ギルド内食堂の小さいけど大きなお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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 第一の人生で死亡してしまったおっさんが、立派な商人を目指して第二の人生を歩み始める───!
 あ、いやその、歩み始めたはずだったんだけど、気づけばとっくに三十路でした。おっさんです。
 商人なのに商人やれてないです。誰か助けて。
 取引と売買で儲けるためには30レベルになって、スキルを覚えなきゃダメなんだって。
 商人なのに戦ってレベルを稼げと? あの、ステータス激烈雑魚なんですが?
 戦闘スキル? ろくなものがありません。武器熟練度も5までしか上がらないって。商人弱ェエ!!
 戦闘経験? 14年も冒険者やってて、まだ始まりの街で燻ってるおっさんですがなにか?



ギルド内食堂の小さいけど大きなお話

 

 子供の頃ってさ、何歳になればおっさんだって思ってた? 俺は二十歳(ハタチ)になれば成人、つまりおっさんだー、なんて思ってたもんだ。

 実際に二十歳になってみれば、“あれ? まだまだ若いじゃん”とか思ってて、気づけば三十路。

 出会いもあったし恋愛もした。告白もしたしフラレもした。付き合ったし結婚もしたし、初夜も迎えて子供も授かった。

 家族のためにと働いて、休日は愛する嫁とデートをして、子供を呆れさせたもんだ。けど誓ったのだ。子供が出来ても俺達は俺達のままで居ようって。

 相手がどう受け取ったかは知らないが、俺は妻を愛した。もちろん子供もだが、愛して愛して妻を庇って車に轢かれ、死んでしまった。

 

「………」

 

 そんな俺、赤子で再誕。

 おぎゃあと泣き叫び、見知らぬ誰かに抱かれ、見知らぬ世界に降り立った。

 いやいや、想定内。きちんと言われた通りじゃないか。

 ありがとう神様。俺、ちゃんとこの世界で生きていくよ。

 

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 ロージ・メィルヴァイツェン。俺の名だ。

 平凡な村に産まれ、この世界を学び、農家の息子として生きてきた。

 特産品の小麦で生計を立てている、景色だけは素晴らしい田舎で育った。

 あくまで子供らしく、波風立てずに平々凡々と。

 常に良い子として、両親の迷惑にならぬよう、上手くやってこれたはずだ。

 幼馴染二人、見てくれは可愛い毒舌暴力女と、口の減らない能天気猿顔男とともに。

 死ぬ寸前まで妻を愛した俺が、赤子が生きるためとはいえ妻以外の胸を吸うのは痛恨であったが。

 しかし生きた。生きて、成長して、無難な成長を周囲に見せつけつつ、やがて田舎を後にし、商人となった。

 この世界ではある程度の知識と算術、目利きがあれば商人にはなれて、極めればそれで食っていける。

 成長する過程で村が寂れていくのが悔しくて、なら俺がと立ち上がったのが子供の頃。

 前世の知識と頂き物の能力で、せめて俺が稼ごうと立ち上がったのはよかった。ああ、よかったんだが。

 

「ロージさん! すみません、荷物を!」

「ロージさん! こっちもお願いします!」

 

 死んで、神様に出会って、異世界に転生。

 よくあるパターンだろう。

 そんな俺への神様からのギフトは、“金の扱いが上手くなる”と“器用な指先”、トドメに“記憶の中にあるものの創造”ってものだった。

 実際、金の扱いには自信があるし、手先も器用だ。が、創造なんて出来なかった。なんぞこれ、特典故障してらっしゃる? と思ったが、どうにもこれがクセモノっぽい。

 まあいい、いい加減その生活にも慣れたよ。慣れた……つもりなのだが。

 なんで俺、冒険者に付き添って荷物持ちなんてやってんでしょうね。

 

「助かりますロージさん」

 

 お礼を言うこの顔立ちがやたら整った男は、ハーフエルフのセニュオル。セニョールって発音しても振り向く、名前がややこしい男だ。

 その隣で荷物を俺に突き出すハーフエルフの女はシャルシャナ。冒険者になって日は浅いものの、魔法や弓術の強さがあり、所見の敵でも手早く倒してみせた。

 そう……ファンタジー。エルフもドワーフもドラゴンも居るこの世界で、剣を取って戦うでもなく商人をしている俺。

 職業商人。

 職業、といってもギルドで認定された、“冒険者としての商人”。

 いわば某ト○ネコさんのような、冒険商人である。

 麦野二郎はロージ・メィルヴァイツェンとして転生した。それはいい。

 異世界で商人にでもなって暮らしたいと神様に願った。それもいい。

 妻の元へ返してくれと願ったら却下された。よろしくない。泣いた。しかし受け入れるしかなかった。よくないけどそれはいい。

 でもさ。なんか……違くない?

 俺さ、商人やりたかったのよ? 小物でもいいからさ、仕入れたものを欲しい誰かに売って、毎度ありーって笑うの。

 隣に嫁が居たら言うことなかったけど、それは無理だとして。

 だのにさ、な~んで……こうなっちゃったかなぁ。

 

 ◆ロージ・メィルヴァイツェン/商人

 ギフト:器用な指先、金の扱いが上手くなる、記憶したことのあるものの創造(制限あり)

 ジョブスキル:商人の懐/アイテムをアイテムボックスに収納できる

 

 この世界では皆、一定の歳になるとジョブを決める。

 それは国っていうか世界レベルで定められていることであり、職が決まらないヤツは滅多に居ない。

 そんな中にあって、俺はきちんと商人を極めるべく商人になったのだが……この世界、一定レベルになるまで経験を積まないと、商人としてのスキルが発動出来ねぇ。

 その。つまり。商人として売買が出来ないわけで。商人にはなれるよ? なれるんだけど、極めないと売買が出来ないんですよ。

 レベルを上げてスキルを取得する以外の方法で、売買などの取引をするなら、国からの許可を得なければいけない。守らず勝手に商売なんぞしようものなら、通報されて罰が待っている。

 しかし許可を得るのも楽じゃないし、許可を得ての商売の場合、国に売り上げの何割かを払わなきゃいけなくなる。

 そんなものは御免だとレベルをこつこつ上げる毎日。

 当然商人として働けないなら冒険者やるしかないよな。で、商人なんてジョブは攻撃力に恵まれず、速度も遅けりゃ防御もザコい。

 じゃあどうするんだと考えた末、荷物持ちを始めたわけで。

 え? 俺以外の商人? もちろん国にお金を払って商人やってるよ。そっちの方が遥かに安全だし現実的だっていうのはわかってるんだ。でもさ、自由な商人とかやってみたいじゃない。

 俺は何者にも縛られない自由な商人になりたかったんだ。

 ……その道のりのほぼが、新米冒険者の荷物持ちで潰れるとは思わなかったけど。

 冒険者として立ち上がった頃は……若かったなぁ。

 

「………」

 

 だって戦う術がないんじゃしょうがないよ。こんな筈じゃなかったなぁなんてどれだけ思おうと、仕方ないじゃないの。

 ナイフ片手に戦ってみる? ノンノンノン、死んでしまいます。

 武器を手にした途端に身体能力が上がるー、とかそんなギフト、俺にはございません。

 精々で金勘定が速い~とか、手先が器用だって程度ですもの。

 でもさ、荷物持ちでレベル上がれば苦労しないよね。パーティー組んでるからって経験値が貰えるわけでもない。

 かといっておこぼれの弱った敵を倒したところで、それがしっかり“経験”として積まれるわけもない。

 なのでワタクシ、ロージ・メィルヴァイツェンは、この世界で30歳にもなってまーだ商売が出来ていません。

 ジョブを決める16歳から数えて14年。未だに荷物持ちのおっさんです。

 普通なら、14年も冒険者してりゃあ結構な腕になっているもんだ。どんな職業であれ、戦闘向きなら余計に。

 でも俺は商人で、商人って結構なレベルになっても戦闘能力とかザコいままなの。なんとか28レベルまで上げたのに。

 30レベルで“取引/売買”という、商人の間ではもはや伝説とされているスキルが手に入るのに、今年に入ってまだレベルアップは一度もない。敵の経験値がカスっていうのもあるが、14年も続けていれば普通なら、最初の町付近だろうがもっと上にはいけている筈なのだ。

 なのに俺がこんな状態なのは、単純に俺が弱いからである。

 これがオンラインゲームなどだったら、“14年も冒険者やっといて、まだその程度とかと草生えるwww コポォ”とか書かれているところだ。むしろ俺が俺自身に草生える。で、大草原すぎて伐採を思うあまり今度は泣けてくる。

 しかし14年。されど14年。無駄に鍛えた知識と、商人スキルである“アイテムボックス能力”、そして器用な指先で妙に信頼を得ていて、他の冒険者からは笑われるどころか“ロージさん”とか呼ばれて、慕われてるよ。逆に泣きたくなる時もあるが。

 

「いやぁ、やっぱりロージさんに来てもらって正解でした。俺達だけじゃこんな数は持ち帰れませんでしたよ」

「なに言ってるの、それ以前にケルケムの巣を見つけること自体が無理だったでしょ」

「ははっ、だなっ」

 

 ケルケム。レアモンスターであり、リスっぽい外見なのに卵から産まれる不思議生物。

 発見報告が酷く少ない割りに、その毛皮は多くの人々に好まれており、ケルケムの毛皮のマント~なんていったらとてもじゃないが初心冒険者が買えるものじゃない。(ちなみに熟練冒険者でも結構キツイ)

 俺は発見できたとしても倒せないので、こうして怪しい場所を教えては、儲けの何割かをもらって生計を立てている。

 なんで巣なんて場所がわかるのかといえば、俺がこの地方、この町から離れたことがないからだ。

 そりゃね、レベル上がれば別の地方へ行く冒険者じゃあ、普通に探し当てるとか無理だよ。

 14年もここで冒険者やってきたからこそわかるものもある。

 でもごめんなさい、正直いい加減別の町とかも見てみたいです。

 さすがロージさんとか言われても辛いっす。

 

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 オロニロの町に戻ると、早速手に入れた素材を素材屋に渡して金にする。

 今回は巣に随分とケルケムが居てくれたから、懐も大分潤った。

 パーティーを組んでいた青年に、正式に仲間になりませんかと誘われたが、お断りだ。何度も言うが、俺は商人になりたいんだ。冒険者なんてやりたくてやっているわけじゃない。

 

「さてと」

 

 イメージするとじゃらりと現れる、金が詰まった袋。

 $袋と呼ばれるそれは、本人が渡そうという意志を持たなければ渡すことはできない、盗むこともできないというスグレ物だ。

 この世界はそういうように出来ているらしく、誰もが誰も支払いの時にはこの$袋から金を出す。

 取り出した袋の口紐を解き、広げた袋に今回の報酬をじゃらじゃらと入れて、今日のPTとの縁もこれで終わり。

 依頼を受ける者たちは、俺が必要な場合は“荷物持ち、承りますという”クエストカードを手に受付へと歩く。

 もちろん俺が出しているものであり、出ていない場合はクエストには行きたくないとか忙しいってサインだ。

 荷物持ちが居るっていうのは他の冒険者の皆様からすればありがたいことらしく(そりゃまあ戦えば戦うほど増える荷物で体を重くして戦ってたんじゃ、効率も悪いってもんだろうが)、何気なく貼り出している荷物持ちの依頼は案外簡単に受理される。

 もちろん契約金と達成報酬をもらうので、稼ぎが少ないわけでもない。

 

「どうするかな。もういっちょ募集をかけるか、それとも……」

 

 どうするかを悩んだ時、丁度反対側の酒場から「カンッパーイ!」とエールの木製ジョッキがコポーンと叩き合わされる音が響いた。

 あ、無理。体がすっかりエールな気分。

 よし、今日はこれまで。飲もう。

 もはや顔なじみのギルドの嬢ににっこり笑いかけて、踵を返して酒場へGO。

 エールを頼んで、その日はいい気分のまま酔っ払った。

 

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 翌日、古ぼけた宿で目を覚ますと、起き上がる前に軽い運動をしてからゆっくりとベッドから起きた。日本人だった頃のクセである。

 日本人だった頃は血圧高いとか言われてたから、血流良くする運動とかが普段から習慣づいちゃったんだよ。今は血圧も正常だとは思うんだが。

 

「さてと、今日はどうするか」

 

 募集をかけて荷物持ちをするか、一人で外に出て経験値を稼ぐか。

 仲間を集めて戦う、っていうのは却下だ。俺がただのお荷物になる。やるならソロね。現実って悲しい。

 

「……討伐依頼はないし、町の周りでちくちくと経験値でも溜めるか」

 

 商人はレベルが上がりづらい職業である。

 そのくせ戦闘ではとことん役に立たない。

 この世界のダメージの大半はスキルから得られるものであり、体を鍛えて物理で殴る、という行動はあまり意味を為さない。確かにそれなりの影響は出るものの、決定的な差にはならないのだ。

 いわゆる、細い男がスキルで無双できるような世界だな。ゴリモリマッチョは泣いてもいい。

 必要なのはレベルなのだ。レベルに依存したステータスなのだ。

 そんな、商売しか能のない存在をあざ笑うかのように、お国は商人に不利なルールを作った。

 お国にお金を渡さなきゃ商売出来ない。ただしレベルを上げてきっちりスキルを取れば免除される。やれるもんならやってごらんよ。ン? ほら。って感じの。おのれキング。

 捕まるのは嫌だし、条件さえ満たせば払わなくてもいいものを払うのも嫌だ。

 大体おかしいだろ、戦士ジョブの戦闘タイプのやつらは、モンスターの素材を売り払うだの武具を購入するだのの“商売”をきっちりやっているのに、ジョブが商人なだけでお国に金を払えとか。

 だから俺は意地でも自分の商人スキルを上げて、金なぞ払わずに商人をやるのだ。

 ギルドがしっかりと安定を見せて以来、成功した人は居ないとされるこの偉業……絶対に叶えてみせる!

 

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 商人は弱い。それは、この世界の者ならば誰もが知っていることだ。

 

「のわっとととっ! やっぱり弱いなぁ商人!」

 

 雑魚モンスター一体に対してでも、尻尾巻いて逃げるほどに弱い。

 現に今、後ろから不意打ちで攻撃した相手にさえ勝てない始末。

 

「くそっ! 職業によってステータスが変わるとか、現実で味わうとほんとクソゲーだ!」

 

 戦士になっただけで筋力が上がるとかわけがわかりません! どうなってるんですか!?

 ジャイアントビーという蜂型モンスターから逃げるが、時折振り向いては石礫を投げる。

 少しずつダメージは通るが、いつまで経っても終わりそうにない。こんなんで、経験値の大した足しにもならないとくるから泣きたい。

 最初はよかった。なんとか倒して経験値に出来た時、結構な勢いでレベルは上がった。ただしステータスはとことん伸びない。

 ギルド嬢に言われていたことだが、覚悟が足らなかった。

 

  “商人は、レベルアップをしてもステータスの伸びがとことん少ない”

 

 それでもと踏み込んだのは俺で、その言葉の重みを14年間背負っても商人を続けているのも俺だ。

 転職ってシステムはあるにはある。今までの経験を犠牲にして得られるもので、ステータスやスキルに依存したこの世界じゃあ、転職は馬鹿のやることだと言われているほどだ。

 何故って、転職するにはステータスとスキルの初期化がどうあってもしなければならなくて、肌に合わないからやっぱり前の職で、と戻っても、初期化された以上、スキルは戻らない。またレベル1からやり直しなのだ。

 なので、中途半端に適当な職に就くと後悔する。

 この世界での職業が生涯の職、という覚悟の量は、ようするに16歳までに決めなさいと言われているようなものなのだ。

 

「経験値の稼ぎ方はわかってる……! 経験したことのないことを経験すること。即ち本当の意味での経験……!」

 

 なら商人なら、モンスターを倒さないでも経験できることがあるのでは? と思うだろう。俺も最初は思った。

 しかし世界的大商人として知られるオヴォヴェヴァーニョさんでさえ、レベルは1のままなのだ。

 商売で、レベルを上げるための経験は得られない。

 経験値とは、様々な方法で経験を積み、その上でモンスターを倒すことで得られるものなのだ。

 なので散々頑張りましたよ? 落とし穴作ったりだとか囮になったりだとか、いろんな経験の末に28レベル。でもいい加減ね、そういった小細工で得られる経験も底を尽きてきたみたいなの。気づけば30歳で、今年も終わりだっていうのに1レベルも上がってないとくる。やばいっす。

 外道の限りを尽くした戦法も経験にはなった。正攻法ももちろん。勇ましい行動だってもちろんだ。

 しかし28の壁はとことん高いらしく、いい加減出来ることもなくなってきた。

 そりゃね、腐っても28レベル。最弱職の商人だろうと28レベルだ。村人よりは確実に強いし、ザコモンスター相手なら、多少は立ち回れるくらいには地味に上がっているステータスもあるよ。

 けどね、実りに……経験にならないんじゃ、殺された敵も浮かばれないだろう。

 現に、ジャイアントビーをようやく倒したのに、経験値はなかった。泣ける。

 

「おあちゃあっ!!」

『ゴブッ!?』

 

 そんなこんなで、切なさに嘆いているところに襲い掛かってきていた相手───ゴブリンに、振り向き様に蹴り上げ黄金クラッシュを進呈。

 ごちゅっ、とやわらかいものを潰すような感触を足に残し、ゴブリンは『アォオオオオオオオオッ!!』と絶叫、転がり、のた打ち回った。

 そう、最初はこういう外道戦法でも経験値はもらえていたんだ。今では0。

 外道を尽くしたあとに、これなら勝てると思った矢先に「ダヴァイ(来い)ッ!!」とか言って正面から倒した時も経験になった。今では0。

 あとやってないことっていったらなんだろうな……と考えている内に、もう30歳な俺です。

 そんなことを考えている内に、口の端から泡をこぼしながらも、内股で立ち上がるゴブリンが。“殺してやる”とその目が言っている。こんな状況は初めてだった。

 そうか、潰しておきながら、すぐには対処せずに立ち上がるまで待つ、というのはしていなかった。

 ……人間、慣れてくると思考も外道に落ちるから気をつけようね。目的を持った人間の怖いこと怖いこと。

 

『ゴッ……ゴォァアアアアッ!!』

 

 両手を挙げて襲い掛かるゴブリン! そして、そんな彼の黄金をもう一度「おあちゃあっ!!」と蹴り上げる俺。

 ……彼はもう一度悶絶した。

 さあ……糧になってくれ、ゴブリン。俺はもう、随分と前から目的のために手段を選ばない馬鹿になっているのだから───!

 

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 昨日、レベルアップした。29レベルに。

 夢の30レベルまであと1レベル……! ついに、ついにここまで来たよ世界の商人たちよ! あと1レベルで俺は伝説になれる!

 あ、ちなみに。29レベルになるためにゴールデンを砕いたゴブリンの数はアホなほど。

 そしてもう金的からのチェインコンボで経験値は積めなくなってしまった。

 まいった……このままじゃ1年どころか何年経ってもレベルが上がらないのでは……?

 最終手段として、この町から離れて別の町の付近の、まだ見ぬモンスターと戦うっていう経験を得る方法はあるんだが、正直な話死ぬ未来しか想像できない。

 だってここいらのモンスター相手にも、最終的にはゼエゼエいってる俺だよ? 相手の行動というかそのー……癖? この種族はこういうことを優先するーとか、14年かけて始まりの街周辺のモンスターを研究しても、ぜえぜえ言わなきゃ勝てない有様です。

 それが外の世界で戦って優秀に立ち回れるかっていったら……また14年かかるんじゃないでしょうか。無理です朽ちてしまいます。

 

「武器もいろいろ試してみたけど、もう経験が積めない……」

 

 熟練度はある。が、商人の武器の熟練度はせいぜいで5。既にカンスト済みです。

 剣も斧も槍も素手も、もはや経験にはならなかった。あ、ちなみに戦士職とかだと武器の熟練度は1万以上らしいっす。商人ゴミっすね、素直にひどい。

 溜め息ひとつ、朝日が昇る町の片隅の宿屋の前で、ぐうっと伸びをした。

 30になっても身を固めないおっさん商人ロージさん。

 ギルドではクスクス笑いの対象である。初心冒険者には物知りとして知られていても、商人職なら大体のヤツが結婚して家庭を持っている。

 ていうかこの世界、16で結婚出来るしね。

 なのにもう30ですよ。いや別に気にしてないんだ。俺が生涯愛するのはあの妻だけだって決めていたし、転生したからってその想いは一切変わっていない。

 アホな話だと笑う人も多かろうが、本気でそんな自分なんだからどうしようもないだろう。

 いっそ、愛しの妻のことを忘れるくらい心にドキュンとくる恋にでも出会えれば───……おっさんとして、そんな恋愛を横に流すんだろうなぁ。

 

「よしっ」

 

 軽い準備運動ののちに宿屋の主人に頼まれていた薪割りを終え、もう一度伸びをしてから汗を拭いてギルドへ。

 さて、今日も荷物持ち、頑張りますか。

 と、29レベルになった喜びもあったのか、おっさんでありながらルンルン気分でスキップなんぞを踏みつつ走った。

 案外やり方覚えてるもんだなー……なんて、スキップスキップルンルグルン。

 すると、なんということでしょう。丁度曲がり角から出てきた誰かと衝突してしまい、スキップという自らバランスを崩すような進み方をしていた俺はドグシャアと転倒。

 俺と衝突したお嬢さんに、逆に「大丈夫ですかごめんなさい!」と謝られる事態に。

 おお死にたい、これは軽く死にたい現実だ。

 

「い、いや、失礼。こちらが歳も考えずにスキップなんぞしたのが悪かったのです」

 

 起き上がりながらそう言って、見上げる形になった女性を……少女? を見る。

 なんとも可愛らしい銀髪少女が俺を心配そうに見下ろしていた。

 手を差し伸べようかどうしようか迷っているところなど、BUCHI-KAMASHIをされたことを置いておけるくらい可愛らしい。

 なんともまあ珍しいと思う。妻を愛した、むしろ溺愛した俺が、妻と子以外をこんな風に思うなど。

 

「ご、ごめんなさいっ、あのっ、いそっ、あのっ、失礼とは思いますが、急いでいたもので……!」

「ああ、大丈夫です。俺の方は平気なので、急いでいるのなら───」

「~……ごめんなさいっ! ありがとうございます!」

 

 言うや、走っていってしまう少女。

 急いでるのにきちんと謝れる上に感謝も出来る……いい娘だなぁ。

 年齢は14~16あたりかな。綺麗な銀髪であった……見慣れた、って言えば見慣れたもんだが……黒髪に慣れていると、やっぱり目を惹くものがある。

 と、たまたま出会った少女のことをねちねち語ってもしょうがない。

 随分とまあ目を惹く娘だったけど、おっさんに想われてもしゃーないだろう。

 それよりあと1レベル! 張り切っていこう!

 

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 ……で、とっぷりと夜。

 一日中戦ってみても、経験値1ぽっちも入らねぇでやんの……。

 今日はちょっぴり遠くまで行って、初対面のモンスターとも戦ってみたんだよ。

 でもなーんも変わらなかった。

 何故って、たぶん戦い方が一緒だからだと思う。相手の出方も他のモンスターとの違いがなかった。即ち経験がない。

 

「ちくしょうこのままじゃやべぇ……」

 

 このままあと1レベルを懸命に追って、気づけば老人とか普通にありそうなんですけど……!

 な、なにかないのかなにか……! 経験になるようななにか……!

 あと1レベルなんです! あと1レベルで“取引/売買”スキルが手に入るんです! おねがっ……お願いです助けてください!

 

「誰かっ……誰か助けて!」

 

 ややっ!? 声に出てた!? …………あれ?

 いや、俺あんな高い声なんか出せませんけど?

 それよりも今の声って───と、ちらりと夜で一層に暗い路地裏っぽいところをひょいと覗いてみれば、男二人に腕を掴まれ、必死に抵抗している……朝の少女。

 あ、うん。俺結構夜目利くのよ。金がもったいないからって松明も持たずに外で戦ってたお陰って言ったらそこまでだけど。

 

「あぁんだよぉ、いいだろぉがよぉ、……っく。嬢ちゃん俺と飲もうぜぇえ……?」

「そだぜー? んでよぉ、アニィの女になっちまえーよぅ……ひっく」

 

 わあ、酔っ払いだ。酔っ払いがおるよー。

 よし誰かを呼びに行こう。え? 俺が助ける? 100%の確率で返り討ちに遭いますが何か? 酔っ払い相手だろうと勝利知らずの男! ロージダーマッ!!

 しょうがないでしょ、商人ってそういうジョブなんだから。

 しかし考えている内にいよいよ男どもが少女に覆いかぶさろうとする。おいちょっと待て! 酒飲もうって話はどうなった!

 どどどどうするどうする! 人並みの正義感はあろうが、正義感だけで人を撃退出来りゃあ苦労しねぇよ! でもなんかほっとけない!

 

「っ……ええいっ!」

 

 $袋を手に出現させて、中から硬貨をじゃらりと手に取る。

 で、路地裏目掛けて何枚かばら撒くと、男二人はなんだなんだとそちらを見て───って、ちょっとこういう時くらい女の手ぇ離さない!? びっくりして身構えるくらいしてほしいんだが!?

 と、そんな時、少女が男の手をがぶりと噛んで、痛がり離した隙にこちらへ逃亡。怯えた表情で必死に俺へと助けを求め、伸ばすその手を掴んで───金のことが頭に浮かんだが、それを振り切って逃走!

 

「あぁっ!? 待ちやがれ!」

 

 待ちやがれなんて、前世でも今世でも初めて聞いた! でもロージさん待ちません!

 伊達に長いことこの街で暮らしてねぇぞ! 土地勘や裏道なんてお任せあれだ!

 

「逃がさねぇぞこらぁ!!」

 

 でも俺の足の速度がそもそも絶望的でした! あぁもうこれだから商人は!

 どどどどどどうしようなにか武器は! いやいやいやいや街中で剣なんか抜いたら俺が捕まるし! く、くそうやっぱりアレか! アレなのか!

 

「喰らえなけなしの硬貨弾!!」

 

 14年をともにした$袋から硬貨を一枚取って、指弾の要領でバヂィと弾く。もう傍まで迫っていたアニィ(兄貴のことだろうが)はそれを顔面で受け止めることになり、“へへっ、儲けたぜェェェ……!”と嫌らしい顔を───するでもなく、「ぎえぇええええっ!?」とか言って、ゴシャーと吹き飛んでいってしまった。

 

「………」

「………」

 

 呆然。

 え? 商人の指で弾いた金だよ? それがあんな、人を吹き飛ばすとか……金? …………金。

 

 ◆スキル/金の扱いが上手くなる

 

「いやいやいやそういう意味じゃねぇよ!?」

 

 ランダムでもらった能力だけど、そういう意味じゃないでしょ!? そうだと言ってゴッド!

 ほ、ほら、実は俺、指力がとんでもなかったとかそんな話だろ!?

 こうして小さな石を拾って、壁に向かって指で弾いてみれば……ほ、ほーらコツンって。金だって同じだから。絶対同じだから。ほぉぅらぁ、壁にゴボシャアってクレーターがギャアアアアアア!!

 

  ピピンッ♪《擬態モンスター・ウェロヴェジェルギェを討伐!》

  ピピンッ♪《レベルアップ! ロージは30レベルになった!》

  ピピンッ♪《商人スキル“取引/売買”を習得した!》

  ピピンッ♪《制限創造“ヌードゥルガイ”を習得した!》

 

 ……エッ!?

 モンス……エッ!? 30……エッ!?

 ば、ばばば売買……エッ!? ヌードゥルガイ……なにそれ!?

 

  £   £   £

 

 やあどうも、一日経って、ようやく夢のような現実を受け止めたロージだ。

 どうでもいいけどメイルヴァイツェンってのはドイツでいうヴァイツェンメール。小麦粉って意味だ。麦野二郎にはお似合いの名前である。

 

「………」

 

 で。どうしましょう。

 俺、現在14年近く泊まらせていただいている宿屋の中で困惑中。

 目の前にはベッドに腰掛け項垂れている少女。

 い、いやぁなんでもね? 朝方に会った時に衝突したのは、実際に急ぎの用ではあったらしいんだけど、なんでも親の借金のカタにどこぞの金持ちに身売りされるところだったらしくて。

 あ、いや、ご両親はとても正義感が強く、娘を売るなんてことは絶対にしないお方だーってのはわかってる。この娘のご両親、俺知ってるし。名前聞いてあの人かーってなった。

 しかし、そういう輩の裏をついて悪さをするのが、強欲に塗れた人間ってやつでして。

 あの手この手で逃げ場を無くし、お嬢さんに会わせてくれーって約束を取り付け、それくらいならと行ってみれば“イッパツヤラセロ”だったようで。いやもうほんとクズね。

 押し倒され、強引に服を裂かれ、しかしなんとか逃走してきたんだが、その途中で酔っ払いに扮した擬態モンスターさんに絡まれたらしく。

 あ、ちなみにアニィと呼んでいた下っ端は人間だった。銭投げを喰らって死亡し、どろどろ溶けていった魔物を見て腰を抜かしていたよ。

 

「………」

「………」

 

 両親のもとに戻りたいが、自分が強欲野郎を傷つけ逃げてきたとなれば、無理難題が両親のもとに届いているのも想像できる。

 金持ちを傷つけたオトシマエをー、とか言ってそうだもの、その強欲野郎。

 ようするに金がどうにかなればって話なんだけど、金額聞いてオイラ驚いちゃった。普通に家とか建てられちゃう金額ですって。俺なんて14年間この宿でひっそり暮らしてるってのに。

 

「助けていただいて……ありがとう、ございました……。そ、の……わ、わたしが犠牲になれば、両親が救われる、なら……」

 

 でもね、無理でもなんでも、ちょっと困ったことになっているのは確かなわけで。

 この娘、俺の嫁の若い頃にそーっくりなの。

 え? 似てるだけで無茶しちゃうの? とか言われそうだけど、どーせこの世界じゃそういった女性との縁もない俺だ、馬鹿な行動してみるのも悪くないんじゃない?

 ちなみにオラが嫁さんはそりゃあべっぴんでなぁ、親が日本人と外国人で、はーふっちゅう感じでなぁ。

 名前はセルフィアナっていって、もう可愛くて可愛くて。周囲がハーフってことで距離を空ける中、アホな俺は突撃して告白、好奇心からだろうとあっさりフラれて、しかし何度もアタックを続けて、好奇心じゃなくて本気だと受け取ってもらえて、付き合って、結婚して……うふ、うふふふ……!!

 

「……。自己犠牲はやめとけ。ようは金を返せばいいんだろう? 返済する気があるなら待つことくらい、相手も出来る筈だ」

「で、でも……そんなお金、どうやって稼げば───」

 

 セルフィアナも自己犠牲が強い子だった。とくに大事な存在のためならって、俺と付き合ってからもどれだけそういう場面に出くわすことになったか。

 それでもね、やっぱり好きなの。面倒だなぁって思うこともないくらい好きで好きで。

 

「借りたものを別のもので、なんて考えだと、相手は付け上がるだけだ。ていうか難癖つけてつけられて押し付けられたような借金なら、どっかに穴があるかもだし……なんだったらきっちり金を押し付けてやれば、ぐぅの音も出ない上に、周囲が証人になれば次の話を振ってくることも出来ない。気の長い話しになりそうだが、やってみよう」

「え……あの、やって、みよう……って……?」

「俺が手伝ってやる。このまま老いていくだけだったかもしれない身だ、なんの偶然なのかお前を助ける過程でレベルアップできたわけだし、嬉しくないだろうが恩返しの一環としてってやつだ」

「……、……あの」

「おう」

「間違っていたら、ごめんなさい……。わ、わたしの気を惹きたい、とかの事情なら……それは絶対にやめてください」

「いやあのな、こんなおっさんに言い寄られて、誰が喜ぶって───」

「わ、わたしは二郎さんのものなんです! あの人以外なんて絶対に嫌です! だから───!」

 

 ……。…………。

 ……うん。

 

「あの。失礼ですがあなた、名前は? あ、ワタクシ、ロージ・メィルヴァイツェンと申します」

「え……あ、わたし、は……セルフィアナ・カルトフメルと……」

「………」

「……あの……?」

 

 男だからと一応怯えていたのか、真っ直ぐに俺の顔を直視していなかった目が俺を見る。

 

「───」

 

 そして、呆然。

 

「二郎……さん?」

「セフィー……お前、どうして……」

 

 前世の名前を呼ばれちゃ、納得する以外ない。ないが……そんな馬鹿な。俺は確かにこの娘を、大事な嫁を庇って死んだのだ。

 ソレが何故、こっちの世界に───まさか!

 

「セ、セフィー! お前まさか!」

「しませんっ! 二郎さんに救って頂いた命を粗末にするなんて! ~……ただ……」

 

 セルフィアナは語った。俺の死に号泣したこと。泣いてばかりはいられないと立ち上がり、娘のために頑張ったこと。

 俺との付き合いで慣れていたつもりだった周囲の目も、自分一人になった途端に冷たいものに変わった気がして、想像通り自分を狙う男も多かったこと。

 そういったものを跳ね除け、16年を頑張り続けたが、その結果病に倒れ、死んでしまったこと。

 

「二郎さん、ごめんなさい……! わたしは……!」

「いや、いいんだ。怒鳴ったりしてすまなかった。というか……今まで見つけてやれず、すまない。この街のことで知らないことがあったとは、いや、恥ずかしい」

「二郎さん……」

「あ、あー……ほら、暗い話はやめにしよう。それより楽しい話題を、だろう?」

「あ……ふふっ……もう、変わりませんね、二郎さんは」

 

 目尻に涙を浮かべたまま、彼女は笑ってくれた。可愛い。

 ハーフであり、銀髪の彼女はその所為で随分と周囲から距離を置かれていた。

 うんと小さい頃に銀髪のことをいじめっ子にからかわれ泣かされ、それ以来そのことについて触れられるのが嫌だった、といつか言われたっけ。

 ああまで真っ直ぐに自分のことを褒めてくれたのは、俺が初めてだったとも。

 

「ところでセフィー。16年って言ったが……」

「え……はい。わたしは今年で16になりますが……二郎さんは?」

「……30のおっさんです」

「………」

 

 後ろめたそうに軽く目を逸らし、指先同士をつんつん合わせる俺に、セルフィアナはぽかんとしたのちに、ぷふっと吹き出した。

 

「二郎さん、恋に年齢は関係ないと思います。その……こんな借金女ですけど、よかったらもらってくれますか?」

「………」

 

 この娘、相変わらずどこか天然さんである。

 まあ、だからこそ惚れたんですが。

 借金いっぱいあるけどもらってください、なんて告白は初めて聞いた。

 しかしまあ、既に手を差し伸べてしまったわけですし、それを彼女が掴むか否かだったわけで。

 

「お前こそ。こんなおっさんでいいのか?」

「なにか問題でも? わたしの目はずぅっと、あの日わたしを庇ってくれたあなたを見ています。若かろうが時間が経っていようが、あなたがあなたであるのなら……わたしの居場所はあなたの隣です」

「……!!」

 

 悶絶。それはいつか俺が語った、セルフィアナに対しての愛の量のお話だった。

 どんなお前になってもお前はお前で、その隣が俺の居場所だって。

 ぐおっ! ぐおおおお!! 恥ずかしい! 恥ずかしいのに嬉しい! おじさん喜んじゃう!

 

「お、おぉおおぉおう、……おう。じゃあその、えっと……あれだ、な?」

「……ふふっ」

「わ、笑うなって……」

「だって、ふふっ、うふふふふっ……」

 

 ……まあ、そうだよな。またこうして会えるとは思っていなかった。

 この30年間、愛する妻と離れ離れになって、ずうっと心に穴が空いていた。

 なのに実は同じ街に居ましたよ、とか泣けてくる。

 ちくしょう愛してる。

 絶対にこいつをもう一度嫁にしてやる……!

 なので打算的ではありますが、借金問題をなんとかする方向で攻めて行こう。

 

  と、いうわけで。

 

 その日からすぐに行動に出た。

 今までの14年間、ちまちまと稼いだ金と、それ以前に貯めた小遣いの全てを集め、行商のための前準備。

 というのも俺にはものを売るための店がないから、流れの商人って位置に立つことになるが、なんにせよ売るにも買うにも金は必要だ。売る方は、おつりとかそっち方面な。

 で、売る物はといえば、創造(制限あり)で作るものが主となる。なんてったって元手がタダ!

 なのでスキルの説明をよく読んで、用法容量を守り正しくお使いすることをここに宣言。

 なにせこの創造、創れるのが麺類だけとくる。どうなってんのこれ。

 しかも俺が食べたことがあるものだけだから、どうしてもカップメンとかインスタント方面に偏りがちだ。

 や、そりゃあ美味しい麺類を求めていろんな地域を巡ったことはあるが。

 そんなこんなで完成したのが“行商人ヌードゥルガイ”である。

 

「なぁセフィー……もうちょいいい名前にならなかったのか……?」

「? とてもいい名前だと思います」

 

 ……もう一度言おう。宅のセルフィアナさんは結構天然さんである。

 よしまあそれはもうわかってたことだからいいとして、と。

 一度セルフィアナの家に戻って、そこに来ていた借金取りには前金として俺の財産のほぼを渡した。

 あとは稼いで払って一件落着!

 フハハハハ見ているがいい借金取りめ! 麺類とは人を幸福にするものぞ!

 家の一軒くらいすぐに建ててくれるわー!!

 

 ……。

 

 …………。

 

 冒険者ギルドと契約結べちゃいました。まじか。

 

   £   £   £

 

 冒険者ギルド。

 荒くれ者や真っ直ぐな瞳をした冒険者などが闊歩する、様々な依頼を受ける場所。

 そのギルドには食事処もあって、酒や食事が振る舞われる。

 しかし最近になって人手不足と食料不足が祟り、食事処を閉めるか否かという話が出ていたところへ、ロージさん惨状。もとい参上。

 

「これ、なんだが」

「ほほう?」

 

 上にいくほど広くなる筒状のブツ……いわゆるカップヌードゥルをほいと渡す。

 ギルド長にどうぞ、と促すと、彼はそのフタをペリペリと開け、そこから溢れ出る湯気に驚いた。

 そう。大変面白いことに、この創造(制限あり)は、完成品を創造出来る。しかもフタを開けるまでは確かに乾麺で軽いままなのに、開ける過程でどんなステキマジックが発動しているのか、完成品に到るのだ。

 

「これは……ど、どうなっている!? フタを開けた途端に熱く、重く……!」

「企業秘密ということで」

「お、おぉお……! よもや商人で30レベルになったと聞いたが、なるほど……! このような不思議な恩恵を得られるのであれば、苦労してでも目指す価値はある、ということか……!」

 

 ちなみにこの不思議な状況を、俺は“商人レベル30の奇跡だ”と大法螺を吹いて通した。

 だってゴッドに特典もらったんだーとか言えないし。

 

「おっと、麺が伸びてもいけないな。ほれどうぞ、まずはこの味だ。食べてみてくれ」

「おお、そうだな」

 

 初老のギルド長が、まずは香りを楽しんでからスズ……と汁を飲む。

 シーフードヌードゥル、というのはその味で人を魅了して止まない。

 食いすぎで飽きる人も多いが、主食が魚介類のこの街の人たちにとって、これは馴染みがある方だ。

 

「ほう……! これは美味いもんだな……! お、おっとと、では具材と麺を……ほ、ほふっ、おっほ! ~……!」

 

 筒状の容器の横についていた長フォークを手に、はむはむずるずると食べては、目を輝かせて夢中になる老人。

 座らせてもらった椅子の隣にはセルフィアナも居るんだが、勢いよく食べるギルド長を見て、さっきから俺のふくをつんつん引っ張ってくる。

 お、おお、食べたいのね? まあこんだけ美味そうに食われたらなぁ。

 そうこうしている内に汁の一滴まで飲み干したギルド長は、決着を求めてあっさりとこう言った。「よし契約だ!!」と。

 

「け、契約、か? おいおいじいさん、ちょっとは考えて───」

「ええい黙れ! お前とは長い付き合いだ! 人となりもわかっとる! こりゃあ売れる! 大人気間違いなしだ! しかもこれはお前さんだけで用意出来るんだろう! 人手不足も補えるわ!」

「えーと、つまり?」

「お前さん初の取引/売買は冒険者ギルドとの契約! 前金は、あー……これでどうだ!」

 

 さらさらと紙に文字が連ねられ、俺の前にンバッと突き出される。

 ……むう。

 

「家一軒建てられるくらいの金とか出せないか?」

「地底見るのも大概にせい! せめて足元を見ろ足元を!! そういった言葉は、売れ行きを見てからだ!」

「了解。じゃあこの前金は仮契約代ってことで。とりあえず商談成立、と」

「お、おう。ところでだなぁメィルヴァイツェンの。そのー……他の味とか、あるんだろう? まずはこの味を、とか言っていたからなぁ」

「んー……まあ、結構ある」

「ほっほうそうかそうか! うむ! ギルド長だからな、おかしなものを出されても困る! まずはこの長が味見をだな……!」

「銀1、胴70」

「金を取るのか!? ギ、ギルド長だぞわしは!」

「もう契約しちゃったし、ギルド員だからって無料で提供するわけないだろ。前のギルド飯だって金払ってたじゃんか」

「ぬぐぐぐぉおおおお……!! ……ふ、ふん。そんなことを言って、どうせこのわしを満足させられるような味がないから、味見などさせたくないんだろう? あぁん? なんだったらほれ、出してみれ? ちょっぴり辛く、どろっとして、口にべったり広がるような味の───」

「…………(無言でカレーヌードゥルを創造、開封)」

「こっ……このわしにうってつけーェェェェ!! よ、よこせメィルヴァイツェン! くふー! なんという刺激的な香り! ななな何故か無性に腹が減りおるわー!!」

 

 ギルド長がカレーヌードゥルの前に堕ちた。

 まあ、香りならNo.1だよなー、カレーめん。

 

  £   £   £

 

 そんなわけで、ギルドの料理提供スペースを借りられることになった。

 売り上げが大きければそのまま家代わりにしてくれてもいいらしい。

 

「すごい……二郎さんはいつもわたしを驚かせてくれますね」

「悪知恵が働くだけだよ。さ。早速今日からだ。……っと、そういえばセフィー」

「はい?」

「お前の転生特典ってなんだ? あるよな、神様にもらったの」

「あ、はい。わたしのは……」

 

 ちらりと俺を見るセルフィアナさん。な、なに? どうしたの?

 

「魔法付加と、効果持続と…………~……」

「セフィー?」

「さっ……再会の、祝福……」

「………」

「~……」

 

 撫でた。抱き締めて、頭撫でまくった。

 ああもうこの嫁はどうしてこう可愛いのかっ……!

 

「でも、ええと、二郎さん。わたしの特典は、二郎さんの役に───」

「うん? ああ、立つぞぉ? めっちゃくちゃ立つ。むしろこれからラーメンがいっぱい売れて、大変になるかもだ」

「?」

 

 相性がいいのはとてもいいことだ。

 俺とセフィーが力を合わせれば、ギルド食堂は安泰、金を稼いだ上に自分の家だっていつかは買えまする。

 さあ、張り切っていこうおっさんライフ! 俺が今日まで広めた人脈と特典を駆使して、俺は───商人として、しっかりと生きていく! もちろん金は納めずな! ウェーッハッハッハッハ!!

 

  と、いうわけで。

 

 まずはカップラーメンを創造。

 醤油、味噌、塩、シーフード、カレー、とんこつ、とんこつ醤油、とんこつ味噌、ちゃんぽん、魚介節、そして激辛。

 味は他にも味わったことのあるものを創造して、ラーメンに限らず麺類ならばと蕎麦とうどんとスパゲティも用意。

 で、忘れちゃいけない焼きそばさん。ペーヤングは忘れられない味だと思う。

 もちろん冷麦に素麺も出せるから、思えばいろいろなものを食べたよなぁと笑う。

 

「……あ、そうだ。……まだまだ食べたかったのに、店主さんが歳で辞めちゃったあのラーメン屋のラーメン」

 

 イメージして、創造。

 出てきてみれば、イラスト……じゃなくて写真か。それがいつかの俺が見たまんまの、どんぶりに入ったラーメン。

 開けてみればふわりと漂うあの懐かしき───……あ、やばい、泣きそう……!

 

「じ、二郎さん! それっ……!」

「あ、ああ……セフィーの分もあるから……」

 

 はい、と渡すと、目をきらんきらんに輝かせて喜んでくれた。

 ……ええ、俺よりずっとファンでした。あそこが潰れて、俺より悲しんでいたのがこいつだったくらいだし。

 早速二人でいただきますをして食べてみれば、くおぉおっほぉおお……!! や、やば……! これ、ほっぺた落ちる……!

 

「~……!! お、おいひっ……おいひいでふ、ひろーはん……!!」

 

 やばい美味い。可愛い妻が頬いっぱいにラーメン詰め込んで震えるほど。

 ……ちなみにだが、これらは俺の経験から出されるものであるからして、あの時食った方が美味かったよなー、というのは絶対にない。あの頃のままの味がそのまま食べられます。

 つまり懐かしさや空腹が美味なるスパイスになることはあっても、これらが記憶を下回り、不味くなることは断じてない。

 それは要するに上手く食べれば記憶の中も更新され、一層に美味くなる可能性もあるということ……!

 で、今僕は腹減ってます。思い出補正があろうと、変わらぬその味に当時以上の感動を抱いています。つまり、この味、進化します。

 やばい、美味い、幸せ……!

 でもここでステイですよセルフィアナさん。

 

「あっ、やっ、な、なんで取りあげちゃうんですか!? 二郎さん鬼です! 悪鬼です!」

 

 ラーメンで我を忘れる嫁が可愛い。

 でもラーメン二郎ではギブアップしていた。

 まあ、あれいろいろすげぇもんね。

 

「二郎さん! 二郎さん! じろ……う、うぅううう~……!!」

「ちょ、待った! いじめてるとかじゃないんだって! やってもらいたいことがあって!」

「食べ終わったらやりますから! 全力でやりますから!」

「そうじゃなくて! ……ラーメンにね、魔法付加をしてもらいたいんだ」

「……!? ……ト、トッピング……ですか……!!」

 

 いやあの、なにその“それがあった”って顔。

 え? 魔法効果でラーメンって美味くなるの?

 疑問符を頭に浮かべながら、とりあえずことん、とセルフィアナの前にラーメンを戻す。

 と、彼女はかつてない真剣な顔でラーメンと向き合い、

 

「では……“幸あれ”(グリュック)

 

 幸福魔法を使用。

 綺麗な光がラーメンに吸い込まれていき、早速といった様子で食べるセルフィアナ。……が、目をきゅうっと閉じ、体を震わせ、やがて弾かれるように笑顔を見せてくれた。

 

「……幸せ?」

「とっても幸せです!」

「そかそか。じゃあ他の魔法も試してみような」

「ん!」

「……セフィー?」

「ん!!」

 

 ラーメンが突き出された。食べろということらしい。

 じゃあその、失礼して。ちゅるり、と。

 

「ど、どうです? どうです?」

「んー……セフィーの手料理ほどじゃないな。うん、でも確かに小さな幸せは感じるかも……って、どした? セフィー」

「~……!! ~……!!」

 

 妻が顔を覆って震えておりました。耳、真っ赤である。

 のちに妻は「もう! どうして二郎さんは! もう!」と俺をぽかぽか叩いてきた。真っ赤な顔で。

 可愛かったので抱き締めたら、「きゅう」とひと鳴きして大人しくなった。

 さてさて妻を愛でるのも果てまでに、いざ魔法実験。

 セフィーの補助魔法はレベルのこともあって1レベルだ。ジョブを決めた人が必ずしも冒険者にならなきゃいけないわけじゃないので、一言で言えばセフィーはレベル1。モンスターを倒したこともない。

 そこで俺の出番です。

 ここいらのモンスターの習性などを知っているこのロージさんに任せてください。

 今日からギルドで料理を提供すると言ったな。あれは嘘だ。

 早速ギルド員にちょっと空けることを説明して、街の外へと繰り出した。

 ザコ魔物討伐の依頼はなかったよ。残念だ。

 

「はい、というわけでセフィー、ここが魔物蔓延る外の世界だ」

「あ、あの、じじじ二郎さ、ん……! わ、わたっ、わたし、魔物なんて、見たことも……!」

「倒し方を教えるから。大丈夫、今日中に20レベルはいける」

「まだ1レベルですよわたし!」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 このロージさんは、自身は雑魚だが教導員としては優秀でございます。

 これまで荷物持ちとして活躍し、魔物の効率的な倒し方も教えてきた猛者でございます。

 あやつは儂が育てた! なんて言いたい冒険者なんてたーっくさんおるでよ、どーんと任せんしゃい。

 

「大丈夫、やばくなったら俺もやばい」

「なにも大丈夫じゃありませんよ!?」

「ま、まあまあ待ってくれ、ちょっと考えてみた武器があるんだ」

 

 これならきっと強く在れる。激烈雑魚な商人でも、サポートくらいは出来ると思うのだ。

 そんなわけで手に$袋を出現させて、普通ならば金の出し入れしかしないそれの口を強く強く縄で縛り、縄の先には棒。

 棘の無いフレイル、モーニングスターもどきの完成である。

 

「あの……二郎さん?」

「俺のギフトは金の扱いが上手くなると器用な指先、あとは麺類の創造だ。金と指先があれば、俺は強いんだと思う」

 

 言って、フレイルを振り回してみる。

 するとどうでしょう、今までの雑魚っぷりが信じられないくらいの体捌きでフレイルを振るうことが出来て、鎖鎌もどきを手にした柳龍光のようにバオッと素早く回転、飛ばすのも戻すのも自在にこなせた。

 ……こなせたあとで体力の限界を向かえ、大地に手足をついてゼハーゼハーと荒く息を吐き出したが。

 やっぱダメ! 商人弱ェエ!!

 

「というわけで、一匹ずついこうか」

「はちゃめちゃに不安です」

「俺もだ」

 

 お互いが素直になった瞬間だった。

 

  £  £  £

 

 しかしレベルアップしてしまえば案外とんとんと進めるもので、経験値を受け取れる条件を効率よくこなしていけば、あっという間に20レベル。

 補助魔法を次々と覚えていったセルフィアナは、もはや俺なんぞ足元にも及ばぬほどに強くなっていた。

 だが知るのですセルフィーさん。……セフィーで言い慣れてるけど、セルフィーもいいな。セを抜くと某海賊王になりたい男になりそうなんで嫌だけど。

 よかとですか? あっしはここで30まで上げました。つまり、やろうと思えばあと10いけます。

 そこにプラスして、俺だけでは出来なかった方法でも経験が積めると思うのだ。

 たとえば夫婦同時キックで倒すとか、愛を囁きながらブチコロすとか、夫を囮にして倒すとか。

 そんな、セフィーが泣いて嫌がること(俺を囮に)を無理矢理やった先に、彼女の30レベルがありました。

 すげぇ、1日で30レベルだよ。俺の14年間をどうか返してくれ。

 

「あの……レベルって簡単に上がるんですね」

「───ソウダネ」

 

 心の底からお疲れ様を届けた。俺に。

 気にするなジョルノ……これでいいんだ……これで。俺の苦労が誰かを成長させた……それが勝利なんだ。

 と、いうわけで。

 この世界での30レベルってのは、それぞれのジョブの節目的なものになる。

 商人の重要スキル、取引/売買がいい例だ。

 当然魔法使いさんも30を迎えたからには補助魔法がグレードアップ。初級中級上級と使えるようになって、ホックホクである。

 ギルドに戻るまでの道すがら、俺とセルフィアナは付加する魔法によっての値段をどれほど上げるかを話し合った。

 とりあえず基本のラーメンは通常の値段。麺大盛り(1.5倍)はちょっと上で、2倍はさらに上。そこに“補助魔法”(トッピング)で料金を決めていく。

 はっきり言って、これ絶対トッピングの方が高価だわ。

 しかしまあ売ることに変わりはない。相手がどの魔法効果が欲しいかで値段が決まるんだ、嫌ならトッピングをつけなければいいだけのこと。

 さ……早速準備して───売りましょう? と思ったが、さすがにもう夜も遅いのでギルドを閉めるそうだ。

 そりゃそうだよな、朝から夜までド根性レヴェリングしてたんだから。

 よし、風呂入って寝よう。

 

……。

 

 翌日、ギルド内横の食事スペース、その名もヌードゥルガイは、ギルド長のオススメってことで結構賑わっていた。

 寝る前にセルフィアナと協力して、幾つかトッピングラーメンを製造、用意しておいたんだが、これが結構好評なのだ。

 ていうか今さらだが、こんな初心冒険者の街付近で上級補助魔法を欲するヤツなんて居ねぇよ。

 初級で十分すぎて、上級トッピングラーメン全然売れねぇ。

 

「おぅい! とんこつ! とんこつをくれ! 2倍でだ!」

「こっちはペーヤングだ! 特盛りで頼む!」

「こっちは辛々魚(しんしんぎょ)だ!」

「激辛ペーヤングを。特で」

「こっちシーフードヌードゥル物理防御初級トッピングで!」

「この“ツィバカラ”ってのを頼む! 大盛りで!」

「ミソ……スミルェってのを頼む。───幸福マシマシで!!」

 

 麺類は俺が記憶しているものならなんだって出せる。

 ご当地名物ラーメンだろうと、地域限定カップメンだろうと。

 なのでメニューには、俺が食ったことのあるラーメンがごちゃりと書いてある。

 あ、ちなみにマシマシってのは魔法効果重ね掛けってやつで、きっちり相乗効果もあったりする。特に幸福の重ねがけはやばい。とっても幸せ。食で幸せになれるとか、料理バトル漫画を見たことがある人なら経験してみたいって思ったこともあるだろうが、実際やってみると……ヤバイですよ?

 もう、トニオさんの料理を食った瞬間をいつでも味わえるみたいな感じ。

 

「ぎゃあぁああああ美味ェエエエエエエ!!」

「ほっぺが! 美味過ぎてほっぺが痛ェェェェェ!!」

 

 様々なラーメンがある中、人によってはどうしても“こっちのラーメンだ”“いいやこっちだね”と好みが分かれることだろう。

 しかしこのヌードゥルガイのラーメンは、その味が苦手な人にも俺が感じた“美味い”を届けることが出来る。

 つまり好き嫌いなく麺類を味わえるわけで。

 え? 俺? リストに書いてあるラーメン、全て大好きですが?

 マズイものをメニューに載せたりはしませんとも。

 そして、昨日試して今朝も試してみたが……空腹状態でラーメンを食って、非常に美味しく感じた場合、やっぱり美味さが更新された。

 つまり、俺が腹を空かせて食べてを続ければ、我がヌードゥルガイラーメンは安泰である───!

 と、そんな順調のさなか、よーく見知った顔がニヤケ顔で寄ってきた。一応の幼馴染で、同じ村出身の猿顔野郎である。

 

「おーぅい! ちと遠出するんだが、幾つか見繕ってもらっていいかー!?」

「おー、金払ってくれるなら問題ないぞ」

「っへへぇ、そりゃ当然ってな。よかったなぁメィルヴァイツェン。商人30レベルなんて伝説みてぇなもんだが、俺ゃお前はいつかやるって思ってたぜ?」

「へいへいあんがとよ。てかお前、戻ってきてたのか」

「おう、カルナデーンで螺旋貝の収集依頼があってな」

「そうかい。んじゃあこれがオススメだ」

「おう? なんだいこりゃあ……菓子かなんかか?」

“小僧星”(ヴェヴィーストゥァー)だ。食べると体が熱くなる魔法効果がある。螺旋貝なら鍾乳洞の砂浜に入るんだろう? あそこは寒いからな」

「そういうことか。助かるぜ。ついでになんか役立ちそうなものはあるか?」

「あー……気配鋭敏効果のあるトッピングと、状態異常無効トッピング、不意打ちで状態異常受けたとき用に状態異常解除小僧星」

「まあ、お前さんが言うならどれもこれもか。よし、2倍のラーメンに全部トッピングってのは出来るか?」

「任せとけ」

 

 全部乗せラーメンは、ラーメン好きの憧れだと思うの。

 なので既に創造して用意されたものがこちらに。

 

「結構高いけど、平気か? 初級補助魔法がごっちゃり付加されてるんだが」

「すげぇなおい……持続時間は?」

「ほぼ一週間だな。で、値段は……ゴニョリ」

「たっか!? おまっ……たっか! 高いだろそりゃあ!」

「ああ、だから必要なトッピングをピンポイントで選んだ方がいい。これは金持ち用だな」

「まあ、そうだな。んじゃあ熱くなるのと気配鋭敏と状態異常無効で頼む」

「はいよ」

 

 まっさらな通常のヌードゥルにセフィ-が注文された付加魔法をかけていく。

 その姿に猿顔の幼馴染……オノヴァン・ブッフが「おぉっ?」と声を漏らした。

 

「お前さん、たしかカルトフメルんところの嬢ちゃんか」

「え、あ、はい。あの、あなたは……?」

「俺ァ、オノヴァン・ブッフってんだ。こいつとは幼馴染で、あんたんとこの親父さんの……まあ、知り合いだな。お前さんがちっこい頃に何度か会ってんだが、ははっ、覚えちゃいねぇか」

「いや、お前ついこの間までひどい太り方してただろ。それが急にこんなに痩せて、わかれっていうのは無茶だ」

「たはっ、そりゃそうだ! で、だがー……やいメィルヴァイツェン。お前、まさかいい歳して一回りも離れた嬢ちゃんに───」

「結婚予定だが」

「そこまで話が進んでんのかよ! お前この間会った時、“俺はもう誰も愛せない”とかぬかしてたろうが!」

「なっ! ばっ! ブッフ貴様! そんな大きな声でっ……!」

 

 おそる……と見てみると、ぽーっとした顔で俺を見るセフィー。

 い、いやっ、違うんだぞ!? 俺はっ……えと…………チガイマセン。

 

「なぁ嬢ちゃんよ。本当にこいつでいいのか? お前さんほどのべっぴんさんなら───」

「一目見た時から心は決まっています。この人以外なんて、何処にも居ません」

「───」

 

 どこかおどおどした嫁からの、きっぱりとした一言。

 それを真正面から受け止めたブッフは、目をぱちくりと瞬かせたのち、楽しげにふっと笑い、目を伏せた。

 

「祝儀代わりだ。やいメィルヴァイツェン、全部入りの初級トッピングをよこせ」

「え……いいのか?」

「祝儀だって言ってんだろが。いーから寄越して、金を受け取れ」

 

 全部入りトッピングラーメンが売れた! しかもその場で食うという豪快さ!

 ……途端、オノヴァンの体からファゴォオオと金色の光が放たれ、彼のステータスが大きく強化された。

 

「おいこら! 光るなんて聞いてねぇぞ!」

「寒冷地でも熱風地でもご安心。暗闇でも光って唸り、軽度の状態異常も無効化してスタミナも筋力も増強、様々な補助が冴えるラーメンだ」

「ふ、ふおおぉぉぉぉ……!?」

「で、汁まで飲み干すと幸福に満たされる。あ、でも暴食禁止な。幸福感がクセになって、ヤバイことになりかねない。……あっちでマシマシ頼んだヤツみたいに」

「ふぉお……お、おお?」

 

 幸せを噛み締めているオノヴァンを促すと、幸福マシマシを汁まで飲み干した男が自分の両肩を抱くようにしてビクンビクンと震えていた。オクレ兄さんとか今にも言いそうだ。

 ただし幸福感が落ち着けば普通に戻るので、そこはまあ、良しということで。

 そんな光り輝くおっさんが誕生した光景の中、セフィーが俺の服をくいくいと引っ張り、小声で囁く。

 

「二郎さん、シーフードの在庫がもう……!」

「初日でなんでそんな偏るんだよ! 名前の所為か!? だろうな! ああもう!」

 

 シーフード……海鮮ものはここじゃ珍しくもない。

 海に近い街なので、ちょいと出てみりゃ海がある。

 だが、海鮮料理とシーフードヌードゥルは別物だ。……別物なのだ。

 

「海鮮ものだっつーから頼んでみたら、こりゃ美味ぇ!」

「おーいロージさーん! シーフード二つ追加ー!」

「俺も! あ、待った! 俺こっちの辛シーフードっての!」

「ナポリタンと赤葡萄酒(ヴァイン)を。ケーゼとタバスコも頼む」

「俺このイカスミスパっての!」

「あ、えっと……この汁無し坦々麺っていうのを……」

「シーフード携帯用を頼む!」

 

 お前らちょっとは遠慮して注文しろ! 少しは話す余裕くらいくれよ!

 ていうか今モノクルつけてそうなオールバック徴税請負人さんが居なかった!?

 

  £   £   £

 

 こうして、ヌードゥルガイは大繁盛、連日創造した先からとことん売れて、冒険者どももトッピングのお陰で依頼達成続き。

 ちょいとヤバい依頼を受けたやつらも、セフィーの再会の祝福のお陰で傷を負いながらも帰還。回復魔法付加の小僧星で回復を果たしては、ヌードゥルガイの虜になっていった。

 

「いややばかったぜ! “あ、死んだ。これ絶対死んだわ”って思ったからなぁ! けどなぁ、死に際にこの食堂のことが頭に浮かんだのよ! 死ねねぇだろそりゃあ!」

「それって、俺らにまた会いたいとかか?」

「まだ食ってねぇヌードゥルがある」

「ぷはっ! てめっ……───だっはははははは!!」

「つーわけでメィルヴァイツェン! 今日は“一嵐堂”で頼む! トッピングに防御力強化な!」

「あ、俺はとみ因で。トッピングは俺も防御力だ」

 

 再会の祝福関係ねぇ。あれただの食い意地だよ。

 

「けどま、なにはなくとも防御力だ。これほんと助かる。あと回復な。飲み込まなきゃ効果が出ないから頑張って食うんだけどな、ボディにキッツい一撃くらった時に飲み込むの、めっちゃ辛かったわ」

「おーわかるわかる。悪いこたぁ言わねぇ、回復系は小僧星にしとけ。ヌードゥルは死ねる。てか吐く」

「おー……“やべ! 早く回復しないと死ぬ!”って時にヌードゥル食うあの瞬間、なんか逆に死にたくなるのよなぁ……」

「ヌードゥルに命握られてるみたいでな……。そういやロボノドスさんがキノコの毒に当たったんだが、そいつの仲間がひっくり返ってるロボノドスさんに泣きながらヌードゥル食わせようとしてたぞ」

「毒中にヌードゥル食うとか、泣けるな」

「いやそれ解毒草でいいだろ。なんでヌードゥルだよ。試練か。試練かよ。泡吹いて倒れてるおっさんに甲斐甲斐しくヌードゥル突っ込む若人とか見てて辛いわ」

 

 うるせ、こっちは注文されたから出してんだよ。絵面とか知らん。

 

「えびヌードゥル、えびの味しかしねぇんだけど……これヌードゥルである意味あるのか?」

「海老味を堪能しろってこったろ。それ言ったらカレーヌードゥルだってカレー味じゃねぇか」

「いや、それはカルトッフェルの味もわかったりするだろ? これほんとえびなんだよ。なにこれって思うほどえびなんだ。ほら、えびの殻剥くだろ? 熱湯かけると赤くなるだろ? 湯気と一緒に香りもあがるだろ? はい、あの匂いがそのまま味に。……そんな味だけ」

「……ちっとスッペもらっていいか? ん、んー……うわ、まじだ。えびだ」

「つーかこの味ってガルネーレだよな? なんで意地でも“えび”で通すんだ?」

「えびだからだろ」

「……そか」

 

 えびは不評である。だって海老だもの。

 海老マニアには嬉しいんだけど、いやほんと、海老なんだ。

 なんでこれラーメンにしたの? って言いたくなるほど、海老なのだ。

 かっぱ海老せんの味を濃くしてスープに溶かしましたって味なの。いいから海老せんやってろって言いたくなる。

 ちなみにこの街の特産物はガルネーレ。つまり海老。身を調理したものや、無駄をなくすために殻を用いて使う食材だ。身よりも殻の方がいい味と香りを出すんだよな、あれ。

 はい、そんな僕らにえびヌードゥル。……全力でいらねぇ。

 けどそれが好きな奴も確かに居るわけで。

 

「プッタネスカってよ、娼婦風って名前の割りに、人気あるよな」

「娼婦馬鹿にしてるヤツがウメーウメー食ってるの見て笑っちまったよ」

「それがどういうもんかは知らないが、俺的にはやっぱりこの“煮込みうどん”が最強だな」

「お! それ美味いよな!」

「俺はこの“〆のうどん”が一番好きだな。この複雑な味が一つにまとまった汁の味がたまらん……!」

「どらどら? ……おっ、なんかこのクニュクニュしたの、いいな!」

「それはメィルヴァイツェンの野郎が“シマブチョウ”とか言ってたぞ」

「シマブチョウ……強そうな名前だぜぇ……!」

 

 シマ腸な。いつから部長になったんだよシマ腸。

 あとそれモツ鍋やった時に〆を雑炊セットじゃなくてうどんセットで楽しんだ時のものだから、罪悪感……!

 いやね、なんでそのタイミングでインスタントメニューに登録されたのかわからない。

 そりゃさ、うどんがよく煮えてそうな時点で前もって追加の野菜とモツを頼んで、綺麗に盛ったモツ鍋ですよ? でもそれがその形の状態で、モツや野菜の旨味が汁に溢れ、いい具合にうどんも味を吸った状態で創造登録されるなんて誰が思いますか。

 はい、俺も食ったけどヤバイくらい美味しかったです。

 まあそれはそれとして、麺類を創造し続ける日々の中、ちとギルド長に協力してもらって本を出しました。

 『これさえあれば初心者卒業! 30Lvまでの道のり!』という本。

 あ、タイトルのあとに小さく“ただし商人は除く”って書いてあります。だって商人で挑む場合、14年は覚悟してもらわなきゃだし、そもそも最後の1レベルは特典があってこそのレベルアップだった。ヘタすりゃ一生29レベルで過ごすことになるから、注意は必要なのだ。

 え? 売れ行き? 馬鹿売れです。

 ここらの街じゃあこの街から多くの高レベル者が次々と排出されてるってんで、気になってやってくる冒険者やレベルアップで伸び悩んでいる冒険者もやってきて、本を買っていく。

 お陰で食堂の売り上げと本の売り上げであっさり金は溜まり、改めてセフィーを購入。言い方アレだけど、購入。

 その流れでローンで家も買って、そのローンもあっさり完了出来て、俺達の生活は実に穏やかに───

 

「……もったいねぇなぁあの嬢ちゃん。あんな可愛いのに、相手があんなおっさんとか」

「セルフィアナちゃん! そんな金で女を買うような男は捨てて、俺についてきてください!」

「わっ……わたしの旦那さまになんてことを言うんですか! 表に出てくださいブチノメしますよ!?」

「思ったよりも旦那ラブだったこの娘!」

「てめぇ! ロージさんに向かってなんてこと言ってんだ! アホか! この街から出た冒険者の大体の恩人様だぞあの人!」

「ふん、俺はあんな男が書いたものを読む以前に、既に30など越えていたんだ。30レベルになったからなんだという」

「技術者が増えて街が豊かになって賑やかになって笑みが増えましたがなにか!? ていうかもう出て行ってください!」

「そ、そんな、セルフィアナちゃん……!」

「お前、30レベルナメんなよ? 嫌々冒険者やってたヤツが30レベルになって手伝えることが増えて、どんだけこの街が豊かになったと思ってんだ」

 

 30レベルで得られるジョブスキルは、それぞれのジョブに知識と繁栄をもたらした。

 ぶっちゃけ生活のために仕方なくモンスターを狩っていたものたちも、比較的楽に依頼をこなせるようになり、こなせるようになれば魔物の脅威も数を減らし、街の小さな依頼も解決されてゆく。

 依頼が少なくなれば今度は“自分で出来ること”を探し、結果としてスキルで出来ることを見つけ、それぞれが工夫、手を組んで様々をこなしていき、それが人々を救い、発展へと繋がる。

 前までは難しかった“30レベル”をごろごろと排出する街として有名になったこの街に、他の街出身の冒険者や行商が集い、そこからまた商談や依頼が運ばれ、需要と供給が生まれる。

 良循環ってやつだ。

 中には散々馬鹿にされてたのに、30レベルになった途端に才覚を見せ、立ち回りが上手くなったヤツも居る。

 そんなやつは───

 

「ろぉおおおじざぁあああん!! 会えだっ……会えだぁあああっ……!! 俺っ……俺っ、あんだのおがげでぇえええ……!!」

 

 なんか泣いて入店してきたりする。

 やめてください、こんなおっさん相手に若人が泣いてすがるもんじゃ……え? 120歳? あ、すんません、ハーフエルフさんでしたか……。そりゃ伸び悩みの極致くらいにも辿り着きますよね。

 でもやめてくださ……やめっ……やめろ! やめろっつーの!

 え? なに? 人伝手で本を貰ったら一皮剥けられた!? おうおめでとさん! だから服に鼻水つけんなボケ! つかこっちは従業員専用だから飛び越えてくんなよ! どんな身体能力してんだよ! え? 盗賊!? エルフなのにジョブ盗賊なの!? なにそれ! アーチャーとか精霊術師じゃないの!?

 と、まあ、こんな感じになったりする人も居るわけで。

 

「はぁ……」

 

 こうして、俺の生活は一気に忙しく、しかし賑やかなものに変わっていった。

 無理に戦う必要もない、国に税を納める必要もない、徴税官が来ても、スキルをドヤ顔で見せて退散させる、様々なことが新鮮で、日々が煌いてやがりました。

 そもそもの目的だった田舎に潤いをって話も順調だし、しっかり家も買えた。

 ……主食、麺類ですけどね。

 そういう時は野菜てんこもりラーメンを食べるのです。まあ、麺類ですが。

 あ、たまに食う皿うどんとかも結構いいもんです。

 栄養とか偏りまくりだろうなぁ……小麦アレルギー、マジ死滅するべし。

 アレルギーってほんといらんわー……食べて辛いってのがほんとひどい。

 人に“食べるな”とか鬼ですか。

 

「おーい、熱い場所に向かう依頼があるから、身体が冷えるトッピングくれー! あ、食うもんもなんか冷たいのがあったらそれで頼む」

「ヘイ冷やし中華お待ち!」

 

 カップメンで冷やし中華! 開ければ冷たい冷やし中華が完成します!

 

「こっちはなんかさっぱりするもん頼むー! 美味いんだけどちっとしつこいぜ~……」

「ほどよい温かさのそーめんをどうぞ! その名もにゅうめん!.」

「んっ、おおっ! なんかいいぞこれ! やさしい! 食いモンでやさしいってヘンかもだが、やさしいぞこれ!」

「おーい、カルヴォナーラっての頼むー」

「……よくぞ。カルボナーラには煩ぇぞ、このメィルヴァイツェンは」

 

 カルボナーラ。いいよね、あれ。

 ねっとりクリーム系を好む人も居れば、少し水っぽいのを好む人も居る。

 俺は断然クリーム系。大好きだった店が終わった時はショックだったなぁぁぁぁ……!! ああほら、セフィーもうんうんって必死に頷いているし。

 え? クリームっぽいのは苦手? 結構。人の好みをどうこう言うつもりはござーません。でもすまない、ここで出せるのは俺の好みが基準なんだ。

 

「うおっ……ふおおおおおっ!? なんだこりゃすげぇ美味ェ!! お、おい! これもうひとつよこせメィルヴァイツェン! 大盛りっ……いや、特盛りで頼む! あ、あー、幸福のトッピングつきでだ!」

「馬鹿野郎! カルボナーラは存在自体が幸福だ! あ、セフィー、幸福トッピングよろしく」

「いいんだ!? う、うん、やりますけど」

 

 で、創造しといて自分とセフィーも食う。

 二人して味を噛み締め、ホワァアア……と幸せの吐息を口からゆっくり吐き出した。

 

「……やばいな」

「……やばいです。これ、あそこですよね。潰れちゃった、お地蔵さんの」

「ああ。俺の思い出補正トッピング付きだ。潰れて食べられなくなってしまった分、味が美化されてるかもだが」

「いいえ、わたしの中でもこれほどの味に昇華されていました……まさに理想のカルボナーラです……」

「理想の味に味覚が届いてくれるのって、至福だよなぁ~……」

「至福ですよねぇ~……」

 

 幸せでした。

 

「二郎さん二郎さん、晩御飯はなににしますかっ?」

「わかってて訊いてるだろ」

「言ってくださらなければ、わかっていても納得はできませんっ。麦野家の食卓は、いつだって二人寄り添って決めて来たではありませんか」

「……だな。悪い。14年も……いや、俺が死んだあともか。30年もほったらかしにして悪かった」

「本当です。ひどい人です、二郎さんは。プロポーズの時、ずっと幸せにすると言ってくださったのに」

「異議あり! 俺が死ぬ寸前までは幸せにしていた自信があるぞ!」

「そうですけど! 即死でしたけど! それからのことも考えてください! ってなんてことを言わせるんですか!」

「じゃあ、これからは今度こそ一生、だな」

「嫌です」

「別れよう」

「嫌です!!」

 

 いや、どうしろっての、つーか冗談だから一瞬にして泣きそうな顔しないで。

 って、そろそろ在庫無くなるからあっちでひっそり創造を

 

「嫌です嫌です嫌ぁ! やぁあ~あああああーっ!!」

 

 ちょっと移動しようとしたら腰に抱きついてきました!

 いやちょっ……こんな駄々っ子みたいに泣かれたの初めて! 違うから! ね!? 違うからァァァァ! これどっか行こうとしたとかそういうのじゃないからァァァァ!!

 

「やだー! 別れませんごめんなさいごめんなさいー! でも一生なんて言ってまた置いてかれるのもやです! やなんです! やぁああーっ!!」

 

 あ、あー、そゆこと? つまり死んでからも幸せにしろと? それともわたしより先に死んだら殺す的なアレですか?

 

「はいはい二郎さん別れないから死なないから。大体仕事と言やぁここで麺売るだけなのに、どこで死ぬっての」

「……あぅうう……バナナの皮……」

「ちっさ! 俺の死因ちっさ!」

 

 最愛の嫁の中の俺が死ぬ100の理由がバナナの皮! ある意味すげぇ! すげぇけどどん引く! すげぇどん引く!

 

「別れよう」

「やぁあああああー!!」

 

 腰にしがみついていた元妻がずるずると足まで落ちてくる。大丈夫、ベルトは強く締める派です。こうすると腹筋に意識が行って、絞めるの忘れないんだよね。

 まあ血流にはあまりよくないから、ほどほどにしようネ。

 とか言っていた時、誰が捨てたのかヌードゥルの蓋をモヂャアと踏んでしまい、夫婦仲良く転倒。頭をしこたま打ちつけ、その場でごろごろ悶絶した。

 

「……!」

「そこで“ほら言わないことじゃないです!”ってドヤ顔されても困るんだが!?」

 

 あと涙出てる。めっちゃ出てる。

 でも自分の痛みよりも俺の痛みを魔法で癒してくれる嫁さんステキ。戦闘中にやったら優先順位違ェだろうがコナラァと怒るだろうが。

 そんな、自然と顔がニヤケる俺を見て、ま~たやってきていたオノヴァン・ブッフがカウンターに頬杖を付きながら苦笑する。

 

「はーぁ、メィルヴァイツェンともあろうものが、腑抜けたねぇ」

「るっせぇブッフ。貴様はいちいち人の行動をぶちぶち言いすぎだ。あと名前が吹き出してるみたいでややこしい。なんだよブッフって」

「それこそうっせぇ! 人様の名前にケチつける前にロージなんて名前を振り返ってみやがれ!」

「………」

「………」

「………」

「……いや……悪かったからよ。そんな、マジで頭抱えて落ち込むなよ……な? 俺、お前がそんなに自分の名前嫌いだったなんて知らなかったからよ……」

「ほっといてくれよ……どうせ俺なんて子供の頃から悟ったツラしてて、周囲からロージンとか変なあだ名つけられて、いい歳して泣かされたクズだよ……」

「せめてもうちょっとフォロー入れやすい理由を寄越せよ! なんだよそりゃメンタル弱すぎだろアホか!!」

「うるせぇよ! お前にフリューネに“あんたって枯れてるわよね”って俺の気持ちなんてわかんねぇねあぁわかんねぇよ!! 9歳の頃だぞ!? 相手も9歳なのに!」

「ませたこと言いたい背伸び幼女の戯言でどんだけ傷ついてんだよ!」

 

 ……。ほう。言ってくれるわこの猿顔め。ならばこちらはこう返そう。

 

「ちなみにあいつ、お前の笑顔がヨモドベニアジジにそっくりって言ってたから言っとくけど」

「………」

「………」

「………」

「……現実見ようぜ」

「あいつ俺に“あんたの顔見てると元気になれる”って言ってやがったんだよ次会ったらぶっ殺してやるクソがァァァァ!!」

 

 ヨモドベニアジジ。顔面神経痛中って言っても信じられるくらいアルティメット超絶不細工な猿モンスターである。

 

「あ、あの。そのフリューネさん? は、今なにを?」

「「アオズイィ-ルマッヅィーニ教会でシスターやってる」」

「シスター様なんですか!?」

 

 シスターのくせに超絶豪快破戒僧型シスターだ。

 モンクジョブで近接大好きなくせになんでシスターなんだよ、とブッフとともにツッコミまくったもんだ。

 

「そういやあいつ、まだ結婚とかしてないのか?」

「おおそれよ、メィルヴァイツェン。ほれ、あいつお前のこと好きだったろ?」

「初耳だ。おおそれよじゃねぇよてめぇ、ふざけんな」

「あ、すまんこれ秘密だった。シスターになったのも、がさつなところを改めて女らしくすれば、お前が……とかそんな動機だったかな。いや、あとになって無理矢理聞かされたんだが」

「冗談だろ……? あいつシスターになった一週間後に街を襲ったブラッドベアをキン肉バスターでぶっ殺してたんだぞ……?」

「キン肉バスターってあれか! だはははは! お前があいつに教えたやつ! ぶはははは、は───ちょっと待てブラッドベアっていやぁ4人パーティーでも苦戦する相手じゃねぇか。……え? ソロで?」

「あいつが俺達以外と組むかよ……つか、組めるかよ」

「………」

「………」

 

 ………。

 

「と、ところでその、ん、ん゛んっ! このヌードゥルガイの噂は、アオズイィールマッズィーニ教会方面にも……」

「届いてるんじゃねぇか? ん、おお、アオズイィールマッズィーニ教会といやぁ、最近教会の中に首から上が破壊された胸像が幾つか置かれ始めてるとか。ありゃあ確か、お前の傍にカルトフメルの嬢ちゃんの影が見え隠れしたあたりから───」

「いやいやいやいやいや怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!」

「まあ、あいつは見てくれ“だけ”はよかったからなぁ。お前の気を惹こうと、わざと顔だけで言い寄ってきた男の誘いに乗ったり、言葉遣いに気をつけてみたり」

「初耳なんだが。困るんだが。そういうこと、ほんと、言ってくんないと困るんだが」

 

 だってあいつ、男に誘われてついていって、かと思えばいきなり戻ってきて「どう思った!?」とか訊いてきたりしたから、なにをどう感じろというのかわからん。

 言葉使いに気を使った……? え? いつ?

 そりゃな、ほんと、見てくれはよかったぞ? 精神年齢はおっさん以上だった俺からしてみれば、おませな幼女とか元気な少女、親の気を惹きたくて馬鹿やる美女にしか見えなかったわけだが……それも、冒険者になってからゴロリと変わった。

 幼女? 少女? 美女? ……過程はあれど、アレ破壊神だから。

 一流冒険者から誘いを受けても断って、俺に付き纏いまくった破壊神だから。

 

「おめぇもなー……一度くれぇ抱いてやりゃあよかったのに」

「そんな無責任なこと出来るかよ」

「なに言ってんだ、一夫多妻だろうと一妻多夫だろうと認められてる天の下で。今時珍しいじゃねぇか、誰にもなびかず一途~ってのは」

「………」

 

 冒険者やってりゃ好いた惚れたなんて茶飯事だ。

 危ないところを助けてもらった~とか、こいつとなら一生……とか思えば、添い遂げるやつなんてざらに居る。

 しかしそんな中にあって、天職とも言われた冒険者をやめてシスターになったあいつの心境は……

 

「……なぁ。あいつがシスターになったのって、俺の気を惹きたいから……なんだよな?」

「そう聞いたぞ? 健気なもんじゃねぇか、だっはっはっはっは!」

「それってさ、俺の気を惹けたら最後───」

「は───、…………」

「………」

 

 殺戮と、破壊。

 なんかそんな文字が頭に浮かんだ。

 

「……鬱憤、溜まってるだろうな……」

「第一婦人になれなかったーとか、いろいろありそうだな……」

「つぅかだぞ? メィルヴァイツェン。他人事のように言っちまってるが、お前がどうするかだろう、そもそも」

「いや、だから俺はもう心に決めた相手が居るんだっての」

「世界の平和のために、頼む」

「世界規模かよマジやめろ」

「なぁおい、カルトフメルの嬢ちゃん。嬢ちゃんはどうなんだ?」

「あ、おい馬鹿っ! こいつは───」

「いいだろ一人くらい増えるの。な? あいつの夢を───」

「はいっ、二郎さんが人に好かれるのは、大変喜ばしいことですからっ!」

「叶え───…………え? なにこの嬢ちゃん、聖女?」

 

 昔っからこうなんだよ……俺が人に好かれるのが好きだとか、それ自体が誇りだとか。

 逆に俺がモテたりしないと見る目がありませんとか言い出す始末。

 俺に関することがともかく好きなのだ。俺としてはもっと独占してほしいと思うのだが。

 ある意味での独占欲じゃない? と、かつての娘は言ったもんだが、違う。少しして娘も頷くほどに、ただ俺のことが誇らしいだけなのだ、この嫁さんは。息子を溺愛する母親かよ。

 わたしの旦那はこぉんなにモテるのよー! とか自慢したいわけでは断じてなく、俺が慕われたりすることがただただ嬉しいのだとか。今時珍しすぎるお子です。

 

「やったじゃねぇかメィルヴァイツェン、二人確定とか羨ましいねぇ」

「正直な話、お前あいつが妻で嬉しいか?」

「死にたくない」

「……質問の答えになってないって、あいつを知らないやつなら言うんだろうな。これ以上ないってくらいの答えだったわ。あとふざけんな、死んでまえ」

 

 金髪で綺麗でスタイルもよくて、レベルなんて50オーバーの破壊神。

 ちなみにハーフエルフで、30になっても未だに18くらいの美少女な容姿。

 “エルフは胸がぺったんこ”がこの世界の常識だったんだが、それを破壊してみせたエルフの中の一人である。

 エルフってのは通常、同族同士で交配、種族を残すため程度の子孫を産む。そこに愛はなく、途絶えさせないための義務がある程度。

 しかしひとたび“恋”をすると胸が成長し、その量の大きさでとても豊かになる。

 名をフリューネ・ソヤソス。

 苗字的なものがソーヤソース、いわゆる醤油な、綺麗で可愛いのに近接戦闘大好きな恐ろしいシスターだ。

 そいつが俺のことが好きらしい。

 ちなみにジョブはそのままモンクなので、転職したわけじゃないからレベルはそのままの体術美女だ。

 

「……そういや、あいつ自身からいきなり振られたんだっけか、エルフ族の胸の話。急に俺だけ引っ張って話し始めるから、最初は怖かったもんだが」

「あったなー……エルフの胸は、恋が溢れると膨らむんだーとか。俺とお前で、最初は思い切り絶叫したもんだよなぁ、“お前がぁああ!?”って」

「あったあった。そのくせ、誰だ誰だと訊いても顔を赤くして視線をうろちょろさせるだけだった」

「そんだけ好きだったってこったろ。視線を逸らしながら胸押さえてたし、あれ、あの瞬間にも胸が成長してたってことなんじゃねぇの?」

「……あれ、15の時だったよな」

「あの時点で結構デカかったもんなぁ。あいつの容姿に鼻の下伸ばした野郎がどれほど居たか。つーか、逆にそういったがっつき具合がなかったから、お前が選ばれたんじゃねぇの?」

「そんなもんか?」

「そんなもんだろ。あいつを誘って一緒にデートもどきに出かけたモッチの野郎も、だしに使われたーって泣いてやがったし」

 

 ヌードゥルを捌きながらの会話は続く。

 創造しては注文されて、そこにセフィーが付加魔法をかけて、と、流れ作業ながらに結構めんどい。

 いっそトッピングなんていいから付加魔法だけくれ、なんて言うヤツも居たが、ここは補助魔法屋じゃないから帰れと言ってやった。

 そんな日々を送る中、ふと、冒険に行かなくなってから耳に届かなくなって久しい、ピピンッという音が耳に届いた。

 

  創造(制限あり)の制限が幾つか外れた!

 

 ……外れたらしいです。

 見れば取引/売買と創造の熟練度が結構上がっていて、どうやらそれのお陰で創造出来る幅が上がったようだ。

 ではなにを創造出来るのか? というと……

 

  麺類

  豆類(New!)

  麦類(New!)

 

 “New!”じゃねぇよお前どうすんの豆類ってちょっと。

 しかも調べてみりゃあ主に納豆等、とか書かれてるじゃねぇかほんとどうすんのこれ。

 あるよ? そりゃこの世界にもKOMEはあるけどさ。

 そんなに主流ってほどじゃないし、皆さんパン派だから、これを売れってのは結構難しいのでは……?

 

「………」

 

 またいろいろ考えるか。

 正直、納豆が食えるのは俺自身としてはとても嬉しいし。

 ラーメン等を抜かせば、俺の大好物は納豆と言ってもいいくらいだ。

 大きさをどうするか、なにを混ぜるかで味が変わるんだよなーこれ。

 ちなみに俺は極小粒~小粒の大きさが好きだ。ひきわりは苦手。

 大粒は納豆食べてる感じがしなくてどうもダメだ。納豆っていうか、ちょっとねばつく大豆をそのまま食ってるみたいでさ。

 

「セフィー、セフィー」

「? はい、なんでしょう二郎さん」

「スキルレベルが上がった。新しいスキルを覚えたんだけど……納豆が創れるようになったんだが、どうする?」

「売りましょう!!」

 

 目が爛々に輝いておったそうじゃ。

 セフィーの大好物がラーメンなら、次は納豆。好みが同じで気が合うから一緒になっただけはあり、俺達の意見はあまり逸れたりしないのだ。

 でもね、セフィー。あとそこで頬杖付きながら苦笑してるブッフ。

 ……俺ね、ラーメン屋じゃなくて、商人やりたかったんだよ……。

 

……。

 

 KOMEの入手には、セフィーの親父さんが独自のルートを使って取り寄せる、という方法で入手できた。

 あの一件以来、セフィーの両親には気に入られていて、まあ歳が歳だから~って部分もあったが、それでも様子を見てくれる程度には認めてもらっているわけで。

 「当然娘の気持ちこそが大事だが、キミがこのまま軌道に乗るまでは様子を見させてほしい。……借金の件を解決してもらったというのにすまない。だが、これも娘を思う父の願いというものだ」と言われちゃあ頷かないわけにもいかない。

 そんなわけでヌードゥルガイにKOMEと納豆、それから各種トッピング(魔法ではない)が追加されたわけだが。

 

「ライスと……ナットゥー? 美味いのかぁ? これぇ」

「ああ、美味いぞー? まずだな、こうやって思い切りぐりぐり混ぜてだな」

「おいおい、糸引いてるじゃねぇか……腐ってんだろそれ」

「黙れブッフ。納豆の美味さはこの糸にあるんだ。んで、混ぜたこれに醤油少々」

「ショーユ?」

 

 創造で創れたのは、なにも納豆だけじゃあない。

 豆と小麦とくれば、醤油や味噌でしょう。

 ありがたいことに、麦創造では良質な稲麹も創造可能だったので、それらのイメージをぐーるぐると混ぜ合わせて創造してみた結果、醤油と味噌……出来ちゃいました!

 で、醤油と味噌と米とくれば、焼きおにぎりやミッソスープとライスボールも出来るってもんで。

 宅の嫁さん、おにぎり精製に大忙し。

 

「よし。混ぜたものに醤油を適量。さらに混ぜて、これを炊きたてではない、少し置いたほど良い温度のライスの上にかければ……はいっ! ヌードゥルガイ特製・納豆ごはんのでっきあがりでぃ!!」

「………」

「さぁ! 食べてみてよ!」

「………」

「食え」

「怖ぇええよ!! つーか、なぁ……見てくれが最悪だろこりゃあ……」

「食え。今食った分タダにしてやるから」

「それ先に言え! うっしゃ、んじゃあ……うへぇ、持ち上げても糸引いてやがるよ……。匂いもなんかヘンだしよぉ~……ん、んぐっ……」

 

 そうして、ブッフがゾボボと糸を引くそれを口にする。

 嫌そうな顔でもぐもぐと咀嚼するのだが、ふとピタリと停止。

 やがてじいっと納豆ご飯を見下ろすと、小さな試食用茶碗を手にぞぼぞぼと口に流し込み始めた。

 

「っへへー、美味いだろ? なぁ? 美味いだろー」

「うぜぇわ!! あー美味ぇえよこりゃ美味ぇ!! ……けどな、正直なんか足りねぇって───」

「そこで、トッピングだ。おかかに長ネギ、卵にからし、刻みハムや刻みベーコンなんかも軽く焼いてから入れるといい香りが出るし、案外油断ならないのが天かす……揚げ玉だったりする」

「よくわからんが入れれば美味ぇんだな!? よこせ!」

「ほれ、そういうと思っておかわりだ。お前が好きそうなトッピングだ」

「……気が利くじゃねぇか。どういう風の吹き回しだ?」

「お前が美味そうに食ってくれりゃあ、俺も私もってくるだろ。ほれ食え」

「けっ、こぉの商売野郎が」

「商人がモノ売ってなにが悪い」

 

 笑い、しかし食う。

 と、ブッフは咆哮。

 あっという間に試食用を食い終えるや、丼で同じものを寄越せと言い出した。

 

「いいのか? 今度は金取るぞ?」

「払うからよこせ! つーか……! ライスってなぁものによっちゃあこんなに美味かったのかよ……!」

 

 震えるブッフをよそに、日本食が好まれる事実に頬を緩ませる俺は、丼にライスをたっぷりとお好みトッピングの納豆を乗せ、差し出し、そこにミッソスープを添えることで幼馴染を持て成した。

 そうしたら食う食う。ラーメンの時より勢いがよかった。

 箸休めに飲むミッソスープ(普通に味噌汁でいいな)に目を輝かせ、余計に箸を急がせては彼を喜ばせた。

 

「んっ、ぐっ、ぐっ……っぶはぁあ!! ~……やいやいやいメィルヴァイツェン! どうなってんだこりゃあ! とんでもなく美味ぇじゃねぇか! 俺ゃヌードゥルよりもこっちが気に入ったぜ!」

「まだ入るか? なら試食してもらいたいのがあるんだが」

「おう任せとけ! 試食ならタダなんだろう!?」

「お前限定でな。ほれ、焼きおにぎり」

「おう! ……お? 焼き……なんだって? こりゃあ……ライスを固めたもんか?」

「まあ、そうだな。こっちは焼き醤油、こっちは炙り味噌だ」

「ほー……? お、おおお……!? こりゃあ……香りがとんでもなくいいな……! 食ったばっかなのに腹が減りやがるぜぇ……!」

 

 残念ながらカツオはないが、似た魚ならこの街の傍で獲れる。

 同時にコンブもどきも採れるので、出汁には困らなかったりする。

 そんな街で作るミッソスープの出汁も、俺がせめて日本の味に近く……! と頑張って仕上げたものだから、是非とも味わって欲しい。

 削り節もまあ、独自のやり方ではあるが、自家製なのです。

 

「んっ……お……!? カリッとした外側と、香ばしい香り……ちっと焼けた濃い目の……ショーユ? の匂いがたまらねぇな……! しかも中は案外ホロホロほぐれて……、───美味い」

 

 焦がし醤油握りをぺろりと食べると、興奮気味に味噌に手を伸ばすブッフ。

 そんな調子のまま一気に味噌も平らげると、やっぱり興奮気味にもっとねぇのかまだあるだろと急かしてくる。

 そんな彼に、ちょっとした具のおにぎりをホレと渡してやると、早速かぶりついた。

 ……これ、毒入り出されても躊躇無く食う勢いだぞ……? すっかりメシの顔するようになりやがって……。

 

「───! お、おぉおお……!? やべぇなこれ……! ぐ、具はなんだ? こりゃ……(パスタ)か?」

「ペーヤングだ。ペーヤングと米の相性は馬鹿に出来ないくらいに合うからな」

 

 なにせペヤング味のふりかけが出るほどだ。

 製作者さんはわかっておられる。

 ただ一言言うのなら、あの味は麺で食うからいいのであって、ふりかけだとなんだか物足りなかったりした。

 とか思っている内におにぎりの注文が。

 いやちょっと待て貴様ら、それはまだ値段も決めてなくて───……あ、あー、わぁったよ、創るから涎落とすな。

 

……。

 

 ……そんなわけで、日が経つにつれ、ギルドはどんどんと賑わいを見せていった。

 何故って、モノを食いたいからで、食うには金が必要で、手っ取り早く腹を空かせて金も手に入る依頼クエストは、冒険者にとっては大変ありがたいもので───

 

「筋力増強のトッピング! スミルェの大盛りで頼む!」

「よっしゃあ換金完了! おぅいメィルヴァイツェン! カルビニギリだ! 面倒だから五個一気に頼むぜ! ミッソスープ大盛りでな!」

「ナポリタンとトリアエズナマを。ケーゼとタバスコも頼む」

 

 日に日に、人が頼むものが定着してくると、そういった人たちが常連となってくる。

 連日依頼達成の報せばかりが届いて、町の人も王都の人も大助かりだ。

 ていうか今居たよね!? どこぞの徴税請負人な人、居たよね!? いやまぁ世界が違うから本物じゃないのは分かってるんだけど。もしかして彼も転生者? ……いいか、気にしないで。俺達は俺達で。

 ……あ、それと、麦創造と米創造を駆使して、出来ちゃいました、生ビール。

 といっても原材料として足りないものがどうしてもあるので、そこのところはそのー……今出来る限界まで味を近づけることで我慢してもらいましょう作戦だ。

 飲んでみたけど、やっぱりちと違うんだよな。イメージって難しいわー。

 なので、一応出来たトリアエズナマ・モドキを創造、そのまま木ジョッキに注ぐと、注文をしてくれた人へと振る舞っていく。

 

「ナットゥー丼をネギとオカカと肉ソヴォロで!」

「こっちはヌードゥルとナマを頼まぁ!」

「あいよー!」

 

 冒険に出る者はトッピングを。

 冒険が終わった者は、純粋に食を楽しむ。

 金が入ればへべれけになるまで飲み明かし、美味い食事のために今日も頑張ろうと張り切る人も居れば、依頼に失敗して落ち込み突っ伏す者も居る。

 なんつーか、商人っていうかただの居酒屋の大将でもやっている気分だ。

 いやさ、商人ってさ、もっとさ、こうさ、物品の取引とかをさ。

 これだって確かに商人的ではあるんだと思うよ? そりゃね、商品を売ってるんだ、食品だって立派な商品さ。

 でもさ。

 なんか……………………違くね?

 

……。

 

 ……そうして、本日も終了。

 

「……っはー……!」

「はぁあ……終わりましたねー……!」

 

 ギルド食堂が賑わえば、クエストを受けに来たやつらもその賑やかさに引かれ、上機嫌な冒険者とも話し合ったりして、手持ちの余った素材などを分け合い、揃った素材でクエストを達成、なんてこともして、仲良くなったりしていた。

 人が集まる分だけ“ついで”が増えていって、食堂を閉める頃には連中が素材を持ち寄って、素材収集クエストの中で達成できるクエストを完了させ、報酬を分け合う、みたいなのが恒例になっていた。

 お陰で翌日も客は来るし、ギルド側も達成度が上がったと喜んでいた。

 

「しかし、あれだけ騒がしかったのに……」

 

 今じゃトンと静かなもんだ。

 今ギルドに居るのはギルド職員と俺達くらいなもんで、俺達もようやくメシにありつけるって状況。

 

「メィルヴァイツェンさん、お疲れ様です」

「おうお疲れ。……ていうかだな、いっつも思ってたんだが……初心者以外の連中ってなぁなんだってみんな、俺のことをメィルヴァイツェンって呼ぶんだ? 初心者だったヤツも今じゃいつの間にかメィルヴァイツェンさんだしなぁ」

「え……知らないんですか?」

 

 そんな中、ふと感じた疑問をぶつけてみれば、男のギルド職員、コギィト・エルゴスくんがきょとんとした顔で言う。

 え? なに? なにか知ってるの?

 

「フリューネさん、居るでしょう? 彼女が、メィルヴァイツェンさんの名前を呼んでいいのは私だけだからって」

 

 しかし疑問はその隣の女性、カニーナ・リティーネさんが答えてくれた。

 ていうか……フリューネが? ちょっとなにやってんの教会のシスター。

 

「いや、本人に確認もせんでそんなことされてもな」

「アオズイィールマッズィーニ教会の筆頭シスターさんは、アレで結構発言力とかあるんですよ。冒険者としても一流だし」

 

 と、コギィトくん。

 

「そうそう。あと頷かなきゃ殴られそうだったし」

 

 と、カニーナさん。

 人、それを脅迫と言う。なるほど、あいつ俺の名前にやけにこだわってたしなぁ。

 自分の名前も俺以外が呼ぶのは嫌だって一時期随分と荒れてたっけ。

 

「ていうかメィルヴァイツェンさん、あんな綺麗なエルフさんに想われてて、落ちてないとかすごいですね」

「子供の頃から暴力というものを見せつけられてりゃあなぁ……」

「落ちるといえば、カルトフメルさんとは?」

「結婚するつもりだが」

「それをソヤソスさんには?」

「いや、言う必要ないだろ。幼馴染でもあいつとは距離を取って久しいし」

 

 あいつの方から少し距離置こうとか言い出したんだもんな。

 

「あのー……メィルヴァイツェンさん? ソヤソスさん、教会で“きちんと女の子らしくなれば、ロージだって私をちゃんと見てくれる”とか言ってましたけど」

「それを本人に言わなくてどうすんだよ……。見せない努力は美しいかもだが、だからって相手に待つ理由も報いる理由もないだろーが」

「それはそうですけど……」

「いや、努力する奴を否定する気は全くないんだ、本気で。報われてほしいって俺だって思う。けどなぁ……」

「まあ、そうですよね。努力すれば全部報われるなら、誰も苦労はしませんけど。でもメィルヴァイツェンさん、もう二人を養うくらいの余裕はあるんじゃないですか? 一夫多妻も認められてるんですし、いいじゃないですか」

「簡単に言うね、お前ら……」

 

 こちとら前世は日本人で、一人を愛したおっさんだったんだよ。

 その相手と今世でも会えて、その人に愛の全てをと思っているおっさんに対して、なんてこと言うの。

 

「とにかく。エルフならエルフを好きになるべきだと俺は思うぞ? 寿命が合わないだろ、そもそも。……嫌なんだよ、そういうので片方が取り残されるっていうの」

「なら二郎さんは、それさえ解決出来るなら頷いてくれるのですか?」

「いやなんでお前がそれ言うのセフィー。妻から浮気推奨とかされると悲しいんだけど?」

「浮気じゃありません。この世界なら合法です」

「……ここまで妻に浮気を進められる夫なんて、離婚を望んでいる妻くらいなんじゃなかろうか」

「そんなことはありません。それに二郎さんの愛はいつだって本物です。浮ついてなんていないんです」

「………」

 

 その真実の愛を一人の妻に向けたい夫の気持ちも少しは受け取ってください。

 いやむしろ一人で受け止めてきたけどもう無理ッスって感じだから、こんなに奨めてるとか?

 ……思えば娘が出来る前も出来たあとも、暇さえあれば嫁にべったりな俺だったけど。

 バカップルっていうかバカ夫婦な俺たちだったけど。

 もしかしてバカ夫婦じゃなくて、バカ夫だったんじゃ……? あ、やばい、これダメージでかい。

 

「あの……セフィー? ……好きだよ?」

「はい二郎さん。わたしは愛しています」

 

 あ、うん。これガチです。

 平気そうにあっさり返してきたけど目は潤んでてポーっとしてて、顔真っ赤です。

 ……この娘はどこまで人のことを愛せば気が済むんでしょうね。

 愛にはいろいろなかたちがあるというけれど、俺は独占される方が好みなんだがなぁ。

 

「俺、独占される愛の方が好きなんだけど」

「? わたしはいつだって一途ですよ?」

「いや、俺がセフィーの愛を独占するって意味じゃなくて。セフィーが俺を独占するって意味で」

「わたしをもらってくれるような男の人なんて、二郎さんだけですから。みんな距離を取るだけで、話しかけてもくれないんです。そんな二郎さんをわたしが独占してしまったら、二郎さんが窮屈な気分を味わってしまうじゃないですか。だからこれでいいんです、これがいいんです。わたしは自由な二郎さんに、どこまでもついていくだけですから」

 

 女神かよ! じゃなくて独占して!?

 三歩後ろを歩きすぎだよもう! ああもうわかった、前々から怪しいと思ってたけど、この娘絶対悪い男にひっかかって苦労するタイプの子だ!

 時代が時代なら夫のパチンコ代のために身を削りながら日々を過ごすああいったタイプの!

 そのくせ愛が欲しくないわけじゃなく、「愛してる」と気持ちを届ければ「えへへー……♪」と頬を緩ませるわけで。

 ……なんかもう言っても無駄なので、抱き締めて頭撫でまくった。

 ぴあぁぁ……! と、高いけど小さな声を挙げる嫁カワイイ。

 そんな嫁に声をかけるは、呆れ顔のカニーナさん。

 

「セルフィアナさんも、相手がこんなおっさんでいいんですか?」

 

 おいちょっと待てコノヤロウ、確かに俺はおっさんだが、こんなとかつけられる覚えはないぞ。

 おっさん怒っちゃうぞ? オコだぞ? 蟹になりたいみたいな名前しやがって。

 

「? 相手が二郎さんである限り、問題なんてなにもありませんが……?」

「うわ、本気でわからないって顔された。しかもメィルヴァイツェンさん物凄いドヤ顔! ……ちょっとコギィト、この二人本気っぽいわよ!」

「だから言ったじゃないっすかカニーナさん。愛に年齢とか関係ないんすよ。だから俺と付き合ってください」

「嫌。でもセルフィアナさん、相手がおっさんってことは、それだけ自分よりも早く亡くなっちゃうってことですよ? しかも相手は冒険者。危険なんてほぼ毎日じゃないですか」

「───」

 

 あ。セフィーの目からハイライトが消えた……!

 

「二郎さん……」

「いやいやいやいや、大丈夫だから。今の俺商人だから。冒険とかしないから。大体、三十路でようやく30レベルとか、この世界じゃ通用しないだろ。特に商人じゃあどう足掻いたって無理だ」

 

 あいつみたく50レベルもあって、しかも商人以外のジョブなら全然問題もないんだろうが。

 

「……ふむ。危険もなくて高収入。他に狙っている美人さんも居る、と。あのー、メィルヴァイツェンさん? 日々をギルドで過ごす所為でろくな出会いがないのに健気に頑張る年下の受付さんとか受け入れる気はありません?」

「カニーナさん!?」

「二郎さんっ……!」

「その予定はないからすんません。あとセフィー、目を輝かせても受け入れないから。ちょっとマジで話し合いするから正座しなさいコノヤロウ」

「メィルヴァイツェンさん……! 今日からあなたは俺のライバルっす!!」

「勝手に認定すんなこの野郎。大体、女性ってのは普通、若い男の方がよかったりするもんじゃないか?」

「あ、それ偏見ですよメィルヴァイツェンさん。女の子っていうのはですね、時には頼りないガキな男よりも、落ち着いて頼り甲斐のある男性にトキメいちゃうものなんです。まあその場合、恋っていうよりは憧れに近いのかもですけど」

 

 キミのソレはきっと金に目がいってるだけだろうがね。

 

……。

 

 何年も使わせていただいていた宿屋は既に出て、俺とセフィーはギルド食堂の傍の部屋で暮らしている。

 同じ街とはいえセフィーの家はギルドから距離があるし、また誰かに絡まれないとも限らない。なので、きちんとセフィーの親には許可を得て、ここで暮らしてもらっている。

 親父さん、金の世話までしてもらってすまないって本気で感謝もしていれば、自分の不甲斐なさに落ち込んだりもしていた。

 娘の相手がこんなおっさんでいいのかって疑問に、「娘の恋だ、親はただ相手を見定めて、背中を押してやるだけだよ」と笑った。「元気で、幸せでいてくれるのなら」と、お袋さんも笑っていた。

 ……こんな良い両親から、何故浮気を推奨してくるような娘が転生してしまったのか……! いや、セフィーとまた出会えたのは嬉しいんだけどね?

 とまあ、そんなふうにして夜を越え、疲れを癒せば朝である。

 今日も今日とて仕事がある……っていうか、ギルド飯店に休みなんてあるのか? 自分から休みですって動かなきゃ、ずっと働くハメになるんじゃ……。

 

「……まあいい」

 

 隣ですいよすいよと幸せそうに眠るセフィーに、おっさんながらも愛に餓えて愛に溺れた男がお目覚めのチッスをする。

 いいでしょ別に。おっさんって冗談でくっだらない言葉を発しはするけど、内面案外ピュアだからね? オヤジギャグとか、あれはあれで周囲を気遣ってのくだらない失敗だから。笑わせることよりむしろ苦笑させて、相手に“ああはなるまい”的な小さな向上心を持たせるためのものに近いから。

 おおいいですよ、好きなだけ見下しなさいおっさんを。ただしああはなるまいと思うだけで行動できないヤツは、いずれそれ以下になるから気をつけよう。ああほれ、口先ばっかでなんにも出来ないくせに、自分を大きく見せようとすることに必死で周囲から人が消えていくタイプとかな。

 おっさんとは誰よりも温厚に生き、諸人を安心させる姿を指す言葉。

 全ての空気の安穏を束ね、その平穏を守り立つ者こそがおっさん。

 まあ、現実はいろいろと違ったりしますがね。

 

「よし」

 

 にゃむにゃむと起きだしたセフィーの頭を撫でて、薄目を開けた彼女の口にキスをする。

 と、顔を真っ赤にして意識を覚醒させた彼女がわたわたと慌て、その姿にほっこりしながら俺は日々の始まりを確認するのです。

 さあ、今日も稼ぎましょうぞ。

 

  ……なぁんて思っていたんだが。

 

 本日の陽が天に辿り着く頃、そいつは現れた。

 

「邪魔をします」

 

 明るめの蒼の修道服に身を包んだシスター。

 服の上からでもわかるくらいの整ったプロ……思ったんだが、こういう場面でわざわざプロポーショ~ンだの綺麗な顔立ち~だの頭の中で解説するラノベ主人公って頭大丈夫か?

 自分もやってみようと思ったんだが、ダメだ。笑える。だってな、普通に考えて、まあやたら綺麗な女がやってきたー、程度にしか思わんだろ。そりゃな、それだけじゃあ読者にゃ相手の容姿なんぞ伝わらんわけだが……うーむ。

 飯食ってたブッフがヒィなんて悲鳴を上げたが、俺もまあ気持ちはわかった。

 来ちゃったかー、ついに来ちゃったかー。

 

「よぅ、久しぶりだなリーネ」

「ん…………久しぶりです、ロージ」

 

 両手を胸の前で組み、穏やかな笑みを浮かべて軽く会釈するのは、俺とブッフの幼馴染、フリューネ・ソヤソスその人だ。

 エルフには真名という、許した人にしか呼ばせない名があるのだが、フリューネの場合はリーネってのがそれにあたる。で、俺にしか許していない。勝手に。で、呼ばないと怒る。

 あの胸の前で組まれた手で、いったいどれほどのモンスターが塵と化してきたことか。

 オロニロのジェノサイドシスターの異名は伊達ではない。

 修道女の格好だって、ほんとうに恰好だけであり、ジョブだってモンクのまま。

 だって転職したらステータス初期化になっちゃうし。

 

「で、ご注文は?」

「ロージ」

「おう、なんだ?」

「だから、ロージ」

「……そういう場合は、ですから、な?」

「……客に注文された品を出さないなんて、許せないお店ですね」

「なんでも差し出すわけがないだろーが。おじさん怒っちゃうぞコノヤロウ」

「神の裁きが下りますよ?」

「とっくに下ってるからここで商人やってんだよ。あと注文は店のお品書きにあるもんで通せ」

「………」

「はーいはいはいはい、お品書きに人の名前を勝手に足さない。頬を膨らませない。カウンターを越えてこようとしない」

「ロージ」

「なんじゃいコナラァ」

「結婚するって聞きました」

「そうだな」

「その泥棒猫と肉体言語で語り合いに来ました。何処の誰ですか?」

 

  >フリューネのためるが発動!

 

 いや“発動!”じゃねぇよ。やめろよ破戒僧もとい破壊僧。破るなら戒律だけにしとけ。

 

「お前さ、俺に枯れてるって言ったこと、覚えてるよな」

「若かった。どんなきっかけであれ、感情を向けてほしかった」

「口調」

「若かったのです。どのようなきっかけであろうとも、ロージの感情が私に向いてくれればと……」

「ブッフのことは?」

「?」

「………」

「………」

「誰?」

「…………ヨモドベニアジジ」

「───!!」

「おぉおおいっ!? それで思い出すのかよ! テンメいい加減にしろよ!? 人が黙って聞いてりゃ幼馴染だからってぎゃだぁぁあーだだだだだ!? ごめんなさいやめて腕が腕がぎえええええ!!」

 

 掴みかかろうとしていたブッフが腕を極められ、カウンターに突っ伏した。

 なんか感動。俺、ぎええええなんて悲鳴、初めて聞いた。あ、人間に化けてた魔物も言ってたっけ?

 

「ロージ……ギルドにモンスターの侵入を許すなんて油断している証拠です……。この間も、擬態モンスターが居たとか……。や、やっぱり私が守る必要があります……!」

「いらん。あと早く離してやれ。お前あれだったろ、カウンタージャッジメント」

 

 カウンタージャッジメント。

 リーネの持つスキルの一つで、産まれ持った異能だ。

 転生したわけでもないのに異能が、なんて話は特になく、この世界じゃまあ時折にある話で、呪いだのなんだのの傾向が強い。

 その大半は何かを代償に何かを得るといったもので、リーネの異能は力を得る代わりに理不尽な暴力を働いたら裁きが下る、といったものだ。

 で、この場合だが……ブッフは別に何かをしたわけでもないのに腕固めをされてカウンターに突っ伏されたわけで。

 と。突如ブッフが座っていた椅子の足がボキンと折れ、ブッフの体重ごと倒れる。

 あ、来た、と俺が思った頃にはその椅子の角がリーネの足の小指部分を靴の上からゴシャアと強打し───

 

「──────!!!!!!!!」

 

 いっつもどこか眠たそうな顔で、半目っぽさが似合っていたリーネの目がパチーンと見開かれ、真っ赤、涙目、波線に引き絞られた口、直後に開かれたそこからの絶叫が、そのカウンターダメージを物語っていた。

 まあつまり、力を授かったんだけど、代償はありますよって異能だったのだ。

 ちなみに俺の異能はお金の扱いだのだと思われているので、なんの問題もない。

 それよりごらん、金髪美女が小指を押さえて床を転がっている。

 ラノベ主人公風に言うなら、スタイル抜群、出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる、顔も綺麗で可愛くもある金髪ロングの修道女が涙目でのたうちまわっておるよー。

 

「あの、二郎さん、悲鳴が聞こえましたけど……」

 

 と、ここで件の泥棒猫さんが奥の部屋から出てきた。

 好きな人の、こう……少し前傾になって後ろ手でエプロンの紐を結ぶ仕草、大好きです。

 以前それを本人に言ったら、前は銜えゴムをしながら髪を縛るのが好きだって言ってましたよ? ときょとんとされた。もちろんだ、それも好き。俺は嫁が大好きです。

 袖を引っ張ってきて、振り向いた俺を見上げながらにこーって笑う姿も好きだし、腕に抱きついて鼻歌歌ってる時とかも好き。

 でもなぁ……なのになぁ……。俺が誰かに取られると思って、相手を軽く睨みつけながら腕に抱き付く、という仕草を見たことがないのだ。やってほしいのに……ほしいのに!!

 独占されたいよなぁ!? ヤンデレとまでは言わんから、ちょっぴり嫉妬しちゃう感じの好きな人とか、見たいよなぁ!?

 こう、庇われるように腕を抱き締められて、“だ、だめです……よ? この人は、わたしの……ですから”とか言われてみたい。

 まあ、そんな様子が見たいからって浮気する気なんぞないわけだが。

 だってさ、別の女性に目移りなんぞしてみなさい。……この嫁、目を輝かせて“二郎さんの良さがわかるんですね! 同士です!”とか言いそうだし。

 

「……! こ、この泥棒猫……! わ、私のロージを返して……!」

「? “私の”……?」

「ロージは……ロージは私が小さい頃から好きだった相手だから……! 私の方が速かったんだ……! それなのに……それなのに……!」

 

 いや、速さで言えば前世級に速いのですが? 小さい頃なんてレベルじゃないぞ。

 なんて考えなど横に置いて、セフィーは目をきゃらんと輝かせた。

 あ、やば

 

「二郎さんが好きなんですかっ!?」

 

 ───い、と。止める間もないとはこのことだった。

 

「ジ、ジロー? 違う、私はロージの───」

「ですから二郎さんです! 好きなんですか好きなんですね好きなんですよねそうですよね!?」

「え、あ、あぅ、う、うぅう、ぅん……」

「はっきり!!」

「す、すきっ、好きです! 大好きです!」

「~…………同士!! 同士ですよ二郎さん!」

 

 はいそこで俺に同意求めるのやめましょうね、俺べつにハーレム作りたいとかそんなこと考えてないから。

 そりゃね、幼馴染が今さら誰とも知らんヤツにーとか思わんでもないが、それならきっちり気心知れたやつと一緒になってくれりゃあ納得も出来るわけで。

 もしくは付き合い始めてからそいつの人となりを知れれば、俺もブッフも泣きながら“この破壊僧をお願いします……!”とお願い出来るわけだ。

 とにかく、こいつにはきちんと手綱をつけて一緒に居られる誰かが必要だ。誰からの言葉にも反発して、言うことを聞かないこいつを躾けられるような……なぁ。無理だろうなぁ。

 

「おーい、ブッフー? 生きてるかー……」

「いや……そりゃあよ、腕()められたくれぇで死にゃしねぇけどよ……。お前の言うところの嫁さん、ありゃあ……頭おかしいのか? 普通危機感持つだろ、なぁ」

「だよなぁ……頭おかしいって言われても、その部分だけは納得出来るから怒る気にもなれんわ」

 

 極められていた腕をゴキゴキポキポキと動かして、床に座りながらセフィーとリーネを見るブッフ。

 俺もその隣に屈むようにして、二人を見ていた。

 そんな二人は俺のことをどれだけ知っているかを競うように唱え、俺ですら知らないことを言い出しては、リーネだけがどんどんと真っ赤になっていく。

 そりゃね、基礎知識量が違いますよ。あちとら、ワテクシの嫁ですよ? 俺が溺愛しつつ、相手も愛してくれたほどにお互いを知ろうとして知っていった仲ですよ?

 なんならいっそそのー───

 

「きあー!?」

 

 ───……うん。お話がR18に到ったあたりで、リーネが超真っ赤になって涙目で叫んだ。

 しかし同士セフィー、これを逃がさない。

 情報を共有しましょうとばかりに赤裸々なことまで語り出し、リーネは……

 

「たすけて! たすけてぇ! やぁあ! ろーじ! ろーじぃい!」

 

 泣き喚く子供のように俺へと手を伸ばしては、その背後から伸びる嫁の手にガッシィイと子泣き爺のように抱きつかれ、後ろからその耳に、まるで恋人が愛しい人に囁きかけるように……俺との行為を口で告げられるだけの鮮明さで熱い吐息とともに吐いてゆく。

 ……そういう方向に免疫のない修道女さん、目、ぐるぐる。

 やがてくらりとよろけ、そのまま気絶───

 

「ふんっ」

「う゛っ!!」

 

 ───しそうになったところに、どすっ、とキツケをくらい、意識が浮上した途端にまた耳元で囁きかけられまくった。

 

「やぁあ! やぁああああっ! やー!! ろーじ! ろーじぃいっ!!」

 

 助けたら次は自分がああなるのかもしれない……そんな恐怖に駆られた、ギルドにお集まりのお歴々は、たった一人の町娘を前に動けずにいた。

 だってさ、あそこで捕まって泣かされてる修道女、この町最強なんだぜ……?

 無理だろあれ…………無理だろ……。

 

  £   £   £

 

 さて。

 ねちっこく愛を語られ、床にぺたんと座り込みながらえぐえぐと泣いている幼馴染でこの町最強の破壊僧さんがおるのだが。

 子供のように両手で目尻を拭う仕草とか、まんま子供です。

 ギルドにお集まりの荒くれ者達が、「お、おい……姐さんが泣かされたぞ……」とか「オロニロ最強が……」とか「泣いてる姐さん可愛い」とか「金髪ムッチリシスターの泣き顔とかご褒美です」とか……おいちょっと今言ったヤツ前に出てきなさい。こいつの目の前で言わせてあげるから。え? 俺がなにか言ってやらないのかって? 30レベルあったって戦士5レベルにも勝てないんだよ、商人のステータスって。だから無理です死んでしまいます。まあやりようはいろいろあるんだろうけど。

 

「お前なぁ……どれだけ人のこと語りたかったんだよ……」

「じ、二郎さんの、良いところはっ……もっと、いろんな、人がっ……知るべきで……っ……」

 

 で、こちらでは頭にゲンコツくらった嫁が頭を両手で押さえて泣いている。愛のゲンコツである。

 

「だからって情事まで話すことないでしょーが、ばかもん」

「あうぅうう~……!!」

 

 殴ったところを撫でるでもなく、ヘッドロック気味にぺちぺち叩いてやる。こう、左脇に頭を抱え、右手で叩く打楽器のように。スネ夫が自慢する時のBGMをこう、ぺんぺぺぺんぺん、ぺんぺぺぺぺぺぺんっ、と。連打はスナップを利かせましょう。

 「やー! スネ夫、やー!」と嫌がっているけど聞きません。まったく、前世でもこうなる度に言ってやってたのにこのお子はー!

 しかしあんまり騒がれるのもあれなので、リーネに話しかけるついでにパッと離した。

 

「で、リーネ」

「へう゛……なに……?」

「俺の嫁さんこんなだけど、ほんとにそのー……踏み込んでくる気か? 俺が言うのもなんだが、こいつ、頭のおかしい意味で妙に天然だぞ?」

「じ、二郎さん、そんなことありません、わたしは正常で───ほ、ほら、フリューネさんも───」

「……それは、もう……思い知った……」

「あれ? 思い知られてます……?」

 

 宅の嫁は可愛いですが、学生時代にゃその容姿の他にも、天然な部分でいろいろ距離を取られてたからなぁ。

 逆を言えば、踏み込む勇気と受け入れる気持ちさえあれば、俺じゃなくても上手くいってたんじゃないか……そう思うと、昔っからもやもやしたもんです。

 

「異議ありです! わたしは正常ですよ!? そうですよね、みなさんそうですよね!?」

 

 セフィーは荒くれ者たちに同意を求めた!

 

「姐さんを素で泣かせた……やべぇ……」

「かなり危険な女だ……」

「相当やばい女だ……」

「ブッチギリでイカレた女だ……」

「あれぇ!?」

 

 結果、嫁は自分のヤバさを垣間見た。

 こんなヤバさを知れば、リーネも───

 

「……やだ。やだぁあ……! 私が先だったのに……諦めるなんて、やだぁあ……!!」

「お、おい、メィルヴァイツェンさんまで姐さんを泣かせたぞ……!」

「チジョーのモツレってやつだな……!」

「女性を泣かせるなんて……メィルヴァイツェンさん見損なったっす!」

「クズが!」

「ちょっと待てクズは違うだろ! ていうか今言ったヤツ誰だ!?」

 

 言っても名乗りあげるヤツなど居るわけもなく。

 リーネもまた、俺のズボンをぎゅううと掴んだまま、えぐえぐ泣いて解放してくれなかった。

 ……どうしよう。

 

「な~ぁああロージよぅ。お前もういい加減さ、受け入れてやりゃいいじゃねぇか」

「……アジジ」

「オノヴァン・ブッフだ!! 聞き入る顔で間違えるなよてめぇ喧嘩売ってんのか!?」

「お前が珍しく名前で呼ぶからだろ」

「改まった方が届くかって思ったんだよ。ったく、てめぇもだ、フリューネ。いつまでガキみたいな恋愛ごっこしてんだ。もっと大人になれってんだ」

「エルフは50超えるまでは子供だ……」

「マジかよすげぇなエルフ!」

「すまんリーネ、俺、子供には興味ないんだ」

「わああああー!!」

「いやちょっ、しがみつくな涙拭うな鼻水流すなっ……ってだから拭うな拭うなぁああ!!」

「で。ロージよぅ。お前さんはな~にが気に入らないってんだ。今時これほど一途なやつも珍しいぞ? 気を惹くために好きでもない男と一時的にとはいえ付き合おうと決心したり、女らしくなれば~とか言ってシスターになったり」

「アジジ……貴様はあとで殺す……」

「だからブッフだって言ってんだろうがてめぇほんとブン殴るぞ!? 幼馴染で女だからって容赦しねぇぞコラァ!!」

「返り討ちだ、この猿……ぐすっ……」

「ほう? やってみやがれ。てめぇがその気なら俺は、カウンタージャッジメントでてめぇをボコボコにしてやるぜ」

 

 いや、それお前がボコボコに殴られること前提だからね?

 あと今ならお前が喧嘩売ってきたって大義名分があるから、カウンタージャッジメントさん仕事しないと思うぞ?

 

「さあ! かかってきやがれぇええええ!!」

 

  そして───1分の月日が流れた───

 

「うじゃぁあああ~……」

 

 ドシャア、と。ボッコボコになったブッフが床に転がった。

 あと1分は月日とは言わない。

 え? カウンタージャッジメントさん? うん、休日だったみたい。

 そりゃなぁ、かかってきやがれって言っちゃったらなぁ。

 

「ん……自信ついた。ロージ!!」

「すまん、ロリコンじゃないだ俺」

「子供扱いするなっ! こここっここ子供といっても、エルフの中でであって、私にだってきちんと人間としての知識も常識もあるんだ……! 体だってもう立派な大人だ。その、お前の方が大人、って感じはするけど……」

「口調」

「う、うるさいです! 女の子らしくしても振り向いてもくれないんじゃ、変えようとする意味なんてなかったってことじゃないですか! わ、私はっ……私はお前が、あなたが好きだからっ、だから努力したのにっ! それなのに……!」

 

 キッ、と。リーネがセフィーを睨む。

 

「……!」

 

 セフィーが、ぱああっ……と輝く瞳と表情で、リーネを見つめる。

 ……あ。リーネの腰が引けた。後退った。

 

「あの。フリューネさん、でしたね? わたしはむしろ、二郎さんを愛してくださるなら構いま───あのっ!? じじ二郎さん!? どうしてっ! どうして拳に熱い息を吹きかけてるんですか!?」

 

 それはね? キミにゲンコツをするためさ。

 涙目になって両手で頭を庇いつつ後退る嫁をジリジリと追い詰めた。

 しかし、ここにきてある音が耳に届くと、その勢いもぽしゅりとヘコム。

 ……振り向けば、シスターがお腹を抑えながら耳まで真っ赤にして俯いていた。

 

「……なんか、あったかいもんでも食ってくか」

「~……刑事さんっ……!」

 

 声をかければ泣き顔が持ち上げられた。

 腹が鳴った時はこういう遊びなのだという流れを作って、周りを誤魔化す。

 そういう遊びを、子供の頃にやったもんだ。

 だからべつに、リーネが刑事ドラマなどを知っている、ということはない。

 

……。

 

 ずぞぞっ、ぞぼぼぼぼっ……もぐもぐ、……んくっ。ふーっ、ふーっ、はふっ、ちゅるっ、ずずーっ。はちちっ、あふぁふっ、はふはふ……!

 

「美味そうに食うなぁ」

 

 金髪シスターがカップヌードゥル食ってら。

 そんな光景に感想を言ったのがブッフである。

 気持ちはわかる、と言って、シーフードヌードゥル注文してきたし。

 え? リーネがなにを食ってるか? ……カレーめんだ。

 汁が飛ぶぞって言っても聞かなかった。

 昔俺がカレーはいいぞ、カレーは美味いんだと教えたのを覚えていたんだろうか。

 もっとも、こっちじゃカレーなんざどうやっても食えないから、俺もラーメン創造出来るようになった時はカレー三昧だったもんだ。

 日本のカレーはインド人も認める美味さ! カレーはいいぞぅ!

 カレーヌードゥルminiを創造して、麺を手早く食べて、残った汁で雑炊作ると即席カレーライスもどきが出来るから、一応カレーライスへの欲も多少は満たせたし。

 やっぱね、米があるならね、カレーライス、食いたくなります。

 日本ってほんと凄かったんやなぁ……ってね、日本から離れると思うわけですよ。しかも現在地が異世界なら余計に。

 

「ロージ! おかわり! もっと大きいので!」

「カレー味ならなんでもいいか?」

「いい!」

「ほう」

 

 いい返事だ。

 ならば受け取れぃ……! ペーヤング激辛カレー+激辛ペーヤングハーフ&ハーフ特盛り!!

 それを既に味を半分ずつ混ぜた状態で創造。ほれ、と渡してやると、早速物凄い勢いで食べ始めるリーネ。

 あつ、あつ、はふはふ……って笑顔で頬を緩ませて、それを二度三度と繰り返し「痛ぁあああああー!?」……絶叫した。

 まあ、そうな。この世界の人、激辛とか慣れてなさそうだし。

 辛々魚も前に食べてたやつが居たが、完食するまで苦労してたしなぁ。

 でも美味いんだよな、辛々魚。辛いだけのものとは違う。あれはいいものだ。

 ちなみに激辛ペーヤングも、激辛カレーペーヤングも俺は好きだ。

 ちゃんと辛さと美味さが絶妙に混ざった食べ物って、ほんとのほんとにクセになるよな。

 激辛マニアっていう菓子が結構前にあったが、個人的にはあれはただ辛いだけだった。実に残念だ。

 

(今さらながら、ラーメン創造ってありがたいよな。香辛料とかの素材知識がなくても、食べたことのあるラーメンだったらなんでも創造できるし)

 

 たとえそのレシピを知らなくてもだ。これは本当にありがたい。

 きっとこれから創造スキルが上がっていけば、食べたことのあるものならなんでも創造出来るようになるんだろう。

 それがとてもとても楽しみだ。そのためには売って売って売りまくって、創造して創造して創造しまくらなければ。

 ああっ、楽しみだなぁ! つまりお袋の味も、親父の男の料理も、セフィーのお義母さんの料理もいずれ創造できるんだ……! プロポーズを覚悟して背伸びして行ったレストランの料理も、緊張で味がわからなかったヴィンテージワインも、いずれは……! く、くふー!

 しかも元手ゼロですよ! お金が溜まります! うおおおおやるぞー!

 

「けどまあ、頑張ってっけどよ。商人、って感じじゃあねぇよなぁ」

「思い出させるんじゃねぇよぶち殺すぞブッフ!!」

「お、おぉお!? なんでそんないきなりキレんだよ!」

 

 今日もギルド食堂ヌードゥルガイは大盛況です。

 

 

-_-/一方

 

 とある、おどろおどろしい大陸の一角。

 その大きな城の大きな部屋にて、大きな円卓に座す異形の者たちが嘆息する。

 

『最近……人間どもが精力的に我らの勢力を押しているらしい』

『ああ……オロニロ辺りからだ。奴らめ、血眼になって我らの眷属を探し、殺しているそうじゃないか』

『ヌードゥルダイノタメ、という合言葉を口にしているそうだが……?』

『ヌードゥルダイノタメ……? なにかしらの魔術か?』

『知らぬ。だがどちらにせよ、このまま、というわけにもいくまい?』

『当然だ。調子付いている人間どもに、どちらが格上かを思い知らせてやらねばな』

『然リ。我ラノ力デ、人間ドモニ再ビ恐怖トイウモノヲ思イ出サセテクレル』

『だが、注意は必要だ。慢心はいつだって身を滅ぼさせる』

『人間なぞになにを恐れる必要がある。あのような存在、軽く捻り潰して───』

『ほほう? 貴様は確か、アオズイィールマッズィーニの破壊僧に一度滅ぼされたと思ったが?』

『チッ、口を閉じろよツィーズィンバァグ。貴様如きが俺に勝てる気か?』

『貴様こそ黙れよトゥェゴネメンツィ。滅ぼされて蘇った貴様こそ、敵ではない』

『そこまでだ。王の御前だぞ』

『チッ……』

『よい、ティムツィナーヴェル。臣下の言葉を聞くのも王の務めだ』

『……すまねぇ、王よ。ちっとカッとなっちまった』

『お許しを、我が王。少々気が立っておりました』

『よいのだ。それで……人間どもが調子付いている、という話だったな。その……ヌードゥル、といったか? 結局それはなんなのだ?』

『ハッ……それが、人間の中に混ぜておいた我が眷属に情報を寄越すよう念を送ったのですが───』

『……まさか、始末された、と?』

『そのようで。しかも、ヌードゥルの話が出る前にです。恐らく情報漏えい防止のため、準備と称して怪しいものを始末したのかもしれません』

『やってくれるじゃねぇか、人間……。こりゃあ滅ぼすのが楽しみになってきたぜぇ……!』

『焦るな、エヴィードゥォーリアー。これは“人間ごときが”、と勇んで進んだ者を一人ずつ殺す、やつらの策かもしれん』

『なっ……!!』

『それは本当なのですか、我が王よ!』

『あくまで可能性の話だ。……やつらは少しずつ種を増やし、亜人を取り入れ、エルフと交わり、その数を増やしている。そして武器となる知識を掻き集め、今では我らと戦えるほどに実力を固めてきた存在だ。この際だから言うが、私はもうやつら人間を“ごとき”と扱うことは傲慢だと捉えている』

『そんな! 王よ! そのような弱気で───』

『弱気か。フッ、キャニグラトゥンよ。それは違うぞ。今ようやく、私はやつらを敵として認めてやったのだ。正式に潰す相手だ、とな』

『王……!』

『おおお! やるのか王! やるなら俺も行くぜぇ!? このエヴィードゥォーリアー様がブチノメしてやるぜぇ!』

『さて、皆よ。我々は真に敵と見做した者は、全力で潰してきたな? その最初の一歩とはなんだったか』

『情報収集っす! 王様!』

『その通りだ、ヤクイニックジュウスィー』

『情報……フッ、フフフフフ……! では王よ! その大役、このティムツィナーヴェルに!!』

『いいや、情報収集にはこの私自らが出よう』

『なっ!?』

『正気ですか王よ! 雑魚どもばかりとはいえ、クエストだのと称して殺戮を繰り返す人間どもの巣窟ですよ!?』

『よいのだ、ティムツィナーヴェル。我々は本気を出すのだぞ? つまり、これが人間どもが活気付いた世界を見る最後の機会となる。……私に、朽ちた世界のみを見させる気か?』

『~……! なるほど……! 浮かれて燥ぐ人間どもを一目見て、それからじっくり潰すと……! 王よ、このティムツィナーヴェル、王のお心を汲み取れず……』

『よい。後続も要らぬ。情報を持ち帰るまで、お前たちは待機していろ』

『───つまり。王の帰還とともに───!』

『ああ』

 

 ……人類を、滅ぼそうではないか───!!

 そう言って、魔族の王は立ち上がったのだった───!

 

   £   £   £

 

 で。

 

『……ここがオロニロの町、か。フッ……皆、腑抜けた顔をしている』

 

 魔王は人化の魔法を行使し、オロニロの町に来ていた。

 

(ここが眷属殺戮の本拠地だというが、本当にそうなのだろうか。どいつもこいつも気を抜いていて、擦れ違いざまに手を振るえば簡単に殺せそうではないか)

 

 魔王は訝しむ。

 時折屈強な冒険者とも擦れ違うが、どいつもこいつも魔王の軍勢に敵いそうではない。

 これは、いい情報を持ち帰れそうだ。やはり取るに足らん連中だったと、笑いながらティムツィナーヴェルに報告してくれよう。

 魔王は心を躍らせた。今にも高笑いをしそうなほどに。

 そんな時だ。

 

「おいおい聞いたかヌードゥルガイの話!」

「おっ? どしたいマルク。俺っちは今クエスト終わって帰ってきたところなんだが」

「新しいメニュー、増えたんだとよ!」

「新メニュー! なんてぇのだ!? そろそろ寒くなってきやがったし、あったまれるのがいいんだがなぁ」

「おお、なんでもキムチ鍋っていうらしいぜ!?」

『!?』

「キムチナベェ? なんだそりゃあ」

「いや、俺もよく知らんのだが、美味しく料理してやった自慢の一品だとかなんとか」

 

 なん……だと……!? てぃむっ……ティムツィナーヴェルが……料理された……!?

 馬鹿な! ヤツには城で待機命令を……ハッ!? まさかヤツめ、ついてきてしまっていたのか!?

 

「あ。あったまるって言やぁよ、エビドリアもよかったよなぁ」

「俺はカニグラタンだな。口に入れて転がしてはふはふするのがまたなぁ……」

『!?』

 

 エヴィードゥォーリアーに……キャニグラトゥンまでも……!?

 く、口で殺して、ザクザクにする……!?

 し、信じられん……! 人間どもは真実化物か……!?

 我ら魔族を殺すだけでは飽き足らず、喰らう、だと……!?

 ……い、いや、まだだ。やつらは素晴らしき7人の中でも弱い方だった……!

 まだ……まだツィーズィンバァグとトゥェゴネメンツィが───!

 

「ハンバーグドリアもよかったよな」

「バーグなら、チーズインハンバーグだなぁ俺は」

「手ごねメンチってやつもいい味だしてたよな」

『!?』

 

 馬鹿な……! ば、馬鹿な……!

 魔王の臣下たるあいつらが、皆……!?

 こ、これで我が精鋭はヤクイニックジュウスィーのみに……!?

 ……否。

 私は魔王だ───たとえ一人になっても、我が使命は果たそう───!!

 そう、ようはクエストとやらを受け付けるギルドとやらを潰せばいいのだ。

 癪だがそこいらの人間に話を訊いて、ギルドの場所を知り───あそこか!

 

「───」

 

 乗り込んで一気に潰してくれると思ったが、情報とは何にも勝るもの。

 臣下達の犠牲の上に、今の自分はこの場に立っているのかもしれない……そう思った魔王は、ギルドの羽扉を開ける過程でなんとか踏みとどまった。

 やつらに人化の魔法はなかった。だというのについてきてしまい、恐らく暗殺部隊かなにかに始末されてしまったのだろう。

 ならば魔王たる自分が勇み足になってしまっては、やつらの死が無駄になってしまう。

 勢いよく扉を開け、踏み込んだ時点で、ふと泣きたくなってしまった。

 思えば苦楽をともにしてきた。

 だというのに、すぐに敵討ちをすることが出来ぬ王を許してくれ、と。

 

「………」

 

 ギルド、という場は賑わっていた。

 人間どもはどいつもこいつもなにかを食べていて、変わった色の汁が詰まった容器をぶつけ合っては、ごっふごっふと飲み下している。

 

「っかぁー! やっぱりクエスト完了後のナマビィルはいいぜぇ!」

『───』

 

 魔王はここでも絶句した。

 ナマァヴェィル……魔王軍の練兵団長の名だ。

 強く厳しく、しかし仲間思いだった者の名だ。

 まさか……まさかとは思うが、私がこの大陸へ辿り着くまでもたもたとしている間に、魔の大陸は制圧されてしまったのではないだろうか。

 人間の大陸の空気は肌に合わず、大陸に辿り着くやもどしてしまい、気絶していたいつかを思う。

 よもやあれは一日二日の話ではなく、既に相当の月日が経っていたのでは……?

 

「………」

 

 やるせない気持ちになった魔王は、心が折れそうになるのを感じながらも、せめて情報を持ち帰らねばと歩いた。

 歩き、しかし、悲しみと孤独とで思ったよりも疲れていることを知る。足が思うように動かないのだ。

 何かを食らわねば……咄嗟に栄養を求めたからだが腹を鳴らし、ふと……人間どもが食事をする場に目が移る。

 人の文字は知らないが、今の自分は人の姿をしているのだ……それに合わせた栄養摂取が必要になる。

 なので、他の人間が食べているものを指差しながら、あれをくれそれをくれと頼んでみた。

 眷属たちが、人を打倒して得た銀貨なるものを支払い、対価として届けられたものを見下ろす。

 名前は知らないが───なるほど、よい香り……なのかもしれん。

 

「どうぞ、キムチ鍋とエビドリアです」

『ティムツィナーヴェル!! エヴィードゥォーリアーァアアアア!! ウオオオオオー!!』

「うおおっ!? お、お客さん!?」

 

 泣いた。泣いて絶叫した。

 なんということだ……! 我が可愛い臣下たちが、無残な姿に……!!

 まさか、そうか、まさか、だったのか……!

 ここは、我が臣下たちを細切れにし、料理したものを喰らう……!

 ギ、ギルドとは、そういう場、だと……!?

 

「あ、ああ……まあ、おかしなヤツは毎度来るか。ごゆっくり」

『……、……』

 

 苦しかったろう、無念だったろう……!

 あれほど私の情報を心待ちに、命令さえありゃやってやるぜと喜んでいた二人が、こんな……っ!!

 見れば、ティムツィナーヴェルは、その血はまるでマグマのようだと云われたかつてを思い起こさせるような、赤くボコボコと気泡を立てるなにかに。

 エヴィードゥォーリアーはその気性の荒さとは反し、白き全身に多色の外套を思い出させる姿をそのまま汁にしたかのようなもの……。

 

『ぐっ……く、うぅっく……!!』

 

 名が似ただけのなにかに違いないと、心のどこかで否定していたのに、もはや確定だ。

 可愛い臣下たちは人間どもに殺され…………料理、されたのだと。

 だが、泣いてばかりではいられない。

 せめて……せめてこの我が()み、吸収し、ともに人間どもを滅ぼせる身となってくれ。

 泣きながら食した。

 美味かったのが余計に悔しく悲しくて、余計に泣きながら。

 

   £   £   £

 

 そうして人間の大陸に来て、どれほど経っただろう。

 臣下が用意してくれた金も尽き、いや……それ以前に、身を休める場所もなかった魔王は、聞こえてくる言葉に心を砕きながら過ごし……

 

「おい知ってるか? あそこの新メニュー!」

「ああ! 焼肉ジューシーってやつだよな!」

『…………ああ…………』

 

 ……魔王はとうとう、真の孤独いうものを味わうこととなった。

 残してきた最後の臣下……名前が挙がらなかった最後の臣下の名が耳に届き、心を砕いた。

 もはやこれまで。

 一人孤独に生きてきた魔王ははらはらと涙し、せめて食し、糧にしなければとなけなしの金を手に歩き出した。

 これまで、調理された臣下の血肉は全て我が身に吸収してきた。

 妙な味がしようとも、全て。

 それでいい。お前で最後だ。それを最後に、この魔王は単身で……この地全ての者と戦おう。

 そうして歩き、またギルドに到着し、そこでヤクイニックジュウスィーという名の新メニューを頼み……食み、血肉にした。

 ……さて、長きに渡り、臣下の名がつけられた料理を全て喰らってきた魔王だったが、それらには給仕の女がエンチャントした様々な魔法があった。魔物の力を弱めるもの、悪しき力を封じるもの、状態異状を弱めるもの、逆に魔力強化を固定、安定させるもの……様々なものが。

 当然、魔族にとって嫌いな要素が混ざっていたのだが、それでも血肉になればと食べてきた。

 それらが腹の中で合わさり、一定の魔力を溜め込んでいるとも知らず。

 そして今回、焼肉ジューシーを食べることで、腹の中で新たな魔法が完成。

 そういったものを糧にしてしまった魔王が内側から作用する力に抗える筈も無く、また、魔法自体も魔王の魔力を栄養に巨大になりつつあったため、余計に抗えなかった。

 結果、魔王は人化の魔法を解けなくなってしまい、その時に目の前に現れたウィンドウに首を傾げながらも……右が好きな魔王は、よくわからないウィンドウを適当に押し退けるようにして歩きだした。

 

  転職条件を満たしました。魔王から村人/魔法使いに転職しますか?

 

   【No】  ⇒【Yes】

 

 払いのけた先に押してしまったのは、Yesだった。

 再び出てきた確認用の文字も読めなかったため、払ってみればYesだった。

 ……こうして彼は魔王から村人(ちょっと魔法が使える)に変わり、魔王としての全ステータスを捨てることとなった。

 人化の魔法もそのまま定着してしまい、もはや元の異形に戻ることさえ出来なくなったという。

 

   £   £   £

 

 一方、魔大陸。

 

『───!』

『馬鹿な……そんな馬鹿な!』

『魔王様の魔力が………………消えた』

 

 魔王の魔力、存在感が一瞬にして消滅した。

 ティムツィナーヴェルはつけていた眼鏡を落とし、割ってしまい、拾おうと屈んだ瞬間、涙し、そのまま蹲り、立ち上がれなくなってしまった。

 

『冗談、だろう……? だ、だっておい……王の強さは……よ』

 

 王の強さを知っていたエヴィードゥォーリアーも、思わず足を震わせ尻餅をつき、身を守るようにして自らの肩を抱いた。

 その場に居た全員が、そうして全員を見やる。

 確認するべきことはひとつ。

 これからどうするのか。

 

『……俺は、当然出るぜ』

『敵討ち……全軍で討って出る真似は危険ですね』

『いいや、落ち着け。私は反対だ。そもそもこの地に人が来たことなど滅多になかった筈だ。自ら出て、魔王様を追うことをする必要はない』

『あぁ!? 怯えていろってのかよ!』

『そうではない、聞けエヴィードゥォーリアー。……我々は、人間どもをそれでも侮っていたと言いたいのだ。我々はそれでも慢心していたと、云わざるを得まい』

『ぐっ……! ああそうだよ、あの王が殺された! それは確実だ! やつらは強ぇええよ! けど、じゃあ、どうしろってんだ!』

『強くなるのだ。強くなり、慢心せず、少しずつ……そう。人間のように、眷属を倒し力をつける奴らのように、我々もまたそうした“社会”を作るのだ───!』

『───!! ……王を殺した…………おい。おい……!! 王を、王を王をっ! 王を!! 王を殺したやつらの真似をして生きろってのか!? てめぇ正気かよ!』

『正気だ! 飲み込むのだ! 悔しくないとでも思うのかこのキャニグラトゥンが!』

 

 叫ぶキャニグラトゥンの手からは、握り締めすぎたためか血がぼたぼたと落ちていた。

 それを見て、エヴィードゥォーリアーも唇を噛み、床を殴りつけ、泣いた。

 

『……ティムツィナーヴェル。お前の意見を聞きたい。我らは……今出るのは自殺行為だと断じた。強くならねば……“ここ”だからこそ、堪えねばならぬ……! 我ら全員を足したとて、王の強さには勝てぬ……! だからこそ、我らが一丸となって皆を率いらねばならぬ……そうだろう!』

『………………ええ。その通りです。我々が、立たねば……! そしていつの日か、王の仇を───!!』

『おお!』

『うむ!』

 

 魔大陸、王暦3564年。

 魔王は死亡したとされ、新たに司令塔としてティムツィナーヴェルが立つ。

 この世界での人間社会を真似、人間討伐ギルドを設立。

 言葉を理解し、本能のみで生きる魔物以外はそういったものに参加、力を蓄え、人間討伐をして経験を積んだ。

 魔物側にも人間の行動に困っている者は多く、ギルドには依頼がひっきりなしに届く。

 そうして───人と魔物は一層に対立し合い、ギルドを通す形で長きに渡る戦を続けたのだという。

 

 

───……。

 

……。

 

 

 で。そんな情報が浸透してくると、当然おかしいなと思う者も居るわけで。

 

「乏しい魔力に、痩せた体…………戻らない。どうしよう……」

 

 かつての魔王は鏡の前でさめざめと泣き、頭を抱えていた。

 なんか知らないけど魔王軍が頑張って人間を押しているらしい。

 なのに自分にはもうろくに魔力がなく、しかも体なんて完全に人間だった。

 そんな体だからか人間に絡まれ、戦ったことがある。

 もちろんボッコボコだった。自分が。

 そして知ったのだ。

 

  人間強ぇえ!!

 

 やっべ侮ってたわ! ほんと侮ってたわやっべェェ! なにこれ強ぇえ!

 なので情報を集めつつ地力を固めようと思ったのに、気づけば戻れない体。

 そりゃ頭も抱えたくなる。

 しかも生きていくには銀貨とやらがたくさん必要で、とっくに尽きていた魔王は途方に暮れた。

 そんな自分を拾ってくれたメィルヴァイツェンには本当に感謝している。

 人間だが、こいつは生かしておいてやろう。

 私は王なのだ、恩は忘れん。

 

「オーマ? オーマー? ちょっと手ぇ足りなくなったから頼むー」

「任せておけ!!」

 

 そして今日も張り切る。

 かつての臣下の名が、ここの料理には残されている……せめてそれを励みに、忘れぬ屈辱として、今は生きよう。

 そしてこの姿でも貴様らを屠れるようになった時にこそ───!!

 

「おう兄ちゃん、キムチ鍋ひとつ頼まぁ」

「───っ……~……大事に、食ってやってくれ……!!」

「? お、おう?」

「しっかし、最近魔物が強くなった気がするよなぁ」

「そうそう、やたらと攻撃的になったっつーか」

「まあ、今じゃ姐さんも復帰したから大助かりだけどよ。依頼も増える一方だ」

「姐さんと言やぁ……ほれ、なんでも夜這いしたとか」

「カルトフメルの嬢ちゃんが手引きしたとかで、頭にたんこぶつけて泣いてたぞ?」

「あの嬢ちゃんもやるねぇ。……え? ってぇことはメィルヴァイツェン、とうとう?」

「おう、一夫多妻、受け入れたとよ。責任は取らねぇとなぁ? だっはっは!」

「メィルヴァイツェン! 全部入りよこせ! 祝ってやらぁ!」

「だぁ! うるせぇ! 襲われたこっちの身にもなりやがれ!」

「うるせぇはこっちのセリフだ! おっさんのくせにモテやがって羨ましいぞコラァ!!」

 

 人知れず、一人の商人が一つの時代を終わらせたことを、誰も知らない。

 これはそんな、小物売りなどの取引でのんびり生きる商人になりたかった、ラーメン屋兼なんでも屋なギルド食堂が織り成す、小さいけど賑やかなお話。

 

 




 商人(動かず)のお話。
 ファンタジーの商人って町から町へと旅する存在ってイメージが強い凍傷です。
 馬車とかは必須ですね。
 で、野盗とかに襲われているところを勇者様に助けてもらうとか、そんなイメージ。
 読了、お疲れ様です。

◆とりあえずの補足(ヴァイツェンとかソーヤソースとか、大体ドイツ語)

▼ロージ・メィルヴァイツェン→ヴァイツェンメール
 (そういえば結構前にビールの冊子でヴァイツェン王子ってのが居たなぁと思い出して、ヴァイツェンで調べたらドイツ語で麦とか小麦だった。メールは粉)
▼セニュオル→セニョール・パンチョス(今日から俺は!)
▼セルフィアナ・カルトフメル→カルトッフェルメール(片栗粉)
▼ヌードゥルガイ→麺男→ラーメンマン
▼コギィト・エルゴス→我思う、故に我は在り
▼カニーナ・リティーネ→蟹になりたいね?(鎌田吾作)
▼オノヴァン・ブッフ→ブッフ→本
▼フリューネ・ソヤソス→ソーヤソース→醤油
▼イッパツヤラセロ→ユーアーベリースットコドッコイ(南国アイスホッケー部より、女性への誉め言葉……らしい)
▼ペーヤング→ペヤングソース焼きそば
辛々魚(しんしんぎょ)辛辛魚(からからうお)
▼スミルェ→すみれ
▼とみ因→とみ田
▼一嵐堂→一風堂
▼ツィバカラ→ちばから
▼小僧星→ベビースターラーメン
▼徴税請負人さん→ゲーアノートさん(偽。異世界居酒屋のぶ好きの転生者)
▼ヨモドベニアジジ→ヨモギ・ドベ・ベニアズマ・アジジ
▼アオズイィールマッズィーニ→青汁まずいね
▼ツィーズィンバァグ→チーズインハンバーグ
▼トゥェゴネメンツィ→手ごねメンチ
▼ティムツィナーヴェル→キムチ鍋
▼エヴィードゥォーリアー→エビドリア(発音はヘヴィーウォーリアー的に)
▼キャニグラトゥン→蟹グラタン
▼ヤクイニックジュウスィー→焼肉ジューシー
▼ナマァヴェィル→生ビール
▼ヴェイクォンレトゥス・マクドゥナル・ド・ラ・グランマック→ベーコンレタスバーガー+マクドナルド+貴族称号(ド・ラなど。ドイツ語とか使ってるくせに、何故かここだけフランスチック)+グランマック(パンがどっしりしていた。きっと海原雄山も認めてくれるはず。……なお、魔王のフルネームで、偽名がオーマ)




◆おまけ/ギルド内食堂の魔王様ReStart!

 人を知るため、銀貨を得るため、仕事をしていた魔王……オーマ・グランマック(本名:ヴェイクォンレトゥス・マクドゥナル・ド・ラ・グランマック)は、日々の仕事のさなか、ひとつの本を発見する。

「メィルヴァイツェン、これはなんだ?」
「んー? ああ、ははっ、そりゃあ俺が作ってもらった本でな。『これさえあれば初心者卒業! 30Lvまでの道のり!』ってもんだ」
「……なに? な、ならばこれは、レベルを増強させる魔導書……!?」

 信じられん! 人間にはそんな技術があったのか!
 この世界での“レベル”というものが、どれほど重要なものかを、魔大陸に住まう者も知っている。
 それが上がるだけで強者になれるという、不思議な数値だ。
 つまりこれは、自分が元の姿に戻るための足がかりに……!

「め、メィルヴァイツェン! そのっ……わ、私はこれが欲しいのだが───! いや皆まで言うな! これほど貴重な魔導書だ、そう簡単には手放せんことはわかっている!」
「え? いや、あのな」
「皆まで言うなと言っているだろう! ……そ、そこでだ、その。どうだろう、私が力をつけた暁には、必ずなんらかのかたちで恩返しをすると約束しよう」

 なにせ己と、大陸に住む者たち全ての今後に関わる重要なことなのだ。
 この魔導書はその価値に見合うものだと考える。
 ならば己の全てを賭してでも礼は果たさねば───!!

「そか。じゃあ、立派になっても仕事を手伝うか、ここに食べにでも来てくれ。それだけで十分だよ」
「なっ……欲がないにも程があるぞ、メィルヴァイツェン。お前は優秀だ。その、なんだ。お前とその家族くらいならば、私のもとに招いても───」
「そういうことはきちんと胸張って立てるようになってから言おうな。ほれ、本日のまかないだ。地蔵のカルボナーラ。美味いぞ~?」
「ジゾーノカルボナーラ……」

 自分の部下の名が刻まれた食事の多いこの場で、珍しくも知らない名だった。
 促されるままに椅子に座り、いざと「イタドゥキマスゥ」と人間の食前儀式を唱えると、早速食べる。

「───!!」

 すると、世界が輝きに満ちた。
 頭の奥でなにかが弾けるような、心の奥がやさしくつつまれるような───とにかく、臣下たちの死で弱っていた心が温められた気がした。

「っ……これは……!」

 美味い。
 世に、こんな美味いものがあるとは……!
 魔王は思った。よし、こいつは絶対に殺さない。魔大陸に招いて、料理長になってもらおう。
 それは絶対に絶対です。

「んぐっ、ずぞぞっ、んぐんぐっ……はぷっ、ぞぼぼっ、はふはふ……」

 もはや思考も衰えるほどの食いっぷり。
 あっという間にぺろりと食べてしまったオーマだったが、気づけば腹も心も満たされていた。
 人の身になって初めて気づけた。食とは素晴らしい。
 人間どもがあのように楽しげにものを食む姿にも納得が出来た。

(ああ…………)

 我が臣下たちよ。
 お前たちは本当に……滅びたのだな。
 そして人々の血肉となった。
 今はその血肉をいずれ滅ぼすことを許してほしい。
 そして、その術を手にしたことを許してほしい。

「では、早速───!!」

 魔王 は 書物 を 開いた───!!

「………」

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