昔日の巷塵   作:湊咍人

12 / 15
「片手の未来」

 本編終わったのでやりたい放題です
 とりあえず日常モノ


One Hand Future

 

 

 

「大人になりたい、ですか......」

「はい!!」

 

 ロドスにおいて最も重要な部署と言って過言でない医療部。そこでは定期的に講義が開かれ応急処置や一般教養に始まり多方面の有用な知識を得ることが出来る。

 

 そして、とある少女はそこで自身の悩みについて相談し解決の糸口を見つけようとしていた。

 

「じゃあ───そうね、リサが思い描く大人はどんな人なの?」

「その......特定の誰かを目標にしている訳ではないんです。私はまだまだ子供だから、早く大人になって皆さんの力になりたいんです!!」

「......そう」

 

 思わず抱き締めそうになり、慌てて頭を振り理性で抑え込むのは医療部の若手であるフォリニックだ。ロドス全体で見てもスズランと関わりが深く、「最も身近な大人」として認識し相談してくれたのだと判断したのか嬉し気に耳が動いている。

 

 だが、少女の質問には全力で答える。子供相手だからといって煙に巻くことはせず正面から向き合う。それがフォリニックの長所であり「優等生」と称される気質の彼女が幼齢の感染者たちからも好かれている理由だ。

 

「......ロドスに属する大人たちには、みんな信念があるの。それぞれ違うけど、それに基づいて行動した結果としてロドスに辿り着いたのは一緒。それを既に持っているのか、まだ定まっていないのか。それがここでの大人と子供の境界線なのかもしれないわ」

「なるほど......フォリニックお姉さんは、どんな信念を持っているんですか?」

「私は───」

 

 母の死。ウォルモンドの悪夢。そしてロドスの前に立ち塞がる数多の障害。

 それらを経てフォリニックは一つの回答を手に入れていた。彼女は大人であるものの、学び成長するのは子供だけに許された特権ではない。ケルシーに師事し免許皆伝まで得た努力の権化である彼女は、毎日成長し続けているのだから。

 

「諦めずに進み続ける事、それが私の信念。......他の人にも聞いてみるのもいいかもしれないわ。あと───」

「?何でしょうか?」

「もうあなたは信念と呼べるものを持っていると、私は思っているわ。まだそれを言語化できていないだけ───あなたはちゃんと、大人に近付いているわ」

「!!ありがとうございます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、グムお姉ちゃんの信念を教えてほしいんです!!」

「......信念、かぁ」

 

 ある程度安全性の保障された作戦行動において、スズランは実戦に出ることを許可されている。今回の戦闘は不可避なものであったが予測は容易であり、その規模も小さかったため万全の準備を整えて迎え撃ったのだ。

 

 スズランの配置場所は後方ではあるものの重要な立ち位置であることは確かであり、実際に彼女の唯一無二のアーツにより敵集団は数分で無力化された。彼女は出撃の頻度こそ少ないものの、その実力は既に一般的なオペレーターの水準を大きく上回っている。

 

 そして冒頭に戻る。ロドスに戻る車内での無垢な少女からの質問に、グムは一瞬考える素振りを見せるものの結果的には淀みなく答えた。

 

「グムは、信念だと思っていた訳じゃないけど。あの時からずっと"みんなを守る"って決めてて、その為に頑張ってるんだよ」

「みんなを守る、ですか......」

 

 ふと、無意識のうちにトランクに乗せた盾へと目を向ける。無我夢中で近くにあった金庫の扉を盾として使っていたに過ぎず、今となっては当時の記憶を想起させてしまいかねないそれを使い続けているのは何故か。

 あの日々を忘れる為、仲間たちに忘れてもらう為にはそれを捨てるべきではないか。そう何度も考えたのに。

 

 傷だらけで、既に何度も補修を繰り返して原型から離れつつあるそれが、妙に手に馴染む。

 

「......忘れたいことがあって、思い出す度に怖くなっちゃって。でも、今のグム達がいるのはあれを乗り越えたからだって気付いたんだ。だからグムは、あの時からずっとみんなを守るために戦うんだ」

「グムお姉ちゃん......」

「でも今日は、リサちゃんに守ってもらってすごく安心したんだ!だからグムもこれからもっと沢山の人を守って安心させてあげたいって、そう思ったんだ」

「私は、ちゃんと皆さんの力になれているのでしょうか......」

「もちろんだよ!!」

「えへへ......」

 

 真正面から褒められてしまい照れてしまったスズランの頭をひとしきり撫でた後、グムは車に乗るメンバーから夕食の献立についてリクエストを募り始めた。食堂のメニューについてリクエストができる機会はそう無いためか、あるいはグムの作る料理は例外なく美味であるせいか話は盛り上がりロドスに帰還するまで車内は賑やかな声で満たされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大人になりたい、か」

「はい!!その為に皆さんの信念を教えてもらっているんです」

「フォリニックらしい回答だな。ロドスに身を寄せる者に共通する内容であり、君の目標実現を阻害することなく成長を促す提言としては十分だろう」

「えっと、その───」

「少々難解な言い回しになってしまったな。要は君にとって良いアドバイスであったという意だ」

「なるほど......」

 

 研究論文じみた特徴的な発言から察せられる通り、スズランが次に話を聞きに行ったのはケルシーだった。ロドスに属していながら彼女の名を知らない者はいないだろうが、それはそれとして彼女自身に対して質問をする者は居ないためある意味では最も謎めいた存在でもある。

 おそらく、ケルシーについて詳しく知る者はバベル時代から所属している初期メンバーの中でも一握り、それでも彼女を構成する情報の断片しか把握できてはいないだろう。

 

「信念とはある事象について個人が不変の確信を持つことであるが、人々は確信を以て行動に移るとは限らず信念は一個人に焦点を当てたところで多岐に渡り、行動の指針とは単純な言語化を許容し得ない難解なものだ。しかし"大人になりたい"という君の目標から推察するに信念の中でも行動指針の決定において目標への最大のベクトルを有する到達意思を言葉に置き換えたものが最も適当であるだろう。

 よって私はロドスの責任者或いは個人、そして一人の大人として無数に存在する信念から取捨選択を行い君に適した答えを一つ提示し質問への回答としよう」

「......はい」

 

 ごくりと、生唾を飲む音が耳に届くほどの静寂。その場にいた誰もが彼女の回答に耳を傾け、無意識のうちに作業の手を止めてしまっていたのだ。

 異質な空気を作り出した張本人は、一拍おいてからそれを口に出した。その瞳は慈しみに溢れており、内容に嘘偽りなどあろうはずもないことが見て取れた。

 

 

「我々の希望である君たちを、守り抜くこと。それが私の信念だ」

 

 

「ケルシー先生......」

「私から言えることは以上だ。......後はドクターに聞くといい、彼ならば君の求める答えを持っているだろう」

「はい、お時間を頂きありがとうございました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それで私の所に来てくれたんだね」

「はい、ドクターさんなら私の求める答えを持っていると、ケルシー先生から太鼓判を押されましたので!!」

「ハードルが高くないかい......??そこまで立派な大人じゃない気がするんだが」

「そんなことはないですよ、ドクターさんは毎日頑張っていますから!!」

「リサにそこまで言ってもらえるなら頑張った甲斐があったよ」

 

 スズランが最後に向かったのはロドスにおいて最も謎めいた人物の執務室。ある意味ではケルシーが該当すると先述したものの、多くのオペレーターや保護された人々であれば間違いなく口を揃えて名前を挙げる不審者。

 年中フルフェイスマスクにフードを被り、コートで体格を隠した人物。

 

 つまりドクターである。

 

「私の信念、か。言われてみれば言語化したことはなかったな。

 ───そうだね」

 

「大人になるというのは、諦めるという事なんだ」

「諦める、ですか......?」

「そう。例えばこの目の前に積まれた書類のせいで私はもう二日ほど寝ることを諦めている。もちろんサボることもできない」

「それは本当に休んだ方がいいと思いますよ?」

「いや本当にその通りなんだけどね......」

 

 こうして話している間にも書類に目を通している姿を見るに、本当に休む間もないのだろう。邪魔になってはいないかと口を開こうとするスズランだったが、先読みしたかのような「もう丸一日誰とも話していなかったから寂しいんだ」というドクターの発言により話を続けることを選んだ。

 

「そしてもう一つ。大人になるというのは、諦めないという事なんだ」

「......え?でもさっきは───」

「そう、大人になると諦めないといけない事が出てくる。誰のせいにもできないし、代わりにやってくれる人も居なかったりする。それでも、諦められないものがあるんだ」

「......それらを選べるのが大人、ということですか?」

「私はそう考えてる。そして、その諦められないものの為に動く原動力が信念なんだ」

「ドクターさん......」

 

 それとね、とドクターは続ける。

 

「明後日にある君の誕生日パーティーに気兼ねなく参加したくてね。今の私にとって一番の原動力は君なんだよ、リサ」

「え!?ドクターさんも来てくれるんですか!?」

「うん。それまでに頑張って仕事を終わらせるから応援してほしいな」

「任せてください!!」

 

 崩れかけていた書類の束を整理し、フォルダを順番通りに並べなおして棚に収め、眠気覚ましのコーヒーを淹れる。

 ドクターだけでは手の回らなかった事を片付けてくれる存在により仕事の効率は目に見えて上昇し、結果として残っていた書類の八割以上が終業時間までに片付いた。

 

「ところでドクターさんはその......」

「どうしたの?何か言いにくいことなら私じゃなくても───」

「いえ、その......ドクターさんは小さな子が好きだと聞いたのですが」

「......それは誰から聞いたのかな?」

「あっ、あの───ワルファリン先生から」

「大体分かったよ。彼女とは後でお話をしないといけないみたいだ」

 

 大方、あちらの世界での出来事に妙な尾ひれが付いた上に話の本体がデータ閲覧権限の関係で消滅したのだろう。謂れのない噂話の尾ひれだけが艦内を泳ぎ回っているのかと思い頭痛を覚える。

 

「ドクターさんはその......私が大人になったら祝ってくれますか?」

「......ああ」

 

 自分が成長した時にドクターの好みから外れてしまっていたらどうしよう。この話はスズランにとってそんな可愛らしい悩みで済んだらしい。因みにドクターがロリコンというのは完全な事実無根であり寧ろ一回り年上の女性が好みである。

 

「子供の成長を喜ばない大人なんていないよ。リサが大きくなって、成人した時にはロドスの総力を挙げてお祝いしようか」

「......ドクターさん、大袈裟すぎです!!」

 

 ぷりぷりと擬音の付きそうな可愛らしいふくれっ面でそっぽを向くリサの頭を撫でて、ドクターは残りの書類を片付ける為に背筋を伸ばす。

 

「夕食はグムお姉ちゃんが腕によりをかけて作るとのことでしたので、冷めないうちに来てくださいね」

「ありがとう、早めに切り上げて私も食堂に向かうよ」

「あと───ドクターさん」

「何だい?」

「さっきのセリフ、忘れないでいてくださいね」

 

 イタズラっぽい笑みを浮かべたスズランは軽い足取りで食堂に向かう。

 対するドクターは───

 

「───何か迂闊な発言をしてしまったかな?」

 

 実は何も分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




享年十七




次に書く短編の登場人物とか

  • アーミヤ
  • パトリオット
  • ホルハイヤ
  • Friston-3
  • モスティマ
  • グレイディーア
  • 歳陣営
  • シャイニング
  • ロサ
  • 医療部モブ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。