ありふれないヤンキーコンビは世界最高   作:MUGEN&RUDE好き

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11話

 

 橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ大小2つの魔法陣。小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

 

 しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバイとハジメは感じていた。

 

 十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……

 

 メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

 その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。

 

 どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

 

 そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

 

 衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

 そんな中一人、園部が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

 そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

 

 死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間‥‥

 

「ーー〝焔弾〟」

 

 突如燃え盛る岩がトラウムソルジャーを捉えた。直撃したトラウムソルジャーはバラバラになりながら橋から奈落へと落ちて行った。

 

「おい園部、大丈夫か?」

 

 司がそばへと駆け寄り、倒れていた園部を引っ張り起こす。先程の攻撃も近くに居合わせた司が放ったものだった。

 

「う、うん。ありが‥‥!?‥危ない!」

 

 園部がお礼を言おうとした直後、司の背後に剣を構えたトラウムソルジャーが目に映り、必死になって叫ぶ。

 しかし、そんな心配は無用だった。

 

「シッ!!」

 

バゴン!

 

 駆けつけた楓士雄がトラウムソルジャーの顔面に拳を叩き込む。喰らったトラウムソルジャーは地面を転がりながら吹き飛び、そのまま消滅した。そしてそこへ楓士雄と一緒にいたハジメも合流した。

 

「司!」

「コッチは平気だ。けど、状況は良くねぇな。」

 

 そう言ってあたりを見渡す。

 

 トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。

 

 隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

「みんなバラバラ‥このままじゃ数で押されてジリ貧になるよ。」

「分かってる。おい楓士雄!」

「なんだ?」

 

 ハジメの言う通りこのままでは全滅するのも時間の問題。その為にはクラス全体の陣形を立て直す必要がある。そこで司はそれを成し得る楓士雄の事を呼ぶ。

 

「見ての通り今のクラスはバラバラ。連携もクソもありゃしねぇ。だからお前がアイツらをまとめろ。お前にだってリーダーの素質がある。これまで過ごしてて、アイツらもお前には気を許してるだろうし反発されるこたねぇだろ。」

 

 これまでの学校生活では、クラス全体の雰囲気は光輝が引っ張るのが常であった。しかし楓士雄の方もこれまで鬼邪高で荒くれ者達をまとめ上げ、転校して来た後もクラスメイト達と瞬時に打ち解けたカリスマ性とリーダーシップは相当なものだ。前線の光輝を呼び戻す時間も惜しい今、この場で全員をまとめる事が出来る唯一の男なのだ。

 

「‥分かった。で、どうすりゃいいんだ?」

「別に難しい事じゃねぇ。俺が広範囲の魔法で敵を蹴散らす。その間にお前がクラスの奴らに呼び掛けんだよ。『バラバラじゃ勝てない。陣形組み直せ』ってな。」

「‥要は力合わせろって声かけりゃ良いんだな?よし分かった!」

「園部も行けるか?」

「‥!‥うん。分かった!」

 

 バラバラなクラスメイト達をまとめ上げるべく楓士雄に作戦を伝え、会話をあらかた聞いていた園部にも協力を促す。

 

「ハジメは‥」

「ごめん司くん。僕できる事があるかもしれない。」

「‥?どういう事だ?」

 

 そしてハジメの役割を伝えようとした時、ハジメが2人に自分ができ得るある作戦を提案した。それはハジメがベヒモスの近くまで接近し、自身の〝錬成〟を使ってベヒモスの足下遠封じると言うものだった。その内容を聞いた司は慌ててその作戦に反対する。

 

「危険すぎるだろ馬鹿野郎!そのまま押し潰される可能性のが高ぇんだぞ!」

「でもどっちにしろ足止めできなきゃ脱出できないよ!皆がいくら攻撃してもビクともしないベヒモスをその場に抑えられるのは僕の〝錬成〟しかない!」

「!‥ハジメン‥‥」

「お願い。光輝くん達が撤退するまでだし、絶対無茶はしないから。」

 

 司の反対にも臆する事なく声を荒げるハジメ。2人は今まで見る事のなかったハジメの強い意志を宿した眼を目の当たりにして気持ちが揺らぐ。

ハジメの言い分は全くもって正しいが、今なおクラスで最弱のハジメを目に見えて危険な死地にすんなりと送らせる訳にもいかない。

 

 しかし成功すれば全員で生き残れる可能性が格段に上がる。そして何より、これほどの今までにない覚悟を見出したハジメをこれ以上引き止めるのは、親友として野暮と言えよう。

 

「‥‥‥あぁー、分かったよ。ただし、危険だと思ったらすぐに離脱するんだぞ。」

「ぜっっってぇ無茶だけはすんなよ?コッチが片付いたらオレらもすぐにハジメンの事迎えに行くかんな!」

「‥!‥うん!」

 

 そうしてハジメは2人と別れて光輝達の元へ向かって行った。ハジメがあれほどの事を成す以上、楓士雄と司もやるべきことをきちんと成さねばならない。

 

「ーー〝爆蒸〟」

 

 司が火属性と水属性の魔法を組み合わせた攻撃を放ちトラウムソルジャーの大群の中央に到達した直後、強力な水蒸気爆発が起こりトラウムソルジャーの大群が一斉に吹き飛ばされる。

 

 そこへ‥‥

 

 

 

「おいお前らぁぁっ!!」

 

 

 

 トラウムソルジャー達が吹き飛ばされて命拾いしたクラスメイト達だが、突如響き渡った声の方を見ると、そこには楓士雄がいた。

 

 

「バラバラにやったって勝てねぇぞ!皆で協力して力合わせろ!皆で生きてここを出るんだろーが!」

 

 

 全員がハッとしてパニック状態だったのが収まっていく。ようやく自分達が平静で無かった事を理解したらしい。その様子を見て楓士雄が挑発的に笑う。

 

 

「指示は司が出してくれる!オレたちなら必ずやれる!できねぇなんて言わねぇよなぁ!」

 

 

 クラスメイト達はお互いに顔を見合わせて頷く。楓士雄と司が引っ張ってくれるのは彼らにとっても頼もしい限りだった。居合わせた騎士団員らと司が作戦を交わし合い、楓士雄を最前線へと置いて残りは後方へ配置させ、見事に体勢を立て直す事に成功させた。

 

 

 

 爆発から勢いを取り戻したトラウムソルジャー達を見据える楓士雄達。

 

 

 

 そして、かつて楓士雄が鬼邪高での抗争を行なってきた際に、仲間達へとかけてきたこのセリフをもって‥

 

 

 

 

 

         

 

 

 

 

       今、反撃の狼煙が上がる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    「行くぞテメェらぁぁーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡ること数分前‥

 

 

 ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

 

 障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているがそれもいつまでもつか‥

 

「ええい、くそ!光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

 メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

 この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

 

 しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。

 

 その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

 

 まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。戦闘素人の光輝達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

 

 しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

 

 苛立つ雫に心配そうな香織。

 

 その時、

 

 

 

 

「行くぞテメェらぁぁーーー!!!」

 

 

 

 

 後方から楓士雄のものと思しき掛け声が響き渡る。何事かと思いメルド団長達が一瞬だけ後ろを振り返る。

 

 するとなんと、先程まであれほどぐちゃぐちゃだったクラスメイト達が見事なまでに体勢を立て直し、トラウムソルジャーどもを迎撃しているではないか。

 

「!‥楓士雄君!司君!」

「ほぉ、あの状態から持ち直させたか‥!そら、あいつらが後ろを立て直してくれた!お前達も離脱して続け!」

 

 雫が彼らの無事を安堵すると同時にメルド団長が2人の活躍に感嘆の声を漏らし、再び撤退を促す。

 

 しかしこの一瞬が仇となった。

 

 

グオオォォォ!!

 

バリィィン!

 

「ぐっ!?」

 

 そこには兜を真っ赤に赤熱化させて障壁を打ち破ったベヒモスがおり、前衛組目掛けて凄まじい勢いで突進して来た。何とか簡易詠唱を済ませてガードする事は出来たが、光輝達が今の攻撃で大ダメージを負い、その場に倒れてしまった。

 

 メルド団長はほんの一瞬とはいえ油断してしまった事を悔やみ、香織を呼ぼうと振り返る。その視界に、駆け込んでくるハジメの姿を捉えた。ハジメは必死の形相で、先程の提案をする。メルドは逡巡するが、ベヒモスが既に戦闘態勢を整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始する。時間がない。

 

「……やれるんだな?」

「やります」

 

 決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

 

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

 

 メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど光輝を狙ったように自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。

 

 そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。

 

「吹き散らせ――〝風壁〟」

 

 詠唱と共にバックステップで離脱する。

 

 その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。倒れたままの光輝達を守りながらでは全滅していただろうが。

 

 再び、頭部をめり込ませるベヒモスに、ハジメが飛びついた。赤熱化の影響が残っておりハジメの肌を焼く。しかし、そんな痛みは無視してハジメも詠唱した。名称だけの詠唱。最も簡易で、唯一の魔法。

 

「――〝錬成〟!」

 

 石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。

 

 ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。

 

 ベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。

 

 その間に、メルドは回復した騎士団員と香織を呼び集め、光輝達を担ぎ離脱しようとする。

 

「待って下さい! まだ、南雲くんがっ」

 

 撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。

 

「坊主の作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろん坊主がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」

「なら私も残ります!」

「ダメだ! 撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」

「でも!」

 

 なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

「坊主の思いを無駄にする気か!」

「ッ――」

 

 メルド団長や楓士雄達を含めて、一撃の火力が最も高いのは光輝である。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら光輝を回復させる必要があるのだ。ベヒモスはハジメの魔力が尽きて錬成ができなくなった時点で動き出す。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

 

 香織は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が光輝を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。

 

 メルド団長は、香織の肩をグッと掴み頷く。香織も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続けるハジメを振り返った。そして、光輝を担いだメルド団長達全員で撤退を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

 

 しかしそんな数的不利をものともせず、道を阻む大群のど真ん中を楓士雄はガンガンと突き進んでいく。大人数との戦いに慣れているのもあり、

あらゆる方向から襲って来ても素早くほぼ一撃で対処できてしまう。

 

 そしてそれ以外のメンバーは真ん中を突っ切って行く楓士雄をカバーするべく、両サイドに集中して魔法を放ちトラウムソルジャーを橋から落としていく。

 

 そしてそこへ‥

 

「皆!待たせたな!」

 

 いつも通りの頼もしい声が響き、何とかある程度の回復を終えた光輝達前衛組が戻って来た。彼らの登場で更にその場の士気が上がる。回復の手が追いつかない程負傷していた者達の元へ香織が駆けつけ、自慢の回復力で傷がみるみる内に治癒されていく。

 

「司!持ち直したんだな!」

「あぁ、前衛組は楓士雄を援護しながら中央を掃討してくれ!俺たちが両サイドを集中攻撃で押し返す!」

「了解だ!お前達!行くぞ!」

 

 メルド団長の呼びかけに応じた司はすぐに作戦を伝えて彼らを楓士雄の元へ向かわせる。そして司の言う通り向かった光輝達は、楓士雄が暴れたおかげでトラウムソルジャーの包囲を易々と突破し、すぐに合流することができた。

 

「おっ、やっと来たか!待ちくたびれたぜお前ら!」

「おしゃべりしてる場合じゃないだろう!このまま一気に突破するぞ!」

「へへッ、分かってるっつーの!」

 

 楓士雄が声をかけるが光輝に軽くあしらわれ、その様子を近くで見ていた雫は「アンタだってそうじゃない‥」と小さくツッコむ。やや緊張感に欠ける様にも見えるが、ここにはクラスの最強戦力が集っている。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。

 

 そして、階段への道が開ける。

 

「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」

 

 光輝が掛け声と同時に走り出し、その後ろを楓士雄が追いかける。

 

 同じくある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。

 

 そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせじと光輝が魔法を放ち蹴散らす。

 

 クラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。

 

「皆、待って! 南雲くんを助けなきゃ! 南雲くんがたった一人であの怪物を抑えてるの!」

「っ!そうだ、ハジメン!」

 

 しかし香織がまだ残っているハジメを心配し、全員を引き止める。それに反応した楓士雄が振り向き、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かにハジメの姿があった。何とか無事である事を確認してひとまず安堵する。

 

「そうだ! 坊主がたった一人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! もうすぐ坊主の魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

 ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。

 

 無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。

 

 

 

 

 

 その頃、ハジメはもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを感じていた。既に回復薬はない。チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。

 

 ベヒモスは相変わらずもがいているが、この分なら錬成を止めても数秒は時間を稼げるだろう。その間に少しでも距離を取らなければならない。

 

 額の汗が目に入る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないくらい大きな音を立てているのがわかる。

 

 ハジメはタイミングを見計らった。

 

 そして、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束する。同時に、一気に駆け出した。

 

 ハジメが猛然と逃げ出した五秒後、地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないだろう。鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し……

 

 ハジメを捉えた。

 

 再度、怒りの咆哮を上げるベヒモス。ハジメを追いかけようと四肢に力を溜めた。

 

 だが、次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

 

 夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

 

 いける! と確信し、転ばないよう注意しながら頭を下げて全力で走るハジメ。すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地がしないが、チート集団がそんなミスをするはずないと信じて駆ける。ベヒモスとの距離は既に三十メートルは広がった。

 

 思わず、頬が緩む。

 

 しかし、その直後、ハジメの表情は凍りついた。

 

 無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。

 

 ……ハジメの方に向かって。

 

 明らかにハジメを狙い誘導されたものだ。

 

(なんで!?)

 

 疑問や困惑、驚愕が一瞬で脳内を駆け巡り、ハジメは愕然とする。

 

 咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑るハジメの眼前に、その火球は突き刺さった。着弾の衝撃波をモロに浴び、来た道を引き返すように吹き飛ぶ。直撃は避けたし、内臓などへのダメージもないが、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまった。

 

 フラフラしながら少しでも前に進もうと立ち上がるが……

 

 ベヒモスも、いつまでも一方的にやられっぱなしではなかった。ハジメが立ち上がった直後、背後で咆哮が鳴り響く。思わず振り返ると三度目の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかりハジメを捉えていた。

 

 そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する!

 

 フラつく頭、霞む視界、迫り来るベヒモス、遠くで焦りの表情を浮かべ悲鳴と怒号を上げるクラスメイト達。

 

 ハジメは、なけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。

 

 そして遂に……橋が崩壊を始めた。

 

 度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超えたのだ。

 

「グウァアアア!?」

 

 悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

 

 ハジメもなんとか脱出しようと這いずるが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。

 

(ああ、ダメだ……)

 

 そして、ハジメの足場も完全に崩壊し、ハジメは仰向けになりながら奈落へと落ちていった。徐々に小さくなる光に手を伸ばしながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこの時‥

 

 

「ハジメェェェェ!!!」

 

 

 一連の流れを目撃した楓士雄が我を忘れてハジメの元へ向かっていた。

 

 降り注ぐ瓦礫を蹴散らし、ほとんどない足場を飛び移って懸命に彼を連れ戻そうともがく。

 

 

 しかし、現実というものは実に非情だった。

 

 

 ハジメとの距離があと少しという所で、かろうじて残っていた足場が急速に崩壊し出したのだ。

 

「っ!クソッ!」

 

 苦し紛れに手を伸ばすが、やはりその手は届かない。

 

 

 

 

 そして楓士雄も、そのまま奈落へと落ちていくのだった。

 

 

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