辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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逃亡

「こちらカンナギ。情報提供者を回収した、これより帰還する」

 

「早く帰ってこい、いつ流れ弾で死ぬかも分からん!」

 

「大丈夫だ、一発や二発なら防げるさ」

 

 掃海艇が薙ぎ払うように放ったレーザーがコンテナ船を掠めるが、光は捻じ曲げられて当たることはなかった。重力制御機関を全力で稼働させるにはかなりの演算能力が必要になるが、局所的な防御に使う程度であれば、ミナミコピーの電子頭脳でも可能だった。

 

『これは中々負荷が大きいので、そう何度もは使えませんけどね』

 

 カンナギはコンテナ船の上部エレベーターに降り立ち、船のメインシステムとつながる通信ケーブルを機体と繋げた。レジスタンスの機体と散発的な戦闘を繰り返していた仲間達は船へと飛び乗り、置いていかれぬようにとしがみついた。

 

「全速前進だ、中央工廠から離脱する」

 

『アイアイサー。ミナミコピーより全船員へ、衝撃に備えて下さい』

 

 隊長の指示により船は動き出し、カンナギの演算能力が重力制御機関を自在に操る。争うレジスタンスと防衛隊は動き始めたこちらに気付いたのかは定かではないが、船の周囲に流れ弾が飛来する。

 

「攻撃機と掃海艇の動きは?」

 

『互いに有効打となる攻撃がなく、消耗戦を続けているようです』

 

「だがそのままとは思えん、いつか動くはずだ」

 

 艦橋の窓から外を見ていた隊長はそう言うが、その予感は当たっていた。掃海艇はレーザーによる攻撃をやめたかと思えば、船首の発射管から何かを打ち放った。それはミサイルでも魚雷でもなく、巨大な紐が先端のロケットモーターに引きずられて伸びていく。

 

「あれは…?」

 

『爆導索ですね、機雷処理のための装備ですが…宇宙用となると』

 

 ミナミコピーがあの装備が何なのかを解説した直後、隊長と彼女はあることに気が付いた。アレは爆発物の塊だ、下手な爆弾やミサイルとは比較にならないほどの。

 

「全隔壁閉鎖だ、パイロットはコックピットハッチを占めろ、そして全員耳を塞げ!」

 

 宇宙では爆発物の加害範囲は変化する。飛び散る金属片は速度を保ったまま飛び続けるが、それ以外は伝達する物質がないため周囲には影響を及ぼしにくい。宇宙でも十分に威力を発揮するように大量の爆薬を取り付けられたケーブルは、中央工廠の上で点火された。

 

「がッ!?」

 

 衝撃波は軽くなっていたコンテナ船を浮かせ、家屋の残骸をまとめて吹き飛ばす。攻撃機も影響は免れず、大きく失速しながら落下していく。そして撃った掃海艇自身も無事では済まず、地表へと落下した。

 

「無事か、状況は?」

 

『隔壁の閉鎖が間に合いました。船員も重力制御機関の使用時だったため内部に収容しており、現状転んだ数人を除いて怪我人はいません』

 

「傭兵、外はどうなっているか見えるか」

 

「船は墜落、攻撃機はフラフラしてるがまだ飛んでる。正直言って不味いな、レジスタンスの野郎自滅しやがった」

 

「交易拠点へ帰ることが出来ればいいが…」

 

「今ので俺の偵察機もダメージを受けた、悪いがもう上からの視界は提供できない。予備を飛ばしてはいるが、ドンパチ始まった時に逃がしてたんで到着が遅れる」

 

 傭兵のステルス偵察機もあの爆発により、データリンクが途切れてしまった。一応飛べなくなったわけではないらしく、母艦へ帰還するとのことだ。

 

「兎に角離れるぞ、この場は危険過ぎる」

 

『攻撃機も不時着するようです、逃げるのならば今ですね』

 

「ああ、ある意味では千載一遇の好機というわけだ」

 

 船はモーターを唸らせ、キャタピラで前へと進む。すると甲板の上でカンナギが立ち上がり、なにやらビーム砲を構えて何かを見ている。

 

「どうした傭兵、何かあったか」

 

「渓谷が崩れてやがる、前のルートは使えないぞ!」

 

「…不味いな、それは」

 

 先程の衝撃波に加え、あの渓谷では砂賊とかなり派手に戦っている。崩れてしまっても不思議ではないだろう、別のルートを通ろうとも交易拠点側まで道が通じているとは限らない。

 

『別のルートでも帰れますが、かなりの遠回りになりそうですね。下手に時間をかければあの攻撃機が追ってくる可能性もゼロでは…』

 

「カンナギの存在が露見した以上、追われる可能性はあるか」

 

『レジスタンスも船が墜落してますし、次は我々というのも不思議ではありません』

 

「だが拠点まで帰らねば傭兵のコルベットがない。人造人間達の治療を後回しにするわけにはいかん、あまり猶予は無いと聞いている」

 

 思考が止まり、船だけが前に進む。艦橋は静寂に包まれるが、隊員の一人が立ち上がって地図のある地点を指差す。

 

「確か傭兵殿が得た情報によれば、中央都市と中央工廠の間には宇宙船のドックがあるんだったな」

 

「カザマキ、何か考えが?」

 

「この修理中の船を奪ってしまえばいい、というのは些か乱暴か」

 

「…聞こう」

 

 船の航行はミナミコピーに任せ、机型のディスプレイに映し出された地図を見る。彼女は傭兵に連絡を入れ、情報提供者と通信を繋いでいるようだ。

 

「目下の問題は防衛隊の大型攻撃機、あの機体に追われることだ。だが宇宙船を盾に出来れば、大規模な対地攻撃は行えない」

 

「確かにドック周辺の設備に傷を付けたくはないだろうな、高価値目標を盾にするわけか」

 

「交易拠点への撤退は一時的に諦め、ここに逃げ込む。中央工廠には居られない、中央都市からこの事態を収めるための部隊も来るだろう」

 

 敵の防衛戦力も配置されているだろう、この星の外へ出られる唯一の手段である宇宙船が無防備だとは思えない。しかしカンナギは、並みの機体相手では常に圧倒できるだけのスペックを有する。制圧は不可能ではないだろう。

 

「…いや、無理をする必要はない」

 

「傭兵、だがこれ以上の策は」

 

「カンナギの存在が露見したんだ、無理して隠し通す必要もなくなった。コルベットを出す、隠しドックで合流だ」

 

「ほ、本気か、傭兵殿」

 

 傭兵の船が今まで温存されていたのは、統治機構が残った船全てで攻撃を仕掛けてきた場合のリスクが大きかったからだ。レジスタンスが掃海艇を出しても即応可能な船が無かったという事実は、コルベットを出すか出さないかという判断に大きく絡む。

 

「長引いても仕方ねぇや。レジスタンスが始めやがったこの戦争、俺達で勝ちを掻っ攫おう」

 

 戦闘の余波で跡形もなくなった中央工廠を見て何かが吹っ切れたのか、傭兵は自らの偵察機を中継機として船へと指示を飛ばす。そしてその数秒後には、その威容を示すかのように空へと浮かび上がった灰色のコルベットの姿があった。

 

「相手がデカい兵器を出すからなんだ、それでビビるようじゃあ傭兵なんてやってられないぜ」

 

 局長代理の内通と傭兵からの情報提供によってか、レジスタンスは動き始めた。そしてそれを利用しようとした傭兵達もまた、巣を突いて出してしまった蜂と戦うことになる。

 

 彼らが帰り道を失い逃げる先で何が待っているのか、傭兵の切った手札は他の勢力にどのような影響を与えるのか、そして最後に勝つのは誰なのか。先の見えない戦争は、混乱のまま総力戦へと移ろうとしていた。

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