「協商連合製の衛星軌道防衛ユニット、人型兵器をコアに使った構成か」
『現在は無人化された上に、人型兵器を組み込む必要はなくなっています。かなり昔、それも試作段階レベルの代物では?』
陸戦隊が制圧を進める中、傭兵とミナミは件のコンテナを開いていた。小型の作業船を横付けし、電力や燃料を供給して無理矢理システムを叩き起こす算段だ。
多少古いとはいえ協商連合製ならば知見はある、ミナミはステーションやコンテナ内に残されていた資料から、メンテナンス用の管理者権限を難なく取得した。
「扱いきれずに放置してたんだろう。浮かべてたって撃つ相手が居ないんだし、有人機を宇宙に放り出し続けるってのも大問題だ」
『火力と装備だけは一丁前ですね。対艦クラスの三連装ビーム砲が二基、八連装ミサイル発射器が八基、迎撃用のレーザー砲四門、とんだハリネズミです』
「データ取りのために作って、後はこんな僻地に売却されたか、交渉材料扱いってことか。マトモに動くんなら艦隊の足止め程度は可能だな」
船を沈めるとなると流石に性能不足だが、その機体構成は面白い。当時多く量産されていた機体を中心に、人で言うパワードスーツのような機構が四肢に覆いかぶさっている。恐らく高Gに耐えるための措置だろう、この重量では振り回された際に自壊しかねない。
そしてその背中には耐熱装甲を折りたたんで収納した大気圏突入ユニットがあり、さらにその後ろには前述した火器が搭載されているわけだ。
「二手に別れた敵艦隊だが、俺のコルベットなら潰すのは簡単だ。だが既に起動しているとなると、レーザーやレールガンで一発とはいかない」
偵察機から得た移動ルートを見るに、片方は星の裏側から地上へ降下し、もう片方がこちら側に向かってきている。乗っ取られたステーションの破壊と、コルベットの足止めが目的だろうぁ。腐っても海賊、中々気合の入った作戦だ。
『片方を潰している間に、もう片方の降下を許す可能性があります。地上で核融合炉を爆発させ、重力制御機関が暴走すれば…』
「安全装置がちゃんと働けばいいんだが、そうもいかなさそうってわけだ。奴らの目的は隠しドックだろうし、墜落して心中ってのは困るしな」
機体は思っていたよりもあっさりと起動し、装備はあまり劣化していない。酸素の無い環境に置かれていたからだろうか、傭兵達にとってはなんにせよ好都合だった。
「コイツからは有益な情報は得られなさそうだな。裏に行った奴らはコルベットで地上に着く前に沈める、時間稼ぎのミサイルは?」
『予定通りの地点で起爆、破片の雨により敵艦隊は急遽突入ルートを変更しています。自転速度の関係もありますが…最短の突入は阻止できました』
「ならいい。ステーションを粗方調べたら吹っ飛ばして地上へ戻るべきかもな、海賊船はコルベットに任せればいい」
コルベットは星の裏側へ急行しなければならない。船が再度加速を始め、ステーションから離れていくのを見守る。ついでにと言わんばかりに周囲のデブリをレーザーで吹き飛ばすが、加速の際にステーションを破壊しないよう、距離を取ってくれている。
「協商連合はこの星に肩入れして、どんな利益を得るつもりだったのか…」
『何かと不可解ですが、海賊の内情からして筋の通った思惑は既に瓦解しているのでは?』
「まあ考察しても無駄かもな、やけに動きのいい無人機は気になるところだが」
地上ではレジスタンスと海賊の全面戦争が始まっているだろう。中央工廠が戦闘の余波で吹っ飛んだ以上、どの勢力も長期戦は不可能だ。
『陸戦隊が司令室を確保、システムの掌握を開始しました。ここで何か分かれば、仮説の一つでも立てられるかもしれません』
「どうだかねぇ」
『……この宇宙ステーションは、惑星開拓システムに接続しています。あまりにも大きなセキュリティの抜け穴ですね』
「は?」
『衛星による惑星環境のモニタリングは、このステーションを通じて地上へ観測データを送信しているようです。大気の構成や状態の管理にも噛んでいるシステムらしく、壊すわけには……』
「海賊がそれを分かってると良いんだがな」
急行してくる敵の艦隊は、どこまで事態を把握しているのか分からない。ステーションが破壊されるという最悪の事態は避けたいが、こちらのコルベットはもう片方の敵艦隊へ向かっている。
『ここを起点にして中央都市に電子戦を仕掛けられますが、やります?』
「……そうだな、やっちまおう」
『腕が鳴りますね、気分はテロリストですよ』
「レジスタンスは無線を聴く限り中央都市近郊にまで攻め上がってるらしい、システムを掌握できれば奴らは俺達と交渉する他なくなるさ」
仕掛けるとしても、相手は惑星全土の環境を管理する巨大なシステムだ。完全に掌握するためには、それなりの時間がかかるだろう。
「適当な所で逃げようと思ってたんだがなぁ。やっぱりコルベットが帰ってくるまで時間を稼ぐか、ステーションを防衛するぞ」
『作業船では何も出来ませんよ』
「あの変な機体があるだろ?」
『……足止めにはなるかもしれませんが』
「陸戦隊のアンドロイドを何機か借りてく、危なそうなら逃げろよ」
傭兵は相棒がステーションの内部へ向かうのを尻目に、起動したばかりの機体へと乗り込む。協商連合製なので見慣れた規格だが、製造元の企業はあまり見慣れない名前をしている。
「この企業、確か買収されてなかったか。昔はこんなもん作ってたとは、周囲との差別化で気を衒いすぎたってところかな」
コアになっている人型兵器は一般的な第二世代機だが、コックピットはかなり手が入っているらしい。システムが完全に立ち上がると、独自の改修が施されたOSが各種兵装を認識し始める。
「ヘカトンケイル、名前負けだな」
仰々しい名前を鼻で笑い、そのまま自己診断プログラムを走らせる。長年の放置で一部には不安が残るが、やはり状態は良い。
「だがまあ、趣味の悪い設計と比べると悪くない」
他のコンテナに収められていた弾薬と燃料を詰め込めば、機体はあっという間に出撃を待つだけになる。即応性も開発に際して重要視されたのだろう、使われることなく眠っていた異形の巨人が目覚めるために、時間はさして必要とされなかった。