辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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通信機に関しての記述を変更しました、この後の展開と噛み合わなくなったがための修正です。


第六十四話 ボーイミーツガールズ.2

「まるで野戦病院だ、マトモじゃない」

 

『明らかに戦闘が起きてる以上、名実共に野戦病院よ。下手に手出しも出来ないわね』

 

「封鎖も何も、負傷者の移送も許さないなんて異常だ」

 

 市民の誘導を行った二人だったが、目的地で見たのは負傷者で道が埋まるという最悪の状況だった。建物が崩れる音は幻聴ではなかったようで、寝かされている人々には外傷が目立つ。

 

「君達か、彼らをここまで誘導してくれたのは」

 

「はい!」

 

「怪我は無いか、その装備を見るに大丈夫そうだがな」

 

 治安維持隊の制服を着た男性が話しかけてきたが、彼からはひどく血の匂いがした。怪我人の手当を担当していたのだろう、青い制服は今やまだらに赤黒く染まっている。

 

「はい、五番隊のA04という機体のパイロットに場所を聞きまして」

 

「そうか、そうか、アイツがか」

 

『何かすることはあるかしら、動ける人手は欲しいところよね』

 

「君達も市民だ、民間人を危険に晒すわけにはいかん。君達も知ってのことだと思うが、防衛隊が派手に暴れてるんでな…」

 

 壁が建てられたために外へは出れず、本来なら市民の味方であるはずの治安維持隊も上からの命令で動けない。動けるのは区画内で通信障害を理由に独自の判断で行動中の彼らだけだ、数は少ない。

 

「巻き込まれたら不味い、暫くはここに居てくれ」

 

「…分かりました、お言葉に甘えます」

 

 潜入任務である以上、治安維持隊の隊員であると明かすわけにはいかない。だが目の前で人が傷付き、死んでいるのに手を貸せないというのは歯痒いものだろう。

 

 しかしまるでトラブルが彼を誘っているのかのように、空へと何かが打ち出される。それは任務や訓練の中で見慣れた物であり、優れた全周警戒システムを有するカナミが真っ先に気が付いた。

 

『レンヤ、上!』

 

「これは…信号弾!?」

 

 たった一発、赤い色の信号弾だった。そしてそれに反応するように爆音が響き、砂埃が舞った。何かがあの場で起きている、防衛軍がここまでするような何かがあの場にはあるのだ。

 

「誰かが追われてるのか、それとも巻き込まれたのか」

 

「おいアンタ、行くんじゃねぇ!」

 

 立ち上がったレンヤの腕を掴んで止めたのは先程話したばかりの男だ、彼は真剣な眼差しで絶対に放すまいと手に力を込めている。しかしレンヤが彼の目を真っ直ぐ見返したことで、彼はハッとしたような顔をして力を緩めた。

 

「向こうは孤児が仕切ってるスラム同然の放棄区画だ、行ったとしても命はねぇぞ」

 

「子供が居るなら、尚更行くべきだ」

 

「…止めても行くって顔しやがるな、アンタみたいなのがもっと治安維持隊に居てくれりゃあ良かったんだが」

 

 男はレンヤの雰囲気に当てられたのだろう、ため息を吐きながら肩にかけていた小銃をおろした。そしてそれをレンヤの胸に押し付け、ポケットから予備の弾倉を二つ取り出した。

 

「持ってけ、一応徹甲弾だが…気休めにしかならんか」

 

「その、良いんですか?」

 

「俺の私物だからな!絶対に返せよ!!」

 

「ありがとうございます!」

 

 高い弾なんだからなと彼は言いつつ、見て見ぬふりをするべく背を向けて患者の処置に戻った。短時間で男からの信頼を勝ち取ったのを見て、カナミはレンヤの背中を肘で小突いた。

 

『…ひとたらし』

 

「褒めて…無いよね」

 

『ああもう行くわよ!』

 

 少し距離があるが、防弾装備のパワーアシストを使えば全力疾走と同じかそれ以上の速度で移動し続けられる。信号弾が打ち上げられた方向へ向かうほど崩れた建物が増え、元凶が発しているであろう音と振動も大きくなっていく。

 

『この足跡、人型兵器ね』

 

「それも複数機で隊列を組んでる…にしては妙だ、人型兵器同士で戦った形跡がない」

 

 足跡が進む方向にしか砲弾が撃ち込まれていない、それに大量の機関砲弾は彼らの足元に向かって放たれていた。まるで人を相手にし続けているような、そんな痕跡ばかりなのだ。

 

『じゃあ区画まで封鎖して犯罪者狩りでもしてるってわけ?』

 

「分からない、せめて通信機さえ使えれば…」

 

 そうしている間にもう一発信号弾が打ち上がり、機関砲の音が発砲音が呼応するように響き渡る。かなり近くなって来たが人型兵器の姿は見えない、入り組んだ放棄区画で見通しの良さを期待するのは無理そうだ。

 

『レンヤ、待って』

 

「分かった、何を見つけ…」

 

『見なくてもいいわよ。きっと、もうどうしようもないから』

 

 カナミが見たのは、建物の残骸に埋もれた子供の死体だった。既に全員に息はなく、確認を行ったカナミはやるせない気持ちを隠して目を逸らした。

 

『ごめん、先を急ぎましょ』

 

「…ありがとう」

 

『アンドロイドなんだから問題ないわ、それよりも生きてる人間を助けるわよ』

 

「ああ、行こう」

 

 逃げ遅れた孤児が戦闘に巻き込まれ、多くの犠牲を出している。ここを中心に人型兵器は暴れ回っているらしく、区画全体を襲った轟音は家屋を丸ごと吹き飛ばすためのロケット弾によるもののようだ。

 

「銃声と足音が近い、すぐ近くに人型兵が居る」

 

『そうみたいね、こっちでも捉えてるわ』

 

「つまり助けるべき人も近くにいる筈だ、どうにかして探そう」

 

『言わずにおいたけど…人型が追いかけてるのがその生き残りだったら、どうする気?』

 

 防衛隊がここまでやるのだ、とんでもないテロリストや凶悪犯の可能性もある。しかしレンヤはそういった本来の手順で捉えることが出来ない、彼らにとって都合の悪い人々が標的なのではないかと考えていた。

 

「抱えて走るさ、分が悪いだろうけど」

 

『この辺りは人型兵器が入れないような場所ばっかりよ、ミナミのマップデータから逃げ道くらい用意してあげるわ』

 

「頼もしい限りだよ」

 

『昔の私とは何もかも違うんだから、その調子で存分に頼って』

 

 発砲音がする方向へと走り、建物の陰から先を見る。するとロケット弾を使い切ってしまったらしい人型兵器達は、手に持った武器で障害物を豪快に破壊していた。

 

「居た!」

 

『何あれ、防衛隊の機体にしてはボロっちいわね』

 

「向こう側に回り込もう、奴らがわざわざ壊してるってことは生き残りもそこに居るはずだ」

 

 小銃一丁では人型兵器と戦うことなど到底不可能だが、逃げるだけならば攻撃せずとも良い。それでも危険なことに変わりないが、二人はここまで来て引き返す気にもならなかった。

 

「この先か?」

 

『何してんの、跳べばいいの跳べば!』

 

「まだあんまり慣れてないんだよ!」

 

 レンヤは慣れないながらも防弾装備のパワーアシスト機能を使い、人の背丈程もある壁を飛び越える。得体の知れないゴミや瓦礫を掻き分け、時には半壊した建物の中を通ってでも先へと進む。

 

「誰か居ませんかァー!」

 

『助けに来たわ、こんなところサッサと抜け出すわよ!』

 

 そうして正体もわからぬ人型兵器が壊そうとしている建物の裏手に辿り着いた二人は声を張り上げたが、返答は無かった。それでもレンヤは諦めず、身を隠せそうな建物の中を覗き込んだ。

 

「誰か居ま…」

 

 その瞬間、防弾装備が銃弾を受け止める。半壊した屋根によって作られた僅かな陰に身を潜めていたのは、全身を防護服のようなものに包んだ集団だった。

 

『レンヤ!』

 

「待ってくれ、敵じゃない」

 

 彼のことを撃ったのは集団の中でも一回り小さい体格をした者であり、既に周囲の人々が取り押さえていた。床には彼を撃った拳銃が転がり、防護服を着た人々の殆どは怯えるように身を寄せ合った。

 

「ここから逃げよう、今なら間に合う」

 

「私達が何者なのか、聞く気はないのですか」

 

「聞きたいけど今じゃない、逃げながらにでも聞くよ」

 

『…ええ、そうね』

 

 レンヤは彼等に近付いて怪我人の有無を尋ね、歩けなくなったという仲間の一人を背負う。それを見ていたカナミは少々イラつきながらも拳銃を拾い上げ、取り押さえる側に回った者に押し付けるようにして返した。

 

『次アイツを撃ったら許さないから、何かあれば全員の頭蓋を踏み砕いてあげるわ』

 

「…すみません」

 

『アンタがリーダーよね、ちゃんと見張ってなさいよ』

 

「ありがとうございます」

 

 そうして防護服達が立つのを待ったカナミだが、目の前に何かのケースを差し出された。それは分厚い特殊素材で構成されており、彼女の電子頭脳を守っている物と同種の代物だ。

 

『これって…』

 

「我々に使う相手はいません、ですが貴女なら使い道があるのではないですか?」

 

『ふんっ、ほんの少しだけ許してあげる』

 

 通信機のバッテリーは僅かだが、緊急連絡を仲間に飛ばすには十分だ。電波妨害までも行っているらしく感度は良好とは言い難いが、それならば連続して同じ内容を繰り返ずのみだ。

 

『ほらサッサと立つ!呆けてると追いつかれるわよ!』

 

 明らかに怪しい一団だが、何かしらの訓練は受けているような統率の取れた動きをしている。しかしそれに混ざる小柄な者達は、先ほどの発砲や身のこなしから見て明らかな素人だ。

 

「他に逃げ遅れた人は?」

 

「子供達がこの先の地下通路に入ろうとしていますが、何故か入れなくなったと言っていて…」

 

 彼らは囮になるべく残っていたらしい、明らかに追われていそうな辺り人型兵器の目標はこの集団なのだろうか。となると有用な情報を持っている可能性がある、レンヤは人助け以上の成果があるのではないかと頭の片隅で考えた。

 

『地下通路は盲点だったけど、肝心の入り口が電磁パルスで機能不全に陥るとは運がないわね』

 

「やり過ごせるなら試す価値はある、どうにかしてこじ開けよう」

 

『便利なもの持ってるじゃない、それで行きましょ』

 

 そう言って彼が取り出したのは個人用の単分子カッター、傭兵が防弾装備に格納させていたナイフ型の武器だ。刃は斬れ味が落ちやすいものの、現状存在するあらゆる装甲を貫通可能な恐ろしい代物である。

 

「地下への入り口まで案内します、その間に身の上をお話ししましょうか?」

 

『出来る限りの情報を共有して、重要なところ以外は脱出してから聞くから簡潔にお願い』

 

「我々は防衛軍の脱走兵、いや…脱走機材といったところです」

 

 カナミは頭を抱え、レンヤはやっぱり追われてるのはこの集団だったかと思考を整理する。しかし何はともあれ逃げるのが先決だ、彼らは孤児たちが待つという地下通路への入り口へと走ることにするのだった。

 

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