ロスモンティスの話です
前回のケルシーの話が短かったのは今後も出番が多いからです
書きたいこと全部書いてたら一万字超えちゃう
彼女の亡骸は酷く軽く、ロドス本艦まで連れ帰るのは拍子抜けするほどに容易であった。
すれ違うオペレーターは誰一人として、私の行く手を塞ぐことはしなかった。以前の作戦で何度か言葉を交わしたケイというオペレーターに、彼女の行き先について問う。
彼の案内に従い歩く事数分。
私はロドス総合感染生物処理室と名付けられた部屋へ到着した。
「あなたが、ドクター?」
ふと目線を下げると、銀髪の小柄な少女が佇んでいた。
種族はフェリーンだろうか。オーバーサイズな制服と背負った巨大なアーツユニットと思しき機械が目に付く。
「......ああ、そうだよ。君の名前を聞いてもいいかな?」
「私のことはロスモンティスって呼んで。
───あなたが抱えている、その人は?」
そこで私は返答に詰まった。
私にとって彼女はどんな存在なのだろうか。
彼女はフロストノヴァだ、エレーナではない。
彼女は戦士だ、庇護対象ではない。
彼女は同胞だ、患者ではない。
彼女は友人だ、敵ではない。
それでも、私にとって彼女は───
「───大切な人だ」
「......うん、分かるよ。彼女との繋がりは細いけど、すごく丈夫で永く続いている」
「君も、心が読めるのか?」
「アーミヤとも、あなたとも少し違う。
人と人との交流の跡。それが匂いとか、温度とか、イメージとして感じるの」
アーツの副次的効果による一種の共感覚のようなものだろうか。
探るように少女は亡骸へ手を伸ばす。
「よくわからないけど、彼女は───」
「......」
彼女を私は止めようと思わなかった。
既に鉱石病の影響は抜けており、素手で触れても問題はない筈だからだ。
そのはずなのに。
「えっと......うーん。
あなたは、そうして欲しくないんだよね」
「......」
「これは私のするべきことじゃない。そういうことでしょ?」
「......ああ、ありがとう」
彼女は私を"それ"の元へと招く。
「この機械を......使いたいんだよね?」
「ここが感染者の還る場所なのであれば」
「......分かった、手伝ってあげるね」
ポッドの内部を確認すると、遺体をその上に乗せるのだと教えてくれた。
ドアが閉まったらボタンを押して───それで、終わりなのだと。
「詳しいんだね」
「うん、何度もやったから」
「......それは、どうして?」
「みんな、最期にはここに来るから。
私と関わりのある人は、みんな私が送り出すの」
それにね、と彼女は続ける。
「操作方法は全部自分の端末に書いてあるの。
それを読み返せば、たぶん体が覚えててすぐに慣れてくるんだ」
───操作にも、送り出す感覚にも。
「......送り出す感覚、というのは?」
「二人を繋ぐ糸。互いを繋ぎ合わせてるそれは送り出しても無くなることはないの。
ただ、それでも体から何かが欠け落ちたように感じるの」
「そんな感覚に......どうして慣れようとするんだ?」
その感覚を私はもう二度味わった。目の前の少女はおそらく、それを何度も───
「だって慣れていれば、突然喪う痛みにも耐えられるでしょう?」
そこで初めて、私は彼女を視た。視えてしまった。
脳幹に埋め込まれた科学者の狂気と、その神をも畏れぬ冒涜を。
鉱石病に罹患させることなく感染者に仕立て上げ、後天的なアーツ適合者を作り出すという悪魔の所業を。
「......ッ!!」
「ドクター?」
発言や
おそらくは高頻度で、しかも特に複雑というわけでもない作業を反復しても尚それらの記憶が欠落するほどに。
間違いなく、人道という言葉を冷笑するが如き施術による副作用によるものだろう。
PRTSによって会話を断ち切られていなければ、私自身も何を口走っていたか分からない。
「お取込み中、失礼します。
ロドス総合感染生物処理室に滞在中のエリートオペレーター、Rosmontis様、現在使用中の識別コードは15分後に無効となります。
ただ今よりリモートアップデートを行いますので、そのまま現在地にて15秒ほどお待ちください」
「また、接弦エリアにて小規模な戦闘が発生しております。当施設の被害を最小限に抑えるため、識別コードのアップデート完了後は可及的速やかに支援に直行されることをおすすめします」
「あっ、うんわかった。すぐ行くね。
今の処理データを端末に書き込んでから......」
「6度目の提言をいたします。本システムに権限を開放していただければ───」
「ダメ。これは私が......私が自分で書き込まなきゃいけないの」
「承知いたしました」
PRTSの流れるような説明の中には一点、どうしても聞き逃してはならない部分があった。
私が現状顔を合わせているのは数人しかいない、ロドスに所属するオペレーターのごく少数だけが該当するそれ。
「エリートオペレーター、なのかい?」
「うん、そうだよ」
それが当然であるかのように彼女は答える。
「......最後に、その人の名前を聞いてもいいかな?」
「───フロストノヴァ」
「綺麗な名前。
はじめまして、フロストノヴァ......さようなら」
ポッドの横にある、表面が僅かに摩耗したボタンを私が押すまで彼女は隣に居た。
私が懐に仕舞った源石結晶を握りしめ、何も喋らずただ瞑目する間もずっと。
さながら、私を繋ぎとめる糸のように。
それらは歩く屍であった。防衛を担っていたオペレーター曰く脳波が検出されていないという。
私も同意見であり、体内のオリジニウムが支配され肉体の強化と操作に回されただけの人形だ。
ただそれだけの存在だった。
「ドクター、ちょっと下がって」
「気を付けるんだな。もっと離れた方が良い、初めて見る光景になると思うぜ」
飛来したのは正に鉄塊であった。
圧延前の鋼材に番号を振り取っ手を付けたようなそれを振りかざす。
(あれは───手か?)
巨大なそれが握るアーツユニットと思しき物体はその速度を鈍らせることなく、巨大な円弧を描き───
轟音。
地面ごと打ち砕かれた屍の破片が宙を舞う。
「......は?」
地面から引き抜く。突き立てる。
無造作に持ち上げる。叩きつける。
その光景を前に私は息をするのも忘れて、ただ立ち尽くしていた。
轟音は20を数えた辺りで収まった。
荒原の肥やしと化した肉片と、月面のように所々が陥没し赤く染まった大地。
それらだけが戦闘の痕跡として残り、ただその屍を無謀の残滓として晒していた。
◇
「説明しろ、ケルシーっ!!」
ロドス医療部に似つかわしくない怒声が響き、その場に居合わせた全員が反射的に振り返る。
何せ、その声は怒鳴るどころか明確な感情表現すら滅多に目にしないドクターのものであったからだ。
「何事だ」
「......あの時、私は自らをドクターだと定義付けたな。彼女の死を経てもそれに揺らぎはないさ。
だが今は───クソッ、最悪の気分だ」
「順に説明しろ。君らしくも無い」
「......いい機会だ、ここではっきりさせておこう」
まるで仇敵の手を取り無理矢理引き起こすかのように。
内面を焼き焦がさんとする怒りを抱えながらも、それを噛み潰しながら言語化して吐き出した。
───貴女が、信用に値する人物であるかを。
「お前にとって"彼女"とは何だ」
「......彼女は、私の業だ。そして私の救いだった、あの日々のおかげで今の私がある。
彼女を共に見送ってくれたあの少女は───」
「───ロスモンティスに会ったのか」
今の君にとっては少々酷な出会いとなったようだなと、傍から見れば無関心にも読み取れる口調で返す。
「───端的に問うぞ。あの子を唆し本来は望んでも居ない戦場に投入してはいないだろうな?」
「戦場に身を置く事を選んだのは彼女自身の意思によるものだ。その点について履き違えるな」
「「......」」
一触即発。
張り詰めた空気は不運にも近場に居た医療部の面々の喉に入ることを拒み、揺れ動くことなく生唾を飲みこむ音すらも伝播する。
「......特殊な人体実験の痕跡、それに起因する記憶障害。理外のアーツ。
ケルシー、貴女であれば私の言わんとすることも理解できるだろう?」
「君が感染者の子供を戦場に向かわせることに抵抗感を覚えていると理解しているが、彼女たちはロドスのオペレーターだ。
ロドスは経歴を問わない、彼女は我々と何ら変わりはしないだろう」
「───ああ、貴女ならそう言うだろうと思っていたよ」
アーミヤのアーツとは異なるが、私もある程度であれば対象の感情が読める。
ケルシーのそれは酷く難解に絡まり合っているように見えて実のところ単純なのだ。
本質は善良であり、苦しんでいる者が居れば手を差し伸べられずにはいられないお人よし。
それでいて合理的思考を有しており為さなければならない事を正確に理解している。
まるで、未来の私自身を見ているかのようだ。
「次の作戦では彼女も同行する。資料に目を通しておけ。
......それと私からの忠告だ」
「何だ?」
「君はもう力を使うな、彼もそうだが自身を一つのユニットとして運用するな。
......作戦上の不確定要素を自身で穴埋めする悪癖まで倣う必要はない」
「───善処する」
作戦終了後によしよしされたい
感想お願いします!!あとできれば評価のほうも......(小声
次に書く短編の登場人物とか
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アーミヤ
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パトリオット
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ホルハイヤ
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Friston-3
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モスティマ
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グレイディーア
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歳陣営
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シャイニング
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ロサ
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医療部モブ