傭兵達の拠点であるコンテナ船には普段とは違い多くの人々が乗船しており、身の着のまま逃げざるを得なかった彼らに炊き出しを行っていた。そして逃げてきた集団の代表者が集められ、会議室にて顔を合わせている。
「我々は前回の戦闘によって避難民の保護に成功した。我々が欲しているのは情報で、彼らが求めるのは住居と食糧だ」
この場を仕切るのは隊長だが、参加者全員が同じテーブルを囲んでいる。書記をつとめる船員を含め、傭兵やレンヤといったパイロットから一部のメカニックまで幅広く集められていた。
そして質問を受ける側なのは防衛隊からの脱走兵と、孤児達の代表としてフジカネの二名だった。防護服を脱いだ脱走兵は頭部の手術痕やロゼと似た身体的特徴で周囲から注目されており、フジカネは気圧されて縮こまっている。
「なので我々は互いに欲するものを与え合うことにした。前置きはこれくらいでいいだろう、では自己紹介から…」
今回彼女達の救出に関わった人々が順番に紹介され、一人一人立ち上がって名乗っていく。レンヤは弾痕が残るヘルメットを外し、改めて素顔を晒しながら名を名乗った。
「これで全員だ、そちら側も頼む」
「自己紹介といっても名前が無いので、ひとまず製造番号からナナとでもお呼びください」
「えーと…子供達のリーダーやってます、フジカネっス」
二人の簡潔な自己紹介を聞き、全員は事前に用意して来た質問をする用意をした。だがそれは彼女らの話を聞いてからだ、隊長はナナと名乗る女性に話し始めるよう促した。
「レンヤさんにとっては二度聞いた話になるかもしれませんが…」
脱走兵のリーダーは、地下で話したことをもう一度話した。中央工廠内にある施設から逃げ出して来たことと、脳波制御を行うために施術を受けていることについてだ。話を聞いていた彼らは傭兵やレンヤが使う脳波制御が彼女達の物と大きな差異があることに気が付いたらが、ひとまず後の質疑応答に回すことにした。
「実を言うと、我々はレジスタンスと合流する予定でした」
『それが気になるのよね、レジスタンスって何?』
「現統治機構に対抗する武装勢力だと聞いています、我々のような脱走器材も多数在籍しているとのことです」
『誰から聞いたのよ、それは』
「私達を逃がしてくれた人です、防衛隊の関係者でした」
合流予定のレジスタンスは彼女達が死ぬ一歩直前にまでなっても現れなかった、傭兵達の介入により動きが変わった可能性もある。
「カナミさんにお渡しした通信機で連絡を取り合う予定でしたが、区画が封鎖されてからは通信が途絶えてしまいまして」
『そこで私達が来たと…特務のパイロットに勘違いされるわけね』
「匿って頂いた以上情報は全て提供します、我々が出せるのはそれだけですので」
そう言って彼女は懐からチップ型の記憶媒体を何枚か取り出し、テーブルの上に置いた。読み取るように促されたカナミを制してミナミが外付けの読み取り装置を取り出し、ラップトップPCに繋ぐ。
『直接読み込んじゃ駄目ですよ、対策は万全にしないと』
『…そうだったわね』
中身は記録映像のようで、彼女達がどのような扱いを受けていたのかを映したもののようだ。防護服に取り付けられたボディカメラで撮影していたようで、少しばかり視点が低い。
「これは…人型兵器に乗って、戦っているんですか?」
会議室の巨大なディスプレイに映し出された映像を見て、レンヤはそう聞いた。無機質な壁と天井で覆われた空間で、多対一での戦闘が繰り広げられていたからだ。
「はい。相手が非常に強い上に実弾だったので、大抵戦い始めた仲間達の寿命は一週間程度でした」
「そう、ですか」
「気にしないで下さいレンヤさん、ちなみに私は一月も生き残った優良個体だったんですよ?」
彼女の自虐ネタは大いに滑った、というか空気が死んだ。しかしその中で傭兵とミナミは映像を凝視し、映像の中で彼女達が戦う相手が何者なのかを考えている。見覚えがあったのだ、あの動きと機体には。
「アンタらが戦わされていた機体、俺達にも見覚えがある」
「…本当ですか?」
「ああ、少し前に交戦した」
傭兵がそう言うと、皆が頷いた。特徴的な頭部と過敏な動き、そして圧倒的な回避能力。間違いない、これはゲリラが運用していた無人機と同じものだ。中央工廠で作られた兵器が地方の拠点へと投入されていた、このことを知れたのは大きな前進だ。
「隊長、彼女達は身内に入れても大丈夫か?」
「…案があるなら言え、まあ何をしたいかは分かるが」
「よぉし、取引と行こうじゃないか」
何が始まるのかと挙動不審になるナナだったが、傭兵が席を立って彼女へと近付いた。そして彼は彼女の目ではなく、首元にあるボディカメラに視線を移す。
「なあお嬢さん、もう目が見えてないだろ」
「…分かるんですね」
「俯きがちだが、それにしたって目線が会わないからな。ボディカメラも防諜のために外してもらおうかと思っていたが、目の代わりなら取り上げるわけにはいかない」
「手術の代償だそうです、視野を機体側と繋げるためにはこうなると」
「治せるぞ、仲間も全員な」
傭兵は笑顔でそう言い切り、ミナミは頭を抱え、隊長は腕を組み直し、レンヤは首を傾げた。そう、彼の持つ船には当然のように医療設備が搭載されているのだ、傭兵という生傷の絶えない仕事である以上無い方が不自然とも言える。
「ど、どうやって治す気ですか。脳の一部すら失って、頭蓋骨に大穴を開けられて、それで…」
「治る治る、俺は脳味噌が三分の二になっても大丈夫だったしな」
『アレは詳細な脳スキャン結果と、直近の記憶の外部バックアップがあったから大丈夫だっただけです』
「そうだったっけ?」
『治ってないみたいですよコイツ』
呆れるミナミだったが、一番状況を理解出来ていないのはナナだ。会議の場は降って湧いた彼女達の治療方法で若干の混乱が生まれたが、それが嘘ではないと言うことを大多数の人間が理解した。
「協力してくれ、対価は治療だ」
「…何をする気ですか?」
「レジスタンスとやらの情報を引っこ抜き、あわよくばこの地下をも丸裸にするのさ」