ロスト   作:raidou

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敵対

 

4月が終わり、5月のゴールデンウィーク

世間が連休だろうと、私の戦いには関係が無い

日中は好きに使っても構わない

街を行く人間の歩く速度は、速い

何を急いているのか

有限な時間が恐いのか

一つ判っているとしたら私が、私たちが取り残されているということだろう

無意識のうちに、私たちは生きることをやめている

少し大きめの書店に着いた

目当ては決まっていた

村上の話していた作家の本

書店に入ってすぐ、村上を見つけた

偶然だ

眼が合うと、駆け寄ってくる

彼女が奴らに襲われた事件があってからは村上は時折私を探すようになっていた

トラウマの域に達しているのだろう

私には、既に過ぎた感情だった

 

「こんにちは、犬井君」

「どうも」

「何かお探しですか?」

「先輩に勧めてもらった本を探しに」

 

ぱっ、と村上の顔が明るくなる

書店を案内されるように、私は村上の後を歩く

心なしか、上機嫌なのが見て取れる

 

「嬉しそうですね、先輩」

「そうですか?」

「そう見えます」

 

村上は私に振り向かずに答えた

 

「犬井君って他にはどういう本を読むんですか?」

「面白そうなら推理小説も時代物も読みますけど」

 

大体何にでも手が伸びてしまうのは悪い癖だ

しかし、自分の欲求を満たせなければ私はどうなるか分からない

 

「恋愛物とかは……」

「それなりに読んだりしますよ」

 

読んだには読んだが、あまり記憶に残っているものは無い

私に恋愛の経験が無いからなのかは分からなかった

 

「先輩は恋愛物は読むんですか?」

「私だって、人を好きになったりしますよ?」

 

照れたように、村上が笑った

表情に羞恥が混ざっている

 

「すいません。先輩には純文学のイメージが強くて」

 

私は、苦笑を返す

 

 

 

買い物を済ませ、書店を出た

あれもこれもと言っているうちに本は増え、袋は重くなっていた

収入は十分にある

誰にも何も言わせない

村上が横を歩いた

 

「犬井君って休日は何をしてるんですか?」

「色々ですよ。ゲーセン行ったり図書館行ったり散歩したり」

 

いつも独りだということは言わなかった

おそらく今更というやつだろう

村上が小さく笑った

 

「散歩してる犬井君って想像できません」

「先輩は僕をどう見てるんですかね」

「内緒です」

 

言いたくない、ということなのかもしれない

 

「じゃあ、無理には聞きません」

 

少しの沈黙が続いた

三人の男が歩いてくる

大学生くらいだろう

三人とも私より背が高かった

赤いシャツの男は180センチはあるだろう

髪の色は派手な茶髪

日光が当たって少し光を返している

嫌悪感が奔った

肩が当たった

それほど狭い道でもないはずだった

 

「おい、痛えじゃねえか」

 

赤シャツの男が異様に痛がる振りをする

 

「どうしてくれんだよ、腕が折れてるじゃねえか」

「金出せよ、10万。ここでだ」

「どうしよう……そうだ、警察……」

 

私の隣で村上が携帯を取り出す

ボタンを押そうとする

青いシャツの男が村上に詰め寄る

肩を掴んで軽く突き放す

右腕を掴まれた

振り払う

群れるだけでこれだけ態度が大きくなるのは、解せなかった

私は三人を睨む

黒シャツの男の手が私の胸倉を掴む

掴み返す

期待通りの反応だった

だが、ここには村上がいる

 

「ちょっとお前、こっちこいよ」

 

私は本の入った袋を村上に渡す

人気の無い路地へ連れ込まれた

村上は追ってこない

村上が追ってこないのを確認し、私は足を止めた

飛んできた拳を頭を下げて避けた

敵対する意思が、あるらしい

 

「金出せよ。慰謝料と治療費だ」

 

馬鹿げている

それは何よりこちらに集ろうとする向こうのほうがよく理解しているはずだった

 

「醜い人間だ、あんた達は」

「醜い?」

「ふざけやがってっ」

 

挑発に乗ってきた

赤シャツの男の蹴り

遅かった

掴み、骨を折った

鈍い音と、呻き声

加減はしない

地面へ叩きつけ、両腕を引きちぎる

腕が無ければうまく立つことはできないはずだ

男が背中から倒れこむ

血が派手に吹き出た

黒シャツと青シャツの男は固まって動かない

隙だらけだった

私は動かない青シャツの男の頭部を蹴り飛ばす

首がちぎれ、胴体と離れる

頭部だけがボールのように地面のように落ちた

青シャツの男の頭部と胴体が黒い炎に包まれる

地面に薄く焦げ跡を残し、消滅

 

「ば、化け物だっ」

 

黒シャツの男が私に背を向けて走り出す

逃がしはしなかった

首に右手をかける

力を込める

花を摘むように骨を折った

首が180度曲がり、男が地面に崩れ落ちる

数秒後、黒シャツの男の体は灰のように崩れ落ちて風に吹かれる

何も、残らなかった

赤シャツの男の息がまだあった

 

「何であんな真似をした」

 

私は倒れたままの赤シャツの男を見下ろした

 

「助けてくれっ」

「質問に答えろ」

「頼むっ、救急車を呼んでくれっ」

 

私は男のズボンのポケットに手を突っ込んだ

スマートフォンを掴む

 

「頼むっ、助けてくれっ」

「お前たちは敵だ。だから助けない」

 

男のスマートフォンを握り潰した

部品がバラバラと落ちていく

 

「僕になら、勝てると思ったのか」

「助け、て」

「助ける必要はない」

「嫌だっ、死にたくないっ」

「死ね」

 

男が喚く

ひどく、耳障りだとしか思わない

見下していた

嘲笑っていた

その結果が、この有様だ

無様だ、と私は吐き捨てる

男は私を怯えた表情で見つめているだけだった

もう躊躇は、無い

引きちぎった男の左腕を、男の心臓へ突き刺した

数秒と待たず、男が死んだ

そして、黒い炎に包まれて消える

死体は残らない

私は唾をはき捨て、歩き出す

 

「格好悪いね。ま、そんなもんか」

 

灰が、小さく舞った

 

 

「犬井君っ」

 

村上が駆け寄ってきた

 

「どうも」

 

上手い返しが見つからない

 

「ごめんなさい、何の役にも立てなくて」

「悪いのは向こうです。先輩は何も悪くないですよ」

 

当たり障りの無い言葉

どうしても、こんな言葉しか出てこない

相手は普通の人間

だが、敵だった

敵なら奴らと変わらない

躊躇はしなくていい

私は人間を守るために戦っているわけではない

組織でも、イデオロギーのためでもなく、ただ自分のためだ

相手が普通の人間だからといって殺さない理由にはならない

死んで当然の連中だった

ただ、それだけの話だ

それを口に出してしまえばそれまでのことだった

村上が私の手を取る

袋が地面に落ちた

 

「泣かないでくださいよ、先輩」

「泣いて、ないです……」

「そうですか」

「はい……っ」

 

幸い、近くを歩いている人間はいない

私は袋を拾い上げた

近くに小さな公園があった

私は村上の手を引いて公園のベンチへ座らせる

 

「ちょっと飲み物でも買ってきます」

 

私は村上を置いて歩き出そうとした

袖を引かれた

少し目を腫らせた村上が私を見ていた

一緒に行きたいのか

私は、村上の手をとった

 

 

 

村上はコーヒー、私は緑茶を買っていた

 

「あの人たちは、どうしたんですか?」

「どっか行きました」

 

明確な嘘

安易に察されるだろう

むしろ察してもらうために吐いた嘘だ

 

「嘘、ですよね」

「まぁ、そうですね」

 

村上は何も言わない

 

「ああいうのは、気に入らない。自分より強いって分かったらすぐに逃げようとする」

 

弱い奴なら当然なのかもしれない

 

「私も、ああいう人たちは嫌いです」

 

どういった意味で言ったのかはわからなかった

私たちは少し休んで、公園を出た

時間は4時になろうとしている

 

「送りますよ、一応」

「そんな、申し訳ないです」

「今更ですよ」

 

緑茶のペットボトルを握りつぶす

紙のように丸くなった

加減が、難しい

ゴミ箱へ投げ入れた

 

 

 

時間をかけて村上のマンションまで歩いた

その間、全くと言って良いほど互いに口を利くことはなかった

1階で私は足を止める

 

「ここまででいいですか」

「はい。ありがとうございます」

 

時間は既に5時を過ぎていた

流石に時間をかけすぎただろうか

 

「それじゃあ、失礼します」

「はい。気をつけて帰ってくださいね」

 

会釈し、私は走り始める

夕日が雲に隠れていた

雨は降らないだろう

公園の前を走りぬけ、不良たちに会った通路を素通りした

もう会うことは無い

少しだけ胸の奥が軽くなっているのを感じていた

後ろから何かが迫ってくるのを感じる

人でも、車でもない

犬猫の類でもなかった

まさか、と思ったときには遅かった

私の頭の上を白いものが通り過ぎた

人間の頭蓋骨

口元が軽く開き、笑っていた

私の姿を確認すると、こちらを向くいた

対峙

まだ奴らが出る時間には早いはずだ

飛び掛ってくるのを避けて、掴む

若干の柔らかさを感じた

いやな感触だった

掌から黒い炎を出し、燃やし尽くす

頭蓋骨がひどく暴れた

離しはしなかった

更に炎を強め、完全に燃え尽きた

灰すらも、残さなかった

 

 

 

少しの間、私は立ち尽くしていた

何故、こんな早くに奴らに遭うのか

予兆のようなものを、感じた

携帯に、メールは来ていなかった

予想外のことが、重なっている

振り返れば一人、女が横たわっていた

年齢は30代くらいだろう

首から上が無かった

さっきの頭蓋骨が食い散らかしたのだろう

早くここを去るのが最良の行動だ

誰かに見つかれば、確実に疑われるのは私だ

疑われると面倒なことになる

最終的に組織が解決してくれるとしても私に対する風当たりは強くなる

面倒なことばかりだ

私は掌から小さな黒い火を燃やし、死体へと打ち出す

死体は黒い炎に包まれ、燃え尽きる

仄かに、温かい風が吹く

 




早いものでもう12月ですね
これから忙しくなりそうです

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