傭兵が目的を達成した頃、地上では隊長達とレジスタンスとの戦闘が始まっていた。相手は非常に高度なステルス技術を有しており、まるで透明になったかのように錯覚してしまう。
「攻撃は迎撃出来たけど、肝心の敵機が捉えられない!」
『ミナミから貰ったデータにあったわ。恐らく光学迷彩、生物の擬態模倣型…ほとんど見えなくても、そこにはいる筈』
レジスタンスの人型兵器と相対するのは、アイギスに乗るレンヤとカナミだ。砲弾を迎撃出来る装備を増設したため不意打ちを防ぐことは出来たが、使える回数にも限りがある。このまま撃たれっぱなしではいつか負ける、反撃を叩き込まねば状況は一方的なままだ。
「HQからアイギスへ。傭兵さえ帰って来ればもう後は逃げるだけだ、全装備の使用許可を出す、好きにやれ!」
『「了解!」』
だが、アイギスが本来の姿を見せれば話は変わる。敵は見えず攻撃は当たらないが、こちらは見えていても攻撃が当たらないのだ。潜入しての調査ということもあり慣性制御装置は使用を避けていたが、後は逃げるだけとなれば隠す必要もない。
「慣性制御装置起動、フライホイール一番二番回転数正常、外部電源との接続…問題なし」
敵から放たれた砲弾は慣性制御装置によって軌道が大きく上に逸らされ、アイギスや船にも当たらず何処かへ飛んでいく。互いに決定打がなくなるかに思えるが、カナミは既に敵の位置を捉えるべくセンサや画像認識システムの調整を終えている。
『一応見えるようにはしたわ、まだ完全じゃないけど…大まかな場所は高まるはず!』
「俺達も援護するぜ、その迷彩とやらはそこまで頑丈じゃあないんだよな?」
空の警戒に当たっていた屑鉄兄弟達だが、通信を聞いて連携が出来ると踏んだようだ。事実、敵が使っている迷彩は彼の言うように、高い防御性能を持ち合わせるわけではない。標的の近くで炸裂し破片をばら撒く対空用の砲弾でも、この状況では有用だった。
「指示しな、合わせて撃ってやる」
「助かります!」
「その代わりこっちを守れよ、こうなりゃお前が頼りだ!」
照準用レーザーを敵に向け放ち、周囲の味方に位置を示す。だが敵は攻撃されることを察知したのか、すぐさま建物の影へと隠れた。流石はレジスタンスの手練、そう簡単にはやれない相手だ。
『ドローンの動きが活発になってる、上からも攻撃来るわよ!』
「レジスタンスの機体が近付いたからか」
様子見を決め込んでいた無人機達はレジスタンス側の人型兵器が現れたことで動きを変え、搭載していたロケット弾を一斉にばら撒く。精度は低いが威力は高く、船に命中すれば被害は甚大なものになるだろう。
『お構いなしってわけね、私達が言えた道理はないけど…』
命中しかねないロケット弾を次々と撃ち落とし、それ以外はアイギスが軌道を変えて対処する。船は重力制御機関を稼働させられない状態であるため、移動して避けるという手段はとれない。今まではカンナギの演算能力に頼り、どうにか機関の制御を行っていたためだ。
『対空ミサイルを使って接近中の敵機を叩いて、これ以上増えると迎撃にも支障が出る』
「どれから操作すればいいんだ、増設された機材が多くてシミュレータとも違う」
突貫工事で無理矢理対空能力を付与されたアイギスのコックピットは、元々試作機だったこともあってか複雑化の一途を辿っていた。この機体が辛うじて動いているのも、ミナミによって修理・調整されたアンドロイドであるカナミの補助あってのことだ。
『右側のサブコンソール、電源と燃料システムの下、オレンジ色のタブレット端末!』
「これか!」
脳波制御で機体を動かしつつ、コックピットの中の自分は別の動きをするというのは非常に高度な技術が必要になる。機体制御をある程度機体OSの自立制御に預けつつ、レンヤはミサイルの発射スイッチを押した。
「短距離用のSAMを選択、一番二番発射!」
『一仕事終えたところに悪い報告だけど、機体の放熱が間に合わないわ。稼働限界は恐らく後30分ってところね…』
「大丈夫、それより先に教官が帰ってくるよ」
『そうね、それを計算に入れるのをすっかり忘れてたわ』
船へ機種を向けていたドローンは回避が間に合わず、一歩遅れて展開されたフレアとチャフミサイルと共に爆散した。そしてその残骸は急速に高度を落とし、周囲の家屋へと墜落して炎上する。この戦闘によって栄えていた中央工廠は今や火の海だ、レンヤはあまりの惨状に思わず唾を飲む。
「…酷い火災じゃあないか、これじゃあ消火も間に合わない」
治安維持隊の人間として、こういった場合の対応も任務の一つだった。しかしこの街に来てからというもの、潜入任務のため隊員らしく振る舞うのは難しかった。人命救助のために命を賭けたこともあった。だが結果的に情報が手に入ったので良かったが、そうでなければ自らとその相棒、そして恩師にまで命の危険が及んだ大失態だったのだ。蓄積したストレスによって、彼の思考はまとまらず、形をなさない。
『集中、レジスタンスの狙撃手が来るわよ』
しかし彼は同乗する相棒の言葉によって現実に引き戻され、操縦桿を握り直す。こちらへの攻撃が通らないことを不審に思った敵スナイパーが情報を集めるかのように様々な箇所へ攻撃を繰り返しているのを見て、攻撃のタイミングを見計らう。
『偵察機はまだ見つからずに飛べている。でもいつ掃海艇に撃ち落とされるか分からないわ、上からの覗き見が使えるのも今だけって考えて』
「大丈夫、撃てるさ」
傭兵がトバリカスタムに乗っていた際に使用していた機関砲は、今や彼の手に握られている。工作精度はこの星レベル、各種センサーは中の下、しかし砲弾を雨あられと言わんばかりにばら撒いても、びくともしない耐久性がコレにはあった。
「弾が貫通出来る壁の裏まで誘導する、対戦車ミサイルを敵が居る遮蔽の裏にトップアタックモードで二発撃てる?」
『任せて、そんなの朝飯前よ!』
対空ミサイルと違いシステムが統合されているのか、彼女は言葉の通りに処理を終え、台詞を言い切る前に対戦車ミサイルは放たれた。このミサイルは戦車の弱点である上面を狙うため、一度大きく上昇し、上から敵を攻撃する。そのため上手く誘導すれば、遮蔽の裏を狙うことも不可能ではない。
『着弾、直撃しなかったみたいだけど…これでいいのよね』
「これでいい、ありがとう!」
敵機は次の攻撃を恐れ、即座に別の遮蔽物を目指す。しかしそれは悪手だった、敵機が逃げ込んだ先は半壊した建物の裏側なのだから。この星の過酷な環境に耐えるための分厚い壁も、一枚二枚なら問題ない。
「今!」
「了解だ!」
アイギスと、それに合わせる形で引き金を引いた屑鉄兄弟。彼らの一斉射撃は一瞬のうちに壁を破壊し、敵機へ鉄の暴風でもって殴り付けた。
『やった、直撃よ!』
「致命打にはなってないか、また別の建物に逃げようとしてる」
『流石第二世代機の装甲ね、普通の携行火器じゃあ倒すのも一苦労だわ』
「…離れていく、追撃は無理か」
ひとまずの危機が去ったことを安堵しつつも、最大の問題はまだこの街の上に君臨したままだ。掃海艇の攻撃はいつの間にか止まっていたが、降下したレジスタンスの人型兵器はオークション会場を襲っている。釣り餌にしたAIユニットは、彼らにとってあまりに魅力的だったらしい。
『こちらミナミ、メインシャフトまで帰還しました。状況を確認しましたが、これは大変なことになってますね…』
「ま、最悪じゃあないだろ。これより要救助者を連れて帰還する、場所は空けておいてくれよ!」
「教官、早かったですね」
「まあな、これくらいの任務は楽勝さ」
傭兵の駆るカンナギは重力制御によって要救助者達を乗せた人型兵器ごと自身を浮かせ、長大なメインシャフトをあっという間に登り切った。彼はよく見る機種の第二世代機がコンテナ船へと急いで走るのを尻目に、中央工廠の更に中心部へ機体を向け直す。
「じゃ、もう一仕事してくるわ」
『女の子を攫って星の外まで連れ去るなんて、なんて悪党なんでしょう』
「同意の上だっつーの!」
彼らはこの星で唯一の第三世代人型兵器を駆り、空へと飛び上がった。