ありふれないヤンキーコンビは世界最高 作:MUGEN&RUDE好き
「はーい。皆さん席に着いてくださいねー。」
月曜日、ハジメは普段通り学校にギリギリに来てからホームルームを受けていた。25歳とは思えない童顔と身長の低さのせいでクラスメイトから「愛ちゃん」と呼ばれている(本人は不本意らしい)、ハジメ達のクラス担任である畑山愛子が全員に座るよう催促する。
「はい。それではホームルームを始める前に、今日からこのクラスに転校生が2人来るそうです。皆さん仲良くしてあげて下さいね。」
転校生というワードに教室中がザワザワッと反応する。なにしろ学校生活において転校生というのは、多かれ少なかれクラスのみんなに新しい出会いや刺激を与える、来るかどうかわからないテンプレイベントと言っても良い。が、このクラスには真相が知っている人物が約3名ほどいる。その内の1人であるハジメは、
「それじゃあ入って来て下さーい。」
ガラガラッ!
先生が廊下に向かって声をかけると教室の扉が勢いよく開き、2人が入って来た。そして教室内のざわめきがより強くなる。
「今日からこの学校で世話んなる、花岡楓士雄だ!よろしくな!」
「同じく、高城司だ。」
簡単に自己紹介を済ませて、先生に席に座るよう指示される2人。その時ふと楓士雄の目がハジメの姿をとらえた。
「あっ!おーいハジメン!」
そう言って楓士雄がハジメの席へ近づいていき、ガシッと肩を組む。
「良かったーハジメンと同じクラスで!これからよろしくな!」
「どうせ違うクラスになっても探して会いに行ってたろ。」
「あ、あはは‥」
いつも通りムードメーカーな楓士雄とツッコむ司、苦笑いするハジメ。
そんな彼らのやり取りを見て再び教室がざわめく。
クラスメイトにとって、成績こそ普通だが普段の授業は寝てばかりで不真面目なオタクというのがハジメに対する印象だ。しかもそんなハジメがクラスのマドンナ的存在である香織にいつも楽しそうに話しかけてもらっている為、クラスメイトのほとんどは彼に対してあまり良い印象を持っていない。
ただでさえそんな妬み嫉みの対象であるハジメに、さらにこの顔の良い転校生らが仲良さそうに話しかけて来たのだ。『なんでアイツばっかり‥』と言わんばかりに視線が突き刺さる。
そんな悪意に晒され、この先を案じるハジメだった。
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昼休みに入り、楓士雄と司はクラスメイト達に囲まれて談笑していた。
楓士雄は持ち前のコミュ力とカリスマ性であっという間にクラスになじみ、司はその非常に高い顔面偏差値のおかげで女子から高い人気を得ていた。
特に、クラスのムードメーカー谷口鈴、図書委員の中村恵理、不良少女っぽいが根は真面目な園部優香、園部と仲の良い宮崎奈々と菅原妙子、男子では玉井淳史らと仲良くなって話していた。
「ねーねー。そう言えば楓士雄くん達がいた学校ってどんなとこ?」
「あー確かにそれおれも気になるわ。」
鈴が思い出したように質問し、玉井もそれに賛同する。
「あー、オレらがいたのは隣町の鬼邪高ってとこ。」
「‥‥え?」
楓士雄が答えた瞬間その場の空気が凍りついた。
「あーあ、んなあっさり言っちまいやがって‥‥」
「え?なんかダメだった?」
「‥っとにお前は‥」
司は呆れてそう言い楓士雄は首をかしげる。そして呆然としていた玉井が我を取り戻して口を開く。
「な、なぁ。鬼邪高ってもしかして鬼邪地区のあの鬼邪高校か‥?」
「ハァ‥‥あぁ。その鬼邪高だよ。」
玉井達が固まるのも無理はない。鬼邪高校と言えばこの辺りの街で知らないものはいない超有名な極悪不良高校だ。彼らの良くも悪くも不良には見えない雰囲気もあった分、まさかそんなところから転校して来たなんて思えなかったため、衝撃を受けたと言うのも想像に難くない。
「あ、ご、ごめんね。ちょっとびっくりしちゃって。」
「別に。そうなんのも無理はねーだろ。」
「あー、言われてみりゃ普通はそういう反応するよな‥」
気を悪くしてしまったと思って咄嗟に謝る恵理に平気だと言う司とクラスメイト達の反応をやっと理解した楓士雄。
「まぁ自分で言うのもなんだけどよ、オレらも威張り散らかしてー訳じゃねーし、みんなと仲良くしたいってのも本当だ。そりゃ鬼邪校じゃケンカばっかしてたし、いきなり信用しろだなんて言わねーけど、少なくともオレはみんなのことを友達だと思ってる。だから、ちょっとずつで良いからみんなと仲良く過ごしてーなって。」
これは紛れもない楓士雄の本心だ。彼も今までケンカしかやってこなかったが、司やジャム男をはじめとする鬼邪高の面々、鳳仙の佐智雄や鈴蘭のラオウなど、かけがえのない仲間や友と巡り会って来た。だからこそ、その大切さを人一倍理解しているのだ。
「信じてあげて良いんじゃないかな?私も昨日初めて会ったばっかりだけど、楓士雄くん達は悪い人じゃないって思うから。」
「‥!カオリン‥‥」
優しい表情で話す楓士雄の願いを黙って聞いていた鈴達にそう声をかけたのは香織だった。
「私もそう思うわ。彼らはそう言うところに住んでいただけで、よくいる不良とかとは雰囲気も何もかも違うもの。」
「シズっち‥‥!」
香織に続けて雫もそう語る。彼女らも昨日からのやり取りで楓士雄と司がただの不良とは違うと分かっていた。
「アハハ!大丈夫だよー!鈴は別に2人のこと悪い人だなんて思ってないから!」
「うん。私も2人のこと疑ってなんてないよ。」
「あぁ。なんか悪かったな、自分で聞いたくせに。まぁなんて言うか、改めてよろしくな。」
鈴、恵里、玉井がそんな風に言葉を交わす。どうやら2人の『出身を知ったら嫌われるかもしれない』と言った心配も杞憂だったようだ。
「お、おまえら〜〜! こっちこそよろしくな!!」
「ったく、物好きな奴らもいるもんだな。」
「えっ‥‥それって鈴達のこと?」
そんな他愛もない会話をできる程に、楓士雄と司もこのクラスに馴染む事が出来たようだ。隣でずっと黙って聞いていたハジメもこれに一安心。
こうして彼らの新たな学校生活はなかなかに良いスタートを切る事ができた。
そこから2週間が経ち、友達も増えておおむね楽しい学校生活を送っているが、全てが順調と言うわけではなく、2人のことをよく思わない者たちも少なからずいた。
その主な例が檜山大介をはじめとする小悪党組と、クラスのリーダー的存在である天之河光輝だ。
小悪党組と言うのは檜山を中心に仲の良い近藤、中野、斎藤の4人のことであり、この4人はもともと香織によく構ってもらっているハジメ(本人曰く不本意)に嫉妬心をむき出しにしてよくちょっかいをかけてはイジメ紛いのことをやっていた。
当然そんな事を楓士雄達が許すわけがなく、ある日偶然ハジメが小悪党組に呼び出されてリンチされそうになっている所を2人が目撃し、楓士雄が軽くねじ伏せたのだ。
それ以来4人がハジメにちょっかいをかける事はほぼ無くなり、偶に再び手を出そうとしても、楓士雄達を見るや否やビビってすごすごと立ち去るようになった。他3人は本気で恐れているものの檜山だけは楓士雄達を常に恨みのこもった目を向けていると言った状態だ。
そして厄介なのはもう1人の天之河光輝だ。
彼は成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群と言う3拍子を揃えたイケメン中のイケメンであり、クラスのリーダー的な存在である。当然のようにモテまくり、クラス内心でも主に女子を中心に絶大な支持を得ている。
これだけ聞けば問題は無いのだが、彼は唯一の大きな欠点を抱えている。それは「自分の価値観を信じて疑わない事」である。
なんでも思い込みが非常に激しく、自分がこうだと思ったことを無理矢理押し通す傾向がある。たとえ他の人がそれに関して指摘しても、いわゆるご都合解釈を全開にして素直に受け止めず聞き流してしまうのだ。更にタチが悪いのは、光輝自身それが今まで悪い方向に行くことがほとんど無かったが故にその悪癖に拍車をかけているのだ。
そんな偏った正義感の塊とも言える光輝にとって、あの悪名高き鬼邪高校の出身である楓士雄と司はまさにどうしようもない不良と言う風に映ってしまっていた。そのため楓士雄達と仲良く喋っていた生徒達に離れるよう忠告するほどだ。
もちろんそれには幼馴染の香織や雫も含まれており、2人は光輝のことを必死に説得したものの、「本当に悪い奴じゃないならそんなところに行かず真面目に勉強するはずだろう!」と全く聞く耳を持たない。
この有様に、楓士雄は『仲良くしてぇんだけどなぁ』と困り果て、司に至っては絶望的にウマが合わないらしく、しょっちゅう言い争いを行っていた。
そんな風に上手くいかない事も多少あるが(ほとんどは光輝によるとばっちりだが)、なんだかんだで2人は普通の学校生活というものをある程度は堪能していた。
だが、やはり2人は何か面倒ごとに巻き込まれやすいのか、とある事件に巻き込まれることになる。
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日曜日、楓士雄は近くの商店街に買い物に来ていた。
司は今日は別の用事があって来ることができないが、夕方には司の家で夕食をご馳走してもらう予定だ。
ハジメの方も買い物がてら遊ばないか誘ったのだが、どうやら母親が書いているマンガの原稿の締め切りが迫っており、その手伝いで手が離せないらしい。
「ハジメンの奴良いなー。もうそう言う仕事に就けるって決まってて。」
ハジメは学校でこそ不真面目な印象が強いが、両親ともゲーム・マンガ関連の仕事に就いているという環境上、すでにそういった技術は即戦力級であり、進路はほぼ決まっている様なものだ。
楓士雄も将来は何の仕事に就くかなーなどとぼんやり考えながら歩いていると‥‥
「あれ?シズっち?」
通りかかった雑貨屋の前で、飾られているアクセサリーをまじまじと眺めている雫を見つけた。
「よぉシズっち!」
「はうっ!?」
楓士雄が近づいて声をかけると、雫は驚いて変な声をあげながら身体を硬直させて後ろを向いた。
「ふ、楓士雄君?な、なんでここに?」
「いやなんでって、買い物してたらたまたまシズっちのこと見かけたからよー。」
そして楓士雄は雫がそれまで見ていたであろうアクセサリーの品々を覗き込んで「ほー」と呟く。
「べ、別に全然こう言うのが好きとかじゃないからね?」
「いやオレなんも言ってねーじゃん‥‥」
何か焦った様子で謎の否定をする雫にツッコむ楓士雄。
「つーか隠す必要ねーだろ。好きなんだろこう言うの?カオリンから聞いてるぞ。」
「うっ‥か、香織ぃ〜余計なことを‥‥」
「別に良いじゃねーか。なんでそんな隠したがるんだよ?」
「だ、だって‥‥‥」
香織から雫が女の子らしい服装やアクセサリーやぬいぐるみが好きと言うことを聞いていた楓士雄は何故彼女がそれを隠したがるのか問いかける。それに対して何やら思い詰めた表情で言い淀む雫。
「私‥剣道をずっとやってて、身長も女の子にしては高いし、女の子らしくないでしょ?だから似合わないだろうなって‥‥」
「女の子らしくない」。過去のある出来事がきっかけでそんなマイナス思考が染み付いてしまい、そういった趣味を表に出せずにいたのだ。きっと自分には似合わない。自分はおろか彼にもそう言われると思っていた。
だが‥‥
「んなもん誰が決めたんだよ。」
「‥えっ?」
軽くそう返されて呆気にとられる雫。
「自分や誰かが勝手にそう決めつけて諦める程お前の好きって気持ちは軽いのか?」
「そ、それは‥‥」
楓士雄に自分の好きと言う気持ちの強さを問われて言い淀む雫。
そして‥
「一回きりの人生、好きなもんくらい思い切り楽しみゃ良いじゃねーか。周りがなんと言おうが関係ねー。悔いを残さないよう、お前の細胞が命ずるままに突き進めば良いだろ。」
楓士雄のその言葉に目を見開く雫。
今まで彼女は周りに否定されたり拒絶されたりするのを恐れて、自分で「似合わない」と思い込ませてきたのだ。本当は自分だって女の子らしく着飾ってみたいし、守られるお姫様に憧れていた。しかしこれまでの環境がそんな雫の思いを阻んでしまい、もうほとんど諦めかけていた。
香織以来だろうか。雫にこんな言葉をかけてくれたのは‥‥
「大体シズっちならそう言うの絶対に似合うって!断言してやるよ!」
そんな事を言いながら無邪気に笑う楓士雄を見て、自然と雫も微笑んでいた。単純に嬉しかったのだ。見掛けで決めつけず、自分の本当に好きなものを大事にしてくれた楓士雄の言葉に。
「‥そうかしら?」
「当たり前だろ?シズっちが似合わなかったら誰も似合わねぇじゃん。」
そんなやり取りをしているうちに少しずつ日が沈み始めてきた。
「じゃあオレそろそろ行くわ。この後司ん家で晩飯ご馳走してもらうんだ。しょっちゅう行ってんだけど美味いんだぜ、司んとこのメシ。」
「へえ、そうなの?相変わらず仲良しなのね。」
「おうよ! あっ、今度皆も誘って良いか聞いてみよ。」
「それはちょっと人数が多すぎない‥?」
「じゃあ外で食えるもん頼むか!」
そうして約束を無理矢理取り付けて(?)楓士雄が去っていく。その後ろ姿を見て雫は呼び止めた。
「楓士雄君!」
「ん?どうした?」
「‥その‥‥‥今日はありがとう。」
「‥へへっ、おう!今度はカオリンとハジメンも誘って遊びに行こうぜ!」
そう言ってお互いに笑い合う。そして楓士雄が「じゃあな!」と言いながら今度こそ去っていった。
最後まで楓士雄を見送った雫も帰ろうとした瞬間、
ガシッ
「!!??」
突然後ろから口を塞がれて羽交締めにされた雫は複数人の男に連れ攫われた。この時、目撃者が1人でもいればよかったのだが、ことはそう上手く運ばなかったようだ。
プロローグはなるべく早く終えたいと思っているのでどうしても詰め込みがちになってしまいますがご容赦ください‥‥