辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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第六十五話 ボーイミーツガールズ.3

 コンテナ船はレンヤからの緊急連絡で慌ただしくなっていたが、すぐさま保有する全ての人型兵器が起動された。しかし救出するために向かおうとしても街の中であり、既に治安維持隊が規制線を張っている。

 

「彼からの連絡は?」

 

「地下での潜伏を継続中だそうだ、有力な情報源との接触に成功したとも言って来た」

 

「なるほど、ここまで派手に動く理由もソレか」

 

 格納庫で急遽行われた会議だが、話しているのは事実の確認をしたい傭兵とそれに答える隊長の二人だ。屑鉄長男は愛機に飛び乗り周辺警戒、他のメカニックはアイギスの出撃準備中である。

 

「公式発表とかは無いのか、それによっては対応も…」

 

「今回の区画封鎖はテロリストへの対処、防衛隊は治安維持隊と共に区画外で待機だと」

 

「じゃあ今中で暴れてるのは、テロリストってことになってる特務部隊か」

 

「だろうな、特務が特務である以上大っぴらにはせんよ」

 

 無人機での偵察を試みたが、区画上空には妨害電波が飛び交っていた。レンヤからの通信もノイズが大半で、聞き取れたのが奇跡という他ない。

 

「…表向きはテロリストなんだな?」

 

「おい待て、何をする気だ」

 

「取り残された仲間を助けるためだ、ちょいと無茶をしてもいいだろ」

 

 区画内で暴れているのがテロリストであれば、多少殴ったとしても問題は少ない。防衛隊が表立って活動しているのなら手を出しにくい所だが、奴らが方便を使うのであれば話は別だろう。

 

「多脚戦車を出す、アイギスも借りるぞ」

 

「妨害で無人機は飛ばせん、悪いが頼む」

 

「了解です隊長殿、貴隊の隊員は無事連れ帰ってみせます…ってね」

 

 傭兵はわざとらしく敬礼をしてみせた後、武器弾薬を抱えて多脚戦車に積み込んだ。複数の機体と正面から撃ち合えば苦戦することは間違いないが、封鎖されている区画には人型兵器の身長を超える高さの建物が多い。

 

『無人機でストーキングしたお陰でマップデータはあります、カナミにも共有してあるので逃げ道の検索くらいは出来るかと』

 

「ストーキングって言うなよ、調査と言え調査と」

 

 ヘルメットから聞こえてくるのは多脚戦車のコックピットに座るミナミの声であり、彼女は既に準備を終えていた。多脚戦車の砲塔側面には対戦車ミサイルが複数装備され、かなりの殺意が垣間見える。

 

『それはそれとして、慣性制御装置を封印したアイギスで特務仕様機とやり合う気ですか?』

 

「レンヤ乗せて逃すだけだ、俺は多脚に乗って援護と避難誘導だな」

 

『我々じゃあ乗り慣れてないですしね』

 

 アイギスの制御システムはカナミとレンヤの搭乗を前提に手が加えられており、傭兵では100%の性能を引き出すことが出来ない。敵は特務部隊で性能も未知数だが、ひとまず二人さえ乗せて逃せば目的は達成だ。

 

「予備機があるにはあるが、無改造の第一世代じゃあなぁ…」

 

 今あるもので動くしかないのだ、傭兵は脳波制御に若干の違和感を抱えつつもアイギスを起動した。巨大な慣性制御装置を背負っている都合上バランスは悪く、これを手足のように扱えるレンヤの技量はかなりのものなのだろう。

 

『小回りが効いて、尚且つ小さい多脚の方が余程マシです』

 

「多脚車輌よりも大型の多脚戦車辺りを用意するべきかもな、ちょいと考えておくか」

 

 装備を身に付けたアイギスと多脚車輌は見送られるままにコンテナ船から降り、外で待っていたらしい人影に近付く。その場にいたのはフジカネで、買ったばかりの銃を握り締めていた。

 

「知り合いが巻き込まれたんでな、取り敢えずこれだけの戦力は用意した」

 

「…封鎖された区画は良く知ってる場所っス、行くなら連れて行って下さい」

 

「無論そのつもりだ、多脚戦車の砲座が空いてるから乗りな」

 

 こうして三人は、内部の状況がほとんど分からない封鎖区画へと向かう。最短距離を突っ切れば、そこまで時間はかからないだろう。だがその一分一秒の価値を評価出来る情報など、彼らには与えられていなかった。

 

ーーー

ーー

 

 潜伏を続けること早一時間、レンヤ達は救援を待っていた。地下通路には逃げ遅れた孤児たちと、明らかに怪しい防護服姿の一団がそれぞれ固まって声を顰めている。

 

「…貴女が器材を自称したのは、ソレのせいですか」

 

「ええ、まあ」

 

 そんな中で情報の共有を切り出していた防護服側の代表者はヘルメットを外し、素顔を晒していた。その身体的特徴は見覚えのあるもので、それを見たレンヤとカナミは更なる情報を得るべく会話を続けていた。

 

『白い髪と肌、色素が薄いのね』

 

「製造過程での初期不良だと聞いています」

 

 人間が産まれる際のことを製造過程とは言わないだろう。彼女はミナミから得た知識の中に、クローン技術を応用した人造人間の項目があることを思い出したが口には出さなかった。

 

『…それに後頭部に無理矢理埋め込まれた外部接続用デバイス、脳波制御を行うための機材みたいね』

 

「良くご存知で」

 

『まあちょっと、詳しい先輩が居たのよ』

 

 後頭部から突き出したデバイスはかなり大きく、頭蓋骨や脊髄にも手が入っているようだ。緊急停止スイッチなるものまで取り付けられており、押したらどうなるのかは考えたくもない。

 

「え、脳波制御って…」

 

 そんなことをしなくても出来るのではないか、そう言いかけたレンヤは慌てて口を塞いだ。そうしていないのには何か理由がある筈だ、事情を知らない身で言うことではない。

 

「すみません、見苦しいものを」

 

「いえ!そういうわけではありませんので!」

 

『コイツは傷の状態を見て驚いただけよ。デバイスは関係ないし、それじゃあ痛むでしょ』

 

 そう言ってカナミは誤魔化しがてらに痛み止めを彼女へと手渡す、小さな容器には数錠の錠剤が収まっていた。頼れる彼女のフォローにレンヤは感謝しつつ、平静を装った。

 

「免疫力が弱いらしく、この有様です」

 

「ここを出たら治療を受けましょう、乗ってきた船に船医が居ますから」

 

「…対価など、あまりありませんが」

 

「訳ありなのは分かってます、僕らも防衛隊とは少々因縁があるので」

 

『故郷を焼かれかけてるのよコッチは、運が良かったわね』

 

 対価は情報で良いわよとカナミは言い、それを聞いた彼女は少し笑った。未だに癒えぬ手術痕は酷く荒れており、その施術のためか乱雑に短く頭髪も合間って非常に痛々しい。

 

 彼女とその仲間も同じ施術を受けていたが、まだ幼い数人にはメスが入っていなかった。脱走したのは少女達を守るためなのだろうとカナミは独りごちたが、通信機が何かを受信したことで目の色を変えた。

 

『暗号通信、ミナミからだわ』

 

「やった!」

 

『現在地送れって言ってるけど、あんまり長く通信してると場所がバレそう』

 

「通信を始めたらここには居られないな」

 

 覚悟を決めるしか無いようだ、レンヤは周囲に向けて救助が来ることについて話すために手を挙げた。それを見た二つの集団はゆっくりと立ち上がり、代表者を先頭にして集まり始める。

 

「救助が来ます、地上に出る用意を」

 

「それは分かったけどさ、どうやって逃げるんだ?」

 

 当然の疑問を投げかけたのは孤児の代表者で、体格に見合わない狙撃銃を担いでいた。この場にいる二十数人をどうやって逃すのか、救援に来る戦力はどれほどなのか、どのルートを行くのか、不明点は多い。

 

『相互に通信したらあっという間に場所がバレる、通信妨害も酷いから詳しい情報の共有は無理と見ていいわ』

 

「ノイズばっかりじゃんか」

 

『だから助かってるのもあるけどね。向こうがこっちの存在を完全に捕捉できていないのは、奴ら自身がやってる妨害のお陰よ』

 

 カナミは通信機を弄りつつ、この区画に対して発せられている妨害電波の存在が如何に厄介なのかを語った

 

「結局…ぶっつけ本番ってこと?」

 

『避難訓練でもしたかった?』

 

「いや、姉ちゃんが居たらと思っただけだよ」

 

 孤児にも精神的な支柱になり得る人物が居たようだ、彼らは俯きながらも置いていた荷物を拾い上げ、或いは捨てて逃げる準備を始めた。防護服の一団も逃げる準備は進めているようだが、代表者が一歩レンヤへと近付いた。

 

「私達は、どうするべきでしょうか」

 

「一緒に逃げましょう、話の続きも気になりますし」

 

『面倒なことになってるのは分かってるわ、ここを出たら洗いざらい話してもらうわよ!』

 

 全員の準備が終わったことを確認し、ミナミとレンヤを先頭にして地下から出ることになった。メンテナンス用の通路であるため使えるのは梯子が一つ、全員が出るまでに見つからないことを祈るしかない。

 

 建物の影に駆け込んだ二人は銃を手に警戒を続けていたが、彼らが有するセンサーは捜索を続けている人型の存在を検知していた。簡単に逃げられはしないようだ、レンヤは借り物のライフルを構え直した。

 

「人型の歩行音に…何か混ざってる?」

 

『こっちで解析するわ、気になる箇所を教えて』

 

 音声解析機能のインターフェースを視界に投影し、表示された波形から気になる瞬間を選択する。カナミが雑音を消し、彼が気になると言った部分から奇妙な波形を取り出した。

 

『出来た、再生するわ』

 

 そうして抽出されたのは人型兵器のものよりも遥かに小さな歩行音、しかし逃げる人々にしては規則正しく重量がある。

 

「…歩兵だ、防衛隊が歩兵を投入してる」

 

『地下通路に隠れ続けていたら死んでたわね、どうする?』

 

「位置が露見するのは時間の問題だ、今すぐ連絡をしよう」

 

 訓練された兵隊を相手にしては分が悪い。人型兵器単体であればやりようもあるが、連携されては抜け道が無いのだ。レンヤは市街戦での戦闘マニュアルを思い出し、勝ち目がないことを悟った。

 

「多分もう近くには来てる、大丈夫だ」

 

『分かった、じゃあやるわよ』

 

 カナミが通信機に自身を繋ぎ、交信を試みる。それは味方、そして敵にも伝わり、同じ場所へと二機の人型が走り出した。

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