「あの船に向かってくれ、援護する」
「地上はこんな形をしていたんだな……思っていたよりも酷い風景だが」
『元からこうだったわけじゃないんですけどね』
「まあなんだ。諸行無常、色即是空ってね」
傭兵にとっては見慣れた光景だが、他の者達からすればそうでもない。空を飛ぶ大量の無人航空機と巨大な宇宙船はこの街を一瞬にして瓦礫の山へと変えたが、これ以上の攻撃をしないということは、レジスタンスも地下の生産施設に危害を加える気はないということだろうか。
「邪魔になりそうな機体は撃ち落とす、ホーミングレーザーを使うぞ」
『こういう時くらいにしか使い道がありませんしね、了解です』
「痒い所に手が届く、いい武装じゃあないか」
肩部に増設された追加装甲の上面が開き、複数のレンズが露出する。そして人間が一瞬で蒸発するような出力のレーザーがそれを通して真上へと発射されたかと思うと、カンナギが持つ重力制御機関が唸る。
「レーザーが使えるのは掃海艇だけじゃあないってことを、見せてやるか」
本来なら直進するはずのレーザーは空間の歪みによってその進行方向を捻じ曲げられ、十数発の光線達は各々が違う方向へと散っていく。そして進んだ先に居た無人航空機を次々と撃ち落とし、その威力を示していく。
『全弾命中、これでカンナギの存在がレジスタンスにも露呈しましたね』
「このままねじ伏せられる、問題はない」
人造人間達が駆る人型兵器がコンテナ船の後部ハッチに入っていくのを見て、これ以上の援護は必要ないと傭兵は判断した。掃海艇は仲間の人型兵器を降下させたため、同士討ちを避けるためか対地攻撃は殆ど行っていない。局長代理を迎えに行くには最良のタイミングだろう。
「局長代理を回収して船に戻るぞ、このままじゃあ何が起きても不思議じゃあ…」
『工廠内部から膨大な熱量を観測、何か来ます!』
「それみろ!」
工廠の屋根を突き破って現れたのは、左右合わせて横幅50mを超える、巨大な羽を有した何かだった。その機体には大量の武装を抱えており、ステルス性は最初から捨て去っているのが即座に分かる。機体各所に設けられた砲台はレジスタンスの掃海艇へ砲口を向け、一斉に攻撃を開始した。
「なるほど、対地攻撃機ってわけか」
『陸上艦と同じく、格下を一方的に刈り取るための機体ですね。問題は陸上艦ほど雑な作り方をしていなさそうなことですが』
協商連合の宇宙船が度々この星を訪れているとのことだったが、恐らくそれによって持ち込まれた機体だろう。最前線の惑星でこんなデカブツを飛ばしてもいい的だが、この星でなら無敵の空中要塞と化すに違いない。
「データベースに該当する機体が無いか検索をかけてくれ、この星の奴らが独自に作れる機体とは思えない」
カンナギのセンサー群から得られた情報は、あの巨大な攻撃機が慣性制御装置と重力制御機関の二つを搭載していることを示すものだった。それが本当であれば、中々に手を焼く相手だ。だが味方が守るコンテナ船はこれで影が薄くなった、このまま勝手に戦ってくれれば御の字だと傭兵はこの惨状を見ながらも判断を下す。
「局長代理にこのことを聞いてみるか、情報の一つでも手土産にしてくれていると良いんだが」
『宇宙船と巨大攻撃機の怪獣バトルです、一刻も早く手を打たねば帰る船がなくなりますよ!』
「だな!」
舟と飛行機が撃ち合うのを尻目に、盾の裏に装備していた多目的ランチャーを空へと向ける。複数の信号弾が中央工廠の空を彩るが、工廠上部のヘリポートから別の信号弾が打ち上げられた。個人用の小さなものだったが、ミナミが目印とするのには十分だ。
『見つけました、ヘリポートをマークします』
「了解だ。彼女の情報は確かだった、こっちも義理を返さないとな」
カンナギは自らを狙う対空砲をホーミングレーザーとビーム砲で吹き飛ばし、対空網の中を突っ切っる。加速を始めてから一瞬で音速を超えた機体は衝撃波を周囲に浴びせながら、ヘリポートへと向かった。
ーーー
ーー
ー
迂闊だった。防衛隊が陸上艦が沈んだことで何か騒いでいることは知っていたけれど、まさか星外からあんな化け物を調達しているとは。それを組み上げるだけの技術も維持するだけの設備も無いはず、それに屋根を突き破って出てきたということは出撃の予定はなかったと推察できる。
これで彼らの信用を失なってしまうのは避けたい。だがこの街の被害をより大きなものにしてくれたことに関しては、防衛隊に礼の一つでも言っていいだろうか。
「間に合ってくれると、いいんですが」
信号弾を打ち出した使い捨てのランチャーを軽く投げ捨て、両手を上げる。ヘリポートには一人の男がおり、彼に命令された治安維持隊員が列を成して銃をこちらに構えていたからだ。
「よくもやってくれたな、局長代理。貴様のおかげでこのザマだ」
「あらお父様、まだ歩けるとは思いませんでした」
「惰性で残しておいたのが間違いだった、すぐさま処分しておけばこのようなことには…!」
自らの前に立つのは本来の治安維持局局長、遺伝子上の父だ。隠れて投与した薬によって臓器不全を引き起こさせ、今や立って歩くことすらままならない筈だった。しかし衰え切った骨と筋肉は人工筋肉と金属フレームを組み合わせた強化外骨格によって支えられ、彼の手には拳銃が握られている。それでも銃は震えていたが、彼の目には明確な殺意があった。
「本来ならこのような真似はする気が無かった、私と同じ目に合わせてから殺してやろうと思っていたのでな」
「ではどうすると?」
「すべてこの場で吐け、吐かなければ拷問にかけてでも喋らせるが…この惨状について知らねばな」
彼の城だった筈の中央工廠は、今や瓦礫の山と化している。最も重要な生産設備は生きているとはいえ、ここまでの被害を受ければ以前の形へ戻すことは難しいだろう。だがこれでいい、罪のない人々が大勢被害を受けたことには心を痛めるが、それと同時に開放感が私の心を満たしている。
「貴方の遊び場はもうなくなった、これで十分でしょう?」
私の母、そして私以外の母にしたことの報いは受けてもらいたかった。局長代理として立場を奪えた期間は短かったが、取り返しのつかないほどに身体は壊した。これだけやれれば上々だ、むしろここまでやれるとも思っていなかった。
「レジスタンスは遅かれ早かれここを攻めていました。だって、都合のいい駒が手に入ったんですから」
「駒だと、お前は何を…」
「地下で使っていた人造人間、その逃亡を手引きしていたのは私です。そして第二世代機を横流しして、防衛設備の位置から内部構造まで教えました」
死ぬ前に全部ぶっ壊してから死んでやろう、自棄になった私はそう考えていた。しかし想定外の存在により、この計画は大きく早める形で実行された。
「こ、この女を捕まえろ!殺すな、責任を取らせなければ私が、私が」
男の指示により、隊員達は銃を置いてじりじりとこちらに近付いてくる。ここで捕まってしまうと、回収してもらう際に面倒をかけてしまう。最も彼らが本気で私を攫いに来てくれる保障など何もないのだが、壊れた街を背景にここで死んでも悪くないと思えた。
「ではお父様、今後の活躍をお祈りしておりますので」
「馬鹿な真似を…本気か……あ?」
迫る隊員達に背を向け、ヘリポートの外へと走り出す。落下防止の柵は低く、張られていたネットは経年劣化により千切れてなくなっていた。飛び降りるのに邪魔な障害はない、隊員達に追い付かれないよう全速力で駆けるだけだ。
「お、おい!走れ、絶対に逃がすな!」
焦る男に罵倒の一つでも浴びせてから飛び降りようかとも思ったが、こちらへ迫ってくる一つの機影を見て、それもやめた。
「何してんだ局長代理、せっかく来てやったのに死ぬ気か」
『最後の最後で詰めが甘いですね、大丈夫ですか?』
落下して数秒と経たずに、私の体は空を飛ぶ人型兵器の手の中に収まっていた。この星から出たいとは言ってみたが、本気にしたことはなかった。だが今この瞬間から、それも悪くはないのかもしれないと思えた気がした。