死にたかった女の子がルビーに憑依してしまう話。



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生まれてしまった。

 

『あぁ~良いなぁ。私も転生した~い』

 

――小春、今日は何を読んでるの?

 

『お姉ちゃん、見て!この漫画めちゃくちゃ面白いの!』

 

――ふーん……推しの子……? 何それ、どういう話? アイドルもの?

 

『アイドルものとはちょっと違うかな。ゴロー先生っていうお医者さんとその患者のさりなちゃんが死んで、推しのアイドルの生んだ子供に転生して芸能界でサスペンスする話』

 

――な、なんか複雑だね。

 

『そうでもないよ。さりなちゃんとゴロー先生がいつ前世バレするか楽しみで楽しみで……』

 

――どういうところが面白いの?

 

『うーん……いや、ネタバレなしで伝えるの難しすぎるな~。とにかく絶対読んでみて!今度お見舞いに来てくれた時に語り合おう?』

 

――はいはい。もう少し仕事が落ち着いたら読んでおくから。

 

『ほんと?絶対だよ!』

 

――ほんとほんと。それじゃお姉ちゃんそろそろ行くから、先生の言うことちゃんと聞くのよ?

 

『はーい』

 

 

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白い息が出るような寒空の下、ふと懐かしいことを思い出した。

それは病気だった妹にまだ軽口を叩けるぐらいの元気を残していたころの話だ。

 

ベッドの上からほとんど動くことのできない生活を送っていた妹はスマホで読める漫画にハマり、たびたび私に勧めてきてはお見舞いの際に感想会をするのが習慣になっていたのだが、ある時から読み始めた『推しの子』に関しては久しぶりにドハマリしていたらしい。

これまでにないぐらいの物凄い熱量をもってお勧めされただけに、次のお見舞いのタイミングまでに少しでも話を読み進めようと仕事の合間などに読み進めたものだ。

 

今にして思えば、どうしてあそこまでハマっていたのかがよくわかる。

病気を患いベッドから動くことのできない自分と、作中に出てくる病気の女の子のルビーと自分を重ねていたのだろう。

 

作中のヒロインの一人である星野ルビーは前世に病気で亡くなり、そして転生した。

それから辛く苦しい事がありながらも、その母親譲りのキラキラとした瞳を輝かせながら自分の夢を叶えて始めて行った。

もちろん面白い部分はそれが全てではないだろうし、主人公はどちらかというとアクアの方なのだが、ルビー推しでかつカプ厨の妹は転生したゴロー先生であるアクアと転生したさりなちゃんであるルビーが本当の意味で再会を果たす瞬間を今か今かと楽しみにしていた。

 

だからこそ『私もこんな恋をしたいな~』ならぬ、『私もこんな転生したいな~』とまれに口にしていたのは、ちょっと笑えない冗談ではあったが。

 

そして私にとっても、ルビーというキャラクターは前世で病気になっても諦めず、天真爛漫な性格がとても愛しく大好きになった。

だからこそ最近になってようやくルビーとアクアが前世バレをし、かつての心の支えとの再会に涙するルビーの姿を見て、私もつい涙を零してしまった。

 

それなのに。

 

 

――妹は1年前に亡くなってしまった。

 

 

病状はガン。

若い人のガンは転移が早いというが、発見したころにはかなりステージが進行していたみたいだった。

 

その後懸命な闘病生活を送っていたのだが……現実は無情だった。

 

 

「あーあ。せっかく今いい所なのにな……」

 

 

今妹が生きていたら、どんな感想が聞けただろうか。

きっと夜も眠れないぐらい興奮して語り明かして、ネットの感想を読みながら次回の更新を楽しみにしていたかもしれない。

今になってはもう、あり得ない話だけれど。

 

 

 

ひゅう、と冷たい風が吹く。

冷たくなった手足がさらに冷やされるようで、手すりを握る手がぶるりと震える。

 

目の前にはきらきらとした夜景が広がり、月が覗かないほど分厚い雲が覆っているのにまるで星空の海のように美しく輝いている。

 

それはまるで私を祝福しているようで、今ならばどんな奇跡だって起きるような気がした。

 

私は手すりから手をはなし、両掌を重ねて星々の神へと祈る。

 

「神様、どうか……どうか私を妹に合わせてください。 生まれ変わって、またあの子のお姉ちゃんにさせてください」

 

なんて。

神様が答えてくれる訳もなく、バカみたいな願いを口にしてしまったことが少しだけ恥ずかしい。

それならば。

 

「――ならどうか、私を楽にしてください。 私を助けてください」

 

その直後。

星々の神が返事をするかのように再び強い風が吹き、私はぐらりと体を揺らして宙へと()()()()()

 

視界を照らす輝きがぐんぐんと大きくなる。

 

「神様、ありがとうございます…」

 

眠れないほどに締め付けられるような胸の痛みはいつの間にかなくなり、今は凪のように穏やかだ。

 

ああ、今この瞬間だけは――否、今この瞬間から私は全ての苦しみから解放されるのだ。

何年も二人だけで寄り添って生きてきた妹を失った時の絶望。

心の支えを失った耐え難い虚無感。

それら全て、もうちっとも怖くはない。

にこりと微笑み、目を閉じる。

 

 

私は硬く、冷たい星の海に叩きつけられた。

 

 

 

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――これで私の人生は終わり。

 

死んだらどうなるんだろう、というのはずっと疑問だったけれど、狭くて息苦しくてあまり心地のいい場所ではないようだった。

自分の手で命を捨てたのだから天国へは行けないだろうとは思っていたものの、ここは地獄というわけでもないらしい。

もぞもぞと隣で何かが動いた。

 

誰かが隣にいる?

 

そんなことを考えながら手を伸ばして触れてみようとすると、隣の何者かは何処かへ這って出ていくらしい。

私もそれに倣ってついて行くことにした。すると。

 

「「オギャア!!オギャア!!」」

 

騒がしい声が重なる。そしてその片割れが自分から発せられていたことが分かった。

一体これは何が起こっているのか。ここは死後の世界ではないのか?

混乱する思考のまま、しかしふと思い浮かぶ、ある可能性。

 

まさか、まさかそんな。

 

近くで鳴り響いている筈の赤ちゃんの泣き声がまるで遠くの事のような錯覚。

心臓が早鐘を打ち、全身がどろどろと溶け出すような恐怖。

照らされた光が眩しいが、確かめなくちゃいけない。

ゆっくりと瞼を開く。そして―――

 

「ああ、私の赤ちゃんたち」

 

吸い込まれるような、潤んだ星の瞳。

嬉しそうに、慈しむように微笑んだその表情に。

 

私は絶望した。




ルビーちゃんに憑依・転生する話が欲しかったので自己供給。(たぶん続きません)

この後死にたかったお姉ちゃんは生きたかったさりなちゃんの命を間接的に奪ってしまったことに苛まされます。

かわいそう。。

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