夢想煉獄都市スノーフィールド   作:薫製

10 / 31
弱き試練

アルケイデスは淡々と警官を処していた。

矢で居抜き、剛腕でねじ切る。

同じ顔を殺しても再び無傷で現れ攻撃する。

布の加護すら反応しないくらの小さな攻撃ではあるもののその殺意は本物だと感じ取っていた。

 

「弱き者よ…名を聞こう」

 

立ち塞がる警官は一歩下がり、ニヤリと笑いながら言葉を返す。

 

「私に名前など無い」

 

「偉大なる英雄よ。神代の時代に生き神話を作りあげ今も語られる存在よ。ほんの少し風が吹けば吹き飛んでしまう犯罪者から、君へ一つ言えることがある」

 

気づくと背後にまた警官が現れていた。

同じトーン、同じ早さでアルケイデスに問いかける。

 

「そこまでして成すべきことがあるのだろう…だが、その覚悟を持って神の威光を否定するというならば!神の悪行も善行を否定し無きものとするというのならば!!」

 

警官以外にも様々な姿をした八人の『何が』が囲み込むように叫ぶ。

 

「…如何なる理由であろうとその姿は君が望んだ『人』そのものだ」

 

語尾が少し下がったものの十六に増えたものは雄叫びをあげるように弓兵に向かって語りかける。

 

「ならずものに成り下がり人へ成り下がった英雄よ!君が如何なる存在であろうと!世界を破壊する使者だとしても!!」

 

元の一人へ集約し空気が一気に冷える。

 

「人の本質を持つ以上、取るに足らない殺人鬼に狩られる事になるだろう」

 

そしてあらゆる役者がいる中で彼は全てをさらけ出す。

己の本質を表す事で、大英雄の息の根を止める為に放つ宝具の名を(切り札)

 

悪夢は倫教の暁と共に滅び逝きて(フロム ヘル)!」

 

そして、大通りに地獄が顕現した。

 

 

 

中央病院屋上

誰もが唖然としながら地獄が作られるのを見る中、ただ1人祝福している男がいた。

 

「まさか…まさか、そうなのか!?あれは、そういう事なのか!!」

 

歓喜の笑みを浮かべながら、ジェスターは子供のように目を輝かせる。

 

「彼が呼ばれたのか!人の妄想に育てられ狂気を超えた存在になった彼が!!あぁ…これだから世界は面白い!!」

 

両手を広げクルクルと回りながら、愉悦の表情を浮かべる。

その光景に酔いしれているかのようにも見える。

 

「何故この瞬間にあの麗しいアサシンがおらず忌々しいマスターがいるのか!令呪は残っている今すぐにでも…いや、この後のことを考えれば二画は残しておかないと…なんと悩ましい…!!」

 

ブツブツと呟きながらも膨らみ始める世界から目を離さない。

 

「ならば!私がこの景色を心に焼きつけよう!!そして彼女に伝えよう!!真なる地獄の生まれた瞬間を!!」

 

 

 

辺りに深い霧が立ち込め蜃気楼のように風景が変わり始める。

街路樹が歪に曲がり青黒い植物へ変化する。

戦闘で出来たクレーターには紫色のマグマが溜まり、毒の蒸気を発している。

人面の蝙蝠が笑いながら飛び、小鬼のようか姿の鬼火が信号機の周りを遊ぶように跳ねる。

ロンドンの裏路地のような煤けたビルがそびえる。

 

「この光景は!」

 

「ロンドン…霧…!!」

 

「そうか…奴なのか…」

 

マシュ、藤丸、ドラコーは即座に理解した。

一度あの地へ行き出会ったサーヴァントの名が分かったのだから。

ロンドンを恐怖のどん底へ落とし今なお恐れられるシリアルキラー。

 

「ジャック…ジャック・ザ・リッパー!」

 

カルデアで見る幼い少女の姿とは全く異なるものの宝具で作る世界そのものは同じだった。

そこ以外は全くの別物。

 

「…」

 

アルケイデスの前に立つのは人と言えるのか分からない『何か』だった。

身の丈は5メートルぐらいの長身。

肌はブルーベリーを腐らせたような毒々しい青紫。

異常に発達した腕と、サーベルのように鋭く曲がった爪をカチカチとならす。

髑髏に曲がった角と鋭い牙が生え表情すら抜け落ちた恐ろしい顔。

背中から生える蝙蝠の羽はバサバサと羽ばたかせながら深い影を地面におとす。

 

「ーーーーー!!!」

 

ケルベロスが咆哮をあげそれに食らいつこうとする。

だが、その行動を取る前に叩き潰すように振り下ろされた爪が縦方向に巨体を切り裂く。

赤い鮮血と臓腑を切り口から撒き散らし声を上げることなく地に伏す。

クラン・カラティンは目を見張り、カルデアはただ見ていた。

 

「真性悪魔じゃない。となると幻想を身体に写した仮初の存在…だとしてもここまで変化できるようなものなの」

 

アルクは淡々と解析する。

バーサーカーが変化した姿を言葉に表すなら『悪魔』としか表現出来ない。

 

「何も知らなかったら埋葬機関(あのバカ)が仕留めに来そうね」

 

 

「…ハデスの加護抜きではただの狂犬程度にしかならないか」

 

ケルベロスが倒されるのを一瞥し、吐き捨てるように言い目の前の悪魔と対峙する。

 

「先程私が人であるために死ぬと言ったな。弱き者よ。だが、人の姿から逸脱した魔獣となった貴様こそ人に倒されるべきでは無いのか」

 

アルケイデスの挑発に対し、人とはかけ離れた純白の目を向け笑う。

ただ、笑う。それだけ。

 

「…違う。それは違うぞ。神々の奴隷から成り下がった者よ」

 

悪魔の口が噴火口のように赤く光るのを見て防御姿勢を取る。

しかし、アルケイデスを襲った攻撃は目の前からではなく背後の上空からだった。

 

「ぬぅ!?」

 

肩が焼けるように熱い、いや実際に焼かれていた。

空を見上げると眼下に立つ悪魔と同じ姿が羽を羽ばたかせ飛んでいた。

 

「人は我らを生み出す愚者にして賢者にして、共食いをする餌に過ぎない」

 

同時に別方向から飛来した悪魔が爪をアルケイデスの肉体に突き刺しながら変化した石畳に深くめり込ませた。

その時に改めて状況を理解させられることになった。

まるで死体が出来上がるのを待つ烏のように数十、数百となった悪魔が嘲笑うかのように飛んでいた。

 

 

「なるほど。噂を宝具へ昇格させたんですね」

 

ルーラーのクラススキル『真名看破』で宝具の特徴を把握する。

 

「私たちの知るジャック・ザ・リッパー(彼女)も子供たちの願いが宝具となったものでした。今回は得体の知れない殺人鬼という点を使っています」

 

「今のジャックさんは悪魔だったという逸話を?」

 

マシュからの回答に頷き解説を再開する。

 

「そして、彼は単独犯では無く集団であった逸話から分身のように出せている。人の噂は広まれば真実に変わる。彼はその特性を宝具におとし活用しているのです」

 

つまり全員が本物という事になる。

サーヴァントである以上マスターの魔力に依存する形にはなるだろうが無限に出し続けられる。

起き上がる隙を与えることなく口から放たれた熱戦や爪が絶え間なく続く。

まさに地獄の責め苦そのもの。

 

「な、なぁ…あれは味方なのか…?」

 

「あのマスターの姿が見えないが…」

「貴様ら。何を知っている」

 

戦意喪失一歩手前の警官たちにドラコーが冷たく問う。

 

「バーサーカーのマスターが手引きしてくれたんだ。オレたちはその警護なんだが…」

 

「警護されてたと。呆れたと吐き捨てるが今回は相手が悪い。良い教訓と思い刻みつけるがよい」

 

 

地獄の中アルケイデスのなかにあったのは賞賛だった。

取るに足らないと踏んでいた存在が自分の上に立ち攻撃をする。

神の居ない時代の殺人鬼が自分を敵として認め振るう。

 

「見事…」

 

胸に爪を深く食い込ませた悪魔の腕を強く押さえ、残った手で噛み付こうとした顔を正面から掴む。

その様子を見た他の悪魔が焼き切ろうと熱線を照射するもその手を離すことは無かった。

 

「…見事なり弱き者よ。よくぞこの身をここまで追い込んだ。よくぞそこまで極めた」

 

「…?貴様、何を…」

 

何か嫌な予感を感じたのか本来の口調に戻った。

そんなことを気にせずアルケイデスは言葉を続ける。

 

「お前が築きあげたものは、確かな価値がある。射殺す百頭(ナインライブス)で対抗しても良かったが力で打ち倒すに非ず」

 

「?」

 

「名も無き殺人鬼よ。その偉業を賞賛し簒奪しよう」

 

()()()()()()()()()()()()

 

そして復讐者は宝具を口にする。

数多くの宝具を物にしたからこそ為せる偉業。

 

天つ風の簒奪者(リインカーネーション・パンドーラ)

 

空を我が物顔で飛んでいた悪魔が一瞬にして警官の姿へ変わりながら落ちる。

 

「きさ…ま…。まさか…!」

 

アルケイデスの肩に爪を食い込ませていたジャックは目を見開きその姿に驚く。

先程で自分に生えていた角を布の隙間から生やし、黒煙のような翼を背に生やし、幾倍にもなった魔力のオーラを身に纏う姿だった。

 

 

「宝具を…奪っただと…!?」

 

あのドラコーすらも焦りの表情だった。

カルデアには宝具を投影(真似る)英霊はいるものの宝具そのものを奪う者はいなかった。

 

「事象のみを奪う宝具。迂闊に発動出来なくなったわね」

 

アルケイデスを倒すには複数のサーヴァントによる同時解放と読んでいたアルクも対策を練り直す事になった。

 

「奪ったのか…私の宝具を…」

 

ジャックのか細い声が静かになった通りに虚しく響く。

既に地獄は失せ、その力はアルケイデスの周りから発せられている。

 

「…恨むなら恨むが良い。簒奪者と言われるのは慣れている」

 

地べたに力無く倒れるジャックを横目に落ちていた無傷の弓を拾い上げつがえる。

 

「さらばだ、偉大なる殺人鬼よ。良い勝負だった。ここまで追い込まれるとは思わなかった」

 

「ハハ…まだ人と呼んでくれるのかね。あのような姿になったにも関わらず」

 

「姿形など些細なことよ。私は貴様の名前を知ることは無いが、この戦いは心に刻むと約束しよう」

 

賞賛を受けたジャックは苦笑いを浮かべながらその最後を受け入れる。

だが、息の根を止める矢が当たることは無かった。

 

「そうか。令呪を全て使い果たす愚か者は、私のマスターだけだったか」

 

令呪による強制転移により間一髪でサーヴァントを救えた。

何処から見ているかは分からないものの判断は正しいと藤丸は感じた。

それでも問題の解決には至らない。

アルケイデスの眼が藤丸を捕える。

 

「次は貴様だ。異邦(違法)のマスター。その力は簒奪するに能わず。この場で殺し切ろう」

 

それよりも気になったのは背後の警官隊。

ここまでの絶望を見せつけて尚、宝具を向けてきている。

 

(良い度胸だ。この力を試すだけなら戦う価値はある)

 

この場に敵対する全てを前にしアルケイデスは上機嫌の笑みを浮かべながら、全力をもって屠ろうと弓をつがえ放つ。

音速を超える速さの矢は藤丸の心臓目掛け飛んでいく。

 

「先輩ッ!!」

 

マシュが盾を構え矢を正面から受け止める。

オルテナウスとはいえ妖精國では妖精騎士ギャラハッドの力もあったもののモルガンの水鏡を受け止め、あの太陽フレアすらも耐えうる性能。

だがその盾ごとマシュは後方に建つ病院まで吹き飛ばされた。

壁で止まりきれず室内にまで貫通し土煙が立ち上る。

 

「マシュ!!」

 

「チィッ!月の姫!!」

 

「分かってる!!」

 

アルクが緑色に光るつたを両端に止めてあった車に伸ばし軽く持ち上げる。

 

「ちょっと借りるわ!」

 

勢いをつけ左右から挟み込むようにぶつける。

車は壁にぶつけられたようにひしゃげる。

そのタイミングでドラコーの尾から赤色の閃光が放たれる。

狙いはアルケイデスでは無く車。

着弾と共に花火のような爆発が起こる。

突然の光に警官たちは腕で防御する。

 

「あなた達!ここから引きなさい!!」

 

アルクは声を上げ撤退を促した。

 

「何言って…」

 

「幾ら負ける意識が無くても相手が悪すぎる。その子の保護だけして早く下がりな…ッ!!」

 

気配を感じ真下にあったマンホールをヒールの踵で踏み、回転させながら上へあげる。

フタを掴みフリスビーのように投げる。

先程と同じ速さの矢がマンホールとぶつかり近くのビルに爪痕を作る。

 

「よくぞ反応した」

 

燃え上がる炎を吹き飛ばし弓を持ったアルケイデスが現れる。

 

「お前も外側のクラスか」

 

「えぇ。そんな所ね」

 

「やはりこの聖杯戦争は狂っているな。だからこそ、全てを壊しても問題なかろう」

 

更に魔力が増大し、アスファルトが何もしなくともめくれ上がる。

 

「落ちぶれたとしても大英雄といった所か…」

 

「マスターさんは?」

 

「盾の所へ向かった。問題なかろう」

 

「そう。なら、いけそう?」

 

弓を再び構えるアルケイデスと対峙しながらアルクェイドは問う。

アルクェイドはこれまで死徒との戦闘が多く、英霊との戦いは全く無い。

逸話を武器に変え襲う姿はこれまで経験したことが無い程の恐ろしさもあるが同時にこの状況を楽しむ気持ちもあった。

 

「ハッ。愚問にも程があるぞ。貴様こそ置いていかれるなよ」

 

お互い口元をあげながら魔力を込める。

限界まで貯め放つまでとなったその瞬間。

その空気を無に帰す者が空より舞い降りた。




来ましたチート宝具!
制限付きではあるけどぶっ壊れ性能。
やっぱりFGO組から奪うべきかと思いましたけどインフレしすぎて手つけれないと考え原作通りにしました。
前回のドラコーは完全ににおわせでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。