ロスト   作:raidou

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迷走

時間は12時を少し過ぎていた

浅見の応援へ足を運んでいた

休日の昼間、特にやることも無く夜を待つだけだった私には丁度良かったのかもしれない

バレーボールのルールには詳しくは無いが応援に来る人間の大半は自分と似たようなものだと思う

 

「犬井君、来てくれたんだ」

 

廊下で浅見が話しかけてくる

既にユニフォームに着替えていた

試合の時間が近いらしい

 

「一応は」

「ありがと」

 

浅見の言葉は味気ないものだ

 

「緊張してますか」

「してるよ。最後の大会だもん。全力を出さなかったら後悔するよ」

 

少々力んだ様子だった

隠そうとしているのが伝わってくるようだ

私はこれ以上何も言うことは無いと判断した

部員が浅見を呼びに来るまでそう時間は掛からなかった

そろそろウォーミングアップを始めるようだ

 

「それじゃ、また」

「うんっ」

 

予備に来た部員と一緒に走り去る浅見を立ち止まって見送っていた

 

 

 

準決勝で、聖櫻バレー部は敗北した

客席で応援していた男子バレー部員の数人が涙を流していた

肩を落としながらバスへ戻る部員たちを横目に私は早々に会場を去ろうとした

 

「すいません、浅見先輩の友達ですよね」

 

バレー部員の一人に声を掛けられる

息を荒げている

何かあったのか

私は知り合いだ、と答える

友達とは言い辛い

 

「先輩見かけませんでしたか。いないんです」

 

私は探します、とだけ答えた

お願いします、と事務的な答えが返ってくる

 

直感的に、客席へ足を運んでいた

浅見は、いない

おそらく選手控え室にもいないだろう

 

外を探そうと、出口を探す

既に見つかっているかもしれない

向かっていた先は非常口だった

古びた自動販売機の前で、立ち止まる

小さな椅子に座ってうつむく浅見を見つけた

 

「部員の子が探してましたよ。そろそろ出発するんじゃないですか」

「ごめんね。応援にまで来てもらったのに」

 

掠れ声になる浅見の肩は小さく震えている

 

「全力は出せましたか」

 

私の問いに浅見は小さくだが、首を縦に振った

 

「もう少し、ここにいますか。僕はそろそろ帰りますけど」

「待って」

 

小さいながらも、力強い声

ここまで付き合う義理は無いはずだったが、私はその場から動くことができなかった

彼女が私の左袖を掴む

ぐっ、と引き寄せられる

抵抗しようと思えば、簡単なはずだ

 

「少しだけ、お願い」

 

搾り出すような小さな声に、頷くことしかできなかった

 

「ありがとう」

「いえ」

「応援してもらって、負けたらこうやって優しくしてくれて」

「別に恩着せがましくやってるわけじゃないですよ」

「下心があるわけじゃないのかぁ。ちょっと残念かな」

「がっかりさせたなら、すいません」

「ううん、気にしないで。冗談だから」

 

浅見が力なく笑う

冗談が言えるほどの状態にはなっているようだ

 

 

結局私たちはバレー部員が探しに来るまでその場を動くことは無かった

バスに向かって歩く

浅見の目が赤くなっていた

浅見は握った手を離そうとはしない

若干の手汗

あまり気にはならない

バスの近くまで寄ってようやく浅見は手を離した

 

「ごめんね、こんなところまで」

「気にしないでください」

 

浅見がバスに乗り込む

 

「彼氏さんは一緒に乗らなくていいんですか」

 

バレー部員の一人がからかうように声を上げた

 

「そういう事実はない」

「そうなんですか?」

 

慌てた様子で浅見がバスから降りてくる

 

「ご、ごめんね。犬井君。この子、ちょっと空気読めなくって」

「先輩、ひどくないですか。せっかく気を利かせたのに」

「そういう気の使い方はいいからっ」

「先輩、こういう時には他人の好意に甘えてくださいよー」

「違うでしょ、それは」

 

話が長くなりそうだ

 

「その話、長くなります?」

 

軽く口を挟んだ

浅見が後輩からの煽りを間に受けている

ようやくバスの中からコーチらしき女性が二人に声を掛けた

何やら話をしている

 

「じゃあまた。学校で」

「う、うん。またね」

 

さっきまで泣いていたとは思えないほどの苦笑を浅見は浮かべている

後輩も隣から私に向けて手を振る

私は軽く手を振って浅見たちに背を向けた

どうにも、私にとっては別の世界の話のようだった

溝があるような、そんな感じだ

そういうものだろう、と納得はした

 

 

女子バレー部の試合が終わって数日後、浅見が熱を出したと試合の後に浅見を冷やかしていた女子バレー部員に聞かされた

 

「よろしくお願いします」

 

薬局のロゴの入った袋を渡される

 

「は?」

「駄目ですか?」

「そこまで都合良く使われる気は無いんだけど」

「お願いします、先輩のためだと思って」

 

要はお見舞いに行け、ということだ

別段用は無い

私はそれ以上は何も言わず、袋を受け取った

 

「昼休みに学校抜けて買ってきたんです。失くさないでくださいね」

 

本当にどうでも良いことを付け足された

 

「あ、これ地図です」

 

小さな紙を渡される

手書きとは思えない詳しい地図だった

 

 

 

地図に従って道を歩く

青い屋根の2階建て

インターフォンを押す

少し遅れて声が聞こえた

浅見の声

 

「犬井です。パシリでお見舞いに来ました」

「えっ。嘘っ?犬井君?」

 

本来ならバレー部員か友人が見舞いに来るはずだったのだろう

浅見が来客の応対に出ているということは、今は家に浅見しかいないのかもしれない

ドアが開かれる

紅い縞模様のパジャマ姿の浅見がいた

顔色は悪くない

熱は下がったのだろう

 

「バレー部の子が来るって思ってたから、驚いちゃった」

「暇だったので」

「私も暇だったの。入って」

 

流されるまま家の中へ入る

リビングまで案内されると浅見はキッチンへ姿を消す

浅見以外に誰もいないのか、浅見の足音以外の物音がない

数分後に浅見が姿を現す

両手にティーカップを持っていた

 

「風邪なんて久しぶりだったよ」

「元気そうですね」

「朝病院行って薬もらってきたからね」

「これは無くても良かったのか」

 

袋の中のものを取り出す

中身を確認するのは初めてだ

風邪薬、解熱剤、コンドームが入っている

浅見の顔が引きつった

 

「何でこんなものが」

「ま、またあの子かなっ。今度きつく言っとくから」

 

浅見がコンドームの箱を奪い、握りつぶす

 

「捨てておくからね」

「親にばれない様にして下さいね」

「わ、わかってるよっ」

 

それからしばらく無言が続こうとしていた

浅見もそれを感じていたのかもしれない

やはり無言が場を支配する

時折目が合う

その度に浅見は俯いた

ティーカップの中身は減っていない

どこか気まずく、ティーカップに口をつけた

味は、苦い

時計は16時半を過ぎた

 

「そろそろ親御さんも帰ってくるでしょうし、僕は帰ります」

 

立ち上がった

 

「そ、そう?ごめんね、まさか犬井君にお見舞いに行かせるなんて思ってなくて」

「今日のことは他言無用でお願いします」

「うん。わかってる」

 

その日は早々に退散した

 

 

翌日の朝、校門で浅見と会ってしまった

 

「おはようございます。浅見先輩」

「おはよう、犬井君」

 

昨日見舞いに行ったときより顔色は良かった

 

「昨日は本当にごめんね。今日、きつく言っとくから」

「お願いします。相手が僕だったから何も無かったけど、他の男子ならどうなってたかわかりませんからね」

 

浅見が苦笑する

 

「おはようございまーす」

 

昨日の女子生徒が浅見の隣に並ぶ

 

「お二人とも、昨日はどうでしたか?うまくいきましたか?」

「何の話かな?」

「またまた浅見先輩ってば、とぼけちゃって。袋の中、見たでしょ?」

 

下世話な女だ

 

「ただのお見舞いにあんなものは必要ないと思って処分したけど」

「えぇ?嘘でしょ?先輩ならうまくやるって思ってたのに」

 

白々しいとはこのことだろう

 

「私は先輩のためを思ってー」

「正座して」

 

冷たく声が響く

 

「え?」

「冗談にも限度があるってこと、分かるよね?」

「は、はい」

 

急にしおらしくなった

女子生徒はゆっくりと地面に膝をつけて、正座する

コンクリートの上だ

痛いだろう

 

「自分が何をしたのか分かってるんだよね」

「は、はい」

 

説教が始まった

私は蚊帳の外に追いやられる

注目を浴びているのにも拘らず、二人は全く気にしている様子は無い

始業まで残り25分

説教は長くなりそうだ

 

「先輩が部活から引退したら、寂しいんですよぉ」

 

小さな声で女子生徒が呟いた

対し、浅見は冷ややかな目線を送っている

 

「それで、本音は?」

「部内で話のネタにはなるかなって」

「貴女って子はっ」

「それで、お二人は付き合ったりしないんですか」

 

反省は、感じられない

話に割って入り、無理矢理収集することもできるが、この女生徒の態度を見ていればその気も失せる

ようやく、風紀委員の腕章をつけた女生徒が走ってくるのが見えた




いつの間にか今年も残り1ヶ月ですね
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