傭兵が駆るカンナギが地下へと到達した瞬間と同時刻、中央工廠の市街地は火に包まれていた。避難勧告と共に流れるサイレンはけたたましく、爆発の中でもかろうじて聞くことができた。
『防衛隊の無人航空機からレーダー照射、こちらも攻撃対象に入っています』
「IFFは更新した筈だぞ、見境無しか」
『そのようですね、乱暴な真似を平気でするとは』
指揮を担当する隊長とミナミコピーは、上空のステルス偵察機からの情報を食い入るように見ていた。中央工廠の市街地は火の海だ、無差別攻撃にも程がある。
「だが攻撃はしてこないようだな、警告か?」
『最優先で掃海艇を攻撃しているだけ、という可能性もありますが』
「油断は出来ないか」
中央工廠に来た際、搭載していた人型兵器に関しては治安維持隊に対して届出を出している。IFF、敵味方識別装置を介すれば、レジスタンスではないとわかる筈だ。
「こうなれば仕方ない、対空戦闘を開始する。奴が目標を抱えて帰ってくるまで耐えるぞ」
『対空砲の一つもない非武装船ですからね、人型兵器頼りでどこまでやれるか』
船の甲板や周囲に展開していた人型兵器達は、対空用の砲弾を火器に装填した。敵機はレジスタンスの船を最優先で狙っているようで、殆どこちらへ攻撃をする機体は居ない。だが数機は先程からこちらを警戒しており、カンナギを出撃させる際に放った煙幕を怪しまれた可能性はあった。
「こちらから撃つ必要は」
『人型兵器が急速接近中、掃海艇から降下した機体です』
「連絡の一つでもする気か、それとも邪魔な情報提供者も消すつもりか」
『どちらにせよ警戒は必須です、味方機に情報を共有します』
ミナミコピーが情報を伝達すると同時に、空中で何かが炸裂した。それはアイギスのアクティブ防御システムによるもので、飛来した砲弾を叩き落としたのだ。
「撃たれた!?」
『人型兵器のセンサに反応なし、高度な隠蔽装備を有しているようです』
「相手もステルスか、こちらのステルス機から位置を捉えられるか?」
『可能です』
不可視の相手に対して、こちらは空からの目で対抗する。重装備に身を包んだアイギスは盾となるべくブリッジの付近へと移動し、武器を構えた。
「…傭兵、悪いが母艦が無事である保証は出来そうにないぞ」
レジスタンスからの奇襲により、隊長達の状況は刻一刻と悪くなりつつある。これ以上敵が集まれば、船ごと対地攻撃で吹き飛ばされかねない。なんとか調達した対空ミサイルも二桁に届かない数しかなく、数で押されればあっという間に瓦解する。
「HQからアイギスへ。傭兵さえ帰って来ればもう後は逃げるだけだ、全装備の使用許可を出す、好きにやれ!」
レンヤはそれを聞いて機体を頷かせ、格納庫から伸びる電力ケーブルを機体に接続した。背中の偽装用装甲が外れ、慣性制御装置が唸りを上げる。久しぶりの全力稼働だ、機体も名前通りの活躍が出来るからか、心なしか張り切っているように見えた。
ーーー
ーー
ー
「この先です、地下演習場にさえ出れば後はすぐですから」
「案内助かるぜ、まあ待ってな」
傭兵は機体頭部の機関砲を使い、器用にも弾痕で扉に円を描いた。そしてその中央を蹴り飛ばし、空いた穴を潜って中へと入る。
『随分なお出迎えですね。ECMの出力は下げてしまいましたから、最悪当てて来ますよ』
「これから助ける奴らが乗る機体までぶっ壊すわけにはいかないからな、機体性能を考えたら丁度いいハンデだぜ」
立ちはだかる敵機に対し、出力を大きく下げたビーム砲でコックピットを焼く。ビームも発射時に強力な磁場を纏うため、周囲への影響を考えるとあまり派手には使えない。
「さて、この演習場の先か」
「この状況です、万が一にもこちらへ武器を向けて来た時は…」
「説得の時間くらい作れるさ、この機体を信じてくれ」
多くの戦いが行われたことを想起させる演習場の荒れ方を見て、傭兵は彼女のような人造人間が何体使い捨てられたのかを少し考えようとして、一秒と経たずにやめた。今考えるべきは死んだ者のことではなく、生きてここを出ようとしている者についてである。
「外部スピーカーは預ける、まあ…なんとか頼むぜ」
「はい」
格納庫へと繋がる分厚い防護壁に対し、傭兵は刀を抜いた。そして三角を作るように刃を振り、先程と同じように壁へと穴を開ける。すると空いた穴からは大量の照準用レーザーがこちらへ向けられるが、それをお構いなしに覗き込んだ。
「私です、77番!」
「…生きて、たのか?」
「運良く助けに来る機会に恵まれたんです、ここを出ませんか」
「そう簡単に出来るか!実弾を込めての待機命令なんて、ここに来てから初めてだぞ!?」
当たり前だが、傭兵一行は人造人間達に対して簡単に了承を得られるとは思っていない。出来れば急いで欲しいが、最悪見捨てることも視野に入れていた。今目の前にいる彼女らより、地上で戦う仲間の方が優先度は高いのだ。
「ここに居ても死ぬだけです、中央工廠はレジスタンスに制圧されつつありますから」
「まさかこの警報と命令は、それで?」
「はい」
中央工廠が陥った指揮系統の混乱だが、その原因の半分くらいは突撃して来たカンナギだ。しかしそれは黙っておく、傭兵も無駄な口を挟む気はない。
「私達はこれから更に下へと向かい、人造人間の製造や手術に関する情報を探します。それまでの間、退路の確保をお願い出来ませんか」
「その情報が何の役に立つ、命を張るには…」
「治療が出来ます。この頭に埋められた装置を外すことも、視力を取り戻すことも、短命であることだって、なんとかなるかもしれません」
治療出来ることは本当だが、それに関する情報を探りに行くというのは嘘だ。傭兵の船で治せてしまうので、する必要がない。だが結果良ければ全て良しというわけだ、今は騙してでも連れていくことを優先している。
「…本当か?」
「嘘ではありません、証拠はこの機体です」
辺り一帯に重力制御を行い、彼女達が乗る機体を浮かせる。この星の技術力では土台無理な芸当だ、百聞は一見にしかずとは正にこのことだろう。
「重力制御!」
「私の所属先はこのレベルの技術を保有しています、判断材料にはなるはずです」
「信じざるを得ない、それに一番の幸運持ちだった77番の話だ」
「それでは」
「乗ろう、部隊は纏める」
人型兵器の数は24機、そのどれもが第二世代機だ。性能は平均的で、街のPMC達にも採用されていた機体だろう。しかし地上で使われている機体と違う点は、全機の操縦系が脳波制御に置き換わっている点だ。
「直ぐに終わらせます、出来れば死なずに待っていて下さい」
「機体に乗ってない妹達も居る、乗せて出るなら死ねないさ」
交渉は成功し、大勢の味方を得ることが出来た。彼女達を引き連れ、メインフレームへと続く巨大なメンテナンス用通路へと進む。こういった巨大な施設の建造には人型重機が不可欠であるため、通路のサイズは人ではなく機体に合わせて作られる。
「このパイプは冷却水か、どうにも気温が低いわけだ」
『パイプを伝っていけば地図通りに着くはずです、このまま進みましょう』
今のところ、局長代理から手に入れた地図と地下の構造に差異はない。補修工事が成された部分も合致しており、最新の地図を用意したことが窺えた。
「よし、この下だ。俺が降下するから、アンタらはここを守ってくれ」
「降りるのはいいが戻って…ああそうか、その機体は違ったな」
「こちらの心配はしなくていいさ」
メンテナンスハッチの取っ手を掴み、こじ開けてメインフレームのある部屋へと入る。ハッチは天井にあったようで機体は落下するが、この部屋に人型兵器は配置されていないらしい。
「流石に壊すのが怖かったらしいな、ありったけのデータ吸い出すぞ」
『機材は持ち込んでます、直ぐに終わりますよ』
最寄りのコンソールにミナミを下ろし、機体とメインフレームを何やらケーブルで繋ぎ始める。間には幾つかの箱のような物を噛ませた後、彼女がキーボードを叩き始めた。
『ザルもザル、何十年何百年前のセキュリティですね。電子戦特化型なら数秒で終わってますよ』
「相変わらず頼りになるぜお前は、邪魔は入れさせないからサッサと終わらせてくれ!」
『言われなくとも終わらせますよ!』
メインフレームへの被害を最小限に抑えるためか、部屋には歩兵が投入され始めた。カンナギの火力では歩兵相手に過剰も良いところだが、作業中のミナミの邪魔をされるのは困る。
「左右に展開してます、上の作業用通路にも対戦車ロケットを構えた兵士が!」
「適当にあしらう。ミナミ、遮光シャッター下げろ!」
頭部機関砲の弾種を変更し、とある物を数発発射した。それは以前使っていた閃光弾であり、人間の目を潰すのには十分過ぎる光量があった。
「対人用じゃあないんだけどな」
眩い閃光が兵士の網膜を焼く。運良く目を逸らしていても、たった数人では何もできまい。
『あと5分待っていて下さい。終わったら指定したストレージを引っこ抜いて逃げますよ』
「良さげなデータは見つかったか」
『値千金ですね、トバリさんのご家族も居場所が分かるかもしれません』
兵士達が仲間達を引き摺って逃げ去っていくのを見ながら、五分を待つ。カンナギに対して行われる攻撃は無意味だった、歩兵が持てる程度の火力で第三世代機は倒せない。慣性制御と重力制御による防御を突破しても、分厚い盾と本体の装甲がある。
『中央都市と中央工廠の間、この荒野に偽装された宇宙ドックがあります。ここであれば我々の船の修理パーツや、連れ去られた船の技師達が存在するかもしれません』
「やっぱりか、宇宙船が無いわけがないよな」
『中央工廠に迫るレジスタンスの船に対して反撃が無いのは、単純に動かせないのか、それとも動かす気がないのか…分かりませんが』
「重要拠点の防衛を怠るのは無いと思うがな、正直海賊どもの内情はわからん」
相当こんがらがって衝突事故を起こしたらしい海賊達は、この星を統治し切れてはいない。奪って殺してをやっていた奴らが指導者になり、領主として即座に振る舞えるかと言えば否だ。知識、精神、思考、何もかもがズレている。
『宇宙にも施設が幾つかありますが…これは』
「どうした」
『外から輸送船が来ています、それも協商連合の』
「なるほど、この星単体で設備を維持出来る筈がないとは思っていたが…」
『あのやけに手強い無人機、アレもこの星での産物というわけではないかもしれませんね』
「あの企業共は何を考えているのやら、情報を持ち帰ったら色々と考えなきゃならんな」
データを一部のストレージに移し替え、それを抜き取る。メインフレームはさながらオフィスビルのようで、アタッシュケースのような取手のついた箱で満たされている。サーバーがそのまま巨大化したかのような構造で、ミナミは非効率的な骨董品とでも称するだろう。
ここまで派手に動いたのにも関わらず、メインフレームへの操作を阻害したり、電源を落としたりといった妨害には遭わなかった。ミナミが手を回したのもあるが、管理者達はこの地下の摩天楼を扱い切れているのだろうか。傭兵はそう思いつつ、機体を浮かせて天井のハッチへと戻ることにした。