辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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オークション開始

 オークション当日、作戦が始まる直前に最後のブリーフィングが行われていた。傭兵が治安維持局の局長代理から得た情報をもとに、作戦が急ピッチで組み直されたのだ。

 

「作戦を説明する。レジスタンスの攻撃に便乗する形でカンナギを地下に侵入させるわけだが、その際に目視での発見を避けるため、煙幕を広範囲に展開する」

 

 いつも通り隊長が整列したパイロット達の前に立ち、説明を始める。この煙幕で陸上船が停泊する港湾設備周辺は、煙で包まれる。この間にカンナギがハッチから出撃、他の機体もそれに続いて外へ出る。

 

「カンナギ以外の機体は船の護衛だ、傭兵が情報を抱えて帰るまでに船を守る」

 

 陸上船の重力制御機関には、カンナギのコンピュータが必要だ。そのため、移動すらままならないこの船を、傭兵の帰還まで守らなければならない。

 

「カンナギは全帯域でジャミングをかけながら工廠に突撃、外部からメインシャフト上部のハッチを破壊して降下する」

 

 分厚いハッチを破壊するというのは難しいのだが、カンナギのビーム兵器であれば可能だ。第二世代機とは隔絶した各種性能が、この作戦を成立させている。

 

「そしてシャフトの底まで降りた後、横道に入りメインフレームを目指す」

 

 メインフレームというのは、中央工廠の基幹システムを収めた大型コンピュータのことだ。あらゆる記録が残されており、得られる情報は値千金だ。

 

「そこで情報を確保するが、時間に余裕があれば別途実験のため監禁されている人々の救出作戦も同時に行う」

 

 無人機との戦闘や脳波制御の実験に使われていた、人造人間であるナナ達のことである。案内役として同行するが、彼女の同胞をこのまま見捨てるというのも寝覚めが悪い。

 

「タイムリミットはレジスタンスが撤退するまでだ。治安維持隊は局長代理が抑えてくれるかもしれないが、防衛軍にカンナギを見られると不味い」

 

「船に帰って逃げ出すまでに混乱がおさまってると、本腰を入れた追撃が来るかもしれないからか」

 

「そうだ、それに…局長代理の回収も人目につきやすい。混乱に乗じることができなければ、我々は圧倒的な戦力差をぶつけられることになる」

 

 傭兵の言葉に隊長が答えるが、ギリギリの作戦であることは誰の目にも明らかだった。情報は得られたが時間が足りなかった、カンナギの単騎突撃は作戦とは言い難い。

 

「ジャミングと地理的な関係上、地下へ入ったカンナギとは取り難いが…一つ手がある」

 

「俺の船から偵察機を飛ばして中継機にする。大抵のセンサーには映らない優れもので、あと十分もすれば中央工廠上空に到達するぜ」

 

「…というわけだ。機体のOSが更新されていることは知っての通りだが、この偵察機からの情報も受け取れるようになっている」

 

 空からの目があるというのは、非常に大きなアドバンテージだ。敵の航空戦力に撃ち落とされないことを祈るのみだが、おそらくそう簡単に見つかることはないだろう。

 

「説明は以上だ。各員の奮励努力に期待する、パイロットは機体へ搭乗せよ!」

 

 格納庫には人型兵器が並んでいた。傭兵はコックピットで待機していたナナとミナミに手を振りつつ、最後まで作業に当たっていたトバリの肩を軽く叩く。

 

「どうだ、コイツの様子は」

 

「私達の技術では最低限の整備が限界、でもあらゆる部位の劣化と消耗がほとんど確認出来ませんでした」

 

「凄いだろ、この星の外にはこんな機体がワラワラ居るぜ」

 

「それなら、その…もし出来るなら、一度見てみたいと思います」

 

「楽しみにしておいてくれ、カタログの分厚さを舐めるなよ?」

 

 作業員達が機体から離れ、次々とコックピットのハッチが閉じていく。人の声で騒がしかった格納庫には核融合炉と燃料電池の駆動音が響き、全員が同じOSの起動画面を見る。

 

「少し狭いが、我慢してくれ」

 

「我慢も何も、十分広いですよ」

 

 普段はミナミが乗る後部座席には、案内役としてナナが座っていた。今まで着ていた防護服からパイロットスーツへ着替え、衝撃に耐えられるようベルトやハーネスで身体を固定してある。傭兵が持ち込んでいた医薬品や治療用の機材で処置は行えたが、脳に食い込んだコネクタが邪魔で完治はできない。

 

「…無理はするなよ、案内も出来る範囲でいい」

 

「大丈夫です、乗せてもらった以上仕事はします」

 

 ミナミは後部座席の更に後ろ、アンドロイド用の座席におさまっている。ナナの体調に不安があるのは確かだが、彼女の同胞を連れ出すには同行してもらなわければ説得に手間取ってしまう。

 

『彼女のバイタルは私が監視します、何かあれば報告しますので』

 

「頼んだぞ」

 

 機体のシステムが完全に立ち上がり、傭兵が着けるヘルメットには機体から伝達された視覚映像が投影されている。特にエラーは無し、久しぶりの搭乗だが調子は良さそうだ。

 

「こちらカンナギ。機体に異常なし、いつでも出られるぞ」

 

「こちらアイギス、同じく出られます」

 

「タンブルウィード、いつでも行けるぜ」

 

「フジカネ、秋水の準備終わったっス!」

 

 オークションが始まり、リスト通りに品物が姿を現す。傭兵達が出品した代物はもう少し後の登場だが、もしレジスタンスが動かないのならば自力でどうにかする必要が出てくる。

 

「隊長だ。これ以降の通信では本船司令部を司令部、HQと呼称する」

 

『情報処理はミナミコピーが担当しますのでお任せを』

 

 船内に設置された司令部には雑多な機材が運び込まれ、臨時ながら人材と設備が整えられ、ハード面では及第点と言える。不足していたソフト面に関しては、ミナミのコピー機がその全てを解決している。

 

「早速だが、傭兵の偵察機が巨大な飛行物体を捉えた。それは地表付近を飛行中であり、現在中央工廠へ接近中だ」

 

 偵察機が光学センサを最大望遠で向けた結果、そこに映っていたのは全長150mほどの宇宙船だった。比較的小型な部類だが、それでもこと地上においては肩を並べる兵器が存在しないほどに強力だ。

 

「浮いてる…」

 

「宇宙船にも重力制御機関は搭載されてるからな、海賊に乗っ取られる前に惑星の防衛隊で運用されてた船か?」

 

 巨大な船を見てレンヤは驚くが、それでも傭兵の船の方が大きかったなと一人ごちる。そして傭兵からの質問に対して、HQはそうだと返す。

 

「防衛隊で運用されていた小型船だ。機雷やデブリの排除が主目的の掃海艇で、人型兵器の格納庫とレーザー兵器、爆導索を装備している」

 

「宇宙船では小さい部類なんだろうが、地上にまで降りてくると十分大きいな」

 

 隊長の声と共にHQから送られて来たのは、その船の詳細だった。傭兵のコルベットであれば一撃で沈められる相手だが、下手に船を地上で沈めると周囲への被害が怖いところだ。

 

「核融合炉が吹っ飛ぶと中央工廠は地図から無くなるな…」

 

『それよりもレーザー砲で蒸発する可能性を気がした方が良いかと』

 

 コルベットも小型艦につけられる名前だが、傭兵が乗るものは軍以外への販売のためにその名を冠している。小型艦のフリをした中型艦であり、なかなか複雑な出自を持っているのだが、これはまた別の機会に語るべきだろう。

 

「レジスタンスが差し向けた戦力だった場合、中央工廠にもたらされる混乱は想定の比ではない。司令部としては、完全な想定外だ」

 

「出たとこ勝負でやるしかないな、あの船が何かしたらカンナギで突っ込むってのは?」

 

「そうするしかない、か…」

 

 突如現れた宇宙船と、出撃を待つ傭兵達。作戦決行直前に現れたイレギュラーが何をするのか、そもそも何者なのか、何も分からないまま時だけが過ぎていた。

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