昔日の巷塵   作:湊咍人

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1日目

1/12 追記
少女の年齢ミスってました
十三歳ではなく十一歳です



本編
プロローグ


 私がその少女を発見したのは、漸く雪が解け始めた日の朝であった。まだ外套どころか襟巻すら手放せないような、肌を裂く冷気の中。村の外れにある墓地へ向かう途中に広がる、今は無地のキャンバスのように白く染められた草原。

 

 そこに少女は居た。

 

 まるで、降り積もった冬から一株の蕗の薹が芽を出すように。不自然に取り除かれ、まるで巨大な円匙で抉ったかのように出来た空白地帯。その中央を仄かに赤く染め、屈葬されたかのように眠っていた。

 

 左足からは看過できない量の出血の跡が見られた。拙い応急処置の隙間から覗く傷跡から推察するに犬などの中型哺乳類による咬傷だろうが、適切な治療を施すことができなかったのか傷は開き化膿が起きている。 

 そして、全身に広がる見覚えのある打撲痕。人間による殴打と投石───悪意によって刻み込まれる傷跡。

 

 腰ほどまで伸びる銀髪は乱れ、血や汗で固まり土埃を被っている。走ることなど想定もされていない瀟洒な靴は擦り切れ、指先も細かい傷で埋め尽くされていた。丁寧に手入れされていたであろう爪も所々割れており、物を掴むだけで激痛が走ることは想像に難くない。左目の瞼は青く腫れ上がり、何度転んだのかも分からない膝は見ていられないほどに悲惨な有様であった。

 

彼女の歩んできた道のりは、私では想像もできないほどに過酷であったのだろう。私が訪れなければ、降り積もる雪に埋もれ一時間後には消えてしまっていた命の灯火。何の因果か、私には少女を助ける権利が与えられたのだと理解した。

 

少女を背負って家に戻る。その、あまりにも薄い体躯を持ち上げた瞬間に感じた硬質の感触を気にも留めずに────

 

 

 ◇

 

 

 私に近付かないで。病気が伝染ってしまうから。

 

 処置を終え、数日後に目を覚ました少女は東方の言葉でそう言った。正確には東方の言葉によく似た全く別の体系を持つ別の言語らしいが、その類似点によって比較的円滑に意思疎通を行うことが出来た。

 

 彼女はまず、我々の姿を視認した瞬間に極端な怯えを見せた。状況を少しずつ把握したのか、我々に先程の忠告を行った後、治療を行った私に対して丁寧に感謝の気持ちを伝えてくれた。

 

 一度に多くの人と接すると、まだまだ回復期間が必要な少女の体に余計な負荷が掛かってしまう事だろう。話しやすいかと思い同性の知り合いを呼んだが、少女は私と話がしたいと丁重に断ったらしい。

 

 それから私、いや私たちは多くのことを話した。

 

 少女は今年で十一歳になるということ。生まれはウルサスという国家であり、事故により鉱石病という感染症に罹患してしまったこと。両親は彼女を迫害から守ろうとして命を落としたこと。

───そして、移動都市と呼ばれる安全地帯から逃げ出したということ。

 

 何の因果か彼女は死の淵にて、異なる世界への転移に巻き込まれたようだ。我々は、結果的にそう判断するしかなかった。

 

 私はすぐに、学生時代に築いた人脈を活用し一度は推薦を蹴った大学の伝手を辿って、研究を兼ねた入院という体で病室を一つ確保した。未知の感染症である可能性が高いため、長く接触していた私と共に厳重な感染防止対策を取った上で二週間に渡る精密検査を実施した。

 

結果から言うと、私には何の異常も見られなかった。そして、感染症の正体は分からなかった。

 

 レントゲン検査にて体内に散見された正体不明の異常陰影。そして腹部に析出した、これもまた正体不明の鉱石や血液中を流れる未知の物質。それら「未知」の集合である彼女の存在は、研究職である彼らを惹きつけるには十分であったが、同時に現状では打つ手がないという事実も示していた。

 徹底的に迫害され、社会の悪性を嫌という程に見せつけられた少女を研究の対象とするのは心苦しい話である。在籍中の研究者の中にも同様に懐疑的な意見も見られたが、今は人手が欲しい。致死性であろう未知の感染症に対応するためには、とにかく時間と人手がいる。

 

 三年。

 

 検査結果から算出された、現状で我々が推し量れる彼女の寿命だ。たった三年だが、不可能と断定するにはまだ早い。我々にとっては全くもって未知の感染症である鉱石病だが、故にあちらの世界では確立されていない治療法を早い段階で発見できる可能性も存在する。

 

 私に、私たちに出来ることは、ただ全力を尽くすことだけだ。

 




 舞台は北欧あたりを考えています。その辺りは割と適当なのでふわっと読み流してください。
 主人公くんは大卒二年目くらいです。

次に書く短編の登場人物とか

  • アーミヤ
  • パトリオット
  • ホルハイヤ
  • Friston-3
  • モスティマ
  • グレイディーア
  • 歳陣営
  • シャイニング
  • ロサ
  • 医療部モブ
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