ありふれないヤンキーコンビは世界最高   作:MUGEN&RUDE好き

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7話

 

 両手で顔を庇い、目をギュッと閉じていたハジメ達は、ざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。そして、周囲を呆然と見渡す。

 

 まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

 

 背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。だがしかし、ハジメはなぜか薄ら寒さを感じて無意識に目を逸らした。

 

 よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。

 

 ハジメ達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りにはハジメと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

 

 ハジメはチラリと背後を振り返った。そこには、やはり呆然としてへたり込む香織の姿があった。怪我はないようで、ハジメはホッと胸を撫で下ろす。

 

 そして肝心の楓士雄と司はと言うと

 

「んだよこれ‥‥‥おい司。どうなってんだこりゃ‥‥」

「知るかよ‥‥俺が聞きてぇわ‥‥」

 

 なんとか2人も無事な様で安心したが、流石の2人もこの訳の分からない状況には混乱しているようだ。

 

 そして、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達への観察に移った。

 

 そう、この広間にいるのはハジメ達だけではない。少なくとも三十人近い人々が、ハジメ達の乗っている台座の前にいたのだ。まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。

 

 その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢ごうしゃで煌きらびやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子えぼしのような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

 楓士雄と司はいかにも「なんだアイツ‥?」と言う怪訝な表情になる。

 

 老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。顔に刻まれた皺しわや老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。

 

 そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハジメ達に話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺こうこうや然とした微笑を見せた。

 

 

   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 現在、ハジメ達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

 おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。ハジメと楓士雄、司は最後方だ。

 

 ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせたことも理由だろうが。

 

 教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。

 

 一方楓士雄と司はと言うと、

 

「なぁ、マジで意味わかんねぇんだけど‥‥何だ?テレビの撮影か?」

「俺も分かんねぇっつってんだろ‥‥けど流石にそれは無いだろ。事前情報も何もねぇし、何よりさっきから普通に考えてあり得なさすぎる事ばっか起こってやがる。」

 

 今だ困惑する楓士雄に対し司はこの状況を冷静に分析しながら警戒を強めている。

 

 全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。

 

 要約するとこうだ。

 

 まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。

 

 人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。

 

 この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

 

 魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

 

 それが、魔人族による魔物の使役だ。

 

 魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。

 

 今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。

 

 これの意味するところは、人間族側の〝数〟というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

 イシュタルはどこか恍惚こうこつとした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

 

 イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

 

 ハジメが、〝神の意思〟を疑いなく、それどころか嬉々として従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。

 

 愛子先生だ。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

 

 今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 愛子先生が叫ぶ。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

 愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

 パニックになる生徒達。

 

 ハジメも平気ではなかった。しかし、オタクであるが故にこういう展開の創作物は何度も読んでいる。それ故、予想していた幾つかのパターンの内、最悪のパターンではなかったので他の生徒達よりは平静を保てていた。

 

 ちなみに、最悪なのは召喚者を奴隷扱いするパターンだったりする。

 

 ふと隣に座っている楓士雄と司に目をやると、困惑が一層強くなり且つあまりに身勝手なイシュタルの言い分に怒りを抱いて、2人揃って険しい表情になっていた。

 

 誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。

 

 だが、ハジメは、なんとなくその目の奥に侮蔑が込められているような気がした。今までの言動から考えると「エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか」とでも思っているのかもしれない。

 

 すると司もそれを察したのか、あからさまに「チッ‥‥!」と強めの舌打ちをした。

 

 未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

 

 同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

 いつものメンバーが光輝に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。

 

 

 

 が、それに唯一対抗できる人間がいた。

 

「待て待て待て。揃いも揃って馬鹿かテメェら!」

 

 その場にいた全員が一斉に声がした方へ視線を移す。

 司だ。その顔は怒り半分呆れ半分と言った表情になっていた。

 

「おいどう言う事だ!いきなり馬鹿なんて失礼が過ぎるだろう!」

「そのまんまの意味だっつーの。お前ら、自分達が何しようとしてんのか分かってんのか?」

 

 予想通り突っかかる光輝を適当に受け流し、クラスメイトに向かって問いかける司。

 

「決まってるだろう!世界を救うために戦うんだ!それの何がおかしいんだ?」

「だから馬鹿だっつってんだよ‥‥『世界を救うために戦う』そう言えば聞こえは良いだろうな。けど実際に行われるのは戦争‥いつ死んでもおかしくない殺し合いだ。お前らそれをちゃんと分かって言ってんのか?」

 

 司の言葉にその場の全員が再び凍りつく。

 『いつ死んでもおかしくない』 その場の雰囲気だけで参加しようとしていた生徒達は、そう言われて尻込みしてしまう。

 しかしここでも光輝は喰って掛かった。

 

「おい司!皆を怖がらせる様な事を言うな!」

「事実を言っただけだ。平和な世界でのんびり生きてきた俺らがいきなり戦争しろなんて言われてできる訳ねぇだろ。」

「じゃあこの世界の人達がどうなっても良いって言うのか!」

「ちゃんと考えてものを言えっつってんだ!俺たちはこの世界の事についてまだ何も知らねぇ。情報も碌に無いまま首突っ込んで死んだらもともこもねぇだろうが!」

 

 いつにも増してヒートアップしていく2人。雫をはじめ周りのクラスメイト達が必死に2人の事を諌める。

 

「大丈夫!そんな心配は要らない!俺が必ずみんなを救って‥‥」

「光輝!いいからちょっと落ち着きなさい。 ハァ‥ それで、司君はどうしたいの?」

 

 引き下がらない光輝を雫が止め、司にどうしたいのかを問う。

 

「あぁ‥。イシュタルさんつったか?見ての通り俺らは平和な世界にどっぷり浸かってきた、しかもまだガキだ。いきなり戦争に参加しろってのはほぼ無理だ。だから条件をつけたい。」

「ふむ‥‥‥。分かりました。可能な限りお応えしましょう。」

 

 司はイシュタルに、戦争に参加するための最低限の条件をつけると言う形をとった。

 

「まずは衣食住、そしてこの世界のあらゆる情報、戦争に必要な技術、そう言ったこの世界で生きていく為の知識や物資を確実に支給すること。」

「それでしたら問題ございません。この様なことは予想しておりましたので、すでに準備は整っております。」

 

どうやらイシュタル側の方からしてもその辺の事情は当然予想していたらしく、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい

 

「そうか‥‥。そんで次に個人の意思の尊重。たとえ戦争に参加したくないと言うヤツがいても強制すること無くその通りにしろ。」

「ふむ‥‥‥‥‥‥‥分かりました。できる限りそうする様尽くしましょう。」

 

 いくら力が与えられたと言っても精神がついてこれなければ意味が無い。無理矢理参加させてクラスメイトに精神的な傷でも負わされてはたまったものでは無いが故の判断だ。

 

この提案にイシュタルは何やら煩わしそうな表情をしてしばらく黙るが、渋々といった様子で承諾した。

 

「そして最後。これが最も重要だ。俺たちが元の世界へ帰るための手段は必ず用意しておくこと。」

「そうですな‥‥‥‥‥先程も申し上げた様に我々の力のみでは不可能ですが、エヒト様も戦いを終えた暁には望みを叶えて下さるでしょう。」

「フゥ‥‥‥‥。分かった。」

 

 なんとか条件を呑んでもらった司だが未だにその表情は晴れない。無論少しばかり状況が改善されただけで根本的な解決には至らないので当然なのだろう。

 

 楓士雄もイシュタルの方に目をやり、未だ怪訝な表情をしている。これから先どうなるか‥今は誰にも想像出来なかった。

 

 

 

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