ロスト   作:raidou

5 / 11
窮地

 

久々に学食で昼食を取る

あまり人が多い場所は好きではなかった

学生の数が多く、偶に学生からの希望でメニューを追加するためメニューもなかなかの数だった

私はとんこつラーメンとネギトロ丼を丸テーブルに置いた

テーブルには椅子が残り3つあったが、私のほかには誰も座っていない

私は箸を取りネギトロ丼を食べる

少々山葵が少ないように感じた

ピンク色の髪にお化けの髪留めの女子が椅子に座った

制服は3年生のものだ

 

「ちょっと相席させてね~」

「どうぞ」

「君、2年生だよね。私、3年の三嶋ゆらら。よろしくね」

「犬井敬です」

 

私はラーメンを啜った

早く食べないと伸びてしまう

 

「部活は?私はオカルト研に入ってるんだ。幽霊部長だけどね。」

「どこにも入ってません」

「そうなんだ。私も人のこと、言えないんだけどね」

 

三嶋が笑った

笑うと、綺麗だった

 

「幽霊部長って普段何してるんですか」

「う~ん」

 

私が質問すると、三嶋が考え込む

 

「帰宅部ごっこ?」

「え?」

 

だらだらと話していると、銀色の髪を伸ばした少女が食堂内をうろついているのが目に入った

手には三色丼を持っている

少女と目が合った

 

「こっち、空いてるよ」

 

三嶋が先に声をかけた

見たところ、ロシア人に見えた

制服は1年生のものだ

日本語が通じたのか、少女はこちらへ近付いてきた

私は何も言わず椅子を引いた

 

「ありがとうございます」

「日本語上手だね~」

「たくさん練習しました」

 

微笑を見せて、少女は流暢な日本語を話した

 

「私、3年の三嶋ゆらら。こっちは2年の犬井敬君。よろしくね」

「1年のユーリア・ヴァルコワといいます。よろしくお願いします」

 

ユーリアが頭を下げる

綺麗な姿勢だ

頭を下げる角度も把握しているらしい

 

「日本には留学で?」

「はい。ロシアから来ました」

「もう部活どこに入るか決めた?」

「はい。バレエ部に入ります」

「バレエ部か~。いいね~」

 

しばらく話していると、予鈴が鳴った

あと5分で午後の授業が始まる

 

「あ、もうこんな時間だ。ごめんね、なんか私ばっかり話しちゃって」

「そんなことないです。とても、楽しかったです」

「ありがとう~」

「じゃあ、僕はこれで」

「うん、またね」

「失礼します、三嶋先輩、犬井先輩」

「ユーリアちゃんも、またね~」

 

にこやかに手を振る三嶋

それに釣られたのかユーリアも笑顔で手を振って去っていった

 

 

 

放課後、私は暇をつぶそうと廊下をぶらついていた

 

「綺麗な赤い髪よね。前から思ってたんだけど」

 

後ろから声をかけられた

制服を見た

2年生

長い髪がピンクと紫で綺麗に分かれていた

偶に見かける顔だ

見吉の友達のはずだ

 

「好きでこんな色してるわけじゃない」

「燃える火みたいで綺麗……」

 

一歩踏み出してきた

距離を詰めてくる

すっ、と髪の中に指を入れられた

そのまま軽く弄られる

数本摘まれ、軽く引っ張られた

不思議と嫌悪感は無い

数分が経つ

その間、私は廊下で晒し者にされていた

 

「そろそろ、離れてくれないか」

「あ、そうだね」

 

指が髪から離れる

少しの名残惜しさが背筋を駆けた

 

「私は新垣雛菜。君は、犬井君だよね?奈央が偶に話してるよ」

「見吉が?」

「ちょっと厳しいけどちょっと優しい人、だって」

「どっちなんだ、それは」

「さぁね」

 

普段、見吉は私をどう見ているのだろうか

 

「私も、ちょっと興味あったんだよね。君に」

「何故」

「綺麗な髪だからかな。私、美容師目指してるんだ。だから惹かれるんだよね」

「髪を切るんだったら誰か他の人にしてくれ」

「はいはい。カットして欲しかったら言ってね」

 

ひらひらと手を振り、新垣は去っていった

 

 

 

私はいつものように寮を出た

時間は7時08分

いつもより、少し早かった

学校の方向へ足を進める

途中、運動部の生徒と数人すれ違う

学校が見えてくる

職員室と生徒会室にはまだ明かりが点いていた

現生徒会会長は非常にマイペースな人間だったことを思い出す

おそらくまだ中にいるのだろう

私は生徒会室へと急いだ

生徒会室の中では、長髪の3年生の女子が忙しそうに作業をしていた

天都かなた

現生徒会長である

私は、生徒会室に入り天都に声をかけた

机には分厚いファイルがいくつも広げてあった

隅にはコーヒーカップが置かれている

 

「まだ残ってたんですか」

「あら、犬井君。生徒会室に来るのは久しぶりじゃないかしら」

「夜は危険だって、前にも言ったはずです」

「ごめんねぇ。鴨野さんが、まだ職員室に行ってるから私だけ帰るわけにはいかないの」

 

知らない名前だった

去年は、そんな名前の人はいなかった

1年生だろうか

 

「私も資料整理しないといけないし」

「明日でもいいじゃないですか」

「そうよね~。じゃあ、鴨野さんを迎えに行こうかしら」

「そうしたほうが良い」

 

天都がテーブルに広げてあるファイルを片付け、荷物を持った

私は鴨野と呼ばれた少女の荷物を持った

私たちは生徒会室を出て職員室へ向かう

1階で小柄な少女と会った

制服を見ると1年生のようだ

 

「鴨野さん」

「あ、会長。そちらの方は?」

「2年生の犬井君よ」

「初めまして。書記の鴨野睦といいます」

「犬井敬だ。よろしく」

 

短く、挨拶した

私は持っていた鴨野の荷物を手渡す

 

「会長、昨年の資料の整理は終わったんですか?」

「それなんだけど、明日にしましょ?」

 

天都が胸の前で手を合わせて片目を閉じる

天都の言葉を聞いて、鴨野が眉を顰めた

天都は鴨野の表情を見て引きつった笑顔を浮かべた

 

「もう7時半過ぎてるし、夜は危ないからもう帰ろう」

 

私は軽くフォローを入れる

 

「仕方ないですね。あまり遅くなるといけないし帰りましょう」

「ありがとう~」

 

鴨野が提案を受け入れ、私たちは3人で並んで学校を出る

 

「会長と犬井先輩はどういう関係なんですか?生徒会関係じゃないと思うんですけど」

 

初対面は、去年の秋だった

 

「去年の秋だったかしら。今日みたいに犬井君が生徒会室まで来てくれたの。夜は危ないからって」

「確かに、変な事件や事故が多いですよね。原因不明の」

「それはねぇ……」

「?」

 

歩きながら私は天都と奴らについて話した

鴨野は訝しげな表情を浮かべ私たちを見ていた

どういう表情をして良いか分からない、とも取れる顔だった

 

「信じられませんけど、嘘ではないと思います」

「信じてもらえてよかったわ~」

「一応、ですけど」

「いきなり信じろって方が無理がある」

「まだ生徒会に入って日は浅いですけど、会長はこんな嘘をつく人じゃないと思ってます」

「何か微妙な気分ねぇ」

 

同意を求めてくる天都に、私は何も答えない

突然、携帯が鳴った

メール

奴らが出た

場所は、海沿いにある小さな公園

遠いとも近いとも言えない場所

 

「会長、鴨野さんをお願いします」

「えっ」

「分かったわ。気をつけてね、犬井君」

 

私は二人を見ずに走り出す

振り返りはしなかった

今夜はいつもより人通りが多かった

人ごみの中を誰にもぶつからないように走り抜ける

簡単なようで、難しい

ほんの僅かな隙間を縫うようにして駆け抜けるのは慣れるまで時間がかかった

私の身体能力は他人とは違う

5分もかからずに公園に到着した

生温い風が微かに身体を撫ぜた

空気が重くなる

鶏がいた

壊れたベンチの上

普通の鶏ではなく全長は1メートルほどあり、羽が鉄のように闇の中で鈍く光る

ベンチの下に何かがあった

奴が走り出す

鶏とは思えない速さだった

突っ込んでくる身体を両腕で受け止めた

鋼鉄のように頑丈な身体

しかし、硬いのは胴体だけのようだ

首から上は普通の鶏と変わりない

弾き飛ばされるところを寸前で堪える

そのまま頭部に右膝を叩き込む

打ち上がったところを叩きつけた

奴が地面を転げ回る

頭部を踏み抜いた

骨の砕ける音

首が引きちぎれる

血が舞った

小さい、呻き声

絞り出すような声だ

頭だけ失った身体はそのまま数メートル転がり、砂のように崩れ落ちた

死体は残らない

小さく、息を吐く

奴を消滅させたとメールを送り、私は携帯を閉じた

すぐにメールが返ってくる

了解の二文字

周囲に人影は無い

壊れたベンチの下には、少年の死体があった

まだ、小学生くらいの小さな子供だった

体中を嘴で毟られ、血まみれになっている

抉られた皮膚からは夥しい量の血が地面を濡らしていた

この現場を見られれば、間違いなく私が疑われてしまう

私は足早にこの場を去った

化け物のがやったことなんて、信じたりはしない

ジレンマは終わることなく、私の中にある何かを蝕む

私は、拳を握った

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。