辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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突入前日

 オークション前日、傭兵達は身支度を終えていた。彼らが乗る機体達もそれは同じで、格納庫にはフル装備の人型兵器達が鎮座している。特に大規模な改修を受けたのはレンヤのアイギスで、対空ミサイルやそのためのレーダーといった、大型の武装を増設されている。

 

「カンナギ、久しぶりに見ました」

 

「ずっとこの船の奥に押し込んでたからな、船の重力制御が殆ど出来なくなったのが痛いが」

 

 レンヤはまた雰囲気を変えた愛機を気に入っているようだが、この時ばかりは久しぶりに姿を見せたカンナギに興味を向けていた。その機体は陸上艦と戦った時と同じ姿であり、アップリケアーマーを装備している。

 

「船の護衛はこちらに任せてください、教官が一番困難な任務だとは思いますが…」

 

「愛機がありゃ問題ないさ。ちょっとした縦穴程度、簡単に行き来できる」

 

 カンナギの推力はちょっとした小型宇宙船並みである。さらに重力制御により、大気圏の離脱と突入も不可能ではない。これにより人型兵器の惑星降下作戦における戦術の幅が大きく増したのだが、それはこの星で語っても仕方のないことだろう。

 

「だが使うとなると、今まで通りにとはいかないぞ」

 

「確かにこの機体は目立ちますね、教官が何者か言っているようなものです」

 

「違いない、だがコイツ以外に適任が居なくてね」

 

 隊長と風巻嬢がカンナギの使用を前提に作り直した作戦は、その性能に物を言わせて立案された。まず混乱に乗じてカンナギがメインシャフト上部のハッチを解放、又は破壊し、一気に地下まで下りる。道中の障害物はビーム兵器の圧倒的な破壊力ですべて片付ける、単純明快である。

 

 そして地下にあると目される中央工廠のメインフレームにミナミが接続、データを引っこ抜いて情報を収集する。これでもし大義名分が得られるほどの証拠が手に入れば、反旗を翻すことも視野に入れるそうだ。

 

「…偵察任務が終わったら、全面戦争になるかもしれないと聞きました」

 

「まあすぐにとは言わんだろうがな、それでも近いうちにはそうなる」

 

「統治機構を乗っ取った海賊についての情報があまりに少ない中で、こんなことをして上手くいくんでしょうか。正直言って急ぎすぎている気がします」

 

 現状でも陸上艦の被害と現統治機構への不信感で、交易拠点をはじめとした各拠点間は不満を爆発させている。ここに来てゲリラとは違い取り込まれず、統治機構と戦い続けているレジスタンスとも接触できた。もしもすべてが上手くいけば、海賊の打倒に大きく近づくのだ。

 

「急がなきゃいけないんだろうな、恐らく」

 

「何故です?」

 

「交易拠点に人が集まったのは陸上艦のスクラップがあるからで、周囲の拠点に対しての発言権も大きくなっている。完全に解体が終わる前に周りをまとめ上げなきゃ、グダグダになるだろうさ」

 

「それにしたって…隊長達らしくないというか」

 

「カンナギを使うってことはそういうことなんだよ、統治機構は本気で動くさ」

 

 第二世代機が束になって来ようとも、傭兵の宇宙船と人型兵器であれば圧倒的な物量差を前にしてもある程度は戦えるだろう。だが大量の宇宙船が押し寄せて来るなら話は別だ、相手をするしない以前に、地図から交易拠点が消える。

 

「だがまあ、それは完全にすべて露見した時の策だろうな」

 

「最悪の場合を想定した、ということですか」

 

「この機体の電子戦能力なら、敵機のセンサを狂わせて証拠と言える証拠を残さずに帰れるかもしれない」

 

 誰のせいか分からないまま、有耶無耶にして逃げ帰る。それが現状の最善手であり、傭兵が単身で突入する理由でもあった。最大出力で電波妨害や電磁波攻撃を行おうものなら、味方の機体にも被害が及ぶからだ。

 

『お話し中にすみません、少々難しい問題が発生しまして』

 

「ミナミか、どうした?」

 

『統治機構直下の治安維持局、局長代理からマスターへのアポイントメント希望です』

 

「は…?」

 

ーーー

ーー

 

 パイルドライバーとの戦った後、特務仕様機が襲い掛かって来たことがあった。その際に攻撃をやめるよう横槍を入れたのがこの局長代理だが、そんなことを傭兵が知るはずもなかった。

 

「まさか、中央工廠に入れるなんてな」

 

『私の同行も許すなんて、色々通り越して不気味です』

 

「だな、まとめて始末する気ならコンテナ船にミサイルでも打ち込めばいいってのに」

 

 疑念を抱きながら、二人は中央工廠の壁の中へと足を踏み入れた。内部は外側と違い、乱雑な印象はない。恐らく惑星開拓時代に建てられたのがこの中で、開拓が止まってから作られたのが外側なのだろう。

 

『ご案内致します』

 

「…掃除用ロボットか?」

 

『警備用の小型機を流用しているようです、お出迎えにしては少々アレですが』

 

 平たく小さいロボットが床を這い、こっちだと言わんばかりにランプを点灯させる。二人は道も分からないためそれに付いていくことにしたが、周囲への警戒と情報収集は絶えず行っていた。

 

「生活空間もあるのか、工廠の生産設備を扱う技術者は壁の中で暮らしているんだな」

 

『この星ではトップクラスの待遇でしょうね、清潔で砂埃に悩まされる心配もないですから』

 

「それでこの星を乗っ取った海賊のために飼い殺しか、どっちがマシかだな」

 

 ここで過ごしている人々は、同じようなデザインの作業服に袖を通している。なので傭兵とミナミの二人組は周囲から浮いているようで、いやな視線を向けられるのも数回ではない。

 

「というか何処に向かってるんだ、こんな他人もいるような場所を延々と歩かせるとはな」

 

『罠に嵌めるにしては、雰囲気が違い過ぎますね』

 

「だな」

 

 そうして暫く歩くこと数分、案内ロボットが止まった。故障かと思った二人はしゃがみ込んでロボを見たが、びくともしない。

 

「…壊れたか?」

 

『少々お待ちを、確認します』

 

 ミナミが搭載しているセンサーで周囲の壁を見ると、一つだけ違和感を感じるものがあった。彼女が壁をなぞれば僅かな隙間があり、床も削れた跡がある。

 

『隠し扉ですね、古典的な』

 

「案内されなきゃ気が付かないな、入ってみるか?」

 

『私が先行します、何事も無ければ良いのですが』

 

 二人と小さなロボットは、隠し扉の先にあった階段を登ることにした。本当に局長代理とやらに会えるのか、作戦決行の前日にこんなことをしていていいのか、そもそも敵地にノコノコと入り込んで無事で済むのか。

 

「まあ、出たとこ勝負ってことで」

 

 傭兵はヘルメット越しに見上げた上にまで続く階段の螺旋を見ながら、歩みを進めた。

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