ギルド内食堂の小さいけど大きなお話   作:凍傷(ぜろくろ)

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 別の転生者視点です。
 転生ものってさ、なんかこう……別の転生者とか出てくると、萎えるところ、ありますよね。敵とかだったら余計に。
 なんでもない平凡な暮らしをしていて、ただほんのちょっぴりアドバイスというか情報をくれるだけの、穏やかなムラビトン転生者=サンとか見ていて安心する。スゲー安心する。
 でも今回のこれはロージさんとは別の場所でのお話なので、別物って考えで見てもらって全然OKです。出番もほんのちょっぴりですし。


ギルド内食堂の小さなお話のお外のお話

 

 子供の頃から皇帝と一緒に、森の傍の別邸に遊びに来る皇女が居た。

 歳が近いってこともあって、皇帝さんに娘と遊んでやってくれと言われ、遊ぶ俺。

 こっちは集落の近くに皇帝の別邸なんて建てられて迷惑しとんのじゃあ! その上遊べ!? おなめでないよ!? でも皇帝が怖いので逆らえません。

 そんな皇女が実は勇者のジョブの素質を持っていたらしい。遊びの最中にもやらなきゃならない鍛錬とか、サホーとか、もう大変。いや大変。大変なのはわかるよ! なんで俺までやらされてんだよ!

 そして始まる勇者の旅……! 玉座の間にて、皇女はオトモを迎えるために声高らかに宣言する!

 選ばれたるはきっとパラディン、賢者、ソードマスターの彼らだろう! なにせこの俺MURABITOジョブ!

 さあ誰を───え? 俺? いやいやなに言ってんの行かないよ俺! なんで真っ先に俺!? MURABITOだよ俺! エルフなのに魔法使えないし! 弓だってろくに使えないし!

 やめろ! みんなして拍手するな! 助けて皇帝! なにその娘をよろしくって顔! お前絶対今の状況楽しんで───あ、パラディンのヲルスムさん! え!? 一緒に来てくれる!? ありがとう!

 賢者さんもソードマスターさんも!? ありがとう! マジありがとう! 俺、あんたらのこと誤解してたよ!

 

 そうして始まった長い長い旅の日々……!

 魔王を倒せとせっつかれ、やがていくつかの時が経った頃、俺は───!

 

  お前はこのパーティーに相応しくない

 

 ……パラディンさんらに除隊を命じられ、泣きながら森を走っておりました。

 

 

 

───……。

 

 

 

 走った。ただ走った。

 息を荒げ、脇目も振らず、細い枝が頬を掠めても緩めることなく、ただひたすらに。

 

「くそっ……くそっ、ちくしょう……!!」

 

 走りながら思うのは、先ほどまでは仲間であった勇者パーティーのこと。

 幼馴染であり皇女でもある勇者フラム・フレイムと、その頼れる仲間達のこと。

 いや、仲間だなんて思ってたのは一方だけだろう。

 現に俺はこうして、一人でそんな仲間だったらしい奴らに背を向け走っているのだから。

 

  お前はこのパーティーには相応しくない

 

 俺が先ほど、パラディンであるヲルスムに言われた言葉だ。

 他にも様々なことを言われた。ようするに出ていけってことだった。

 

「はっ、はぁっ……! ちくしょう、ちくしょう……!!」

 

 走ったさ。泣きながら走った。

 幼馴染に一言挨拶、なんてこともなかった。

 勇者様には私から言っておく、とヲルスムが言ったからだ。

 あとは、俺が目の前から消えるだけ。

 夜の見張りの最中に恐ろしい敵に遭遇して死んだことにするらしい。

 勇者の盾になって死んだのだ、名誉なことだろう? と笑っていた聖騎士様の顔が脳裏にちらつく。

 それでも走った。走って走って……そして、十分な距離を取ったと思えたそこで───堪えていた喉を解放してやった。

 

「ひぃっ……」

 

 声が裏返る。

 泣いているのだ、当然だ。

 それでも叫ばずにはいられなかった。

 

ぃいいやっほぉおおおおおぅぅぃっ!!

 

 だってようやくあのクソッタレパーティーとおさらば出来たんですもの!

 長かった……長かったァァァァ!!

 

「ちくしょう顔がニヤケっぱなしで戻らねぇ! あぁでも嬉しい! サイッコォオ!!」

 

 くっそぅ! 言うのが遅いんだよヲルスムさぁん!

 俺、あんたがそう言ってくれるのを今か今かって、恋人が相手からのプロポーズを口にするのを待つくらい待ってたんだぜ!?

 うおおお嬉しい! 嬉しいぃいいい!!

 

わぁい僕自由だー!!

 

 両手を挙げて走った。喜びを全身で表すように、走った。顔は超絶笑顔。

 クソガキャアの頃からの夢であった自由を今! 俺は手に入れたぞォォォォ!!

 

  *   *   *

 

 やあ俺フルグス。フルグス・ジジェジョ。

 ジジェジョが言いにくいからフルグスって誰からも呼ばれているよ。

 皇女を幼馴染に持つ、平民エルフさ。

 俺の故郷が辺境にあるんだけどね、家の近くに皇帝さんが別荘? 避暑地? なんか作りやがってさ、ある時期になると遊びに来るんだよ、皇帝と皇女が。

 んで、歳も近いっていうか同じだからって遊んでくれとか言ってくるの。

 皇帝たってのお願いとか無視できないでしょ? 下手すりゃ斬首ざんす。なんちて。……さっぶ! ごめんなさいさぶい!

 と、まあテンションがおかしいのは嬉しい証拠ということで勘弁してつかぁさい。

 えーとね、まあね、すまない、いつも通りなんだ。

 我が人生を覗き見ている人が居るのなら、こう伝えよう。

 

  ドーモ、エツランシャ=サン。テンセイシャです。

 

 今ではどうか知らんけど、十数年前に“最近おっさん転生者増えてんなー”なんて思いながら小説読んでたら、家に暴走トラックが突っ込んできました。はい、死亡。

 逃げる暇とかなかった。だってね、なんかね、吹っ飛んできたんだもの。

 GODの話によると、モノスゲー勢いでガードレールブチ破って落下、俺の家へとそのままゴシャーンだったそうで。そりゃね、逃げられないよ。崖下に家作ってた俺の親も悪いかもだけどさ、まさか横じゃなく縦からトラックが来るなんて思わないじゃない? トラック転生にしたってもうちょいやさしくあってほしかった。

 

  というわけで転生。

 

 ベーコン……ではなく霊魂になって、長蛇の列にて順番待ちして、俺の番になって、希望を三つ言ってみなさいって言われたの。

 俺の直前に居たヤツは無限の剣製だとか不老不死だとか野菜人になりたいとか言って、そいつの前のヤツが向かった先へとうきうきしながら歩いていった。

 で、俺の番なんだけど……なんかね、引っかかったことがあって。

 なので、身体能力強化と限界突破、あと───異世界転生を頼んだ。

 そしたらその受付さん、俺を見るとにっこり笑ったの。

 そして、俺の前のヤツとは違う方向に歩くように教えてくれて、この世界にやってきた。

 希望を三つ、と言っただけで、最初から転生させるなんて一言も言ってなかったのだ。

 どうやら正解を引けたらしい俺は、特典を手に異世界で産まれた。

 ……将来勇者となる皇女の幼馴染として。ちくしょう。

 

「無限の剣製等を希望にした彼は、天国か地獄かで“なんでじゃー!”とか叫んでたりするのかなぁ」

 

 他人の心象風景なんざコピーしたところでまともに扱えないだろうに。魔術回路もないだろうし、あったとしても衛宮士郎式魔術特訓さえまともに出来んと思うよ? 心がぶっ壊れてるシェロさんだから出来る特訓だもの、あれ。脊髄に氷柱ブッ刺すような感覚、常人が耐えられるわけがない。

 まあ、あれだ。とにかく、勇者の幼馴染やってます。ついさっき、とうとう縁が切れましたがヒャッホウ!!

 いやー……息苦しかった! 自由無いし好き勝手行動出来ないし!

 一人で行動しようとすると付いてくるし、ついてきて勝手にコケたら俺の所為になるし!

 皇女がなんぼのもんじゃい! 子供の頃、一緒に居るからって俺までいらんことまで勉強させられて、SAHOUとか覚えさせられて、鍛錬にも付き合わされて!

 いや、この際鍛錬はいいよ? やり直せるなら鍛えたいって思ってたもの。でもさ、皇女相手と俺相手じゃあ、騎士様のやり方が明らかに違うんだよ! 俺で鬱憤晴らしてるのがありありとわかるくらいひどいの!

 それを16になるまでずっとよ!? 怒りもいい加減臨界点越えてたわ!

 でもこのフルグスさんは堪えたね。一度は大人になったフルグスさんだもの、堪えたよ、頑張ったよ。

 で、フラムが勇者の儀できっちり戴冠して、連れて行くオトモを選ぶことになったのだが……玉座の間にて、離れた位置でひっそりと跪いていた俺を指名しやがった。ブチコロがすぞこのやろう。

 

 もちろん俺はアイエエエエ!? 勇者!? 勇者ナンデ! と勇者リアリティショックを発症。嫌でござる! 絶対に付いていきたくないでござる! と断ったのだが、他でもない勇者に却下された。そしてオトモまで付いてきやがった。そりゃさ、あの時は喜んだよ? だって俺一人であのタコの御守りとか心が死にそうだし。

 でもそれは間違いであった。待っていたのはパラディンどもからのストレス発散劇場であったよ。……なんでだよちくしょう! そりゃあいきなり子守り任された~みたいな状況だから鬱憤溜まるのわかるよ!? でもじゃあなんでついてきたんだよ馬鹿! このお馬鹿さんら! ばっ……馬鹿! “バッ”! この“バッ”!!

 どうせ皇帝あたりに目配せされたんだろうけど、嫌なら断れよ馬鹿じゃねぇの!? ねぇ馬鹿なの馬鹿だろ馬鹿だよ馬鹿だったこの馬鹿どもがぁあああっ!!

 

  そうして俺は、他の仲間がパラディンやら賢者やら、上級職で固められる中、MURABITOとして参加。

 

 雑用ばかりを任され、炊事洗濯、雑用ならばなんでもござれ、って感じで大活躍!

 でも戦闘ではうろちょろして邪魔ばっかして、とうとうキレたヲルスムに“出ていけぇ!”って感じで追い出されたわけで。

 魔王討伐の旅が始まったのが今より二年前くらい、だろうか。

 二年もよく頑張った。俺、ほんとよく頑張った。

 わがまま放題の連中の中に村人ひとり、よく頑張った!

 なのでこれからは自由に生きます! 家に帰る? 冗談じゃねぇやい! 勇者の息がブブルバフゥウウとかかりにかかった場所にわざわざ戻るフルグスさんじゃないさ!

 俺はずぅっと、この世界を見て回りたかったんだ……!

 そして、魔王討伐が最優先だと、村や町の困った人や面倒ごとを無視してきた勇者パーティーと違い、そういった人たちを救っていきたい。

 前世では出来なかった様々を、もっと楽しみたいのだ───!!

 

「よぉおっし! やぁるぞぉおおおおおっ!!」

 

 あ、ところでだけどもう一度確認を。

 俺、エルフです。

 戦闘手段は近接戦闘でいってます。

 皇帝の別荘の近くの森に住んでました。

 身体能力強化と限界突破を特典としてもらったら、弓術の才能も魔法の才能もない肉弾戦オンリーのエルフ、爆誕。

 そうなったらもう鍛えるしかないよね? ほらほら、細身ながらもみっしり鍛え抜かれた筋肉ですよ! サイドチェストサイドチェスト!!

 と、ムキ歯スマイルでポージングしてないでと。

 

「あっと、名前は変えたほうがいいよな。フルグスさん、これでも皇女の幼馴染として地味に有名だし」

 

 どんなのがいいだろう。目立たなそうなのがいいよな。

 

「フルグス・ジジェジョ……フルジィ? ないな」

 

 もっとこう、覚えやすく親しみやすいのがいい。

 そう、思わず“さん”とかつけたくなるような───あ。

 

「一番になるって言っただろ?」

 

 言ってない。

 

「富士山のように、日本一になるって言っただろ!?」

 

 言ってない。

 

「ォマェ昔を思い出せよぉ!」

 

 すまない、転生してからきょうまで結構経ってて、あんまり詳しく思い出せないんだ。

 

「今日からお前はっ───富士山だ!」

 

 OKフジさん。

 フルグス・ジジェジョ。頭をとってフジ。さんをつけてフジさん。

 OK! 今日からお前───俺は……フジさんだ!!

 

「GO!」

 

 こうして俺は走り出したのだ───新たなる一歩を。

 “これぞ転生ライフ”と呼べる、輝かしい一歩を……!!

 大体さ? 俺はこの世界をもっとゆっくりじっくりと見たかっただけなんだ。

 身体能力強化と限界突破は保険としてって程度で、そこまで大げさなものを頼んだつもりはない。

 だが、幼い頃から窮屈を感じていた俺は、秘密裏に様々を試してきたのだ。

 身体能力強化はスキルとして備わっていて、限界突破はこれ以上は無理ッスって状況になると、そんな自分を超越できます。

 そうなればさ、ほら、外国人言うところのスーパーサイヤントゥ~とかになってみたいじゃない? 界王拳とかなら二倍から三倍になりたいわけですよ。

 なので、スーパーサイヤントゥー理論。

 身体能力強化を常に使った状態に慣れて、その状態で、強化する前の身体能力に見せる努力を続けた。いわゆるコントロールだね。

 そしてこのフジさんはそれを10歳の時に超えたのだッツ!!

 なので限界突破しました。スーパーサイヤンじゃなくてスーパーフジさんです。

 そうやって現在の18歳になるまでそれを続け、現在は界王拳5倍が普通な状態です。界王拳じゃないけど。

 ええ、これが普通の状態。5倍に膨れ上がった身体能力を、普通に見せる努力をしております。

 全力を出すと、とてもステキなことになりますよ?

 最高で7倍まで解放可能だけど、対主人公爆死地獄(ズガド~ン)を撃ったザーマスみたいに関節痛に悩まされるのでやりません。

 

「まあ、例えで出しただけで、倍数とか関係ないんですけどね」

 

 ともあれ能力解放。

 風を切って走り、ともかく奴らの気が変わる前にと全速力で逃げ出した。

 ちなみに、身体能力とあるからにはスタミナも相当に増えていて、自分でもあるだなんて思わなかった、人体に宿るとされるKIも使えるようになりました。

 といってもかめはめ波とかは無理だった。マジカル☆八極拳のように、攻撃や守り、治癒能力に氣を乗せることが出来るようになったってくらいだ。

 だが俺にはそれで十分だったのです。

 魔王討伐なんてクソ喰らえ! 俺は俺の生きたいように生きるんじゃー!!

 

   *   *   *

 

 これぞ異世界生活その1! 冒険者ギルドに登録!

 

「はい、ではこちらが、ええと……」

「フジです 呼ぶ時はさん付けでいい スキルが一つしかないがどこもおかしくはない名実ともに唯一ぬにのエルフ」

「は、はあ……」

 

 ギルドカードを作りました。

 名前を記入してくれと言われたので、もちろんフジと。

 これでいつでもさん付けで呼ばれたい俺、光臨。

 さあ早速クエストだ! 困っている人を助ける依頼を受けるンだ!

 これぞ異世界生活その2! クエスト開始! うおー!!

 

「初クエスト! 教会横の草むしりボランティア!!」

 

 報酬ゼロだけど評価が上がるよ! やったねフジさん!

 

「あなたにはクンフーが足らないわ!」

 

 言葉に意味はありません。ともかく教会に行ってシスターに話を聞くや、手を蟷螂拳のカタチにして、雑草を指先でブブチャアを引き抜いてゆく。蟷螂拳なら“イーン!”とか叫んだほうが合ってるかも。

 フフフホハハハハハハ!!(CV:銀河万丈) こんなもの、身体能力を向上させていれば楽勝であるっ!!

 

ひつきぼしの鳳凰の握りこぶしの奥深い意義の天翔の十字の鳳ォオオッ!

「は、速───」

 

 シスターが驚いてるけど知りません。

 ともかくザザッと終わらせると、ついでにその脇のドブさらいもして、教会の補修もしてしまう。

 何故ってこれはボランティア! プラスになることならなんでもしませうボランティア!!

 魔王を倒す旅があるから、なんて理由でやつらがこの依頼を無視した時、俺はただただ悲しかったのだ……! でも今、その悲しみを払拭できた! ありがとう若さ! キャシャリンのブルースメーン!!

 

「あの」

「ボランティアだから!」

「え? あ、の、ですが」

「ボランティア!!」

「あの」

「ヴォランティア!!」

「は、……はぃい……!」

 

 やった! 勝った! 仕留めた!!

 ではなくて説得に成功した。

 

「他にしてほしいことはありますか!? なにせこれはボランティア! 金なぞいらないからなんか言って!? なにかあるでしょ!? 言えー! 言わんと大変なことになるぞ! どうなってもしらんぞー!!」

「え? え? あ、あのっ、えぇっと……!」

 

 散々と促しまくってみる。

 こういう人っていうのは大体が“言いづらい”を理由に諦めてしまう。

 なにせ聖職者ですけぇ、人様に迷惑を……とか言い出したらキリがない。

 ボランティアの依頼だって、この人本人が出したわけじゃなさそうだし。だって依頼者の名前が違ったし。

 

……。

 

 というわけで現在、俺はアップルパイを手に草原を駆けております。

 

「ヒャーバローレヒャッヒッフー! ヒャッヒッフーレーヤッホッフー!」

 

 広大な草原を駆けていると、なんだか気分が高揚しませんか?

 こんな世界にモンスターが居るなんて、信じられませんってくらいなのに、現実にはいるんですよねぇ。

 けどアクティブモンスター以外は無視ですとも。なにせ俺は依頼を受けたら狩りに出て武器はしっかり装備して卵もちゃっかり頂きたいモンスターハンター! いえ、ただのフジさんです。

 

「シスターさんたら、離れた場所に居るおばあちゃんにアップルパイを届けたいだなんて、ウフフ、可愛いなぁ」

 

 おじさん思わず頬がほころんじゃう。

 大丈夫、私の配達は完璧です。

 安心して教会で依頼達成をお待ちください。

 私が必ず───依頼達成を報告いたしますゆえ。

 心の中で尊敬する親切な殺し屋ヤシロさんをリスペクトしながら……これじゃ意味が被るか。ともかく敬いながら、身体能力を解放したままスキップする。

 通常の5倍幅でスキップするその姿は、まるで高速と疾風のスーパージャンピングニーパット。

 心もウキウキ、必ず依頼を達成させる気が漲って……溢れ出よるわ!

 

「ア、ア、アー、アー」

 

 ならばこそ、おばあちゃんにも警戒されないように、声色も似せるべきだろう。

 大丈夫、こんなこともあろうかと前世で練習したメラニー法が輝きます。

 両声類って呼ばれたくて頑張ったおっさん、こっちでも頑張るよ! まあ今は18歳のエルフですがね!

 そんなこんなでおばあちゃんが住んでいるという山小屋までやってきた。

 風車が目印、とか言ってたけど……なるほど、こりゃあすごいなあ! 風車をこんな間近で見るの、初めてだよ! しかもこんな風車風車しいものなんて!

 やばい、なんだかとってもファンタジー! 日本とか外国のどっかで見られるあんな細っこいのじゃなくてさ、木でつくられたちょっとゴツめの味のある風車……やばい! 見ただけなのにとっても嬉しい!

 そうだよ……俺、こういうのをじっくり見ながら旅をしたかったんだ! なのに勇者だから勇者だからってあのバカ幼馴染は!

 

「あっとと、早くおばあちゃんにパイを届けてあげないと」

 

 燥ぐのはそれからでもいいんだ。

 よぅしおばあちゃん、待っといでよ!

 

 

 

-_-/ヴァン・デット・シィフ

 

 ぎらり、と。愛用のナイフが窓から入る陽を受けて輝いた。

 それを見下ろし笑みを浮かべる俺の顔が、ナイフに反射する。

 

「頭ァ、誰か来たようですぜ」

「おぉっとそうか。まぁここに来るヤツと言やぁ一人しか居ねぇわけだが」

 

 俺の名はヴァン・デット・シィフ。

 巷で噂されている盗賊団の頭をしている。

 今日はひとつ、厄介なものを盗むために、独りの老婆の家へとお邪魔しているわけだが……ヘヘッ。

 

「ばあちゃんよ。邪魔して悪いな。ちぃっとばかしの辛抱だからよぉ」

「あんた……! あたしの孫になにをする気だい!」

「なぁに……ちょいと俺のものになってもらうだけさ。なんの心配もいらねぇよ」

「俺のもの……!? あ、あんたまさか!」

「ハッハ、そのまさかさ」

「このひとでなしが! 孫におかしなことをしてみろ! ただじゃおかないよ!」

「おーおー元気なこった。まあここまで威勢が良くなけりゃ、こんなところで一人暮らしなんざ出来ねぇわな」

 

 ナイフを手の上で遊ばせていると、ドアをノックする音。

 ぎぎぎ、と風車が回る音がよく届くこの場所でもわかるくらい、それは心に届いた。

 ああ、待っていたとも。偶然見かけた時から俺はあんたに惚れていた。

 絶対にお前を俺のものにしてやると、盗んでやると誓ったんだからな───!

 

「おばあちゃん、おばあちゃん、アップルパイを持って来たの。開けてくれる?」

 

 高い声が耳に届く。そうか、こんな声なのか。いい声だ。間近で見れば顔も一層に綺麗なのだろう。

 さあ、その顔を見せてくれ───! シスター!!

 

「さあ入ってこい! お前を盗むおばあちゃんは俺だ!」

 

 ドバムと扉を開けた。開けて、手を掴んで引っ張り込むつもりだった。

 だが───…………その先に居たのは、何故か無言のまま極上のムキ歯スマイルでサイドチェストをキメる、細マッチョエルフだった。

 

「…………」

「………………」

「………」

「……………」

 

 パタム。無言で扉を閉ざした。途端、その扉がトントンとノックされた。

 

「どうしたのおばあちゃん、私よ。私なのよ。私が来たのよここパリに。ひどいわおばあちゃん。せっかく孫娘が会いに来たのに」

こっ……この期に及んでまだ孫娘と! 謝れぇ! 孫娘さんに謝れぇえ!!」

 

 いや……でももしやとは、まさかとは、よもやとは思うが、俺が逸りすぎて幻覚でも見てしまった可能性も……? 

 ほら、俺、今日のことを考えすぎてて興奮してしばらく眠れなかったし、その所為で疲れてるのかも。

 もう一度……そうだな、もう一度だけ確認してみればいい。

 声だってこんなに綺麗なんだ、開けてみればきっと───と、開けてみた。

 

「………」

「………………」

「…………」

「……」

 

 フロントダブルバイセップスをするエルフがいた。何故か上半身が裸だった。

 絶句する俺を前に、そいつは左右の胸筋をピグピグと交互に躍動させ、ニカーン! と微笑んだ。

 ……俺はかつてない速度で扉を閉めた。防衛本能ってやつだったんだと思う。

 そしてノックされる扉。

 

「おばあちゃんどうしたの? 具合でも悪いの? わたしよ、孫娘よ」

そっ……それでもまだ孫娘と言い張るこの度胸! 誰だぁこんな変態エルフを寄越したヤツはぁああ!!」

 

 もう泣きたかった。俺はこんな変態エルフに出会うためにこんなにドキドキしてたんじゃねぇよ!

 もう違う意味でドキドキだよ! 恐怖と混乱で頭がどうにかなっちまいそうだ!

 純粋にヒトメボレだったんだぞちくしょう! おばあちゃんに嫌われてでも、とりあえずおばあちゃんの前で男らしく告白を! とか思ってたのに!

 殺し文句はそのー……ほら。お、大泥棒ですが、あなたに心を盗まれてしまいました……的な? み、みたいな? うへへ。

 とか考えてたら、ゴバシャア! とドアノブが吹き飛んだ。ヒィ何事!?

 

「だめよおばあちゃん、今日はせっかくいい天気なんだから引きこもってないで出てこなきゃ……!」

「ふざけろてめっ───イヤァ扉が開く! 助けて! たすけてぇええ!!

 

 破壊されて穴が空いたドアから、指がぬうっと現れて、扉を引っ張り始めた。

 俺はもちろん慌ててドアノブとは別の取っ手(おそらくおばあちゃん用のてすり)を掴み、引っ張られるのを阻止した。

 仲間も何事かとすぐに駆けつけてきてくれて、俺の様子を見てかすぐに手伝ってくれるのだがギャアアアアアこの自称孫娘強ぇえええ!! 三人がかりだってのに全然敵わねぇええ!!

 

「頭ァ! なんなんですかィこいつぁ!!」

「自分を孫娘と言い張る細いマッチョのエルフだ!」

「エルフ!? エル……エルフ!? エルフって言やぁ弓術と魔法しか能のない、ひょろっちぃ種族じゃねぇですかい!」

「兄ィ! 幻でも見たんじゃねぇですかい!?」

「じゃあこれ引っ張ってるの誰だよ!」

「ほら、シスターさんの親御さんかなんかじゃないっすか? エルフってのもきっと見間違いですって」

「そうそう、開けてみたら、実は娘を心配するおっさんが居るだけーとか」

「あ、ば、ばかやろっ! 手を離───」

 

 開いてしまった。

 部下どもがニタニタしながら、「ほらほら今さら恥ずかしがってないで、告白の準備、……っす……よ……」と、表情を凍らせていった。

 何故って、その先には……腕を胸の前でクロスさせるように何度も往復させながら、脇をカッポンカッポン鳴らし続けたのち、最後にモストマスキュラーのポーズをとって……ニカーン! と極上スマイルを見せるマッチョエルフが居たのだから。

 なんかさっきより筋肉デカくなってねぇかコイツ! さっきまで細マッチョだったのに、今じゃゴリモリマッチョレベルだぞ!?

 つーかなんで毎度笑顔なんだよ! 怖ぇえよ!!

 そんなエルフが、ぺらりと妙な紙を見せてくる。

 ……あ、なに? ……盗賊団、捕縛……作戦だぁ!? クエスト依頼書じゃねぇか! こ、こいつ冒険者ヴァーーーッ!!

 

 

 

 

-_-/フジさん

 

「成敗!!」

 

 捕縛依頼が出ていた盗賊団の制圧を完了!

 踏み込みラリアットで一発でした。回数で言うと一人一発、三回のラリアットで終わり申した。

 やはりラリアットは素晴らしい。それはかの伝説の超野菜人も認めるところであろう。

 

「おっと、おばあちゃんに会うのに上半身裸はいかんね」

 

 プロレス技を仕掛けるために、敬意を以って上半身だけでもおはだけ申したが、あまりやるとヘンな評判広まりそうだし、今回限りのほうがいいかも。

 よし、きっちり着なおして、と。家屋の奥で呆然としていたおばあちゃんにこの位置のまま説明、シスターさんの名前を告げるとようやく納得してくれたようで、近づいてきてくれたおばあちゃんにアップルパイを。

 

「けどよかったよぉ、あの娘が来なくて。いつも通り来ていたら、今頃とんでもないことに……」

「まったくですな。同意もないのにおなごを襲うなどクズのやることです」

 

 おじさんそんなの許せません。

 なのでこやつらにはたっぷりとお縄をくれてやります。

 こうして縛って縛って……はいOK!

 

「く、くそっ……! この俺が、こんなところで……!」

 

 縛ってる最中に起きてしまったけど、大丈夫、なんの心配もいらない。

 あとは運んでギルドに突き出せばいいだけだし。

 あ、でもこやつらには言っておかなきゃいかんことがあった。

 最初は気づかなかったとはいえ、ずるいことをしてしまった。

 

「それじゃあ最後に、お前らに言っておかなきゃいけないことがある」

「あぁ? なんだぁ? 俺達の処分についてか? っは! どうなろうが俺ゃあ半端な覚悟で盗賊なんざやってたわけじゃねぇぜ!」

「そうだそうだ! 俺っちも兄ィと運命をともにするって、仲間になった時から決めてたんだ!」

「今さら怯えるかっての! けッ! おら言ってみろよ! 今さらなに言われたって俺らや頭はビビリも───」

実は俺っ……! この家の孫娘じゃ……ないんだ……っ!

「「「一目見た時からわかっとったわァァァァ!!」」」

 

 元気に騒ぐ盗賊団を、縛ったまま引きずり連行した。

 おばあちゃんは手を振って見送ってくれて、俺はギルドにクエスト達成報告をきちんと届けることに成功。

 報酬ももらえてひと安心だった。

 いやぁそれにしてもいい景色だったなぁ風車小屋高原!

 俺もマイホームを持つならあんなところがいいなぁ!

 

「おっとと、それより仕事仕事」

 

 俺の目的は世界を旅しながらクエストをこなし、困っている人の悩みを解決すること。

 魔王討伐なんて知りません。散々進まなきゃ届かない巨悪? その前にやることあるでしょう!

 小さなことでも真剣に悩んでいる人は居るのです! それを助けずなにが勇者か!

 いやべつに勇者に憧れるとかそんなことは微塵もないんだけどね、俺は昔っから……言っちゃえば、前世から“人の話を聞いて、辛かったねって言って頭を撫でて助けてやれるなにか”になりたかったんだ。

 話も聞かないで忙しいからを理由に、結果的に助けるだけで今すぐには無理だって言う勇者じゃあない。

 身体能力強化と限界突破だって、それがあれば“ただの無力な人間”から脱せられると思ったからだ。

 

「レッツハバナーウ!!」

 

 体を強化、走り、跳躍する。

 漫画でよくあるような跳躍とともに、一気に景色が流れていく。

 着地の衝撃は氣の応用、化勁で分散させて、そのままさらに駆けた。

 駆けて駆けて……町に戻ると、新たなクエストを探して受けて、こなして解決こなして解決!

 一通りそのギルドでのやることがなくなると、次の町を目指して出発した。

 

「フハハハハ! 体が軽い……もはや恐れるものは無し!」

 

 野を越え山を越え、辿り着いた町のギルドで早速依頼を受けて、たとえそれがどんな依頼であっても解決への努力を惜しまぬ!

 勇者が魔王を倒すために努力するならば、俺は人々を目の前の事態から救う努力をしよう!

 暴れるモンスターあればとことんブチノメし、輝くお宝あれば飢饉に苦しむ民を救おう! 大胆素敵! 電光石火供えガイ! 条理はフジさんのためにある! 本日も俺は───富士山だ!

 そんなわけで町へと到着しました。結構離れてたけど平気へっちゃら。

 辿り着くなり仕立て屋に行くことになったけど、泣いてないよ? 泣いてる暇なんてないもの。

 と、ぶつくさ言いながら冒険者ギルドにやってきた。

 するとどうでしょう、丁度おねーさんが巨大な依頼書ボードに新しい依頼書を貼り付けているところのようで、画鋲をこう……ぐっと押し込んでいるところだった。ちょっぴり力を込めてる女の子って、なんか頑張ってるーって感じがしていいよね。

 

「というわけでなにか依頼が欲しいんじゃよー。こう、風紀的に」

「いきなり下半身パンツ一丁で現れて何を言い出すんですか警備の者を呼びますよ」

「摩擦と着地の衝撃で破けたんじゃよ。ヤツは立派に戦った。その功績を称えてー。でも金がないから依頼が欲しい。わかりやすいですか?」

「………」

 

 そりゃね、通常の何倍もの速度や衝撃での疾駆や着地だ、着衣にダメージが走ることくらい予測はしておりましたよ?

 でもさ、まさかさ、綺麗にビリャアと破けるとは思わないじゃない。

 なのでまさかのブリーフ博士になってしまったこのフジさんは、どうせなら理由があるのだと思ってもらうために靴も靴下も脱いで、下半身はブリーフのみの素足野郎として光臨したわけじゃよー。

 こうしてぺたぺたと大地を感じながら歩く……素晴らしいと思いませんか? 風紀、乱しまくりですが。

 

「なんじゃよ!? こっちは仕立て屋に出したら今日中には終わらないと無慈悲を下されたというのにその態度! ハーッ! もはや勘弁ならねー! 表へ出ろぃ!」

 

 受付嬢にそう言って、発揮揚々に歩き出す。

 じょ、嬢の体にもうとんでもないことしたるわ……!

 すぐに良くなるし大声あげてもあのー……誰も来やしねぇのじゃよ?

 と、心震える我が身を一歩先へと進ませた時、ブスリと奏でる足の裏。

 

ギャアアアア!!

 

 画鋲を踏んだ。素足で。

 ひ、ひどい! なんてひどい! ここのギルドは落とした画鋲も拾っていないのですか!?

 悶絶してギルドの床を転がるブリーフ博士の図とかひどい絵面である。

 そして誰も助けてくれなかったので、泣きながら画鋲をルチュァアと引き抜いて、そこに氣を流して癒していく。

 うう、痛ぇ……! もういやだこんな人生なにをやってもダメだよ全部妹子の所為だ……!

 そうして痛がっている内にギルド内の警備のお方々が来て、二人掛かりで俺の両腕を掌握、連行するに到った。

 

「ギャワー! 待ってくだされ! ヤクザ殿! ヤクザ殿ー!!」

 

 もはや話もまともに聞いてもらえず、連れられた先でたっぷり説教されました。

 必死になって「誰も好きで破いたわけじゃねー! つまりこれは……何かの陰謀じゃよ!」と叫んだのに聞いてもらえなかった。

 うう……俺悪くないのに……。

 でもズボン貸してくれた! いい人たちだ!

 

「そんなわけでなにか困っていることはありませんか? ズボンを穿くことを知った紳士のように、今ならなんでも出来る気がします。こう、風紀的に」

「相応だと思う依頼をあちらのボードから持ってきてください」

「………」

 

 それもそうだった。

 

   *   *   *

 

 これぞ異世界生活その3! そーらーを自由にー! とーびたーいナァー!!

 

「はい!! オトコプター!! ───うおおおおおおおおおおお!!

 

 身体能力MAX(現在での限界)! そして真空斬首刀!!

 高速で回転する我が身を竹トンボのように、空を飛ぶ! 俺が飛ぶ! 雲を突きぬけ星になる! 火を吹いて闇を裂き、スーパーFUJIさん舞踊る!!

 でもずっと回りっぱなしは方向感覚が狂うので、風に乗れたら回転をやめてムササビ・ジツで風に乗る。

 篭手と具足に柔軟性のある広がる生地を仕込み、それを広げて風を受け止めるのだ。

 強風の時は気をつけような! フジさんとの約束だ!

 さて、ところで今回のクエストだが、子守から始まり、犬の散歩に魔法の実験、採集クエストに捕獲クエスト、トドメに偵察クエストときましたよ!

 

「うおおおおおおおーっ!!」

 

 高度が落ちてくると真空斬首刀(オトコプター)

 そして風に乗ってムササビ・ジツ。

 身体能力強化されてるなら、べつにハイジャンプからムササビでいいじゃん、って思うじゃん?

 いやさ、それがね? ……眼下に毒沼があるでよ、無理なんですそれ。

 偵察っていうのがね、毒沼に囲まれた塔の中ってのだから困ったもんで。

 ええ、湖って言えるほど広い毒沼がとある山奥にあるんだけど、その中心にぽつんと細長い塔があるんだ。

 で、そこのてっぺんには窓がある。気になるよね?

 勇者一行と冒険してた時にもこの依頼を見たことはあったんだけど、当然誰もやりゃしない。

 だって沼が毒沼で、しかも普通の毒じゃなくて猛毒なんですもの。

 普通の毒なら毒耐性の装備で全身を固めればなんの問題もないが、猛毒はなぁ……。

 なので川岸……じゃないな。沼岸から全力ダッシュ&跳躍からのムササビ・ジツ。のちにオトコプターで空を飛んで、現在はその塔の傍まで来たわけで。

 

「どぉ~れいったいそこになにがあるというのか、この目で確かめてくれるぜ~~~~~~~っ!!」

 

 しかし結構高い所為もあってか、山の上ということもあってか、ど~にも風が強い。

 くそう、なんとか近づこうとしているのに、まるで風の壁でもあるかのように押し戻されてしまう。

 いや待てよ? 俺はあの窓の先に何があるのかを調べるだけでいいんだよな? だったら別に……窓を破壊してもよくね?

 

「僕らの夢と希望よウェルカム!!」

 

 銀貨を取り出して銭投げの構え!

 そして窓へ向けて投擲!

 

「イヤーッ!!」

 

 おお、見よ……! スリケン・ジツに見立てた銭投げは風を裂くように飛び、今正に塔の窓をゴバシャアと破壊してみせたのだ……!

 ……なんかそのあとに「へぷきゅっ!?」って妙な声が聞こえた気がしたけど。

 そして窓が割れた途端、吹き荒んでいた風がそこへ流れ込み、俺までもを巻き込もうと……グ、グワーッ!?

 

「ゴヴェエッゲッ!?」

 

 当然、風が入り込む穴と俺の体が同等な筈もなく。

 風が流れる勢いのままに体が引っ張られ、窓ガラスに体ごと激突。

 ワシャーンとあっさり窓を破壊した俺は、ドグシャゴロゴロと塔の内部を転がった。

 

「うぉぁぃたたた……! まったく無茶をする……!」

 

 したくてしたんじゃないけどね。

 ってそうだ偵察! 誰か! 誰かある!

 

「……………」

 

 …………。

 なんか倒れ伏してるエルフを発見しました。

 傍に銀貨が落ちてる。

 ……やべぇ。

 

「どどどどうしよう、キツケとかやったほうがいいのかな。あああでも俺ただの偵察機兵ド・ズーカだし……!」

 

 とにかく情報を持って帰らねば夜も眠れぬ依頼人がおるのです。

 なので情報を……なにか、エルフが居たぜ~ってだけじゃない情報を…………ややっ!?

 

「Oh……Diary……」

 

 日記を見つけてしまった。ただの書物かもしれんけど、なんか日記っぽい。

 このエルフのものだろうか……?

 まあ日記といえばバイオハザード。バイオハザードの主人公さんたちも人の日記を平気で読む外道さんばっかだし、今さら俺が読んでもへっちゃらさ。……この世界にレッドフィールドさんとか全然関係ないけどね。

 

「でもせっかくの情報だし、失礼して……」

 

 依頼達成のために遠慮はしません。

 それに、こんなところに住んでるエルフの日記……気になるじゃあないですか。

 

 初の年 天王の月 初の風

 今日からここで暮らせと言われた。魔力の暴走を抑えるためらしい。

 なにもしなくていいから、ともかく外へ出たいのなら魔力を抑えろといわれた。

 

「…………初の年って」

 

 今より1000年ほど前ですが?

 ……まじか、何歳だよこいつ。

 

 千の年 天王の月 初の風

 千年経ちました。書くことがありません。

 

 ひっどい日記だなおい!!

 千年なんにも書いてねぇよ! その代わりに絵っぽいのがなんか描かれてるよ! 自由帳になってるよこれ!

 しかも千年の間にやたらと絵が上手くなってるし!

 なにこれ壁と虫!? すげぇ上手!

 もっと魔力に関することとかなかったの!? つーかこいつの関係者なにやってんのマジで!

 

 千の年 星座の月 澪の風

 今日は風が騒がしいです。

 なんだか外で風が警戒しています。

 なにかが近づいているのでし~ヽ_

 

 あ。これ書いてる途中で気絶したらしい。

 ウヌ、どうしたもんかなこれ。

 えーと、依頼としては塔の中にはエルフのおなごが居て、実は1000歳越えてるヴァヴァアでした。日記の才能全くない。あと絵が好き。

 ……ろくな情報がねぇ。

 

「ヘイ、ヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイ」

 

 ともかく話を聞かんことにはオチもつかん。

 なのでおなごの頬をペチペチと軽く叩きまくってみた。

 すると、うっすらと開く瞳。

 

「…………?」

 

 しかしその瞳が俺を映すことはなく、頭を軽く振りながら起き上がった彼女は、どこかぼーっとした状態のままにきょろきょろと辺りを見渡し、ハッとして手を翳した。

 すると壊れた窓がカケラとともに戻ってゆき、ヒビ一つない状態へと戻る。

 それから彼女は倒れていた椅子を手探りで探すと起こし、ちょこんと座り、小さな机の上に手を伸ばした。

 しかし目当てのものが見つからないのか、目を開いたままだというのに机の上で手を滑らせる。

 

(……目が見えないタイプであったか)

 

 しかし頬を叩かれていたのに他の存在に気づかないとは……ううむ?

 これはもしや驚かしてやりなさいとGODが囁く的なアレ?

 

(では、後ろからそ~っと)

「───そこまでです」

(!?)

 

 馬鹿な! 身体能力を強化してまで音を殺しにかかったこのFUJIさんの挙動に気づいた……だと……!?

 

「……違いますね。フッ……そこまでにしなさい。……いえ、これも……んん、───そこまでにしておきなさい。……おお、これは威厳があるのではないでしょうか」

 

 …………。

 ああ! 独りになるとついつい言葉が出ちゃうお方であったか!

 しかもその言葉っていうのが、どこか自分を恰好よくさせようとする系のものであることが多いパターンの人!

 今日は風が騒がしいって部分で引っかかるところはあったんだけど、まさか……。

 

「まさか窓が急に割れるとは。我が魔力も大分封印出来たと思っていたが、よもやまだ我が制御下から外れるとは。まだまだ我も未熟よ……ククク」

 

 中で二なお方だったァァァァァ!!

 ああやばい、今にも彼女の右腕がうずきそう!

 ていうか腕に包帯巻いちゃってるよどうすんのちょっと!!

 

「~……腕が、うずく……」

 

 うずいちゃいました! あらやだこの子ったらうずいちゃった!

 あらあらうふふ、あらウフフ!

 

「……? いつもより温度が高い……?」

 

 あ、やばい。まさかアレなのか? 目が見えないから他の部分で様々を補っているタイプ?

 じゃあ聴力も嗅覚も、まさかの温度感知も鋭敏さん?

 

「~……“探知(サーチ)”」

 

 どうしようとか思っている内に魔法を使われた。

 サーチ……魔法で生き物を感知するものだった筈。

 

「……エルフだけ。いつも通り私だけか。それはそうですよね。はぁ」

 

 するとどうでしょう、外見年齢相応といった女の子な様子を見せて、とほーと溜め息を吐いてみせた。

 ……思ったんだけど、目が見えない状態で過ごす1000年って、人をちゃんと成長させるのか。

 受け取れる情報が少ない分、人との交流が少ない分、交流があった時のまま凍りついてしまっているんじゃないだろうか……?

 ていうか種族しか調べられないんかいサーチ! ちょ、ちょっぴりドキっとしちゃったじゃないか!

 

「実際はどれくらい経ったんでしょう。適当に千年とか魔法で調べてみたけど、ほんとかどうかもわかりません。魔力だって制御出来ているのかもわかりません。お父さんとお母さん、いつになったら迎えに来てくれるのかな……」

 

 ……あら。

 えっと、ちょっと待て? エルフの寿命って長くて400年だぞ?

 千年ってことはアータ……。

 って、ちょっとお待ち? そもそもこいつ目が見えないんだよね? じゃあなんで、壁と、そこに居た虫を描くことが出来たんだ?

 

「……あ、そうだ。日記の続き書かなきゃ。───“浸透眼(アイヴォン)”」

 

 彼女は光を映さない眼で天井を仰ぎ、そう唱えた。

 すると空中に魔法の雫が精製されて、ポタリと彼女の両目に落ちる。

 あっ……これ、目が見える魔法とかそういうオチだ。

 

「ん……うん。よし。それじゃあ続きを───」

 

 ……彼女は動いた。それは確かに目が見えている人の動きであり、日記と羽ペンとインクを確認すると、起こした椅子に着席しようとして───……上半身裸でサイドトライセップスをキメる、ムキ歯スマイルエルフと遭遇した。

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 固まったまま動かなくなってしまった。

 仕方ないので肉体言語(そのままの意味)で会話を交わそうと、胸筋をマチュピチュッと交互に躍動させて「キャアアアアアアアアアアアアア!?」予想外の本気(マジ)絶叫!!

 そりゃそっか! 1000年一人で過ごしてきたのに、突如として“美麗なるエルフゥ……(熱い吐息を吐くような発音)”であるフジさんが現れたら叫びもするね!

 

「いやあの」

「キャアアアアア!!」

「ちょ」

「キャアアアアアア!!」

「いいから聞き」

「キィイイヤァアアアアアアッ!!」

 

 ……本気で絶叫されて涙まで流されると、人って結構何も出来なくなるのね……。なんかこう、人として悲しいっていうか。切ないなぁこれ結構。

 しかしここで状況は動いた。

 名も知らぬ彼女が魔力を凝縮させて、俺へと突き出してきたのだ!

 そこより放たれるは魔法の弾丸───! 平凡一般エルフなど貫いてしまいそうな光の弾丸が「サイドチェスト!」隆起した美しい筋肉によって、ゴインッと弾かれ窓を割った。

 

「………」

「………」

「知るがいい女……。外の世界の男の筋肉には魔法反射能力が備わっている……!」

「!?」

 

 あ、“マジで!?”って顔で驚いてる。

 でもフジさん真面目だよ? 筋肉で魔法を弾く人なんて案外居る居る!

 ほら、プリティベルとかプリティベルとか!

 

「ところで質問よろしい?」

「…………」

 

 一応、ごくりと喉を鳴らしてから頷いてくれた。

 魔法反射能力を本気で信じてるっぽい。マア! なんてピュア!

 

「おたく、なんでこんなところに?」

「それは…………、……産まれた時から、魔力が強くて、制御出来なくて……」

「まさか暴走して、なにかを破壊しちゃったとか?」

お父さんの髪の毛が日に日にぶちぶち抜け落ちて───」

「こっわ!! えちょっ……こっわ!! なにそれ怖い!! そりゃお父さん隔離するよ! 切実だよ!! ……あー……でも、それでも娘を隔離しちゃうほど辛いかって真剣に訊かれたら───」

「……? お父さんはハゲになっても血涙流しながら堪えてくれていました。ただある日、マイサァアアアン! とか叫んでから人が変わったように……」

「OH……」

 

 う、うん。マイサンのヘアーが禿げちゃうのはちょっと……ねぇ?

 お、男のシンボルだものね? そこのところはきっと、エルフでも同じだったんだろうね……。

 

「ソレで……おたく、1000歳?」

「適当に魔法で日にちを数えていただけだけど、ここに来てから1000回は巡りました」

「……ええと。その中で、1000年も生きられることに疑問は?」

「? エルフってそういう生き物なんでしょう? お父さんが言ってました。エルフは長寿で、いつだって種のためにその魔法を以って尽くすものだ、と」

「………」

「……あの?」

「エルフの寿命ね、長くて400だよ。たぶん、おたくの両親は既に亡くなっている」

「───」

「……、……驚かないんだ」

「言われたことをなんでも信じると思いますか? だって、だとするならただの一度も会いに来ないわけがありません。亡くなる前に一度でも会いに来ないなんて、そんな話がありますか?」

「………」

 

 来たくても、毒沼と風の壁の所為で来られなかったんじゃないかなぁ。

 

「あのー、魔力制御の訓練って、どんな感じでしてたの?」

「部屋を傷つけるわけにはいきませんから、塔の外に。あの綺麗な草原目掛けて猛毒の液体を放つのと、空中には常に風の魔法を放ち続ける、というのを続けてます。……エルフとして、というのも今さらですけど、自然に猛毒を放ち続ける、というのに罪悪感があったので、制御鍛錬を始めてからは一度たりとも外を見てはいませんが」

 

 なんということでしょう。

 このエルフ、外の惨状まるで知らねぇ。

 

「えっとね、外ね、君の魔法の所為で猛毒の沼と風の壁が出来てて、まず近寄れないから」

「!?」

 

 また“マジで!?”って顔になった。

 すかさず「そんな嘘です!」と言われたけど、なら見てみなさいと促してみれば、彼女はあっさり外を見下ろし、頭を抱えて「お父さん! お母さぁああん!!」と泣いてしまった。

 

「…………」

 

 やれやれ。

 隔離したとはいえ、1000は生きたこの娘だ。たぶん、生きる術を教えられたんだろう。

 そういう人たちが親だったなら、たぶん───

 

「……いくか」

 

 溜め息ひとつ、普通にあった扉を開けて、螺旋階段を下りていった。

 一番下まで辿り着いて、扉を開けてみれば毒沼パラダイス。

 そこから跳躍からのオトコプターで向こう岸まで辿り着いて、そこらへんにある木などを調べていった。

 すると……おおあったあった。木に空いてる穴に、朽ち始めてる箱が。開けてみれば手紙も発見。

 途中までは魔法効果で守られてたんだろうけど、込めた魔力も600年以上は続いてくれなかったんだろう。

 ところどころ色褪せてしまっているけど、間違い無く手紙だ。古代文字(プライマルワード)で書かれていることから、書かれたのも100や200の年のものじゃないのもわかる。

 

「よし」

 

 あとは塔の入り口まで……助走全速力ダッシュ&跳躍!!

 風の抵抗を殺すために超烈破弾のような格好で飛翔!

 風の魔法壁ももうなくなってるから、あとはムササビ・ジツで無事到着。螺旋階段を昇って部屋へと辿り着くと、とりあえずそのー……きょとんとした顔で俺を見るなにも知らない精神少女、肉体ヴァヴァア……いや、外見も若いか。ヴァヴァアな要素が生きたことしかない。ともかくそんなエルフさんに手紙を渡す。……ごっちゃりと。いや、1通じゃなかったのよ。たぶん、何度も通ってくれたんだろうね。

 

「これ、は……」

「読めます?」

「……、無理です。エルヴンワードしか読めません。それも簡単なものしか。当然ですよね、私が外で学べたことなんてほんの僅かです。それを知っていてこれだけの文字…………そう。お父さんは、私のことが嫌いだったんだ」

「うむ。これも救済か。では……こほん。……“学の無い内に閉じ込めてしまったお前に、こんなカタチでしか言葉を残せずにすまない”」

「……!?」

「“私もそろそろ土に帰るときが来たようだ。お前は壮健でいられているだろうか。今日も沼と風に守られる塔を眺めながら、これを書いている。お前は私たちを恨んでいるのだろう。すまない。笑顔で親とともに喜びを分かち合う……そんな当然さえ共有出来ぬ場に産んでしまい、本当にすまない”」

「………」

「“以前は草原でしかなかったこの山の頂が、今では毒沼と嵐の壁となっている。これは……きみの拒絶の心の現われなんだろうか。親ならば閉じ込めるだけでなく、傍に立ち、ともに悩むべきだったのだろうな。すまない、親が子に教える感情に誰かを嫌う、拒む、憎むなどというものを混ぜることになってしまったことを、心から謝りたい”」

「…………ってな、ことを……っ……勝手なことを───!」

「“ていうか毒沼作るとか風の壁とか、もう魔力使いこなせてるよね? ねぇ? なんで出てきてくれないの? 別に鍵とかかけてないよね? パパのこと嫌い? 嫌いなの? ねぇ!”」

「───言う───! ……へ?」

「“手紙も一度も読んでないとかなんなの!? 迎えに来たのに出てくる様子もないし入れもしないし、爆音鳴らせば気づくかなって思っても窓から一度たりとも顔ださないし! なんなわけ!? 嫌いなら嫌いって言えばいいじゃない! もうパパ知らない! お前のかーちゃんデーベソ!”……あ、これだけ血痕がある」

「……え? え?」

「“痛ぇ……ママに見つかって殴られた……ちくしょう全部お前の所為だからな、もうパパほんと知らないから。あとパパ、不治で知られる病気にかかったからこれが最後だと思う。せめて一度だけでも顔出さない? パパ死んじゃうよ? ねぇ”」

「えちょ待って!? お父さん待って!?」

「“もう逝きます。お前の母ちゃん超絶美人。こんなハゲエルフでも愛してくれるとかもう最高。でもミュゼルちゃん嫌い。最後くらい顔見せてよもう。嘘愛してる。……どうか、いつの日か娘がこれを読んでくれますよう。情けないところも見せてこその親だからな。じゃあ、私は逝くよ。キミはその生が続く限り、自由に生きてみなさい。もう、きみを縛るものは君の意思以外になにもない。いい加減鳥かごなんてぶち壊して、はばたきなさい。───パパより”」

「………ぁ───」

 

 これで全部だ。

 なんかところどころ血みどろっつーかパリパリに乾いたドス黒いなにかが、手紙開いた途端にパラパラ落ちたりもしたけど、気の所為だ。

 

「よし、これにて任務完了。えーと……ミュゼルさん? 俺これから町に戻ってクエスト達成報告してくるけど、アータどうします?」

「……遺言、だから」

「……そか。んじゃあ毒沼攻略、頑張ってください」

「はい。凍らせるからどうとでもなります。あの……」

「ウィ?」

「……手紙、ありがとうございました。私、外を知ってみようと思います」

「……一応訊くけど。この塔に居るから年取らないとか、ないよね? 出た途端に老婆になって朽ちるとか」

「───……」

 

 ミュゼルさんはなにを思ったのか窓を開けて、静かに目を閉じて念じた。

 すると彼女の体がポワァと輝き出して───

 

「……。私は魔力が強すぎる影響で、通常のエルフの数倍は生きるそうです」

「わお」

 

 そりゃすげぇ。でもなんでわかるの? って精霊さんに訊いたのか。

 魔力に恵まれなかった俺にゃあ理解不能の世界だ。

 

「あなたもエルフならわかりますよね?」

「わかんねーよ。俺、魔力0の落ちこぼれだから」

「え? でも空を飛んできたのでは?」

「おう。身体能力でな」

「え?」

「おう」

「…………しん……え!?」

「つーわけだから、じゃーな」

「あっ───」

 

 開けっ放しの窓めがけ、助走から跳躍してオトコプター。

 さらばたヴァヴァァ……いや、見た目は高校生くらいだから……(おきな)(JK)?

 まあいいや、もはや二度と会うこともあるまいて。

 さあ次の困っている人を探しに行こう!

 救われるがいい人々よ! エルフが! エルフが参りますぞぉー!!

 

……。

 

…………。

 

 ……。

 

「行っちゃった……オトコってすごい……。魔法も反射して、魔法無しで空まで飛べる……あれ? 魔力が高いのがなんだって感じがしてきました……」

 

 少女は何度も頷いたそうですじゃ。

 何度も、何度も。

 やがて満足すると普通に螺旋階段を降り、毒沼を凍らせ、1000年ぶりの外の世界を味わうのでした。

 ……もとい。味わおうとして、行く当ても頼る当てもないことに気づいて、魔法を行使。大回転して空を飛んでいった男を追うのでした。

 

  *  *  *

 

 山を越え谷を越え、僕らの町にーやってきたー! ハンゾーくんがーやってきたー!

 

「カオエー!!」

 

 腕組みをしてピンと背筋を伸ばした綺麗な姿勢のまま、ヴァヒョヒョヒョヒョンと大回転しながら空から舞い降り、ドシャームと綺麗に着地する。

 そんな風な格好いい着地を夢見た俺は、そんなヒーローになるための歌を歌いたくなるような高度から落下。

 かなりの勢いがついたまま、見事その足でドズンと大地にドグシャア!!

 

「ジョゲボッ!?」

 

 脇腹から落下し、その勢いのままにバキベキゴロゴロズシャーと大地を転がり滑り、停止のその果てで、グビグビと喉の奥から湧き出した謎の汁を口からこぼしながら痙攣していた。そんなヒーローになるための歌。

 ちなみにカオエーはカラスの真似でございます。真似ったら真似なのです。ハットリくんもやってたから間違い無い。

 

「ゲッホゴホガハッ!! うぐぐ……急いでいたとはいえ、まさか着地に失敗するとは……」

 

 でも空中で回転しながら腕を組んで、きちんと両足で立つのってなんかいいよね。

 だがともかく町だ。フェンブルンドゥって名前の町だ。

 勇者一行が寄った時、ジャイアントボアの大移動があったのに、賢者の野郎がそんなものに関わっている暇はないとか言って無視した場所。

 野郎め、あとで聞いたんだけど小さい頃に小さな猪にケツに体当たりされて泣かされて以降、猪が苦手だったってだけらしいじゃないか!

 心の痛みを知らぬ者めェェェ……!!

 

「………」

 

 でも、もう大移動は起こったのだ。

 その爪あとが、今もこの町に残っている。

 ところどころぼろぼろだ……修繕もしたんだろうけど、元になんて戻るわけがない。

 

「勇者なんだから絶対に守れなんて言わないけどさ。……はぁ、わからん。魔王がなにしたってんだろ」

 

 そんなに討伐を優先する意味がどこにあるんだろうなぁまったく。

 ま、それよりクエストクエスト。

 

「冒険者ギルドはたしか~……お、あったあった」

 

 低い位置にあるものが、いつかよりも形を変えてしまっている冒険者ギルド。

 それを救えなかったことが胸に突き刺さる。

 べつにあいつらだけで魔王討伐を進めて、誰か一人でも残ることくらい出来たんじゃないかと……もやもやと考えるのはやめる。

 OK一番になろう、アイム富士山。おン前昔思い出せよぉお!!

 

「というわけで、おじゃーしゃー」

 

 お邪魔しますを適当に唱え、中へ。

 羽扉を押し開けた先には随分と数の少ない冒険者と、その割りに多い依頼書。

 ふむ? ああいやいや事情に首を突っ込むことなどいたしません。

 私は所詮肉弾エルフですから、依頼を見てクエストをこなすことしか出来ませんので。

 

「あー……」

 

 やっぱり復興作業のお願いとかがメインだ。

 あとはボアどもをブチノメーションって依頼。

 

「よし」

 

 ならば早速作業に入りましょう。

 大丈夫、私の身体能力は完璧です。

 あなた方の満足いく修繕と討伐をごらんに入れます。

 どうかそれまでお待ちください。

 私が必ず───奴らを殺しにうかがいますゆえ。

 

  ───そんなわけで。

 

 近くに存在するボアの山という場所まで行き、猪どもとスモウ合戦。

 

「猪ども……貴様らには発揮揚々すら生ぬるい……! 受けるがいい、民の怒り! 悲しみ! 小麦粉かなにか! 発狂ォオーッ! 怒ったァーッ!!」

『グヒー!!』

 

 地面を抉るように前方から一直線に突進してくるジャイアントボア。

 それを前に、SUMOUの構えとともに地に拳をドッと付けて突撃開始!

 

  ───YOKODUNA-ZUMOUとは、相手の一撃を受けて尚、美しく在るTORIKUMIを指す。

 

 横に避けるでもない。手で押さえて止めるでもない。

 相手のBUCHI-KAMASHIを受け止めて尚揺るがぬ益荒男であれ。

 それを誉れとし、常に全力でTORIKUMIに打ち込む姿勢そのものこそが───

 

「───DOSUKOI!!」

 

 世界最強の国技、SUMOUである───!!

 

……。

 

 はい、というわけでBUCHI-KAMASHIでボアどもをブチノメしました。

 とりあえず肉などは持ち帰って、復興資源にしてもらうため無料で提供。

 あとは修繕作業などを手伝って……え? ここまでくると建て直した方が速い? 木材なら山に腐るほどある? でも手が足りないと。

 ようがす! ならば頼ってセニョーレ! この富士山はそのために居るのです!

 そう、身体能力とはなにも体を動かすことだけじゃないんだぜ! ここさ! ここを使わねば!

 脳(身体)を駆使して図面を引いて、それを組み立てるにはどういった形の木材が必要かをイメージ、切断、計算をして、釘などを使わずに嵌める形で組み立ててゆく。

 脳だって身体の一部さ! 身体能力向上で影響がないわけがないだろう!?

 

「あ~ったったったったったったった!!」

 

 ギコギコドゴガコガポンガコンコパァンッ!! ……音にするならそんな感じで、どんどんと組み立てていく。

 身体能力が人間の範疇を越えると、家作りも工作みたいでおもしぃです。

 

「これでどーだー!」

「「「お前本当にエルフ!?」」」

「ンもぉちろんさぁ☆ この尖ったお耳がお見えでないかい!?」

 

 言いつつ惜しげもなく素晴らしい肉体を披露する。サイドチェストサイドチェスト! そして忘れずにスマーイル! ニカーン!

 

「だぁ! 鬱陶しいわ! わざわざポージングすんじゃねぇ!」

「………」

「無言で胸筋震わせんのもやめやがれ!!」

「あ~あ……俺、こいつの所為でエルフのイメージ完ッ璧に裏返ったわ……」

「俺も……」

「俺も……」

「おいどんも」

「「「てめぇ本人だろうが!!」」」

 

 ノリツッコミを理解してくれる人って、からかい甲斐があっていいですね。

 ではでは次の街を目指しましょう。えーと次は何処行ったっけ。

 やつらとの旅路は記憶したくもないから~って、結構行動しながらもいい加減な記憶力しか発揮しなかったからなぁ……。

 

「ていうか……なぁあんた。あんた確か、勇者一行と一緒に居た人……じゃないか?」

「うん。勇者一行に相応しくないから失せろって言われたエルフです」

「「「ああうん、相応しくはないなぁ」」」

 

 みんな正直だった。いいじゃない、脳筋エルフが勇者PTでも。いやよくないか、よかったらあのまま勇者PTだったろうし。

 

「なんだって今さら……っと、失礼。何故それが、こちらに?」

「勇者と旅してる間中、ずーっと疑問だったから。目の前で困ってる人を無視して魔王魔王言ってるやつらが嫌いだった。だから、最初の町から順番に依頼達成しまくって、今ここ」

「え……? あ、いや、助けてもらってなんだけど、いいのか?」

「いいのいいの。俺、元々人助けとか、誰かと協力して達成したあとにヒャッホウって喜ぶのが好きなだけのエルフだから」

 

 勇者PTってなにかを達成してもはい次はい次って、暗いのよ。

 だからこれでよかったのだ。

 それに俺は、魔王が存在する世界ではあるけど……この世界、美しい、思いマス。

 それを堪能もせずにただ魔王をブチノメしに行くとか、もったいない。

 魔王が支配する国があるとして、それをよく知りもしないで魔王だからブチノメす……実にツマラナイ。

 魔王が統治する世界とか見たくない? 魔がついてるとはいえ王なんだよ? どういう世界になってるのかとか見てみたいじゃん。

 魔王を倒しちゃったら、その世界はもう見られなくなるんだ。

 だったら、魔王を滅ぼす前にそれをしっかり見つめて、人間が統治しちまう世界よりも、悪いものなのかいいものなのかをしっかり見定める。

 魔王のほうがいいと判断したら、俺はたとえ相手が幼馴染皇女だろうとDOSUKOIします。

 大体さぁ、魔王は王として頑張ってるのに、人間の王がデブでザコって国、俺心底嫌いなんだよね。魔王って強いよね? じゃあ人間の王ってなんでガキに王を殺してこいなんて直々に頼むくらい、大人としても王としても終わってんの? 世界狂ってるっしょ。

 

「というわけで、俺もう出るね? あ、ほかにして欲しい困り事とかある?」

「あ、それならよぉ兄ちゃん。さっきギルドに女の子が来たんだが……登録したいってのに登録料持ってないってんでな? なんとかしてやってくれねぇか。なんか知らんがあまりにも常識外れでなぁ」

「ホ?」

 

 いや……それはいいけど、なんであえて俺に?

 別にそれは誰かが常識を教えてあげればよくねーですか?

 とそこまで考えたところで、視線の先のギルドから見た顔のおなごが出てきた。

 

「あ」

 

 視線が交差するや、相手も「あ」と口を開いた。

 そして、そんなおなごがぱたぱたとこちらへ駆けて───こず、空を飛んでこちらへ素っ飛んで来た。

 

「追いつきました……!」

「………」

 

 名をミュゼル。塔に居た1000年外に出なかった引きこもりエルフだ。

 

「いや……なんでついてきてんのお前」

「私、思いました。籠から出て自由に羽撃けと言われましても、世界のことをなにも知らなければ死ねます。飛び方を知らない鳥に生きる術はありますか」

「ないね」

 

 即答で返した。

 そりゃそうだった、死ぬわ。主に好奇心で毒沼に触れて死ぬわ。

 

「なのでそのきっかけになった人には、きちんと世話をしてもらいたいのです」

「え? なにそれ関係なくないです?」

「なくなくないです。あなたが来なければ私はずっとあそこに居ました。鳥かごを開けた責任を取ってください」

「………」

「………」

 

 よーしちょっと待とう。

 魔力が高くて歳をとらなそうなハイエルフさんが責任取れと言ってきました。

 1000年風呂に入ってなくても魔力がそうさせたのか、体臭がアレということもなくむしろ清潔感溢れまくりです。

 食事に関してもマナを食べて生きてきたようで、なんか霞を食う仙人みたいなアレっぽいです。

 で、胸おっきい。綺麗。可愛い。外見だけならこう……控えめに言ってどストレイク。もとい、どストライク

 あれ? でも妙ぞ? エルフのお胸は基本ホライゾンで、恋が溢れなければ大きくはならんとかどっかで聞いたような……マナのお陰? マナ食いまくってたから? ……まあいや! おっきいのは正義! 大は小を兼ねるっていうし!

 

「OK責任を取りましょう」

 

 考えるまでもなかったや! でもそのー……お、お互いをよく知ることから始めようネ!?

 たたたたとえば交換日記とかから……!!

 ウムスと頷き、まずは彼女の冒険者登録から始まった。

 登録料はこちらが出して、夫婦ってことで登録完了。

 魔力のことで、幼い頃からろくに知り合いも友達も居なかったらしく、他人と長く話したのも俺が始めてということで……これより、旅をしながらの学習が始まりもうした。

 

「……いいなぁ。こんな筋肉エルフでも、追ってきてくれる女が居るとか」

 

 ほっときなさい。筋肉関係ないでしょうが。

 たとえ常識を勉強するまでの間の彼女さんでもいいのです。

 いずれ巣立つのであれば、それまでにたくさんの恋と愛と夢を授ける……それが責任というものだと自負しております。

 

   *   *   *

 

 あらかたの説明を、彼女が空を飛び、俺が大地を駆ける中で続けた。

 俺がかつては勇者パーティーに居たこと、今は除隊を命じられて、自分がしたかったことをしている最中だということ。

 そうしたことを続け、村や町に辿り着けば、依頼を受けたら狩りに出る! を続けていた。

 相当はしょってますが、結構な数のクエストをこなしましてござい。

 

「はぁぅふぅううう~……!!」

「くぁあっはぁ~……! こりゃたまらんなぁ~……!!」

 

 そうした旅路の中で、1000年も入ってないのならと山の温泉に浸かる男女。

 いまいち羞恥心とかない彼女とともに、誰も寄り付かない山奥でお風呂ですよプロデューサー! ……誰だプロデューサー。

 

「………」

「? なに?」

 

 で、風呂で、男の前だろうと隠しもしないそのダイナマイツ。

 この世界に存在する数多のマナ粒子よ……彼女を素晴らしく育ててくれたこと、心より感謝します。WOW! 山脈さんが浮いてるYO!

 皇女が隣に居た所為で女っけのひとつもなかったピュアなジュニアが、グワッハッハと猛っております。お願い落ち着いて! ステイ! ステイ!!

 

「ふぅ……」

「ん、もう上がるのか?」

「? 違います」

 

 湯船から出て、近くの岩にちょこんと座り、俺を見てこてりと首を傾げるミュゼルさん。

 少しの間そんな状況が続いて、やがて痺れを切らしたかのように、

 

「あの、洗ってください」

 

 などと仰った。

 なんでも彼女のママりんは彼女の魔力に臆することなく隣に居て、もちろん湯浴みの時も髪を洗ったり体を洗ったりしてくれたとか。

 それ=お風呂とは、一緒に入った人が相手の体を洗うもの、として認識されているという───!

 

「……? 違うのですか……?」

「違いません」

 

 紳士の顔つきで否定した。

 ありがとうママさん。そしてGOD……俺、男になってきます。

 いざ、アイテムボックスから引きずり出したタオルにヴォディソォプを塗りたくり……!

 

「? ? あ、あの、なにを?」

「え? なにって───そんな! まさかのオアズケ!?」

 

 ちょ、待てよ。ここまで来て体は洗わせないとか無しですよ!?

 そんなの詐欺だよ! 許せない!

 

「お母さんは……肌を傷つけないように、って……手でやってくれました」

 

 詐欺サイッコォオオオ!!

 許す! ありがとうママン!

 ヴォディソォプを吸ったタオルを空のかなたに大遠投して、再び紳士の顔つきでヴォディソォオオプを手で伸ばして……。

 

……。

 

 ……漫画的表現で、お風呂といえばカポーン。

 堪能しました。

 二人して並んで、大自然の湯船に浸かって、シャーワセ気分。

 自然が育んだマナボディ……スバラシカッタです。

 しかも“一緒に入った人が相手を洗う”と言った通り、そのー……き、ききき綺麗にされちゃいました……!!

 これはもう、ミュゼルさんにお嫁にもらってもらわないと……!!

 といった感じで、“何も知らないエルフさん”から“気になりすぎる相手”になってしまい、意識しまくりです。

 男って単純……!! ごめんなさい、でももう彼女しか愛せない……!

 

「?」

 

 視線に敏感になって、つい目を逸らしてしまうと、つつっと移動してきて目を合わせようとしてくる。

 どうにも幼い頃にパパりんとそういう遊びをしていたそうで、密着するたびにぽゆりとやわらかな山脈があばばばばば!!

 でも、でも無垢なお子にそうやって手を出すのはヨクナイのでは!? イッツァヨクナーイなのでは!?

 そそそそりゃ責任とる、イイマシタ! ででででも恋を知らぬお子に手を出すのはHANZAIなのでは!?

 いやでもエルフって恋愛とかするの!? 種として子孫を残すくらいの義務しか持たないって聞いたことあるよ!?

 あぁあああでもエルフって恋をすると胸がおっきくなるとか聞いたし!

 あれ!? じゃあミュゼルさん、塔の中で恋してたの!? ……ああうん、家族愛には焦がれてたかもだ。それがどこかで捻じ曲がって、純粋な恋と勘違いして育った可能性は捨てきれませぬ。

 

「ねぇミュゼル。キミはそのー……夫婦といふものをどうお考えで?」

「全てを曝け出して、寄り添うもの、と……お母さんは言っていました。お父さんは、心を委ねて傍に居たいと思える相手同士、と」

「……ミュゼルは、俺と一緒に居たいって思う?」

「私は他を知りませんし、知りたいとも思えません。どうせ知ったところで魔力のことを知れば離れます。最後に会いたいと願ったとはいえ、両親でさえそうだったのですから。……だから」

 

 ぱしゃり、と湯船を揺らし、ミュゼルが俺の頬に手を伸ばし、触れてくる。

 その顔は、とても穏やかな笑顔で……

 

「私は、私を出してくれた相手がフジで、とても……とてもよかったと思っています」

 

 ……OH。

 言われてみれば、彼女にとってはこの世界は両親でさえ自分を恐れる、というのが1000年も続いた場所なのだ。

 もはやそれが常識といってもいい。

 そんな世界で自分を恐れず、どころかからかいさえする気安い男な俺は、安心も出来るし傍にも居たいと思える相手らしく……あ、やばい、こんな性格だったから前世でもドゥーティーだった俺だけど、今だけはこの性格に感謝を! “テンションうざい”とか、“軽すぎて、真剣なおつきあいは……ちょっとねー、ないわよねー”とか言われてた俺だけど!

 い、いいよね? もう告白とかしちゃっていいよね!? むしろ他には二度と機会などないんじゃないでしょうか! ならばむしろプロポォズとかしちゃっていいんじゃないでしょうか! いくよ!? いっちゃうよ!?

 

「ミュ───、……ん、んんっ! ……ミュゼル。俺と夫婦になってください」

「? ……え?」

 

 ギャアーアアアア!! 早まったァァァ!!

 うっわ“え?”とか言われちゃった! 言われちゃったよ!

 やだー! もういやー! お家帰るぅー!!

 所詮こんな性格の俺なんて、誰も受け入れてくれるはずもなかったんやー!

 

「……エルフの愛は、態度で示すもの、と……精霊が言っていました。追ってきて、こうまで密着すればわかるもの、と。あの……もしかしてフジは、どんかん、というものなのですか……?」

 

 夫婦だったらしい! なんかいつの間にかエルフ式愛情表現で夫婦だったらしいよ俺達! 気になって訊いてみれば、エルフは連れ添う際に愛をささやくだの告白だのはせず、態度で示すのだとか。というかいつの間にか一緒の時間が増えて、そのまま夫婦になるんだとか。それは愛や恋というよりは種の存続のため、というのが血に刻み込まれているためらしく……うおお、種としては正しいんだろうけど、なんか枯れてるってイメージがすごい……!

 でも……態度。態度か。だよね! ですよね! だってなんか常識知らずとはいえ妙にぴったりくっついてきてたし!

 俺達夫婦でした! 夫婦! あっははは夫婦って夫婦夫婦フオォッ!?

 

「…………」

 

 夫婦。ではその。ITONAMIも、いたしちゃってよろしいのでは?

 がががっががががっつきすぎだっていうのはわかってるんですけど! わかってるんですけど! お付き合いもしてない僕ですから、どうステップアップすればいいのかもわからないし───ていうか恋人跳んでいきなり夫婦ってなんなの!? 青春の甘酸っぱさとかオイラ知らない!

 

「あ、ああえっと、今のは確認をしたかっただけ、というか。その。俺もそうなりたいって思ってたから。でもさ、口にしないでっていうのは相手に失礼な気がしたわけでして」

「……、……なるほど。人間は相手に対して“スキ”と口にするのですか」

 

 ちょっと黙ってて精霊さん! 余計なこと教えたら僕はあなたを許さない! 絶対にだ!

 あと欲望ばっかりでごめんなさい! どどど童貞ちゃいませんもの! 童貞ですもの!

 

「………」

 

 でも、今はまだ傍に居て欲しい相手ってだけなのかもなぁ。

 そう思うと父親にじゃれつこうとする娘、みたいな感じなのかな。

 まあ……夫婦ですけど! いつの間にかの夫婦ですけど!

 なのでえーとそのー……一応、そういった行為を知っているのかとか、夫婦のITONAMIについて何度も何度も確認をして、そのー……

 

「……、あ……。そういえばまだお父さんとお母さんと暮らしている時に、二人が夜に抱き合って……」

 

 目撃しちゃったことがあるらしいです!

 ドドドドドドンマイ! パパりんママりん!!

 

「そう、ですか。あれは夫婦ならばすること、と……。ではフジ」

「ひゃはいっ!?」

「私はあの二人以上を目指したいと思っています。ならば、あの二人がしていたものを経験しないのは許せません。フジならば知っていますよね? その、私はどうすればいいのかもわからないので、お任せしてしまって構いませんか?」

「マジですか!? え!? いいの!?」

「ぇっ……あ、の。はい……いい、のでは……?」

「───」

 

 前世の知り合いよ。

 今世の幼馴染よ。

 俺……“キミはまだ~シンデレラっさー”とか歌います。

 で、でも初めてはやっぱりオフトゥンの上でだよね?

 大自然の下でとか、いくら常識がなくてもドン引きされるかもだし……大丈夫、なんの心配もありません。野営用にテントくらい常備しておりますから、あとはキミが結界魔法でも張ってくれれば───あ、でも“テントの中でとか……”なんて引かれるかも……?

 

「じゃ、じゃはっ……! じゃあっ! その……どっかの宿で」

「? 自然に囲まれながら、心許せる相手と、では……ないのですか?」

 

 精霊、お前マジグッジョブ。

 誰とも知らん精霊がサムズアップしてるマボロシを見た気がした。

 

   *  *  *

 

 そうして朝を迎えた。

 オ、オカシイナー、おっぱじめたのが昨日の昼なのに、なんで朝なのかなー。

 ……はい、あの、すんません。身体能力強化、侮ってました。

 そうですよね、ですよね、ですもんね、身体能力強化ですもんね。

 散々こじらせてきた“魔法使いLv30(どうてい)”の反動は凄まじかった。

 

「ィェ~ェエエ~ェエエエィ……!! ───ウェッ!!」

 

 大自然の中、ミュゼルの結界魔法の中、そのまたテントの中、さらにオフトゥンの中、そこから這い出し、温泉の傍らでライジングサンに向かってプレイオ○ラインの起動音(?)を口ずさみ、(わらべ)なる自分にサヨナラした。サヨナラ!

 それから、エルフ族でいう真名という意味でフルグスの名をミュゼルさんに託し、ミュゼルからはミューズの名を頂き、今ではフルグス、ミューズと呼び合う中に……! ハ、ハイラートギャラクシー!

 テンションおかしくてすまない……でも、でも嬉しい!

 前世では誰とも連れ添えない理由を“ほら、結婚って人生の墓場って言うじゃん?”とか格好つけてた俺、サヨナラ!

 俺、この人を絶対に幸せにするよ! 相手が出来たら自分の出来る限りでやさしく愛し続けるって決めてたんだ! 相手が知識をいっぱいつけちゃって捨てられる結果になったら号泣する覚悟だよ!

 あ、そうだ、プレイオ○ラインといえば、サイゴノファンタジー11は今頃どうなっているのだろうか。

 マイキャラクターはラテーヌで棒立ちしたままなんだろうか。

 ラ・ラ・ラテェ~エヌ~♪ ラ・テ~ェヌ~の星~♪ あ、これ違うや。

 懐かしいなぁ……ランベリングランバードさんにボロ負けして心が折れたんだっけ。ソロしか出来ない、ネットコミュ症だった俺を許してください。

 まあなにはともあれ。

 

「うん……朝、感じてる!」

 

 疲れ果てるまでいたしたというのに、寝て起きれば雄々しいマイサン。

 精霊様知識だと、エルフって性欲がない筈なんだって。

 種として子は残すけど、性欲を漲らせておなごとまぐわうことってないそうで。

 ミューズ的にもそこのところは予想GUYだったんじゃないかなぁ。

 一回で済むと思ってたそれが恋と愛と性欲から来るITONAMIと気づかぬまま繰り返され、恋と愛と性欲を知った途端にもう真っ赤っかになって慌てふためいて……ウフフ、可愛かったナァ。

 いえね、丁度いいとは思ったんですよ。ほら、相手さんはそういう知識がないわけでしょう?

 ならばと、相手に訊きながらきもちぃ場所を手探りで、さらに恋と愛と性への知識欲を刺激しつつ、互いを知っていったのです。

 結果は……まあその。初めてといたしましては大成功と言えるものかと。ハジメテでの失敗はトラウマものだと前世で聞いたことがあるし。

 などと余韻を大事にしつつ、感想を吐露してないでと。

 

「さてと、朝風呂でさっぱりしてから、次の町へと参りますか」

 

 幸いなことに仲間が増えました。

 これで、さらに人々の依頼をこなせます。

 なにせ俺にはない魔法を使える、むしろ魔法のプロヘッソナルのエルフさんです。

 エル……エルフ。あ、そっか。ミューズの場合、相手がエルフだから、俺への警戒心も少なかったのか。

 時々自分で自分がエルフであること忘れるから困る。

 まあそりゃね、エルフを象徴するような行動、一切取ってないから……。

 

「ミューズ、ミューズ。私の可愛いミューズ。朝ですよ、さあ、お目覚めなさい」

「………………」

 

 ……。最近わかったこと。

 この娘、朝に滅法弱い。

 そして地味に寝相が悪い所為か、寝巻きがおはだけになって綺麗な山脈が……!

 

「……据え膳、大好物です」

 

 ただし恋人間か夫婦に限る。

 浮気者は滅んでしまえ。

 というわけでいただきます。

 あ、もちろんきっちりと準備からですよ? 自分だけがきもちぃなんてイッツ・ア・ヨクナーイ。

 

「ん、ん……? ん、ひゃうっ!? ぇ、ぇな、なっ!?」

「おはよう」

「あ、は、はい、おは、おひゃぅっ! え、あの、なななにをっ……!」

「好きです」

「ふわっ……!? は、はい、それは、昨日から何度も───」

「愛しています」

「~……は、い……愛、というのも知りました……! わわ私はなんと感情の乏しい者だったのかと───んきゅうっ!? あのあのあののののにゃはっ、にゃにをっ!?」

「あなたと───合体したい」

「え? がった…………ぃ───!? そんなっ! あれだけしたではありませんか! そんな、余韻が抜けきらない内になんて」

「ごめんよ。……若い者の性欲、甘く見ておったわ……」

「性欲……そ、そう、そうなのですか。あの……打ち勝つ御慈悲などは───」

「………」

 

 ぬう、そうまで言われてはこの富士山、山脈を平野にすることも厭いません。

 でもいたしたく存じ上げておりました故、フルパワーなんですが……。

 いやいやっ、性欲に負けるな俺っ! 初体験を終えたばかりだからって、それの虜になるのはよろしくない!

 そう、愛だ! 性欲ではなく愛で己を語れ!

 心に喝を入れて、半うつぶせ状態で震えるミューズにキスを落とす。

 

「……? フルグ……ス……?」

「───」

 

 愛で性欲が浄化されていく。

 普通なら逆にもっと猛るだろうに、男というのは単純なんです。切り替えが早い。

 相手が愛しくて仕方ないのなら、守る対象として認識すればいいのです。それもまた、超・雄度が必要となる行為。

 猛りの全てをそちらに向けてしまえばいい。我が体に操れぬものはなし!

 なのでまずはミューズをお姫様抱っこで抱えて、温泉に浸かることにした。

 フフフホハハハハハハ!! 性欲───恐れるるに足らず!

 

「あの……フルグス。腰あたりになにか、硬いものが」

「なんかもうごめんなさい!!」

 

 意思は切り替えられても、集中した血とかはそう簡単にいきませんでした!

 

  *   *   *

 

 依頼を求めて北から南へ東から西へ。

 物理と魔法が備わった俺達に困難な道など殆どなく、この頃になるとレベルというものも随分と上がっていた。

 この世界、スキルがモノを言う世界らしく、正直どれだけマッチョになっても戦闘への影響はあまりない。

 しかし俺の場合はスキルとして“身体能力強化”があるため、物理でも十分いけます。むしろ貴重なダメージ源。

 そんな俺は現在、ガルナデーンって町で依頼を受けて、狩りをしていた。

 オーガが出る洞窟があるってんで、その討伐依頼だ。

 こう、体を振って、高速のシフトウェイトを魅せ、体を振った反動で───左右をっ! 叩きつける!!

 

「んんんんんんんん───うぅんっ!!」

 

 ドボォッ、とオーガの脇腹にリバーブローが突き刺さる。

 オーガ、というだけあってデカく、俺の頭が丁度相手の腰よりちょい上辺りというんだから、ほぼ二倍かそれ以上だったりする。デケェ!!

 

『グガァアアッ!!』

 

 しかしそんなオーガも脇腹への痛撃に顔をしかめ、次の瞬間には既に屈んでいた俺からのガゼルパンチが───!!

 

  ごちゃっ。

 

アオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

 顔面に当てるつもりだったのに、丁度いいところにあった黄金に炸裂した。

 お、おおおっ……! もっ……悶絶ーっ!!

 いやごめんマジごめん! ほんと顔面に当てるつもりだったんだよ!?

 むしろ幕ノ内コンボを決めたかっただけなのに!

 大体鬼だからってなんでそんなデカいの! 腹を殴られて体を折った相手にアッパーとかやって、次にデンプシー! とかやってみたかったのに!

 ていうか鬼の腰布越しにぐにょりとした感触を殴っちゃった俺の手とかどうしてくれんの!? この感触忘れられそうにないよ!? 嫌な方向での意味で!

 しかもそのオーガさん、ドシャアと膝をついたかと思いきや、泡を吐きながらも立ち上がったのだ。

 その表情は……さながら“ただではおかんッッ!!”と言っているかのよう。

 それは困るので、身体能力を強化しながら一気に彼の背後へと移動。

 SURIASHIを用いた移動は、同じSEKITORI以外ではなかなか肉眼で捉えることはできない。

 

『ゴ、ゴガッ!?』

 

 そして急に居なくなった俺に戸惑いつつ、キョロキョロと辺りを見渡すオーガさん。

 そんな彼の腰布を、一気に膝あたりまでズシャアと引き落とす。

 

『ゴギャア!?』

 

 もちろん驚愕。しかしそれでは済まないのが被害者流奥義己の黒歴史の為でなく(フォーサムワンズブラックヒストリー)である。

 

「南無」

 

 腰布を下ろしたその背後から、黄金へ向けて渾身のデコピン。

 ペヂィッ……と静かな音だけを残し、彼はドズゥンと重苦しい音を立てて倒れ、気絶した。

 

「……今思えば、郭海皇って残酷なことをしたよね……」

 

 筋肉が衰え、皮が下へ垂れ下がったお爺ちゃんの身一つで、大の大人を気絶させられるとは思えない。

 つまりサムワン海王は……地上最強の生物範馬勇次郎でさえ血を流す“消力(シャオリー)”の一撃にて、黄金をデコピンされたと……!

 あ、だめ、想像したらジュニアがヒュッてなった。

 ええはい、つまりフォーサムワンズブラックヒストリーは、ただのサムワン海王の黒歴史です。

 ふぅ、さて。

 

「あっちではミューズが……おー、やってるやってる」

 

 空を浮きながら、指からビームみたいな魔法を放ちまくってる。

 オーガさん、手が届かない場所から蜂の巣状態。

 ただし貫通するほどの威力ではないらしく、集中豪雨のような光線がビビスビスビスビビスビスとオーガを襲いまくっている。

 

『ゴギャー! ホギャー!』

 

 オーガさん、涙目になって棍棒振ってる。

 降りてこいコラこの野郎ォオオ!! とか言ってそう。でも無視して魔法の雨。

 シビレを切らしたのか棍棒を投げてみるんだが、空気の壁にドムンッと受け止められ、それが弾丸のような速度で跳ね返される。

 やがてそれは驚いていたオーガの黄金にドゴォと直撃し、ゴツくてイカツイ顔のオーガさんが、なにやらマツゲを長くしたようなサワヤカスマイルを浮かべたのち、そのままドチャリと倒れ、気絶した。

 見ている俺までもがマイサンを庇って前屈みになってしまうほどの、剛速の棍棒。

 恐らく彼の黄金こそただでは済まなかっただろう。

 

「フルグス。終わりました」

「おうさ、こっちも終わった。ここが一番奥っぽいし……もうオーガは居ないかな」

 

 一応、ゴブリンスレイヤー=サンの例のように、発見しづらい道がある……ということもない。

 ていうかミューズがマッピング魔法とサーチで調べたから、もう居ないっぽい。

 万能すぎです、このお嫁さん。

 

「……。オーガベビーが探知にひっかかりました。どうしますか?」

「む。依頼としては討伐しておくべきだけど───」

「……? ああ、なるほど。安心してくださいフルグス。そんなことであなたを嫌ったりなどしませんよ。種も違い、わかり合えず、出会えば武器を手に殺しにかかる相手です。無条件でそれならば躊躇はありません」

「そか、安心した」

 

 安心したのも束の間、大きな像の後ろに影になって隠れている道を発見。俺は早速オーガとはいえベビーを殺す覚悟を───なんて思った矢先、トヒョーと小さな火種が通路の奥へと放たれ、それが大爆発を起こした。

 

「ほぎゃああああああっ!? ななななにやってんのミュゥウウーズ!!」

「焼却です。姿を見れば、目を見れば、躊躇が生まれるかもしれません。……私も、両親とは死別した身ですから、予感があります。……躊躇したら、後悔すると思いました」

「………」

 

 どれだけ生きても、自分に影響を与えてくれる“周囲”がなければ、人はなかなか変われないという。

 俺もミューズも、そういった意味ではまだまだ子供なのかもしれないって……そう思った。

 たとえば前世も合わせればとっくにおっさん以上な年齢な自分でさえ、赤子として産まれ、子供として生き、少年時代から今までを成長してくれば、よくある精神だけ成熟しきった───なんてことになりそうだが、そうじゃなかった。

 赤子として生まれれば戸惑いはあって、子供として生きればその生き方に慣れ、少年時代を駆ければ心が少年時代に適応し、今ではちょっとだけ知識の深い年頃の男って程度だ。

 よくあるお話のように、心だけが老いているみたいな状況にはならなかった。そりゃそうだ、最初は周囲を可愛い子供たちを愛でるみたいに見れても、やがては前世の記憶こそが遺物のように感じられてくるものだ。

 何故って、前世では当たり前のようにあったものがここにはなく、ないものを基準に物事を考える習慣がどんどんと滅ぼされていくからだ。

 そして、結局は子供として生きていく。多少の達観した雰囲気はあろうが、前世で30以上を生きようが、人間なのだ。

 “現在の自分、子供の時分にやりたいこと”が自然と生まれ、それに没頭したくなるのが人間だろう。

 故に、前世がある自分も、1000年も生きた彼女も……結局はまだまだ、やりたいことに目を輝かせ、出来ればしたくもないことから目を逸らしてしまう子供なのだろう。

 

……。

 

「フルグスは……もし魔王と呼ばれる存在が討伐されて、魔物と戦う理由がなくなってしまったら、どう生きますか?」

 

 依頼達成報告の道すがら、ミューズがこちらも見ずに言ってくる。

 

「集落に帰るつもりはないかな。このまま旅を続けるか、その頃にはべつのやりたいことを見つけているかのどっちかだと思う。ミューズは?」

「特にやりたいこともありません。それに、夫婦とは寄り添うものとも聞いているので、フルグスに付き合います」

「そかそか。まあ、魔王のことは勇者がなんとかするだろ。俺達は、魔王にご執心の勇者じゃあてんでやれない、困った人たちの救済をするのだ」

「相手が出せる報酬で、こちらも潤う需要と供給……素晴らしいと思います」

「だよな。ていうか、魔王が討伐されたからって魔物が居なくなるとも限らないしなぁ。あ、そういえばだけどさ、お前の魔法、サーチって、探知に制限とかあったりする?」

「限定的に捉えれば捉えるほど、楽だったり苦労したりはある、と思います。魔力量に応じて、読める文字や頁に違いが出てくるそうです」

 

 それって検索ワードを絞ってくださいとかそんな感じ?

 グー○ル先生? グー○ル先生なの? ていうか君の場合、全部の文字や頁、見れるんじゃない?

 

「じゃあ“魔王”で探せる?」

「……、やってみましょう。“探知(サーチ)/魔王”」

 

 目を閉じ、唱えるやマナがパァッと散る。

 緑色の光の粒子が溢れるこの光景は、俺の好きなもののひとつでございます。

 魔法陣が出る~とかはなく、足元から円状で緑色の光が溢れる。みたいな感じ?

 

「───、え?」

「ミューズ?」

 

 珍しくも、ミューズは目を見開いて、戸惑いの表情を浮かべた。

 そして視線をうろちょろさせたあと……

 

「あの。……魔王、もうこの世界に居ない、そうです」

「───え?」

 

 そう、ぽそっと教えてくれた。

 え? もしかして既に幼馴染がやっちゃった!?

 ちょっと待て手ぇ速すぎだろ! どんだけ強行軍で突っ走ればこんな短期間で潰せるんだよ!

 俺達は動揺しつつ、魔王に関する様々なことを調べてみた。

 既に討伐済み、解決済みの事柄は世界の歴史に刻まれて、それを魔法で見ることも出来るんだとか。魔法すげぇ。

 なので魔王を倒したのは誰なのかと調べてみたところ、討伐されたのではないとのこと。

 じゃあ……? と原因を調べれば、

 

  間接的に魔王を無力化した者:ロージ・メィルヴァイツェン

 

 などということがわかったそうな。

 すげぇなメィルヴァイツェンって人。勇者でもないのに無力化させちゃったって。

 しかも魔王が既にこの世界に存在していないことから、無力化どころかなんらかの方法で魔王を封印かなんかしたってことだろ?

 はたまたフラムかヲルスムあたりが、俺の代わりに補充したのがそんな名前なのかも。

 

「“探知/ロージ・メィルヴァイツェン”」

「あ、それ俺も気になった」

 

 きっとパラディンや賢者にも負けない素敵なジョブなのだろう。

 もしや高名なる精霊術士───!?

 どちらにせよ、今頃様々な経験とともに魔王を仕留めた結果として、とんでもない経験値とレベルを手に入れていることだろう───!

 

  検索結果:ロージ・メィルヴァイツェン/ギルド食堂の店主(ジョブ:商人)

 

 え待ってなにそれ意味わかんない。

 え、え? えー? …………えぇーっ!?

 商人!? ギルド食堂!?

 それがなんだって魔王無力化に繋がったの!?

 

「……“調べる”(インヴェスティゲィト):ロージ・メィルヴァイツェン」

「踏み込むなぁ。俺も気になるけど」

 

 ◆ロージ・メィルヴァイツェン

 オロニロの冒険者ギルドのギルド食堂にて店主をしている商人。

 長い歴史の中で誰もが夢半ばで諦めた“商人Lv30”を達成。

 つい最近、○○無力化報酬にてレベルが99になった。

 スキルの制限が無くなったらしい。メニューが一気に増えたとかなんとか。

 様々な人々に愛される書物、『これさえあれば初心者卒業! 30Lvまでの道のり!』はオロニロでしか買えないが、伸び悩んでいた人々の救いとなった。

 彼に感謝と尊敬の念を持つ人は現在とても多いので、陰口等はやめておいたほうがいいだろう。

 なお、Lv.99になっても商人の実力は相変わらず。

 

 ……。

 

「オロニロって……」

 

 ここから結構近くである。

 むしろ“痩せさせてほしい”って依頼だしてたえーっと……なんつったっけあの猿顔の人。

 ヨモドベニアジジに雰囲気がよく似た人だったが……いやー、痩せたいとかそんな依頼をギルドで貼り出すなよとかツッコミもしたけど、なんとか出来てよかった。

 ともかく、その人の幼馴染がどうとかって町だったよな。

 勇者一行との旅じゃあ、なんというかへんぴな場所すぎて寄ることもなかった。

 しかしそんな場所に、魔王無力化ボーナスを世界の意思より頂いた猛者が居るという。

 ○○無力化って書いてあるのは、まあ他の冒険者や勇者の気力をそがないための措置なんだろう。バレバレな気もするが。

 まあそもそも、対人に調べるの魔法を使う無駄なヤツは、こうまで無駄に魔力を持っているミューズ以外は居ないと思うが。

 

「どうする?」

「行くかどうかは任せますが───えっと、ヌードゥル、というのを売りにだしているみたいです」

「ヌードゥル? はて」

 

 それってばヌードルのこと? こっちじゃ麺のことは全般的にパスタって呼んでいる筈だが。

 ……あ、あー、あーあーあーなるほど、そゆことー。

 転生話じゃよくあることだ、一人を見つけたら30人は居ると見ろって。

 でも正直転生物語に別の転生者って心が萎えるから、会わない方がいいだろう。

 気になりはするけど、気にしなければどうとでもなる。

 僕らは常に一人の転生者の物語を見届けたい。

 そこに現れた別の転生者の話は、また別のお話でいいのだ。

 

「あっはっはっはっは、でもこれでフラムの冒険は無駄になっちゃったなぁ。いやー残念残念。あんなに魔王を討伐する、なんて意気込んでたのに」

 

 むしろそれの所為で振り回されっぱなしだった自分の人生が悲しい。

 これからはアレだな、フラムに見つからないように行動して、どこかの町か村、もしくは山の奥でひっそりと生きよう。森の中でも全然オッケー、なにせおいどんエルフじゃけぇのぉ。

 

「フルグスは、まだ旅を続けますか?」

「んー……どうするか。無理矢理見ないフリをしちゃった町の依頼は全部受けた。思い残すことはほぼないんだけど……なんならいっそ別の町にも行ってみて、いろいろやってみるのもいいかも、とは思ってる」

「ん……ですね。ところで───」

「お? なになに?」

「最近、モンスターが強くなった、と……そう思いませんか?」

「強くなったっていうか、勢いづいてきた気がするな。人と見れば仲間を呼んで、まるであっちも討伐対象発見! て感じで襲い掛かってくる」

「………」

「………」

 

 で、ふと考える。

 急に司令塔というか、王が居なくなった兵や騎士はどうするものでしょう。

 パッと浮かんだのが、“次に信頼できる者に指揮を任せる”。そのために今までの方針がガラリと変わったのでは? なんて思ってしまうわけで。

 

「まあ、やることは変わらないか。行こう、ミューズ。冒険者は冒険者らしく冒険して、この世界を楽しもう。魔王がどうしたとか勇者がどうしたとか、俺達には関係ない」

「それはもちろんです」

 

 16の時、ジョブを決めた。

 幼馴染のあいつは強制で、俺はMURABITO。

 16になってジョブを決めないヤツはまず居ない世界で、俺はノービスを選んだ。つまり、16にもなってジョブ無しのフリースタイル。

 それを選べないわけではなく、ただそうすると、周囲からはいい目で見られないってだけ。

 なによりあいつが勇者なら、俺は村人。そうすることが、手っ取り早くあいつとおさらばするいい理由になると思ったからだ。

 おまけとして、ノービスだときちんと筋肉等が役立ちます。

 そりゃ、やっぱりスキルとしての効果のほうが強いは強いんだけどね、鍛えた体に向けて“それは無意味な努力だよ”と言われてはたまらない。

 なので無職。エルフ(無職)です。あ、でも実は富士山です! ある日いきなり富士山になりました!

 しょうがないさー! だってシューゾー・マツオカさんが今日からお前は富士山だって言うんだもの! そりゃあ富士山になるさー! なりまくる俺さー! 履歴書とかの自己紹介で富士山やってますとか書き殴る俺さー!

 で、通知が届いて不合格の方が逆に安心するのね。安定のクズですごめんなさい。

 まあこっちではきちんと冒険者やって働いてますんで! 400年は生きますよ! やりたかったことやってみよう! 失敗も思い出って歌でもあったし!

 

「ところでお嫁さんや?」

「なんですか、旦那様」

「子供は……何人作ろうか」

「……10?」

「ぬふぅ!」

 

 どことは申しませんが漲りました。

 

 

 

 

-_-/フラム・フレイム

 

 長い時間をかけて旅をして、ようやく……ようやく辿り着いた魔大陸。

 あまりの空気の違いにもどしてしまい、しばらく気絶してしまったけれど、今は賢者の結界魔法でなんとかなっている。

 ……ていうかこいつの名前、なんだったかしら。パラディンともども、ムカツくヤツってことだけは覚えてるんだけど。

 

「さ。さっさと行って魔王をブチのめすわよ。誰かさんが、だーれーかーさーんーがー、勝手に人の幼馴染を野に放っちゃった所為で、面倒な勇者の使命が面倒で苦痛でやってられないものになっちゃったんだから」

「は、はい、申し訳、ありません、でした……!」

 

 勇者って職業は正直地獄だ。

 産まれた時からそれに就くことが決定していて、日々、勝手に仕上がっていく体に追いつくように体を鍛えなきゃいけない。

 休めば激痛に襲われるし、強くならなきゃいけないからと遊んでいる暇もない。

 だから、それでも傍に居てくれるあいつが私には必要なのに、なんにも知らないで外面だけで判断してたこの自称パラディンが! 自称賢者が! 自称ソードマスターが! 人の大ッ切な要素を! 勝手にパーティーから追放しやがったのよ! しかも最初は死亡したとか言いやがるしブチ殺してやりたくなったわ!

 相応しくないから!? 相応しくないのはどっちだこの頭でっかちども!

 守ることしか、魔法撃つことしか、剣を振るうことしか脳がないくせに! 体力使う場所だと真っ先に足手まといになるくせに! 流砂に飲まれて死に掛けたのを助けたのは誰だと思ってんだこの頭でっかちども!

 

「はぁ……」

 

 フルのやつ、今は城かな。それとも……森に帰ったかな。

 城じゃきっと顔を見せるのも恥ずかしいに違いない。

 役立たずだから追放された、なんて……言いたくもないはずだ。

 ほんっとにこの頭でっかちの所為で……!

 これでフルがあたしにまで遠慮したらもうほんと引き千切る。何処とは言わないけど引き千切る。

 

「とにかく魔王よ。魔王さえ倒せば誰もが納得するでしょう?」

「し、しかし姫さ……勇者様。恐らく敵には魔王側近の“素晴らしい7人”も居るかと……!」

「そう。じゃ、そっち任せたわ。あたしは魔王殺るから」

「「「エッ!?」」」

 

 手に持った大剣を振り上げる。

 職業:勇者が30レベルになることで天より授けられる宝剣ヴィクトリノスアミナイ、略称アミナ。

 一振りで十以上もの役割を果たしてくれる万能の剣だ。

 フルなんかは初めて見た時、“ビクトリノックス社製のアーミーナイフじゃねぇか!”なんて、えーと……ツッコミ? を入れてた。

 たまにおかしなこと言うのよね、あいつ。

 

「いやいやいやいや勇者様!? わわわわわ我々だけで!? 素晴らしい7人を!?」

「なによ。勝手に相応しいかを決めて、許可もなく仲間を除名できるほど偉いんでしょ? あのね、あたし最初に言ったわよね。あんたこそいらないって。それがなに? 勝手についてきて我が儘放題して、さっさと魔王をさっさと魔王をって手柄のことしか考えない」

「ぐっ……! し、しかし」

「今ここで役に立たないなら、あんたら結局なんのためについてきたのって話じゃない。で? ()るの? 戦らないの? あたしね、倒す相手を選り好みして時間を食い潰す足手まといなんて、本気の本気で要らないんだけど?」

「なっ……!? ならば言わせてもらいますが! あの村人エルフのガキならば役に立ったとでもいうのですか! あんな、ジョブも決められないガキが!!」

「え? 立ったけど……なに?」

「えっ?」

「え? ……なによ」

「はっ、ご冗談を。あんなジョブも持たない、魔法の才もないエルフがなんの役に立つと」

「ん、そうね。とりあえず寝てるところを邪魔したいつか、全力のあたしがボッコボコにされて泣かされたわ」

「「「───」」」

「寝惚けた状態でアレなんだもの、あいつ絶対強いわよ。ていうか能力隠してる。今頃“わーい僕自由だー!”とか叫んで、好き勝手やってるんじゃない?」

「ご、ご冗談を」

「なんであたしがあんたに冗談なんて言わなきゃなんないのよ、時間の無駄じゃない面倒くさい」

「ぐっ……!」

 

 あたしはあんたとの会話なんて一言程度で終わらせたいのよこの野郎。

 で、えーと、たしかー……ああ。パラディンのヲルスムと賢者のデカルド、ソードマスターのヤマモトが顔を見合わせて溜め息を吐く。

 いやもういいから、戦う気ないなら失せてほしい。邪魔だ。結界魔法だって実は必要ないこともわかったし、勇者スキルでなんとか出来るからほんと要らない。

 二人きりだったら存分にあいつの本気とか見れたかもしれないのに、ほんとばか、このばかども。

 そうこう悩んでいる内に、敵さんの群れがこちらへ向けて走ってくる。

 魔王だとか素晴らしい7人だとかではなく、たぶんあれだけ居ても偵察や斥候ってところだろう。

 

「ほら、敵さん来たわよ。さっさと構えて」

「し、しかし勇者様! 我々のみが素晴らしい7人となどと、いくらなんでも……! こ、ここはまず力の分散を───」

「好きにしなさいってば。別についてこなくていいから。名声欲しいんでしょ? だったら勇者の力なんてアテにしないで自分で頑張んなさい。あたし知らないから」

 

 言って、背に大剣の腹を乗せるようにして前傾になり、足を弾かせて一気に疾駆した。

 さぁていくよアミナ! まずは剣閃! 波動剣!!

 

「ぜいやぁっ!!」

 

 アミナの機能のうちの一つ、剣閃を飛ばせる波動剣へとモードチェンジする。

 フルは十徳ナイフがどうとかよくわかんないこと言ってたけど、ようするにこの武器には様々な能力を宿す刃が隠されている。

 用途に応じて振るえば、様々な戦況を覆せるといわれる宝剣だ。

 

「コウモリ型モンスターには音波攻撃、っと! ハウリングソード!!」

 

 必要な機能を思い浮かべて引き金を引けば撃鉄が落ち、刀身が回転して刃が飛び出る。

 次の刃は超音波や一定の音波を放つ音波剣。

 突っ込んできたコウモリ型モンスターが目を回して落下するのを見届けると、

 

「地中走行型には振動剣! ───よしっ! 大漁!!」

 

 地面に突き立てたアミナから振動波が放たれ、地中から魚のような魔物が飛び出てくる。

 

「さあ! 臆さぬならばかかってきなさい!? このオルド・フォン・フレイム帝国皇女、フラム・フレイムは強いわよ!!」

 

 地面を踏み締め、蹴り弾き、さらにさらにと進んだ。

 バラバラにされたいヤツからかかってきなさい!!

 枷が無くなれば強いわよ! このフラム・フレイムは!!

 

 

 

-_-/オーマ・グランマック(ヴェイクォンレトゥス・マクドゥナル・ド・ラ・グランマック)

 

 今日も今日とてメィルヴァイツェンの手伝いをし、その合間に文字の勉強。

 ぬぅ、人間の文字はややこしいな……これでどうして“ハ”と読めるのだ。

 だがこれを読めるようになれば、私もレベル30を目指して頑張れるということ……!

 

「ってなわけでなー? 昼飯なにがいい? って訊いたらあいつが“どんぶりものがいい”っていうからさー! セトモノ? っつったっけ? どんぶり買っていったら怒っちまってさー!」

「そりゃ怒るだろ! 安くねぇだろあれ!」

「どんぶりものと言やぁギュードンもいいよな!」

「チーズギュードンツユダクギョクツキって注文するんだっけか? なんの魔法だよ。俺ゃやっぱりカイセンドンだな」

「メシっていったらチャーハンだろ」

「いやいやオムライスだな。チキンライスとチャーハンとピラフとで中身を選べるアレがいい」

「カルビドンもいいよなぁ、あのタレと肉汁がさぁ」

「メシっていやぁ……ライスだけ頼んで、ソースかけて食ってるあのー……」

「カイエンさんか。あの食べ方は独特だが、実際美味いんだよなぁ」

「前にベイクドアイボールで、ショーユかソースかでラモスさんと言い争ってたな」

「ベイクド? ……ああ、メダマヤキか。いやいやあれはシオだろ。メダマヤキにはシオだ。これは譲れんな」

「いいやシオコショーだな。これで決まりだ」

「な~に言ってんだ、ケチャップに決まってるだろ」

「わかってねぇなぁ……ハンバーグ定食についてくるデミソースっつったか? あれにトロトロの黄身を混ぜて食うのが正しい食い方だ」

「アホウ! 単品の話をしてんだよこっちは!」

「じゃあ単品デミソースでも構わねぇだろうが!」

「いいや、ダシイリメンツユというのも捨て難い。あれはいいもんだ。ナットゥーにもあれがいい。ショーユだとどうにも味が濃すぎてなぁ」

「なに言ってんだ、ヌードゥルだとショーユが一番だとか言ってるくせに」

「ヌードゥルはヌードゥルで別だろが!」

「なにをぉ!?」

「なんだこの!」

「チッ……生麺タイプ……」

「このー……バロン焼き? ってのはなんだ?」

「ああほれ、ダンシャクのことをバロン、って言うらしいぞ? つまりダンシャク・カルトッフェルを焼くからバロン焼き」

「ほー、なるほどー」

 

 ……言っていることもいまいち理解できん。

 だが今は必死に学ぶことしかできん。

 しかし油断もできん。

 できんだらけでたまに泣きたくなるが、魔大陸の仲間たちが頑張っているのだ、私も頑張らねば……!

 

「オーマ? ……ああ、勉強してたのか。邪魔して悪い」

「い、いや、構わんぞメィルヴァイツェン。なにか用か?」

 

 この男がメィルヴァイツェン。

 魔大陸の生き物のほぼを調理してみせる、対魔族最終決戦兵器とも呼べる存在だ。

 以前なにやらごそごそとやっていたので、声をかけてみたら驚き、誰にも言わないならという条件でギルドカードを見せてもらったのだが……なんとこやつめ、99レベルという恐ろしい存在であった。

 ジョブは読めなんだが、こんな穏やかな顔をしておきながら相当な実力者だと理解した。

 KUINIGEとやらが現れた時も、指で弾き飛ばしただけのアルミ硬貨で地面を破壊していた。

 凄かったぞ、人に当てぬように地面にぶつかったアルミ硬貨が、輝きとともに巨大な爆発の半球を作り、KUINIGEを吹き飛ばしたのだ。

 その後のKUINIGEの土下座っぷりといったら……すまん、私でもあれはするかもしれん。

 メィルヴァイツェンの話では、アルミ硬貨、銅貨、銀貨、金貨、プラチナル硬貨、魔硬貨の順に、高価になればなるほど破壊力が変わってくるらしい。

 ……魔硬貨が99レベルの指で弾かれる日が来ないことを祈ろう。

 

「お前まだ昼メシ食べてなかったろ。なにかリクエストはあるか?」

「!」

 

 おお! もうそのような時間であったか!

 ここで働くようになってから、ここで頂く三食は私の楽しみといっていい……!

 住み込みでは無理だったが、以前メィルヴァイツェンが使っていたという安宿を紹介してもらい、そこで暮らしているわけだが……どうにも質素でいかん。

 まずいとは言わないが、美味いとも言いがたい。

 しかし最近になって、メィルヴァイツェンが10年以上も世話になったから、という理由で、そこの食事にここの料理を無料提供しているらしい。

 なのでボロ宿なのにそこで宿を取る者が結構居る。

 

「で、ではすまないが、ジゾーノカルボナーラを」

「またか? よっぽど気に入ったんだなぁ。いや、悪い意味で言ったんじゃなくてさ、嬉しいんだ。俺もあいつも、あそこのカルボナーラが一番好きだったから」

 

 いい笑顔とともに、メィルヴァイツェンがカルボナーラを用意してくれた。

 早速筆記用の道具を片付けると、自分用にと用意されたその机にジゾーノカルボナーラを置いて、いただくことにする。

 ああ、この匂いだ……! この匂いが私を虜にして、この場を混沌で支配する意欲を殺いでゆくのだ……!

 

「イタドゥキマスゥ」

 

 人間の食の儀式をし、早速いただく。

 フォークで絡め取った麺をおもむろに口に突っ込み、そのとろりとしたスッペと麺の程よい食感を味わい、次に歯応えを求めて肉厚でカリっと焼かれた肉を口に含む。

 ベーコンというらしいが、私の名前に似たところもあり、さすがの風格があるのだが……ううむ、このペッパーの刺激もたまらん。

 どうにもベーコンを口に含むと、このペッパーの刺激が欲しくなり、小さな黒い点を探してしまう。

 そして歯の先と先でぷちぷちと弄びつつ、その刺激とベーコンの重厚さを堪能する。

 さっさと嚥下して次を次をと急いてしまいそうになるのを必死で抑え、一口一口がクリーム状になるまで咀嚼を繰り返す。

 このギルド食堂のみの人間の食の神として称えられている、“ゴロゥ・イノガスィラ”とやらに感謝だ。

 食に対しての感謝がどれほど大事かを、その神は伝えているらしい。

 

「……うむ」

 

 私は魔王だし魔大陸の王だが、べつに神を嫌っているわけではないぞ?

 神と戦ったわけでもなければ、嫌がらせを受けたわけでもない。

 むしろ様々な恩恵を大地に与えてくれることに感謝しているくらいだ。

 とりわけ、このギルドの食の神はすごいな! メィルヴァイツェンが素晴らしい人だと褒め称えるだけはある!

 だが、食事好きなのにタバコ好きなのはいただけないかな、とはメィルヴァイツェンの言葉。

 タバコ……なにやら知らんが、舌を鈍らせてしまうらしい。それはなるほど、もったいない。

 そんなわけで、その不満はその神が苦手とする酒を飲むことで、お返しするのがサホーなのだとか。

 なるほどなるほど、ナマの味は他では出せんものなぁ。

 

「ふぅ……堪能した……!」

 

 食事が終われば、傍にコトリと出されるヴィンテージヴァインとやら。

 いただいてみれば、口の中にもったりと残っていた余韻が洗い流され、口の中がスッキリする。

 

「これは……っ……、……すごいな」

「一食一食が満足いくものだと、嬉しいもんだよな。っと、そろそろ忙しくなるから、呼んだら来てくれ」

「うむ、任された!」

 

 体が芯から喜んでいるのがわかる。

 こういったところは、魔王であった頃の名残か、はたまたジョブが変わっただけで、身の芯は魔族である証なのか。

 私の体は人化が定着しただけであり、芯の部分は魔族のままだ。

 だからこそ、人と魔族とでの違いや得られるものの差も感じられる。

 その上で、このギルド食堂ヌードゥルガイの味は素晴らしいものだと断言できる。

 

「おっと」

 

 さて、そろそろギルドがやかましくなってきた。

 そろそろ私も出るとするか───!

 

「待たせたな荒くれ者ども! さぁ注文するがいい!」

「俺ベーコンレタスバーガー!」

「俺このマックゥライ・ポテェィトってのとファントァグレープ!」

「こっちはグランマック頼まぁ!」

「この私に喧嘩を売るとはいい度胸だ表に出ろ貴様らぁあああああああっ!!」

「うおお!? いきなりどうした兄ちゃん!!」

 

 今日もギルド食堂は大賑わいである。

 




【おまけ】
 ───そんなこんなで。

「で。あたしはこれからフルを探しに行くから。あんたたちはレベルを上げるか城に戻って寝て待っていること」
「し、しかし皇女さ───」
「い・い・わ・ね……!?」
「しひぃごめんなさい!!」

 魔大陸の攻防……敗退。
 せっかくいいところまで行ったのに、この三馬鹿が助けてぇ~とか情けないこと言ってボッコボコにされていたのだ。
 こっちだって結構苦戦してたのに! 三人がかりで雑魚相手にボッコボコってなんなのよ!
 結局素晴らしい7人もあたしが戦うことになったし! 強いし! めっちゃ苦戦したし!

「はぁあ~……あのさ、あんたたちほんと何しに来たの?」
「そ、それは、人々のために魔王を───」
「はい嘘。人々のため? 綺麗ごとばっか言ってんじゃないわよ自分のためでしょ?」
「ぅ、ぐ……」
「あたしは勇者だからやってる。勇者だから。ほんとはやりたくもない魔王討伐なんてことを、やらされてる。正直ね、こんなのほったらかしにしてフルと遊んでたいわよ。皇女だからって遠慮してたあいつと、いつかの日みたいに。殴り合ったっていい。喧嘩するのだって構わない。嘘のない全力でぶつかってくれるあいつと、一緒に」
「は? …………あの。皇女様? もしやあなたは、あの村人エルフのことを───?」
「……あ? ギョクぶっ潰すわよクソパラディン」
「ごめんなさい!!」

 フルはあたしの仲間だ。好いているわけじゃない。それは絶対に絶対で、ただの友達でいたい相手だ。
 恋人、夫婦、なんてものになったらきっとつまらないし、そんなつもりも微塵もない。

「それにしても───」

 魔王軍、強かったなー……。
 これで終わらせられると思ったのに。
 こうして聖大陸に戻ってきた今、吉報を持って帰れなかったのは正直悔しい。
 でもわかったこともあるのだ、それでいい。
 え? わかったこと? ……こいつらが役立たずの臆病者どもだってことくらいですがなにか?

「じゃーね。あたしは適当に動くから、あんたらは自由にしなさい。それこそ、嘘の武勲でも語って父さまに褒めてもらえばいいんじゃない? ……フルを死んだことにしようとしたように……ね?」
「「「めめめめめ滅相もござません!!」」」

 いい気味だ。
 それじゃあまずは何処へ向かおうか。
 この北端の海岸から一番近い町っていったら───

「──────……ーーぉぉぉぉおりゃああああっ!!」
「え? なに」

 どっかーん。
 声が聞こえて、振り向いた先に、魔物が降ってきた。
 振り向いた先っていうか、目と鼻の先っていうか……鼻、かすった。

「いやーぁああ久々に梃子摺ったー!! けど依頼達成! ブルドレイク・ベヘモト、討伐完了だー!!」

 汗をだらだら流していると、耳に届く懐かしい声。
 ひょい、と巨体を見上げてみれば……いや、ここじゃ見えない。
 後ろに下がりながら見上げてみれば、両手を天に突き上げ、妙なポーズを取る……幼馴染が居た。
 ていうか───え? ブルドレイク・ベヘモト? “魔王のペット”って噂されるほどのバケモノじゃない! え!? 倒した!? あいつが!? どんな武器で!? ……武器何処!? え!? 素手!?
 えちょ待って!? ベヘモト族なんて、宝剣持ったあたしでも“梃子摺った~♪”で済ませられる相手じゃないんだけど!? それをブルドレイク!? 特別個体禁戦モンスターじゃないの!
 戦っても無駄だから逃げなさいって、そうやって区別されてる…………

「ミューズー! そっちはどうだー!?」
「問題ありません」

 ミューズ? 誰どっかーん!!

「……!!」

 振り向いた目の前に、また巨大ななにか。
 見上げてみると、なんか塔があった。
 ………………離れてみたら、ゴーレムだった。

「よっし、エンシェントゴーレムも討伐完了、と。こっちの町は高レベルの依頼が多いなぁ」
「ん。たぶん魔大陸が近いから、手ごわい魔物が多いんだと思います」
「あ、そっか。じゃあさっさとここから離れよう」
「? 何故?」
「勇者の邪魔しちゃ悪いだろ。きっと今頃頑張ってる」

 ……! そ、そう、そうよ! 頑張ってるわよ!
 ていうかそんだけ強いなら先に言───

「フルグスは勇者の手助けをしたいとは思わなかった?」
「思わん。だってあいつら俺の話全然聞かんのだもん。魔王討伐? そりゃ大事だよ? でもさ、目の前で困ってる人を無視してまで急ぐことかね。俺はね、ミューズ。ずぅっとこの世界を冒険しながら、困っている人を助けたいなにかになりたかった。勇者だから魔王を討伐~なんて当たり前のことじゃない。パラディンだから、賢者だから、ソードマスターだから魔物を倒すんじゃない。俺はジョブなんてもんにつかなくても得られる、冒険者としての宝ってのがずぅっと欲しかった」
「そう。それは……得られた?」
「今実感してる。いやー、あそこでヲルスムが俺を除名してくれてよかったー! あんなクソッタレパーティーなんて居るだけ無駄無駄! 町に着く度、困ってる人を見つける度、俺は助けてやろうって言うんだぜ? なのにあいつらときたらさぁ!」

 ……。違う。あたしは助けたかった。
 違うんだ、聞いてほしい。あたしは───

「……俺はね、ミューズ。たとえ賢者どもが魔王を討伐するのが先決ですとどれだけ言おうが、勇者として動いていようが、幼馴染のあいつなら、きっとそう言って立ち上がってくれるって思った。勝手な押し付けだろうが、きっとって」
「───!」
「でもダメだったよ。あいつは辛いことから目を逸らすみたいに俺に声をかけてきた。無理して声上げてさ。……泣きたくなった。勇者ってジョブがクソみたいなものに思えた。だからな、思ったんだ。俺とあいつは一緒に居ないほうがいいんだって。お互い、成長しなくちゃいけないんだって」
「………」

 違う。違う、違う違う───!
 あたしたちは友達だ、親友だ! 一緒に居たほうがいいんだ!
 待ってくれ、あたしはただ───!!

「いやぁでもおかしかったわー。あいつらレベルの上げ方とか全然知らんのなー。強い敵さえ倒せば上がると思ってるから連戦に次ぐ連戦。そんな中でも俺は冷静に自分の糧になる立ち回りを───お、お? 殺気? なに───ゲェーーーッ!?」
「…………」

 目が合った。
 おのれエルフこの野郎。
 おのれ幼馴染この野郎。

「ヤ、ヤア勇者サマ、ゴキゲンウルワシュー・フィッツジェラルドコバヤシ」
「誰よそれ!」
「おや知らない。おっほっほ、知らない」

 たまにするあのわかってねぇなこいつって顔、ほんとむかつく!
 ていうかなんなのよこの状況! しかもこいつやっぱり実力隠してたし!
 呆然としてた分、いまさらになっていろんな感情が湧きあがってきた!

「皆様これから魔大陸? 頑張ってネ!」
「なに言ってんの! もう行ってきたのよ!」
「マジで!? もう行ってきたの!? で、で!? もう魔王倒したの!? ねぇねぇ! ねぇったら!」
「くっは……! ねぇちょっとあんた! フル! あんたあたしたちが負けて帰ってきたの、わかってて言ってるでしょう!」
「……え? 負けたの? 魔王が居なかったから帰ってきたとかじゃなくて?」
「え?」
「え?」

 魔王が居ない? なによそれ。
 ていうかなんでそんなことを、魔大陸に行ってもいないこいつが言えるの?
 ───!? もしかして、こっちに魔王が攻め込んできた───!?

「あ、賢者さま賢者さまっ! ねーねー賢者様ぁ~ん!」
「へぁっ!? な、なんだ!? 私になんの───」
「探知と調べる、使える? 使えるなら魔王のこと調べてみるとブフゥ!! ~……しっ……しらべっへ……! 調べてみるホ……ウィ、ぃいよホッ……! ブホォーッホホホだめだ我慢出来ねぇ! ごごっごごめんよバカにするつもりは本当にないんだけどゴボハァーッハハハハハハ!! あんっ……あんだけ相応しくないとか魔王討伐が先決だとか言ってたのにっ……! なんかもうオットコマエの顔して“やれるだけのことはやった……!”みたいな眼で遠く見つめてブボホォ!! おぼほははははははは!! あはぁーははははははげぇっほごほげほ!!」
「え……な、なに……!? ねぇ! ちょっと! フル!? 魔王のことを探知とか調べるとか、どういうこと!? 笑ってないで教え───……え? ちょっと待って? 調べるって……“終わった事柄”しか調べられないはず……え?」
「じゃあ俺達依頼があるから! 長寿と繁栄を!」
「長寿と繁栄を! ───って、ちょっと! 待ちなさいってば! 待ち速ァアアーッ!?」

 フルが、片手でベヘモトを持ち上げ、走っていってしまった。
 その横をゴーレムを手に提げたエルフが飛んでいく。
 え待って? あたし何に驚けばいいの? 速さ? 力? 怒り? 憎しみ? 悲しみ? 喜怒哀楽? 小麦粉かなにか?
 いや、悩む暇があるなら行動だ!

「そこの三人!」
「「「ハッ!? はい皇女様!」」」
「あたし! 魔王討伐もうやめる!」
「「「はい! …………はいィ!?」」」
「勇者だからとかどうでもいいわ! それよりあたし、この世界を見て回りたい!」
「いぃいいいいやいやいやいやお待ちください皇女様! なだっ……なにをっ……! だって……! あなたは勇者で! 皇女で!」
「じゃあ家出するわ。ジョブも変える」
「「「正気ですか皇女様!?」」」
「うるっさいわね話が長いのよ! なんであんたらいちいち否定論から入るのようざったい! とにかく行くから! 倒したいならあんたらだけでやってなさい! よかったわね手柄全部独り占めよそれじゃーね!」

 言い捨てて、地面を蹴り弾いた。
 強かった……強かった! あいつやっぱり強かった!
 なによ! それなら最初っからそう言いなさいよ! これなら……あんたとなら、この世界をじっくり楽しめるじゃない!
 魔王が何をしているのかも知らないまま倒すなんてことをする必要も、困っている人を前にして、魔王討伐が先だからって目を逸らす必要もない!
 あたしは───!

「民のお金で貴族やるアホよりも……! ずっとずっと! 働いて笑いながらごはんを食べる───そんな村人になりたかったんだぁあああああああーっ!!」

 走った。跳んだ。全速力で。
 仲間っていう名前の監視に気を使うこともなく。
 景色が一気に流れる中、あたしは昔、視察のために行くことになった景色のいい村のことを思い出していた。
 小麦が特産品のとても穏やかな気持ちになれる村のこと。
 なんにもないような村だったけど、仕事をしている人は楽しそうで……ご飯を食べる人たちが眩しい笑顔だったのを覚えている。
 パパには内緒だけど、難しい話をパパと村長さんがしている時に、村のお兄ちゃんと話したことがある。
 お仕事楽しいですか、なんて……そんなことを言った記憶がある。
 その人は笑って、「仕事っていうかな、当たり前のことをしているだけなんだ」って言った。
 食べてるものをあたしにくれて、それが美味しくて、けどその人は「内緒な」なんて言って。
 どうしてかなって思ったけど、そんな誰かとの内緒っていうのがとてもワクワクしたのを覚えてる。
 ジョブを決めたばかりで、商人になるんだ、って。
 30レベルになって、お国に金を払わん独立商人を目指すんだって。
 そんなの無理だよって言ったら、「無理なら諦めるのか? そりゃもったいないだろ。な、嬢ちゃん。お前はもし、自分の住んでる場所が滅びるって聞かされたら、どうする?」なんて、ひっどいことを子供に向けて言ってきた。今でも信じられない。   
 でも……その答えはいつだってあたしの支えだ。

   あたしがまもる! だってあたし、ゆうしゃだから!

 その人は笑った。勇者だからって言葉じゃなくて、あたしが守るっていう言葉を拾って。
 「……ああ。俺も同じだ。この村な、小麦しか支えがないんだ。出て行ったやつらももう何年も戻ってない。このままじゃ、廃村になるかもしれない。だからな、無理なら諦める、じゃないんだよ。……絶対になる。ごめんな、お国に金を払ってたんじゃ、この村は救えないんだ」
 言われたのはそんなこと。そして……次に。あたしの頭を撫でて。
 「がんばれ。勇者だから、なんて理由じゃない。お前が立ち上がる理由はお前が決めていいんだ。決められた理由にムキになって人生を潰す必要もない。周囲の理由をお前だけが背負う理由もない。……なんだったら、勇者なんてやめて商人やってみるか? 村人やってみるか? 楽しいぞぉきっと。そんでな? 金稼いで、疲れて疲れて……でもって、うンまいメシ食って、みんなで肩組んで笑うんだっ! 勇者にこんなこと出来るかぁっ!? できないだろっ!! 勇者様には仲間は居ても友達は居ないっ! だからなっ! 嬢ちゃん! 友達は死んでも大事にしろ! 好きなヤツが出来たらありったけをぶつけろっ! いいかっ!? お前はお前だから好きに生きていいんだ! 勇者だから魔王を倒さなきゃいけないなんて誰かが言うなら───」

  そんな職業、捨てちまえ───!

「~……あはっ、あははっ! あははははは!! うんっ! そうだっ! そうだよね、ロージお兄ちゃん!!」

 楽しいはいつだってそこに。
 あたしは親友を大事にしたい。したかった。周囲がそれを邪魔した。
 あたしは魔王を倒したかったわけじゃない。ただ自由な時間が早くほしかった。周囲がそれを邪魔した。
 だったらもう……!

「早く言えばよかったんだ……言っちゃえばよかった! あたし……もっとこの世界を知りたい! 遊びたい! 笑いたい……! 働いて、疲れて、疲れ果てて……それでも美味しいご飯を食べて、飲んで……! いぃいい~……っぱいっ! 笑いたい!!」

 そのためにもまず謝ろう。謝って、謝って……許してもらえたら、また最初から冒険しよう。
 魔王の断末魔なんかより、誰かの喜びの声が聞きたいんだ。
 血の匂いと虚しさなんかより、賑わいを見せる酒場の喧噪が聞きたいんだ───!!

「勇者だからなんだっ……!! 魔王なんかっ……知ったことかぁあああーっ!!」

 ───その日。
 あたしは最寄の町アルガンテでフルを捕まえた。
 今までのことを謝って、やりたいことを真正面から全部ぶちまけたら、きょとんとした顔をしたあとに思い切り笑われた。笑われて笑われて……そのあと、涙目の彼に握手を求められて、握手して……仲直り。
 なんかエルフの女の子と結婚していることも知らされると、おったまげたけど素直に祝福。
 かわいくておっぱいおっきい! やるじゃないフルったら!
 え? あたし? いやいやいや、フルとはただじゃない友達なだけだから。親友のつもりだから。
 好きな人? 居るわよ? ロージお兄ちゃん。今何処に居るかは知らないけど、絶対に……え? えちょ何? なんでそんな溜め息……え? 魔王? 無力化? ───エ?
 えええええええええええっ!?

 ───勇者をやめようとしたその日。
 あたしの憧れの人が魔王を無力化したことを知って惚れ直して、会いに行こうって言ったら嫌がられて、引きずっていったらお兄ちゃんはしっかりとあたしのことを覚えてくれていて、ドキドキな胸を抑えもせずに告白しようとしたら既婚者で、愛人まで居ることを知って、絶望しかけて───むしろ絶望して、勇者やめてただの村人になりました。もうやだ。
 けれどなんの未練なのかギルド食堂で働くことになり───や、だって、愛人っていってもその人が無理矢理夜這いしたとか、奥さんがその手引きをしたとか、ロージお兄ちゃん悪くないじゃない!
 なんて事実を知って、お兄ちゃんを心配する中……そこで、働き者のオーマって人と出会った。
 最初は不器用な人だって印象で、知っていく内に努力する人なんだなってことを知って、話している内に段々と打ち解けて───あたしは。

「ん……あ、ねぇ。その本の───レベルに関することなんだけど」
「……む?」

 ……これは、元勇者と元魔王が、とある食堂で無力なままに出会い───努力の果てに、やがて唯一無二の親友となる……そんな、小さいけれどとてもとても大きな物語。



 ……なお。
 文字が読めないオーマに代わり、文字を読みつつ努力を重ね、二人で頑張って村人職のまま30レベルに到達した結果。二人は村人スキル:【長寿と繁栄】(まあ、いっぱいおるし)(効果範囲を指定、その場に長寿と繁栄を齎す)を手に入れて、まずはギルド内食道の長寿と繁栄を願ったとかなんとか。
 熟練度が上がるにつれ、効果範囲を広げるか、範囲は狭いままに効果を強くするかを指定できるようになると、二人は範囲を……広げることなく食道の強化に勤しんだ。
 ……結果としてギルド内食道でメシを喰らう者達はより頑強になり長寿となり、なんか出会いや子宝にも恵まれて、レベル30をボロボロ排出しつつも新しい命を育む場として、ある意味有名になったとかなんとか。

 ……お陰で「あそこは我らで言うところの魔王城のようなものだ」と魔物たちに囁かれるようになったとか。その所為で魔物の襲撃は後を絶たないらしい。




◆後書き

 今日からお前は……フッジサンだ!
 山ごっこしよーぜー! お前富士山な! ……動けない上に、足元で自殺者が多数とか夢の無いことを考えちゃいけない。 

 自分の昔の小説とか見てると、今の自分の書き方がドス黒く腐ってるなぁとか思うこと……ありませんか?
 とりあえず自分は某tube等の漫画動画を見るようになってから、裏切りだのNTRだの不倫だのに心を砕かれた気がしてならぬ。

 友情とか真っ直ぐな愛が好きだったあの頃に帰りたい……!

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