さて今回は他の艦隊視点です
誤字報告
木村長門守重成さん
ありがとうございます。
統一歴一九二六年六月三十日。
インド洋沖四〇〇浬地点
帝国での任務を終え、皇国に帰投中の皇国海軍西方派遣艦隊こと皇国海軍第二艦隊。
その艦隊の旗艦である長門の艦橋でタバコを蒸す一人の提督…、まぁいつも通りの山口閣下が赤いペンで色々と書き込まれた海図と睨めっこしていた。
「…こりゃあ…めんどくせぇなぁ…」
情報部からの通信によるとインド洋の何処かに植民地から出港した連合王国の巡洋艦隊が航行しているらしい、コレだけならまだいいがその連合王国巡洋艦隊の出現予想位置と第四次帝皇連絡潜水艦隊の航路が被っているのがまた面倒くさい。
当たり前にその連絡艦隊の航路付近に出向いて巡洋艦隊が来たら沈めるのが一番の策だろう。
問題はだ、その巡洋艦隊の目的が対潜哨戒だったら…、つまり連絡艦隊を狙って出航していたと仮定するとどうなる? だとすれば断片的にでも帝国や皇国の情報が連合王国に漏れていることを意味する。そして、ここまで支援していた共和国がボロクソにやられて尚且つ皇国によって海軍が強化されようとしている。ならば、その技術交換の要たる連絡艦隊を撃沈しようと躍起になっているはず。
実際、帝国の武官と皇国の武官を交換する第三次帝皇連絡潜水艦派遣作戦においては回収に来た皇国の艦隊が連合王国の艦隊を発見したという。
幸いにもその時は霧が出ていたから当の連合王国艦隊に見つからずに済んだが…。今回は霧の確認がされていない、その上曇天と来たもんだから航空機による事前偵察が不可能な状況にある。
「…わざわざ数少ない空母を借りてきた意味がなくなったな…」
ハァ、と溜め息を漏らし少し顰めっ面になりつつ落胆する。
そう、この派遣艦隊に空母がいた理由、それはブレストへの弾着観測射撃のためでも鹵獲、接収した戦艦の曳航でもなくインド洋横断時のための広域偵察のためであった。
その為に海軍でも四隻しかない空母を一隻借りてきたのだが、これではほぼほぼ有視界戦闘と変わらない。完全に骨折り損だ。
もう一つの任務である連絡艦隊の火の粉落としだけでなく、連合王国から連絡艦隊への目を逸らす任務も十分に行えない。
「見張り員、敵艦隊と思しき艦影は?」
艦橋に取り付けられた伝声管から真上の見張り塔にいる士官にそう質問する。
『敵艦隊と思しき艦影未だ見つからず』
先ほども聞いた質問にまた同じ様な返答が帰ってくる。
「…さてと、だ」
艦橋内の椅子に座り、また思案を巡らす。
にしても、こちらから言いだした事とはいえよくもまぁこんな簡単に選りすぐりのエースを引き渡してくれたな。
それも旅団丸ごと、これは何か対価を迫られるかと思えば
内容を要約すると何処かの国が侵攻してきたら防衛と逆侵攻に協力してくれという事だろう。
…何か裏がある?
だとしても一体どの様な…?
「あの三羽鴉め、何を考えてやがる…」
ボソリと、自然にそう呟いた。
────────────────ー
時は遡り統一歴一九二六年六月二十七日、デグレチャフ姉弟の出発前。
帝国軍参謀本部。
「ゼートゥーア、本当にアレを送ってよかったのか?」
眉を顰め、上質な葉巻を咥えながら未だにいささか納得が行っていない表情でゼートゥーアを見るルーデルドルフ少将。
「ああ、かまわん。そうだろう? マンシュタイン」
そんなここ最近見慣れた表情に興味を向けずいつも通り答え、軽く蒸していた割と国民的な煙草を口から放し、マンシュタインに返答を求めるゼートゥーア少将。
「そうだ、我々の本当の敵は西にあらず。こちらから手を出さなければ連合王国や合衆国を相手に戦う必要もない」
この中で唯一タバコを吸わず、代わりとばかりに上質なブラジル産のコーヒーを飲んでいるマンシュタイン少将。
帝国の頭脳たる参謀本部、その中でも極めて優秀かつ革新的な考えを持つ三人がそこに集まっていた。
「お前が言い出した『潜在的脅威に対応する為の予備的な東部方面軍拡充及び有事における二対一作戦』か、確かルーシーとは不可侵を結んでいる上現在秋津洲皇国の仲介の元同盟を組もうとしているが?」
「無理だな、そもそもあの
そうだ、だからこそ前世では資本主義国家であるアメリカと冷戦が起きた。
今世ではあの美大落ちのチョビ髭が国家元首の立ち位置にいない、なればアカ相手に戦争を吹っ掛ける様な愚行も無いだろう。そもそもこの時期のアカ相手に戦争をふっかけたって勝てる保証は少ない。
だが、あっちから吹っ掛けて来れば話は別だ、高度経済成長に物を言わせた圧倒的物量で攻め込まれては現状の東部方面軍では1ヶ月持たせるのがやっとだろう。あの旅団がいればもう少し伸びるかもしれんがいくら優秀な前線指揮官がいたとて戦争に勝てるわけではない。
ならばだ、各所に散らばっている戦力の一部を東部に集めて防衛に充てるのが現状思いつく現実的な良策、二〇三をひき渡すついでに秋津洲皇国と軍事協力の確約をし、もしアカ共が宣戦布告してきた時には秋津洲が後方から攻撃してくるだろう。
…極論攻撃される前に攻撃できる事ならそうしたいが、それではいくら勝てば官軍といえど後世侵略者の汚名を着せられ、歴史家たちから嘲笑されるだろう。世論というのは核爆弾よりも強力なのだ。
「まぁそれはそれとしてだ、例の共和国に対する報道はどうか? ルーデルドルフ」
「ああ、あの共和国将兵を讃えるものか。今の所上手く行っている」
これはルーデルドルフの提案、共和国に痛打を与えたあの衝撃と恐怖作戦の最終段階として用意されていた代物だ。
曰く、『この後にあの外交上手の連合王国ならこうする』と断言して引っ提げてきた案だ。
これを見て私は前世の記憶を思い出した、
その半分論文の様な案を一通り閲覧していた時、いつの間にか私の顔に冷や汗が浮き出ていた事に気が付いた。
彼は「妄想癖の書き綴りの様な物だから重要視する必要はない」と言っていたがこれはまさに私の生きた世界で起きたメルセルケビーク海戦が前提に置かれていた。
その案に書かれていた一文を引用すると「同盟の元共和国に支援を続けていた連合王国は自国の安全の為、帝国に接収されようとする各種兵力、兵器を破壊しようと行動するだろう」との事だ、まさにこれは前世でブリカスがやったメルセルケビーク海戦の理由そのものだ。
その行動により前世ではフランスの将兵一三〇〇名、戦艦一隻、他にも二隻が中破する大事件になった。
全く笑える話である、ブリカスは自らのシーレーンを脅かされない為にその帝国に向けるべき矛先をかつての友軍に向けたのだから。
確かに、あのチャーブルが前世のチャーチルならこうするだろう。かの常識を覆す紳士たちは自由フランソワ共和国の希望が潰えた以上、ためらう必要もないだろう。現状、まだ接収されてない艦船がフランソワ西部の軍港にある、ラ・フランソワの二番艦と巡洋艦の三隻が残っていた所か。
以前までの我々なら北洋艦隊を急行させ接近する連合王国艦隊を潰そうと動いただろうが今は違う、我々のプロパガンダの為フランソワの方々には犠牲になってもらったのだ。
確かに、私が共和国国民だったらこの同盟国の行動に憤慨するだろう。だが我々はそこに漬け込むのだ、元来、あの国の民族は世論に動かされやすい傾向にある。そもそも連合王国との仲も悪い、ならすぐに世論は反連合王国に傾くだろう。
「敵であったその勇敢なる共和国兵士に対し敬意を表する。そしてその勇敢なる兵士に対し卑劣極まる行動を行う連合王国に断固とした抗議を示し、その凶弾に倒れた共和国兵士に哀悼の意を表する」だそうだ、いつの間にこんなに帝国は成長したのか?
全くもって同じプロイセンとは思えんぞ、これは。
旧来の帝国において外交とは戦争後の各種書類処理であったにも関わらず、今では帝国のもう一つの情報部と化している。
…そういえば、
かの有名な帝国黎明期における名宰相の行った鉄血演説、この理論の元帝国は母体がそもそも軍事的に強かったのも相まって戦争で勝つ事で動いていた。だが、もうここから先、大戦に発展してはそれだけでは通じないと彼らは断言したのだ。
まるでこれから起こる事全てが見えているような感触だ、実際のところ、彼らを秋津洲に送るのは少し失策かと思ったがあの領土を高速で進軍するならあのレベルの旅団は必要、彼らは電撃戦における自動車化戦力の用兵にも長けている。なら、秋津洲に送ってそこで自動車化戦力を鍛えてもらおうじゃないか。
私はかの姉弟の事が未だに薄気味悪く感じる、いつも我々の一歩先を進み、いつも我々を驚かせる。一体その発想は何処から来るのか、一体どのような確信を持って断言するのか。
…彼らも転生者…、とかか?
思案しながらテーブルに置いていたコーヒーを口に運ぶ、香り高いが一口飲めば深い苦味と少しの酸味、そしてスッキリとした飲みごたえを喉で感じる。まるで彼らのようだ、見た目を見れば高貴な軍人だが、一つ考えを覗いてみればこの苦味のように深く、かつ酸味の様に少し意外性を持つ、だがそれが全て何故かスッキリと腑に落ちる。
少し思案に耽っていると、扉の方からドタバタと音がした。
「ゼートゥーア閣下!ルーデルドルフ閣下!マンシュタイン閣下!」
バタンとドアを突然開けたレルゲン中佐、異様に慌てた様子だが…。
「き、緊急です!
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同時刻、
連合王国海軍大臣チャーブルの執務室
バルカンで戦争だと!?」
ついに火薬庫が爆発した。
士官の報告に驚き、またもや飲み掛けの紅茶を溢すチャーブル。
この世界では初めての大戦以外の戦争、バルカン戦争が開幕した。
バルカン半島の戦争は帝国の大併合によってオーストリア=ハンガリー帝国が成立しなかった事により史実の年代で起こらなかったのだ。
これにより、連合王国は帝国だけでなく地中海の問題も抱えることになる。
だが、結論から言うとこの戦争は割と短く…、時間にすると約一ヶ月で幕を迎える。
それはなぜか、イルドアの乱入と社会主義の脅威である。
経緯を話すと…。
バルカン半島で戦争が起こり、ブルガリアがオスマン帝国に宣戦布告し被害を受ける。
↓
それに乗じ、イルドアがオスマン帝国の持つ一部のアフリカ植民地を取得するため参戦する。
↓
オスマン帝国が余計に被害を受け、政府が弱体化する。
↓
弱体化したのを見計らって、国内で共産主義勢力による革命が起こる。
↓
↓
オスマン連邦が成立する。
と言った具合である、それにより、颯爽とルーシー連邦はオスマン連邦をインターナショナルに呼び込んだ。
つまり何が言いたいか、バルカン半島に余計な火薬がぶち込まれてしまったと言うことだ。
結局としてこの世界の第一次バルカン戦争チャーブルの胃は余計に痛み、帝国は唖然とし、イルドアは余計バルカンの監視に負荷がかかり、ルーシーは新たにできた仲間に喜ぶ事になる。
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時間は戻り、統一歴一九二六年七月十八日
秋津洲皇国近海
「大佐、もうすぐ到着です」
「ああ、わかった」
潜水艦に乗る事二十四日、やっとこさ秋津洲皇国の近海までたどり着く事が出来た。
途中上の方から戦闘音が聞こえた時はヒヤリとしたが、なんにせよ問題がなかったのはいいことだ。
さてそれはそれとして、遂に念願の後方勤務!そして懐かしき我が故郷日本!
いやぁ…全くもって楽しみだ。
自然と、ニタリと顔が歪んでしまうぐらいには。
To Be continued…。
お読みいただきありがとうございます。
最近この小説を書くスピードが落ちてる気がしないでも無いんですよね…。
まぁそれはそれとして、秋津洲皇国に辿り着いたデグ様一行、一体何が待ち受けているのやら…。
幕間鋭意製作中です。なのでもう少々お待ちを…。
秋津洲皇国の魔導師エース
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居る
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いらない
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いっぱいいる
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ドーモ、ソウギン=サン、ニンジャデス