辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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第六十六話 人と巨人と

「レンヤからの座標は!?」

 

『このまま突っ込んで下さい、建物くらい飛び越えられますよね』

 

「アイマム!」

 

 傭兵の駆るアイギスは建物を飛び越え、屋根を踏み台にしながら跳躍する。第二世代機の軽さと柔軟な稼働範囲が成せる技であり、大幅なショートカットに成功した。

 

『発砲音がしてます、戦闘になってますね』

 

「この波形は…小銃か?」

 

『特務は歩兵も投入したようです、猶予はありませんよ』

 

「だがもう視界に入る、サッサと回収するぞ!」

 

 再度飛び上がった機体が銃を構え、空中で光学センサを地上に向ける。そこには建物を挟んで銃撃戦を行うレンヤの姿があり、同時に逃げ遅れた人々も銃撃に晒されているようだった。

 

「ウチのパイロットによくも手を出してくれたな、後悔するぜぇ!」

 

 付近の建物めがけて砲弾を撃ち込み、崩落する瓦礫に敵を巻き込む。そして落下する機体の姿勢を制御しつつ下にあった屋根を踏み抜き、足が数階貫通するのを断続的な衝撃で感じる。

 

「レンヤ!」

 

「教官、人型兵器が来ます!」

 

「特務機か、流石に早…」

 

 機体の全周レーダーが音もなく飛来する物体を検知し、それを避けるために崩れかけた建物からアイギスの脚を引き抜く。瓦礫に突き刺さったのは小ぶりな投擲用ナイフだったが、傭兵はそれを思い切り蹴飛ばした。

 

「珍しい物を使ってくれやがる!」

 

 宙に舞ったそれは勢いよく爆発、第二世代機の装甲であっても無事では済まない威力だ。

 

『装薬を仕込んだHEATナイフですか、廃れたものだとばかり』

 

「廃れるもなにも、物好きしか使ってねえよあんなの」

 

 機体を覆う外套のような布をはためかせ、特務仕様機が建物の影から現れる。四肢の動きは外套によって遮られて見ることができず、単純な読み合いではアイギスが不利だろうか。

 

「レンヤとカナミ、敵機の数は分かるか?」

 

『第一世代の改造機が三機、あの強そうな布付きは今初めて見たわ!』

 

「潜伏してやがったのか」

 

 建物を足場にして立体的に戦うには強度が足りない、先程のように機体が埋まる。しかし柱を狙って垂直に力をかければ跳躍は可能だ、しかし少しでもズレると斜めにヒビが入って折れてしまう。

 

「レンヤを乗せるのは奴に一発かましてからだな、隙がない」

 

『の、乗るんですかぁ!?』

 

「俺じゃあ脳波制御の精度が悪い、アイギスはレンヤに最適化してるもんでな!」

 

 再度飛来したナイフをライフルで迎撃し、その奥に居る敵を撃つ。しかし敵機は建物の影へと隠れてしまい、有効打にはならない。だが隠れるのであれば追えばいいだけのこと、アイギスは再度跳躍した。

 

「スピーカー頼む」

 

『了解です、下手なこと言わないで下さ…』

 

「テロリストにしちゃあ手の込んだ機体だなァ!」

 

 器用に柱の上だけを踏み、建物の上を走る。そして潜む敵機を上から補足し、速度を緩めることなく接近した。

 

「コソコソしやがって、借りは返すぜ」

 

 敵機の突き出したHEATナイフを手の甲で外側へと受け流し、腰だめに構えたライフルを精度など気にせずにぶっ放す。敵機を覆う布は防弾装備と同じ繊維で構成されているようだったが、流石に30mm弾が相手では紙一枚と同義である。

 

『流石に固いですね』

 

「そんじゃまぁ…ちょいと寝てな!」

 

 被弾しても尚反撃しようとした特務仕様機だったが、アイギスが放った蹴りが胸部を捉える。装甲の裏にあるコックピットを揺らされて操縦が狂い、敵機は思ったような受け身が取れずに建物へと突っ込んだ。

 

「レンヤ、悪いが交代だ」

 

「すみません、教官がこのまま乗ってもいいのでは?」

 

「生身での対人型兵器戦闘に自身はあるか」

 

「ありません!」

 

「そういうことだ、大人しく乗ってくれ」

 

 二人に手を差し伸べ、機体の手に乗せる。そしてコックピットハッチを開け、傭兵は彼らと入れ替わるようにして機外へ飛び出る。そして機体の下に多脚車両が滑り込み、傭兵がその上に着地した。

 

「奴は強いが勝てない相手じゃない、この逃げ遅れ…にしては仰々しいな。まあいい、避難が終わるまでは時間を稼いでくれ」

 

 防護服を着た一団について知らなかった傭兵は首を傾げたが、足を止めることなく前に出た。誘導役はわざわざ連れて来ているのだ、彼は自分のすべきことをするだけである。

 

「遅滞戦闘ですね、分かりました!」

 

「頼んだぞ。代わりと言っちゃあなんだが、残りの歩兵と第一世代は任せろ」

 

 車外に固定していた新兵器、電磁加速式狙撃銃を軽々と構える。ミナミが砲塔を回転させ建物の影に隠れた敵歩兵を壁ごと粉砕するのに合わせ、生き残りを撃ち抜く。

 

「やっぱり防弾装備だ、小銃じゃ抜けねぇな」

 

『最初から人狩りをする気で来てますね、対戦車兵器を持ってる兵士が見当たりませんよ』

 

「火炎放射器なんて何に使う気だったのか、是非聞かせてもらいたいもんだ!」

 

 可燃物が詰まったタンクが砲弾を受けて破裂し、火炎放射器はそのまま周囲の兵士を巻き込んで燃える。傭兵とミナミが敵を抑えている間に、フジカネはハッチを開け外へと出た。

 

「逃げますよぉーーッ!」

 

 買ったばかりのライフルを構え、孤児達を庇うように動きつつも区画の外へ向かって誘導する。勝手知ったる場所だからか、彼女の動きに迷いはなかった。

 

『歩兵は粗方散らしましたけど、今度は第一世代が来ますよ』

 

「悪いが囮を頼む、作戦通りに叩くぞ」

 

『了解です、うっかり死なないで下さいね』

 

 多脚車輌の機関砲が倒れている歩兵にトドメを刺し終わり、建物に身を隠すべく少し後退する。それに対して傭兵は道路に面した住居の階段を登り、とある一室へと身を隠す。

 

「こんな危ない橋を渡るのは何年ぶりか…」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ミナミから共有される情報を頼りに敵を待つが、人型兵器の足音はすぐ近くにまで来ている。数は三機、第一世代とはいえ手に持つ火器はこちらを一撃で殺せることを忘れてはならない。

 

「最後尾の足を潰す、そっちは先頭を頼む」

 

『厄介なのが居ましてね、この子の火力では難しいかもしれません』

 

「どんな奴だ?」

 

『盾持ちです、対戦車ミサイルがどこまで有効か…』

 

 そうは言っても、逃げ遅れた人々を逃すためにはやらなければならない。二人は意を決して遮蔽物から飛び出し、ありったけの火力を浴びせることにした。先手を打ったのはミナミの多脚車両、機関砲と対戦車ミサイル二発が先頭の機体に直撃する。

 

「こっちもだな!」

 

 レールガンの出力を最大にまで上げ、現れる警告表示をすべて無視する。そして砲身を敵機の足首に向け、静かに引き金を引いた。その反動は凄まじいものだったが、傭兵はそれをどうにか受け止める。

 

 そして続け様に首、肩、腰といった関節部を狙い撃ち、その後は弾倉が空になるまで頭部に向けて引き金を引き続けた。第二世代機の装甲に換装したとはいえ防御は完璧ではなかったようで、敵機は視界を失った。

 

「最後尾の頭部をやったぞ、そっちはどうだ?」

 

『有効打無し、盾が邪魔です!』

 

 

【挿絵表示】

 

 

「距離を離して側面から脚部を狙うぞ、一時後退だ」

 

 唯一無事だった中央の機体が機関砲を傭兵に向けて放つが、既に彼は裏口から路地へと逃げていた。建物の裏側で多脚車両と合流し、ハッチから顔を出したミナミから対戦車ロケットを受け取る。

 

『どうですか、そのレールガンは』

 

「対人用だな、人型に向けて撃つもんじゃねぇや」

 

『この先の十字路で待機します、攻撃タイミングはお好きなように』

 

「助かる」

 

 彼はレールガンを車両へ戻し、建物の上めがけてフック付きのワイヤーを放り投げる。フックが引っかかったのを確認した後に登り始め、防弾装備のパワーアシストのお陰であっという間に屋上だ。二階建ての建物なのでそこまでの高さはないが、ここからより高い建物に登ればいいだけの話だ。

 

「さて…と、レンヤの方はどうなってる?」

 

『互角にやりあってますね、あんなバランスの悪い機体でよくやりますよ』

 

「確かにな、相手はガチガチの対人型仕様だ」

 

 標的である三機は縦に並んでおり、最後尾は傭兵の攻撃により自走出来ない状態に陥っている。対して多脚車両からの攻撃を受けた先頭だが、装備していた盾により大きな損害は免れたようだ。

 

 フジカネが誘導し終わるまでは時間を稼がなければならないため、どうにかして残りの足を止める必要がある。しかし先ほどのような不意打ちは通用せず、反撃を受ければ無事では済まないだろう。

 

「サッサと潰すか、合わせてくれ」

 

『了解です、いつでも』

 

「よぉし…」

 

 屋上から使い捨てのロケットランチャーを下に向け、盾持ちの胴体上部を狙う。コックピットハッチは第一世代のものをそのまま使っているように見えるため、傭兵はそこを突くことにしたようだ。構えて狙って撃つまでには一秒もかからず、敵機からすれば瞬時にロケットが飛来したことになる。

 

「…ビンゴ!」

 

 次の瞬間にはハッチが基部から弾け飛び、コックピットを地獄に変える。敵機は自慢の盾を地面に落とし、そのまま膝をついて動かなくなった。傭兵はロケットランチャーが不良品でなかったことに感謝しつつ、その場を離れるべく走り出した。

 

「ミナミ、トドメを刺…」

 

『そっち突っ込むわよ!逃げて!』

 

「おい待て、今のカナミか?」

 

 振動と共に瓦礫と砂埃が舞い、最後の敵機に何かが勢いよく衝突する。建物を破壊しながら転がり込んできたのは特務仕様機だったが、片腕がひしゃげていた。対するアイギスも無傷ではなく、ナイフの一撃を受けてか胸部の追加装甲が破壊されている。

 

『どうしますかマスター』

 

「構わねぇや、全弾ぶっ放せ!」

 

『トップアタックに軌道変更、全弾発射!』

 

 二発の対戦車ミサイルが飛翔し、山なりの軌道を描いて特務仕様機の大きな頭に突き刺さる。センサーを有する都合上装甲を分厚く出来る筈もなく、内側から爆ぜるように外装が捲れ上がった。

 

「脳波…制御ですか、なるほど」

 

 かろうじて生きていた外部スピーカーから聞こえるのは操縦士であろう男の声、息も絶え絶えといった喋り方だ。機動力を重視した機体構成であるためか、戦闘により内部にまでダメージが及んだらしい。

 

『外部スピーカーを付けてまで負け惜しみを言いたかったわけ?』

 

「お前達が身を挺してクローン共を助けに来たのはそういうわけか、やっと合点がいきましたよ」

 

 急に喋り出した外套付きの機体だったが、傭兵を始め戦っていたレンヤでさえ彼が何を話し始めたのかわからなかった。何か根本的な食い違いがあると思わざるを得なかったが、貴重な情報であるが故に誰も言葉を遮る気にもならなかった。

 

「脳波制御が出来るパイロットを回収しに来ましたか、レジスタンスの尖兵も楽じゃあ…ないですね」

 

「教官、この機体まさか…」

 

「自爆する気だ、離れろ!」

 

 僚機と片腕を喪失し勝ち目はないと踏んだのか、敵機はコックピットにHEATナイフを突き立てた。そして燃料電池の自爆も同時に行ったらしく、機体は身体中から火を噴き出しながら地に伏した。機体から情報を得るのは無理そうだ、そうカナミはコックピットの中で溢した。

 

『…何か勘違いしてるわね。それにレジスタンスって何よ、ゲリラじゃなくて?』

 

「興味深い情報を得られたんだ、後はあの人達に聞こう」

 

『そうね、そうしましょ』

 

 二人を乗せたアイギスは燃える機体を尻目に、封鎖されたこの区画を後にする。突如行われた区画封鎖は中央工廠でも大きなニュースとなったが、侵入したテロリストと思わしき機体については情報が伏せられた。報道機関も詳しく語ることはせず、最低限の情報をそれらしく言うだけだ。

 

 この街でどのような陰謀が渦巻いているのかは分からないが、これから解き明かさねばならないだろう。

 




これで中央工廠編が半分ほど終わりました。
良ければ感想、評価等よろしくお願いします。
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