ロスト   作:raidou

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『奴ら』はどこからかやってきた

人を喰い、生きていた

『私たち』は普通の人間より長く生きている

そして、人々を守るため戦いを続けている

 

それが、その人から聞いた話だった

その人は見た目は5、6歳くらいの少年だった

だが、生まれは1914年

死因は急性白血病だったと言う

当時の医学では手の打ちようが無いはずだ

一度手合わせしたが全くと言って良いほど歯が立たなかった

老いることの無い身体は長く生きれば生きるほど強くなった、と笑いながら言っていた

悲しげな笑みを見せた

全てを受け入れ、諦めたような笑みだ

 

 

翌日、空き教室へ私は八束と見吉に引き摺られた

あの化け物はなんだったのか

貴方は何者なのか

なぜ戦っていたのか

全てを問われる

 

「話せる限りでいいか。僕も全部知ってるわけじゃない」

「それでもいいから」

 

珍しく見吉が真剣な表情でこちらを見ている

私は知っている限りを話した

自分が何者であるか、どういう組織に属しているかは伏せてだ

始めは信じられないといった表情を見せていた二人だったが話すに連れて実感が沸いたのか、納得したという表情で聞いていた

一通り話し終えると、私はカロリーメイトの袋を開く

 

「だから、夜間の外出は控えて欲しい。知っている人間が死ぬのは気分が良いものじゃない」

「これは広めたほうがいいんじゃない?」

「だけど、無駄にみんなを混乱させるのは駄目だから難しいところね」

「広めたようとしたところで信じてもらえるかも怪しいからな」

 

私が助けられる範囲には限界がある

奴らが出てくるのは大体が夜間だ

夜に外へ出なければ、奴らに殺される可能性は減る

 

「せめて家族とか信じてくれそうな人間には話しておいたほうが良いわね」

「何かもどかしいなあ」

 

見吉が不満げに呟く

対して八束は冷静だった

授業が始まるまでの間、堂々巡りの話が行われていた

 

 

放課後、私は珍しく図書室で本を探していた

長らく本らしい本は読んでいない

ある作家の本を手に取った

昔詠んだことがあった小説

内容は深く覚えていないが文章の繊細さと強引さに魅了されてその作家の本を買い漁った

今はもう、全て失ってしまった

 

「その本、私も好きですよ」

 

淡い青色の三つ編みがふわりと揺れていた

図書委員だろう

見覚えがあった

 

「でも、その本の作家さんって亡くなっているんですよね。シリーズ物がまだ途中だったのに……」

「何年前ですか」

「確か、4年前だったと思います」

 

死なない身体というのは作品を作る側の人間に必要なはずだ

どういうわけか、必要の無い者にその身体は与えられてしまったらしい

世の中というのは奇妙にできている

 

「本、好きなんですね」

「人並みには」

「私、図書委員の村上文緒といいます。よろしくお願いします」

「犬井敬です」

 

差し出し出された手に一瞬戸惑い、こちらからも手を差し出した

握手を交わす

また一人、見知った人間が増えてしまった

 

「図書委員って夜まで作業してることありますよね」

「偶にですけど、ありますね」

「夜になる前に帰ってください。絶対に」

「えっと、それはどういう意味ですか」

 

村上は首を傾げ苦笑

奴らのことを話しても信じてもらえるだろうか

わからない

実際に目で見てもらえば理解されるだろうが、そんなリスクは冒せない

私自身も、他人のことは信用できない性格だった

 

「とりあえず、善処しますね」

 

こう答えてくれるのがせめてもの救いなのかもしれなかった

 

 

昼休み、私は教室で見吉と八束の話を聞いていた

 

「駄目だったね~。何か話してるうちに話が変な方向に飛んでいくんだもん」

「先生達にも言い出しにくいし、手の打ちようが無いわね」

 

二人がそろってため息を吐く

 

「携帯で動画撮ったらどうかな」

「作り物だって言われるのがオチだと思う」

 

見吉の提案に八束が即答する

埒が明かない会話に私は嫌気が差した

 

「二人が夜出歩いたりしなければいい。あとはどうにかする」

 

会話を打ち切るように吐き捨てた

カロリーメイトの袋を開く

最後の一個だった

少しの間の沈黙

最後のカロリーメイトを食べ終えた

 

「警察とか動いてくれないのかなぁ」

「むしろこの場合自衛隊じゃないかしら」

「普通の銃弾では倒せない奴もいるし、街中でバズーカとか戦車とか使ったら大変なことになる」

「銃を使って倒せないなら、なおさら一般人では太刀打ちできないわね」

「逃げるしかないよね」

 

結局、結論はそうなってしまう

予鈴が鳴った

 

「次は移動教室だよね。めんどくさ~い」

「ほら、見吉さん。しっかりしなさい」

 

見吉が机に突っ伏し駄々をこねる

八束が見吉の肩を揺さぶった

 

「まずは学業を全うしないとな」

 

渋々と見吉が机から教科書とノートを取り出す

私は手を差し出す

見吉が私の手を取り、立ち上がった

 

 

放課後、携帯には昨夜の報酬を振り込んだとメールが入っていた

7万

無いよりはマシと言う額だ

 

「何見てるの~っと」

 

突然見吉が私の携帯を奪い取る

一瞬驚いた表情を見せる

 

「どうしたの?」

 

見吉が八束に携帯の画面を見せる

八束の表情が引き攣る

 

「私なら1億円もらえたとしてもあんなのとは戦えないわ」

「右に同じ~」

 

私は見吉の手から携帯を奪い取る

 

「金のことはいいから、帰ったらどうだ」

「友達を待ってるの」

「僕は帰る。できるだけ寄り道はしないようにな」

「わかってるわ。自然な形で早く帰るように促すから心配しないで」

 

そのまま教室を去った

途中でピンクと青で半分分かれた髪の女子とすれ違う

友達とやらだろう

 

 

夜の8時を回ろうとしていた頃だった

寮を出て数分、携帯にメールが入った

奴が出現した

ポイントは通学路から外れた場所だった

3体

真っ白の球体に人間の口があり、そこから細長い蛇の舌の様な物が出ている

星櫻学園の女子の制服が見えた

色からして3年生だろう

3体に囲まれて動けないようだった

淡い青色の三つ編み

村上文緒

思わず舌打ちをしてしまう

右足に力を入れ、一気に跳躍する

囲んでいる1体を蹴飛ばし、村上を庇う様に2体の眼前に立つ

村上の手を取って、走り出す

 

「何なんですか、あれはっ」

「黙って走れっ」

 

3体ともしっかりついてきた

途中にコンビニがあった

周囲に人影が2つある

コンビニの中に村上を隠した

奴らに自分を見失わせないよう距離を保ちつつ、人がいない場所を探し走る

小さな公園があった

誰もいない

足を止め、奴らと対峙する

1歩引くと奴らは距離を縮めてきた

両手に黒い火球を燃やし、打ち出した

1体を完全に捕らえ、黒い炎が燃やし尽くした

残った2体が飛んでくる

手の中で刀を生成する

刃も柄も影のように黒い日本刀

飛んできた2体を飛んでかわし、斬り伏せた

球体が真っ二つに分断され黒い泡となって霧散する

奴らの消滅を確認し、刀を霧散させた

奴らを倒したという旨のメールを送り、先程のコンビニへ向かった

 

 

村上は律儀にコンビにを動かなかった

窓から外を覗き、落ち着かない様子だった

 

「犬井さん、無事だったんですね」

 

見れば、目元に涙が溜まっている

 

「帰りましょう。送ります」

 

私たちは揃ってコンビニを出た

 

「村上先輩の家はどこですか」

「あそこです」

 

村上が指差した先には高級マンションがあった

1分も歩かない程の距離、目と鼻の先というやつだ

『奴ら』について簡単に説明しながら歩く

村上も見吉や八束と同じような反応を見せた

一階のエレベーターの前に来た

 

「本当に、なんてお礼を言っていいのか……」

 

私は何も言わなかった

少しの沈黙の後、エレベーターが下りてきた

 

「また明日、学校で」

 

私はそう言って手を振り、村上を見送る

村上も手を振り、エレベーターへ乗り込んだ

村上を見送ると、再び奴らが現れたという旨のメールが届いた

私はまた、走り出す

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