辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

64 / 82
第六十三話 ボーイミーツガールズ.1

 遡ること数時間、傭兵とフジカネが買い物を始めた頃のこと。普段とは違う服装に身を包んだ男と、二人目と数えたくなる程に精巧なアンドロイドが街を歩いていた。

 

「うーん、やっぱり人が多い」

 

『ミナミにマップデータは共有してもらってるわ、何処に行きたい?』

 

「取り敢えず何か食べようかな、折角休みを貰ったんだしさ」

 

 中央工廠の周囲に広がる街へと繰り出していたのはレンヤとカナミ、治安維持隊のエース二人組だった。パイロットは船を守るために誰かが居なければならない都合上街へ出る機会は少なかったが、それでも無いわけではない。

 

『あの教官サマは連日この街で過ごしてるみたいだけど』

 

「正確にはこの街の外でだろ、まさかあの機体が壊されるなんて…」

 

『あの人は相変わらず危ない橋を渡ってるみたいね、レンヤは真似しないで欲しいわ』

 

「しないし出来ないよ」

 

 レンヤは交易拠点に居た時とは違い、治安維持隊の制服に袖を通してはいない。代わりに傭兵が宇宙船から持ち出した最新式の防弾装備に身を包んでおり、格納式のフード型ヘルメットが特徴的だった。

 

『まあいいわ、ご飯ならこの先のお店に行きましょ』

 

「何か検討が?」

 

『ミナミがメモ付きで残してる飲食店の座標があるの、気にならない?』

 

「確かに!」

 

 二人には治安維持隊の給与と陸上艦迎撃作戦における特別手当があり、多少物価が高かろうとも贅沢が出来るだけの蓄えはあった。二人は飲食店に立ち寄り、パンに似た何かに甘く少し塩辛いクリームを塗ったものを買った。

 

「これ美味いけど、なんか凄い味だ」

 

『一人分で良いって言ったのに、私の分まで買っちゃって』

 

「一緒に食べたかったんだ」

 

『…貰っとくわね』

 

 カナミの劣化と損傷が激しかった身体は完璧に近い形へと修復され、人工皮膚も新しい物に張り替えられていた。それは傭兵の船に搭載されていた機材を利用したことによるもので、ミナミが焼いたお節介の一つだ。

 

『次は何処に行くの?』

 

「このまま市場を回ろう、何かあれば買って…」

 

 周囲を見渡した彼は市場に繋がる道に目を向けた瞬間、耳を覆うヘッドセットが遮音機能が有効化された。振動に二人は体制を崩したが、周囲の人々は耳を抑えて蹲っている。

 

「な、にが?」

 

『分からないわ、兎に角通信を…』

 

 カナミは通信機を使おうとするも、装備している機器のほぼ全てが不調を訴えていることに気がつく。ミナミが手を加えた身体の内部こそ無事だが、外部に搭載した機器は全滅に近い。

 

「電波妨害どころじゃない、相当強力な電磁波攻撃だ」

 

 同じく防弾装備の不調を感じた彼だったが、身を守るためにフード型のヘルメットを展開する。すると電磁波の影響によってか、再起動中という表示が網膜に投影される。ダメージは殆どないが、今暫く機能が制限されるようだ。

 

『通信機器がやられたわ、外付けの装備は全滅』

 

「治安維持隊の避難誘導に従おう、きっと人型が急行してくる筈だ」

 

『…で、何する気?』

 

「遮蔽物が無いと危険だ、周囲の人だけでも誘導する」

 

『お人よしなんだから、まあ手伝うけど!』

 

 先程の爆音がなんだったのかは不明だが、耳栓など身につけている筈もない市民達への被害は甚大だった。二人はそんな彼らに駆け寄り、物陰へと誘導し始めた。

 

「こっちです、皆さんこっちに!」

 

『ひとまず物陰に隠れて、まだ何かあるかもしれないから背を低く!』

 

 耳の不調を訴える人々とコミニュケーションを取ることは難しいが、それでも誘導はある程度上手く行った。レンヤが治安維持隊員として一通りの訓練を受けていたということもあるが、混乱の中藁にもすがる思いで市民達が従ったというのも大きいだろう。

 

「…振動は聞こえるけど機体が見えない」

 

『近くに来てるならいいわ、下手に動かずに救助を待ちましょ』

 

「違うんだ、振動が近づいてこない」

 

『無人機が飛ばせたら見られたけど、さっきのでオシャカよ』

 

 こうなれば振動がする方に行ってみるしか無い、レンヤは護身用に持って来ていた拳銃に弾倉を叩き込んだ。安全のために薬室には弾丸を込めなかったが、使う可能性を考慮したようだ。

 

「行ってみよう、カナミはここを頼む」

 

『ツーマンセルが基本でしょ、一人で何する気よ』

 

「見てくるだけだよ、それにコレがある」

 

 そう言って再起動を終えた防弾装備を手で叩き、建物の陰から出た。そして周囲を見渡した瞬間、先程と同じ轟音が鳴り響いた。そしてそれと同時に建物が崩れるような音も聞こえたが、それはヘッドセットが爆音を処理した上でレンヤの耳に音を届けたからだ。

 

「…何が起きてるんだ、ここで」

 

 装備のお陰で難聴にならずに済んだ彼は救援を求めるために走り出し、区画を一つ過ぎようとした所で巨人の影を見た。それは見慣れた青い塗装に身を包んでいたが、どうにも周囲を警戒しているようだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「中央工廠の治安維持隊機!」

 

 ヘルメットの画像認識機能が作動し、目の前の機体がデータベースから検索される。そして合致したのは第二世代機の中でも構造が単純で安価な機体であり、同じ世代でも彼が知るアイギスとは何もかも違う外見だった。彼が両手で手を振ると、機体は頭部を向けてスピーカーから声を発した。

 

『申し訳ありません、止まって下さい!』

 

「は、はい」

 

『申し訳ありませんがこの区画は防衛隊からの要請により封鎖されます、封鎖が解かれるまでは待機をお願いします』

 

 救援は望めないらしい、レンヤは不可解な現状に顔を顰めた。外部スピーカーで音質は落ちているとはいえ、機体のパイロットも明らかにこの状況に困惑していることが分かったからだ。

 

「先ほどの音で耳をやられた市民が多く居ます、どうにか…どうにかなりませんか?」

 

『すみません、誰も出してはならないとの指示です』

 

 大型トラックが来たかと思えば道路を塞ぐように鉄板のような物が並べられ、瞬く間に壁が出来上がっていく。本当に誰も出さない気らしい、こんな物を負傷した市民達に見せればパニックを起こすことだろう。

 

「これは…」

 

『すみません』

 

「本当に逃げられる場所はありませんか、治安維持隊が動けないなら僕が動きます」

 

 身分を隠しているとはいえ、彼もまた治安維持隊員だ。レンヤの覚悟を見たパイロットは機体に膝をつかせ、スピーカーの音量を下げて話し始めた。

 

『…もし貴方が誘導して下さるのなら、52番通りに向かって下さい。区画内に治安維持隊の施設があります、他の場所よりは良いかもしれません』

 

「分かりました」

 

『感謝します、誰から聞いたのかと言われれば五番隊のA04とお答え下さい』

 

 耳を劈く爆音に電磁波攻撃、何が起きているのかは全くもって不明だが良くないことが起きていることだけは分かる。レンヤは得た情報を伝えるべく走ったが、この区画での戦いが思わぬ方向へと加速していくとは思ってもみなかったのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。