイツになった」
この機体が悪いのではない、周囲を取り巻く環境が悪いのだ。それに見放されていた機体を乗りこなすとなれば確実に目立つ、新たな広告塔となるに違いないと考えた傭兵は口角を上げた。
「不人気とはいえ生産はされてるんだ、部品の面も安心…」
『緊急連絡です、それもカナミとレンヤから』
「報告頼む」
ヘルメットの通信機からミナミの声を聞き、傭兵は声色を変えた。定期連絡ではなく緊急連絡ともなれば急行しなければならない、しかし彼らとの距離は少々離れている。
『人型兵器に追われているようです、現在潜伏中とのこと』
「使える機体が無いぞ、コイツもまだ買えたわけじゃない」
『更に面倒なのが潜伏した位置です、見覚えあります?』
「…よりによって!」
そこはフジカネを尾行している傭兵が入ることを断念した場所、子供ばかりの区画だった。交易拠点から追って来ているのは勘付いていたが、なぜこのタイミングで仕掛けて来たのだろうか。