ロスト   作:raidou

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視線

 

久々の休日だった

私は、用もなく街を歩く

夜になれば、忙しくなる

休みだけあって人通りも多かった

本屋や電器屋を回ってみる

最近はインターネットでの買い物がずいぶん便利になったらしい

家の中にいても何でも買える世の中になった

パソコンも、随分価格が下がっている

日本に戻ってきてから2年目だが戸惑うこともあった

ゲームのハードが大きく変わっていた

昔読んでいた漫画が殆ど完結していた

年頃になれば漫画やゲームから離れると言うが、私には無かった

ゲームをまとめて買った

時間なら、売るほどある

袋を引提げて街中を歩いた

様々な人とすれ違うが、興味を示しはしない

誰も、私に興味など無いだろう

 

「犬井君」

 

振り向くと、見知らぬ少女が私を見ていた

どこかであった気がする

綺麗に整えられたブロンドがかった長い髪に、三つ編み

一人心当たりがあったが、雰囲気が違った

彼女の周りの空気は、張り詰めている

 

「やっぱり、わかんないよね」

「あ」

 

声を聴いて、ようやく分かった

 

「奈央だよ。見吉奈央」

 

ベージュのブラウスに黒のロングスカート、さらに縁の入った眼鏡までかけている

雰囲気もいつもの彼女と違い、気が引き締まっている

 

「いつものボサボサ頭はどうしたんだ。モデルみたいだな」

「みたい、じゃなくてモデルなの。学校公認で」

 

初耳だった

土日が忙しいなら平日の月曜はきついのかもしれない

 

「だから、月曜は眠そうなのか」

「あはは。そうかもね」

「何か用なのか?」

「今仕事の帰りで、犬井君がいたから声をかけてみたの」

「ふうん」

「買い物の帰り?」

「ああ」

「ちょっとここじゃあれだし、どこかで落ち着いた場所で話さない?」

 

そう言って見吉が喫茶店を指差す

私は頷いた

見吉が私の腕を掴む

引っ張られるように私は見吉についていった

 

 

 

客は私たち以外には一人、女性客がいるだけだった

初老の男がカウンターに入っている

オーダーを取りに来たウエイトレスは高校生に見える

豊満な胸の膨らみが目を引く

 

「野々花先輩」

「奈央ちゃん、こっちの子は彼氏?あれ、でもこの前文緒ちゃんといた子よね」

 

村上の名前が出ると見吉の視線が私に刺さった

 

「あはは、彼氏じゃないですよ。一応」

「一応、ね」

 

少女が笑った

可愛らしさの中に、どこか大人っぽさがあった

 

「私、3年の笹原野々花。よろしくね。犬井敬君」

「名前知ってるんですね」

「文緒ちゃんから聞いたの。問い詰めたって言ったほうがいいかしら」

 

そう言って笹原がもう一度笑う

見吉が釣られて笑った

遠くで見ていた女性客の視線が私達に向いた

 

「奈央ちゃん見て驚いたでしょ。学校にいるときと全然違うから」

「それが彼、リアクション薄いんですよ~」

「驚いてたよ、十分に」

「え~、嘘~」

「普段からしっかりしてれば、八束の負担も減るのにな」

「普段から、なんて無理だよ~」

「できるだろ」

 

いつの間にか女性客はいなくなっていた

カウンターの男からの視線が笹原に刺さる

笹原は視線に気付いたらしい

 

「ここ、私のお爺ちゃんのお店なの」

「なるほど」

 

バイトというわけではないらしい

 

「えっと、注文は何にする?」

「私はアイスコーヒーで」

 

私は、エスプレッソとだけ答える

笹原は、了解と言ってカウンターへ向かった

 

「エスプレッソなんて飲むんだ」

「悪いか」

「別に~」

 

見吉が眼鏡を外し、バッグに直した

エスプレッソはドリップ・コーヒーよりカフェインの含蓄量は少ない

 

「何でわざわざモデルなんてやってるんだ?」

「好きだから、かな」

「好きってだけで続けられるものでもないと思うけどな」

 

才能というやつだろう

何事も意思だけでは続きはしないものだ

本当に続くかは様々な要因も関わってくる

私も、例外ではない

アイスコーヒーとエスプレッソを持ってきた笹原は見吉の隣の席に着いた

ソーサーがテーブルに置かれる

小気味の良い音

 

「エスプレッソなんて飲むんだね」

「見吉にも同じこと言われました。そんなにおかしいですか」

「おかしくなんてないわよ。ただ、意外だなって」

「意外、ですか」

 

笹原がふっ、と笑う

やはりどこか華やかさのようなものがある

見吉の視線はずっと私に向いていた

 

 

 

腕時計を見る

16時24分

オーダーを待つ時間が存外長かったらしい

帰るには丁度良い時間

見吉のアイスコーヒーは既に空になっていた

残りを飲み干す

少し苦味が口に残った

私の様子を察したのか、見吉が口を開く

 

「そろそろ帰る?」

「そうするか」

「あら、もう帰っちゃうの?もう少しいたらいいのに」

「ちょっと夜から用があって」

「そうなの。じゃあ、二人ともまたね」

 

レジで会計する

笹原の祖父らしき男は怪訝そうな目で私を見ていた

笹原は店の外まで見送りに来た

 

「じゃあ、二人ともまた学校でね」

「はい、ありがとうございました」

 

先輩の前ではしっかりしているらしい

私は軽く手を上げてから笹原に背を向けて歩き出した

見吉が小走りで着いてくる

 

「待ってよ~」

 

私は足を止めた

振り向けば、いつもの見吉に戻っている

 

「もういつもの見吉に戻ったな」

「いつもしっかりするなんて無理だよ~」

 

へらへらと見吉が笑う

私は何となくだが、納得してしまった

 

「そうかもな」

「そうだよ」

 

また足を進める

見吉も着いてくるが、すぐに遅れが始まった

そして、座り込む

往来で、だ

通行人は私たちを横目に足早に去っていく

針の筵、というやつだろう

 

「どうした」

「疲れちゃった」

「は?」

「おんぶして~」

 

駄々っ子のように甘え、私に向けて両手を広げてみせる

通りすがりのスーツの男が哀れみの視線で私を見ているように見えた

時間が時間だけに、更に人通りが増える

躊躇している場合ではなかった

私は見吉を受け入れ、背負った

軽い身体

見吉の手が私の肩にかかる

首筋を、見吉の髪が擽った

 

「それじゃ、駅までお願いね~」

「喋るな」

「何?照れてるのかな」

 

見吉が私の頬を指で突く

私は小さく舌打ちした

歩き出す

駅までの道が遠く感じた

 

「照れてない。呆れてる」

「ひどいなぁ」

「今すぐここで置き去りにしてもいいんだぞ」

「ごめんなさぁい」

 

見吉が黙り込む

静かになると同時に、気まずさが生じた

 

「なんか喋ってよ」

「降りたら、喋る」

「ずるくない?」

「全くそうは思わないな」

「じゃあ、黙っててもいいかな。ここ、けっこういいよ~」

「背中が?」

「暖かくて、気持ちがいいよ」

「そうか」

「うん~」

 

ご機嫌な様子で、見吉が答えた

私は苦笑した

悪くない時間だった

駅に着くと、見吉を降ろす

名残惜しそうな様子で、見吉が私の背中から降りた

 

「今日はありがと。じゃあ、また学校でね」

「ああ」

 

見吉が片目を閉じる

軽やかな足取りで見吉が歩き去る

私は少しの間、その背中を見つめていた

 

 

 

私が寮に戻ってきたのは、6時を過ぎた頃だった

軽くシャワーを浴びて、夕飯の準備

出来合いの物ばかりだった

簡単に食事を済ませると、7時前に寮を出た

ゆっくりと歩いていた

今夜は半月が明るく照らしていた

時折、携帯を取り出し連絡を待つ

連絡は来ない

また数十メートル、歩く

携帯が気になった

 

「犬井君」

 

女の声

振り向いた

大きなリボンが目に留まる

癖毛

制服は2年生のもの

休日なのに制服なのはどこかでボランティアにでも参加していたのだろう

 

「佐伯さん」

 

佐伯鞠香

私の正体を知っている人間の一人

去年の夏に奴らと学校で戦ったときに偶然見られてしまった

そのときには保険医の神崎ミコトもいた

 

「その……今日も、なの?」

「そうだけど」

 

佐伯が気まずそうに俯く

佐伯とは学校で時々会う

そして少し、話す

本当に少しだ

少しの沈黙

破ったのは私のほうだった

 

「今日は、どこかボランティアにでも行ってたのか」

「そ、そうだよ」

 

また少しの沈黙

彼女から見れば、私は異常だ

今度は佐伯が沈黙を破る番だった

 

「あ。そういえば」

「どうした」

「夕方犬井君と奈央ちゃんを見かけたよ」

「あれが見吉だってよく気付いたな」

「やっぱり学校にいるときとは違うよね」

「そうだな。いつもあんな感じだと八束の負担も減るんだけど」

「あはは。そうかもね」

 

力無く、佐伯が笑う

私は苦笑を返した

携帯が鳴った

奴らが出た

地点は現在地から約700メートル先

 

「ごめん、佐伯さん。行かないと」

「あ、ううん。私のほうこそ呼び止めちゃってごめんね」

「いいよ。そんなこと」

「えっと、気をつけてね」

 

佐伯は真っ直ぐ私を見つめてきた

私は、何も答えない

佐伯が何かを話し出す前に、走り出す

何となく、佐伯の言いたい事を察してしまっていた

本当は戦って傷ついて欲しくない

佐伯の目が語っているように見えた

 

 




アニメ始まりましたね
椎名さんは家族にも敬語を使うのか
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