ロスト   作:raidou

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夏休みが終わってしまう……


諦観

3時間も眠っていなかった

昨夜寮に戻ってきたのは朝の5時前だった

血塗れになった服を脱ぎ捨てベッドに倒れこみ、起きたのは8時過ぎだった

半分寝惚け眼で登校していると、肩を叩かれた

 

「眠そうだね」

 

見吉だった

寝癖を直しきれていないのか、髪が所々跳ねている

 

「今日は早いんだな」

 

見吉は大抵遅刻ギリギリで登校してくる

 

「偶にはこういう日もあるって」

「そうか」

 

ぐぅ、と腹が鳴った

朝食を取っていないことを思い出す

購買で何か買うしかない

 

「朝食べてないの?」

「食べてない」

「昨日も夜遅くまで戦ってたの?」

「今朝まで、な」

「そっか」

 

欠伸を噛み殺す

見吉は何も言わなかった

下手に同情されるよりは、良い

 

 

休み時間、購買でパンを買い漁る

カロリーメイトは、箱買いして常備してあった

教室に戻ると、教室の前に村上がいた

私の姿を確認すると、駆け寄ってくる

 

「どうかしたんですか」

「昨日のこと、親に相談したら相手にされなくて……私、どうしたらいいかわからなくて」

「どうにもならないですよ。夜出歩かなければ何も無い」

 

私自身も答えを出せないでいる

カロリーメイトの袋を開き、噛り付いた

 

「犬井さんは、どうしてそこまで冷静なんですか」

「割り切ってるところがあるんで」

 

所詮は手の届く範囲しか守れない

 

「こら、犬井君。廊下で食べちゃ駄目でしょ」

 

橘に見つかってしまった

 

「すいません」

 

カロリーメイトを飲み込んだ

橘が私を睨む

迫力は無かった

 

「もうすぐ授業が始まるから教室に入りなさい。村上さんも」

「はい」

 

村上が教室へ戻っていく

小さな背中が寂しさを物語っている

私にどんな答えを貰ったとしても拭いきれない不安があるはずだ

それなら、あえて突き放すのも答えなのかもしれない

私は、教室へ戻った

 

 

昼休み、私はパンを抱えて独りで教室を出る

中庭に出ようとした所で、村上に会った

弁当箱を持っていた

 

「あ、犬井さん」

「ども」

 

軽く会釈して通り過ぎようとする

腕を掴まれた

存外、力が強かった

 

「もしよかったら、一緒に食べませんか?」

「別にいいですけど」

 

村上の方へ向き直り、歩き出そうとした

カメラのシャッター音がはっきりと聞こえる

 

「文緒ちゃん、はっけ~ん。お昼ごはん食べましょ~」

 

ブロンドの髪の女子がカメラを構えている

連続でシャッターを切る

村上は驚いた様子でカメラから顔を背ける

カメラを構えたまま少女は近付いてきた

 

「文緒ちゃん、そっちの男子は誰なのかな~」

「彼は、2年の」

「はっ、まさか!文緒ちゃんの彼氏!」

「いえ、そうじゃなくって」

「ああっ!文緒ちゃんは浅見さん、玉井さん、更には笹原さんまでも差し置いて大人の階段を上ってしまうのねっ!」

「あの、望月さん。私の話を……」

「うわ~ん、文緒ちゃんの裏切り者~。みんなに言いつけてやるんだからっ」

 

捲くし立てるように、話すだけ話したらすぐにどこかへ行ってしまう

村上も呆れ顔で去っていく少女を追おうともしなかった

 

「誰ですかあの人」

「望月エレナさんです。知りませんか?いろんな意味で有名だと思うんですけど」

「ああ、あの人が」

 

名前は聞いたことがある

実際に見たのは初めてだった

確か、女子の写真を撮ることが趣味だったはずだ

そして、男子には全くといって良いほど興味が無いらしい

村上がため息を吐いた

 

「追わなくて、いいんですか。みんなに言いつけるとか言ってたけど」

「いいんです。またいつもの事ですから」

 

村上が苦笑を浮かべる

何だかんだで許せる相手なのだろう

 

「付き合ってるように見えますか。僕たちは」

「えっと、それは」

 

周りを見渡せば、中庭に行こうとしていた生徒たちは足を止め、こちらを見ていた

村上は照れくさそうに俯く

腕はしっかりと掴んだままだった

 

 

中庭の木の陰に私たちは座り込んだ

芝が手に当たる感触

村上が弁当箱を開ける

私は、軽く一息ついてからカツサンドの袋を開いた

 

「パンだけですか?」

「まさか」

 

ポケットからカロリーメイトを取り出し、見せた

村上の眉間に皺が寄った

 

「足りないでしょう。お弁当、作らないんですか?」

「そんな時間は無い」

 

過去には明け方に帰ってきて遅刻したこともあった

未だに学校に通っていることを疑問に思うこともある

 

「もしよかったら、私が」

「文緒ちゃ~ん」

 

村上の言葉を遮って遠くから声が聞こえる

3階から望月エレナと3人の女子がこちらを見ていた

望月エレナが手を振っている

周囲の視線が集まってくる

 

「あ」

「望月さん……」

「人気ですね、先輩」

 

茶化すつもりで呟く

村上は肩を竦めて見せた

 

 

「一緒に帰らない?」

 

帰りに、八束に誘われた

見吉も一緒だった

 

「いいけど、寄り道はしないから」

「わかってるわよ。ちょっとは信用しなさいよ」

「そうだよ~」

 

不服そうな2人の視線が刺さる

教室を出たところで村上に会った

 

「良かった。まだ帰ってなかったんですね」

「これから帰るとこです」

「あの、一緒に帰っても構いませんか」

「僕は良いけど、2人はどうだ」

「私は構わないけど」

「私も」

「ありがとうございます」

 

村上が安堵したような表情で笑って見せた

笑顔の中にも不安が見える

昨夜のことをまだ引き摺っているのだろう

 

 

「犬井君、村上先輩と仲良かったかしら。昼休みも一緒にいたんでしょ」

「どこで知り合ったのかなぁ」

「昨日、図書室で軽く話をした。夜は」

「犬井さん」

 

村上が私の腕を引く

何か言いたげな表情で私を見ていた

 

「先輩、八束達も事情は知ってます」

「そうなんですか」

「村上先輩も、ですか」

 

村上が私の腕から手を離す

そして、俯きながら話し出した

 

「昨夜のこと、親に話しても信じてもらえなかったんです」

「実際に見たことが無いと信じないですよね。やっぱり」

「しょうがないよね。実際私も信じないと思うし」

 

村上の言葉に八束が同意し、見吉が呟く

何度問いかけても答えなんて出ない

戦える人間にしかどうにもできないのだ

 

 

沈黙が続いた

空気も少し、重い

どうにもならないことをどうにかしようとしている、そんなもどかしさがあった

駅の近くでようやく八束が口を開いた

 

「じゃあ、私電車で帰るから」

「私も」

「ああ」

「犬井君は村上先輩を送ってあげて」

「わかった」

「じゃあね~」

 

八束と見吉が駅へ入っていくのを見送る

電車に乗り込むのを見ると、村上が私の腕を掴んだ

振り解きは、しなかった

 

「行きましょう」

 

短く、そう言った

 

「はい」

 

夕方になって、村上のマンションまで辿り着いた

また昨夜と同じようにエレベーター前で村上と別れようとした

 

「また、今夜も行くんですか?」

「奴らが出てくる限りは戦わないと死人が出るだけだから」

「最近の変死事件ってもしかして……」

「多分、大体が奴らの仕業だと思う」

 

人間の犯罪が混ざっていないわけではなかった

だが、人間の犯罪はいずればれる事になる

所詮はそういうものだ

 

「助けてもらうことしかできない私が言うのもおかしいと思いますけど、気をつけて」

「やめてください。僕は、誰が死んでも責任は取れません」

 

それ以上は何も言わず、村上に背を向けて歩き出す

村上も、呼び止めようとはしてこない

私は、ヒーローなどという気は全く無い

死にたい奴は、勝手に死ねばいい

空が曇っていた

雨が降れば、視界が悪くなる




続きはゆっくりとお待ちください
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