夢想煉獄都市スノーフィールド   作:薫製

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それぞれの思惑

カジノホテル『クリスタル・ヒル』最上階

ティーネ・チェルクはこの地に遥か昔から共存している数少ない部族の末裔。

外部の魔術師や権力に押し負け土地を奪われた。

そこから奪い返す為に呪いとも捉えられる執念を繋いだ。

血そのものは途絶えるもその回路は紡がれている。

本来なら致死にいたる霊脈を自身の回路と接続した。

この土地から少しでも離れれば死ぬものの高度な魔術でも詠唱無しで行える。

条件はあれど最強とも言えるが、その下に築かれたのは生贄の山。

ティーネには十二人の兄と九人の姉がいた。

その姿は無く、魔力回路となって消えた。

複数育てるのではなく質の良いものだけを残し間引く。

それを繰り返し最高傑作と言える力を手に入れた。

だが、聖杯戦争によって全ては変わった。

周りは土地の奪還という題目の元ティーネを育てた。

その裏にある思惑に気づきながらも受け入れた。

自らが簒奪者である魔術師たちへ呪いそのものとして幼い頃から育て上げられたからだ。

そのティーネの目は煌びやかに輝いていた。

映るは流星のように流れる武具の光。

遠見の術式を使い安全に見ているため地上の様子はハッキリ分かる。

 

(さすがギルガメッシュ王…)

 

セイバーの命は助からないと考え特異なマスターの方を見る。

渓谷での一件から注視していたがこれまで見てきた魔術師とは異なる存在だった。

自らは魔力を使えないのにサーヴァントを五騎仕える。

それらしい事はしているものの礼装の補助のお陰なのは見て取れた。

最早血と同じ感覚となった霊脈からかなり持っていかれる事もあるが彼の仕業なのだろう。

 

(彼は…本当にマスターなのでしょうか…)

 

ギルガメッシュなら捨ておけと言うだろうがティーネに取って彼は危険とは違う何かを感じていた。

その違和感は後々自ら理解することになる。

再びギルガメッシュの方を向くと想定外の光景があった。

 

「え…?」

 

未だセイバーは宝具の雨を避け続けていた。

いや、避けるのではなく対応し攻勢を続けている。

聖杯戦争においてセイバーのクラスは最優と言われ世界的にも有名な英霊が名をつられている。

報告によれば黒幕陣営に運ばれた触媒には『アーサー王』に関するものもあった。

となればあれは噂通りのアーサー王と考えられる。

それでもエクスカリバーの原点は宝物庫にある時点で優勢なのは変わらない。

それでも彼は倒れることなくギルガメッシュの元へ近づこうとしていた。

 

「彼は…一体…」

 

 

教会裏 広場

広場の植樹に身を隠していた時計塔のマスター、フラット・エスカルドスは目の前で繰り広げられている2つの戦いに目を輝かせていた。

 

「凄い…金色と黒の人の攻撃全てが一撃必殺級のチート技ですけどあの二人は腕だけで対応してますよ!シリーズ物のゲームを何年もプレイしてきた猛者と同じた!」

 

『君の例えは…一々俗物的だな…』

 

ぼやくように念を飛ばしたのは、腕時計となったジャック。

アルケイデスに宝具を奪われた事により存在理由そのものを無くしギリギリの状態だった。

その為、魔力消費量の少ない無機物になっている。

 

『さて、我々も動くとするか』

 

「でも、本当に大丈夫なのですか?」

 

『私が撤退すると言っても、君はなんやかんや理由を作って彼らに協力するだろ』

 

「やだなぁ。僕そんな正義の味方に見えますか?」

 

『それは違うだろう。だが、()の教え子なら正義とか悪の考えとは別に何かをやり遂げようとするだろう?』

 

「…まいったなぁ。ジャックさんもしかして人の心読めたりします?」

 

『よほど勘の悪い者でなければ解る。しかし君はバカでは無いがその策はバカげたものに違いない。私がここで舵取りをしなければ転覆しそうだ』

 

「言い方が教授みたいですね!でも安心してください!俺はちゃんと生き残りますから!!」

 

『随分と頼もしい言葉だ』

 

戦場でするような会話では無く、けが人の痛みを和らげるために会話を繋いでいるようだった。

 

「…あの人を倒せば霊基は安定しますか?」

 

『聞かなくても視えているだろう』

 

「はい。俺の目だと完全に霊基が融合しています。何か気持ち悪い泥の中に沈んで溶けるような…」

 

『あぁ。完全に取り返すには彼を倒し再召喚する必要があるな。仮にできたとしても今の私では無いがな』

 

「それでも教授は会おうとした…」

 

フラットの師は聖杯戦争の関係者。

表向きには唯一の生還者として時計塔では言われている。

 

『本題へ移ろう。如何にしてあの悪魔と化した英霊を止めるかだ』

 

「五騎で拮抗状態ですからね。裁定者付きとはいえ手強い相手です」

 

『裁定者…まて、彼はルーラーを召喚したのか?』

 

「えぇ。他には…月、蜘蛛、獣に騎士?」

 

『何を言っているのか分からないが聖杯戦争で呼べるようなクラスでは無いな』

 

「今なら病院の中へ入れますよ。そのまま令呪によるブーストで少女確保するのはどうですか?」

 

『警官の何名かを引き連れて行けば問題ないが運ぶ先があれではな』

 

本来の作戦は少女を確保し、教会で終わるまで保護してもらうものだった。

神父はサーヴァントの消滅、あるいは暴走状態によって制御不能となった場合にのみと言っていた。

 

「あー…なら結界で見えなくさせちゃうとか!一度やったことがあるので何とかなりますよ!」

 

『ならあの弓兵はその場所ごと壊すだろう。その程度朝飯前…待て』

 

「え?」

 

『誰か来たぞ』

 

警戒を呼びかけると共に姿を変える。

人ではなく巨大な狼。

そして吠えるようその気配に向かって威圧する。

 

「そこで止まって貰おう!貴君は何者だ!!」

 

影から1人の男が月光の元に現れた。

 

「人の言葉を話す狼はフィクションで何度も見たが実物を拝むとはな。これもまた余興か」

 

短く刈り込んだ髪の毛に、アンティークを感じるものの質のよい服に身を包んだ男だった。

 

 

童顔の少年、シグマは呆れた感情で戦況を見る。

今回の聖杯戦争では『黒幕』側で参加し、ランサーのクラスを召喚する予定だった。

しかし呼ばれたのは『ウォッチャー』という亡霊に近い存在達。

戦闘を行わずただこの街で行われる事全てタイムリーに伝えるだけの観測者。

彼らに導かれつつも生存確率をあげるためにセイバー、アサシンと一時的な共闘関係を結ぶことになった。

そして、この病院に少女のマスターがおり別の陣営が命を狙っていると聞き様子を見に来た形だ。

 

「あれが君のマスター?」

 

悪魔の弓兵と戦闘をする少年に顔を向ける。

 

「如何にも。正式なマスターではないが私は彼を認めている」

 

「彼が…」

 

シグマから見れば完全な素人。

体格を見ればある程度の鍛錬を積んでいるものの何かの武術を鍛えている訳では無い。

 

『アイツも大概イカれているぞ。何せ南米の神と獣の淫婦持ちだからな』

 

船長と呼ばれる老人が笑いながら伝える。

ヒントなのだろうが全くピンと来なかった。

それでも神を使役しているだけで情報として充分。

 

「彼と直接殺り合う状況なら勝算はある。けどそれを回りが許さないね」

 

蛇杖の少年が現れ進言する。

彼らは歳も姿も違えどウォッチャーという存在には変わらない。

 

(それにサーヴァントとの戦いが上手い)

 

英霊が弓を引く前に蛇のように長い竜が喰らおうと首を伸ばす。

それを避け排除しようとするが竜の背中を金髪と銀髪の英霊が駈け同時に蹴りを食らわせる。

手数で押すのではなく特徴を生かした戦闘。

 

「行かなくていいのか?サーヴァントならマスターの危機を救うべきだとは思うけど」

 

「私に命じられた使命は『無理をするな』だ。ヤツを倒すには私では力不足。今は私に出来ることをするまで」

 

目元しか見えないものの揺らぐことなく戦場を見ていた。

 

「それに…マスターは負けない。そう信じている」

 

「一度死にかけたけど信じるのか。普通なら撤退するのが筋だろうに」

 

「そうか…お前は信仰を持たないのか」

 

納得したかのように頷き、アサシンは真っ直ぐシグマの顔を見る。

 

「利ならある。合理的な理由だ」

 

「それはどんな…」

 

いつもならこんな話を戦の真ん中で話すはずが無い。

単にアサシンの心が知りたかったから繋げたに過ぎない。

 

「私に対して同じ目線で話してくれた。それだけで充分だ」

 

言葉を発しながら音も無く動する。

戦場と化した大通りを避け、遠回りするように病院へ向かう。

その後ろについて行くように追う。

 

「分からないな。人の気持ちというものは…」

 

殺人マシーンのように作られたシグマには人の温かさを理解することが出来なかった。

今あるのは『なんとなく、死にたくない』だけ。

他人を気遣う気持ちも微塵もない。

それでも彼は他人を救いながら生きようとしている。

 

(偽善、というやつか。もし…)

 

その先を考えるのをやめアサシンの後を追うことに集中する。

シグマにとってそのもしもは夢のまた夢なのだから。

 

「ここまででいい。これ以上巻き込むのは私の望む事では無い」

 

「待ってくれ。彼女をどう連れ出すつもりだ」

 

「担いで連れ出す。幼子程度なら動きに支障は出ない」

 

「話によればかなり長い間入院生活をしていたらしい。そんな子が君のスピードに追いつけるはずが無い」

 

単に着いていくための言い訳でもありわがままでもある。

それにシグマは同じ状況を経験し、最悪の結末を迎えた。

 

「様態を確認した後ストレッチャーを使って移動させる。連れ出したらあの黒いアーチャーに言えば少なくともこの病院は助かる」

 

仮に少女を守れた所で、病院が壊れては意味が無い。

 

『へぇ。面白いね君。一体誰の為にリスクを犯そうとしてるのかな?』

 

何故か嬉しそうに、蛇杖の少年が話しかける。

 

(何のために…?)

 

『君の信念にある合理的な理由が一つもないよ。それなのに、どうして彼女をサポートしたいのかな?』

 

こちらを試す言い方。

本来なら助言程度に流すはずだったが今は出来なかった。

自分の中にわがままという感情があったことに気づいたからだ。

 

(これは良くない傾向だ…自分の行動理念を見失うのは傭兵として魔術師として致命的だ)

 

シグマはやはり考え直したと言おうと口を開く───

 

「…感謝する」

 

視線を落とすアサシンの目に引き留められた。

 

「お前は善良な事をしようとしている。穢れた私よりも救われる価値がある」

 

(…今更帰ると言えば致命的な溝になる。それは俺の任務の成功率と生存率に大きな影響を与える)

 

自分に言い聞かすよう結論付け無言で追随する。

英霊たちの激しい戦いの音がする夜。

その音から遠ざかるような形で病院の裏手から侵入する。

十階建ての病院には警察によって人払いや睡魔の術式が施されている。

入院中の方はもちろん夜勤の看護士も今は夢の中だ。

それをウォッチャーから聞いていたシグマは多少音を立てても最短ルートで行くべきと判断した。

中庭を抜け建物に近づこうとした時、アサシンがシグマの胸元を勢いよく押した。

 

「!?」

 

何をと問う前にシグマが立っていた場所にそれは降り注ぐ。

地面に突き刺さる歪な凶器。

メスやハサミ、果てには骨鋸といった刃物が混ざりあった槍だった。

 

『あいつ、この短期間で病院内にある全ての刃物集めてきやがったぞ?』

 

船長の姿をした影法師が、少し離れたところからニヤニヤ笑っていた。

 

『さて、二つ目の試練だ。乗り越えて成長してみせろ。小僧』

 

アドバイスにすらならない発言を流し、槍が降ってきたと思われる方向を見る。

そこには病院の五階あたりの壁に垂直な形で立つ男がいた。

 

「…ッ!」

 

ゾワリと魔術回路が逆立つのを感じた。

隣のアサシンの魔力が上がったのもあるが一番は傭兵をして築かれた危険本能だった。

 

(吸血鬼がいるのは聞いていたがあれは上位の存在だ。最上位程では無いが別格だ)

 

一度吸血鬼とは相対したもののそれとは比較にもならない。

恐怖ではなく、魔力に気圧され一瞬固まったシグマに『それ』は言った。

 

「…良い判断をしたな。小僧」

 

「…?」

 

訝しむシグマに『それ』は拍手をしながら言葉を続ける。

 

「もしも先刻…かくも可憐な少女を置いて一人逃げていたならばその体を百の肉片にし炙り焼く所だったよ」

 

男は満面の笑みを浮かべながら地上に降りる。

礼儀正しいお辞儀をし、再び顔を上げる。

そこには怒りに満ちた眼をしながらも恍惚に笑みを浮かべる二つの感情を表していた。

 

「そして、最悪の判断をしたなぁ、小僧」

 

口調も変わり、賛美の思いも失せていた。

 

「矮小な人間が如きが我が愛しの君と歩くことなど決して許される事では無い。ましてや二人も増えるなどあってはないらない。そう、我慢など出来るわけが無いッ…!」

 

首を少し動かし骨を鳴らした後、両手を広げ狂気の笑みを見せつけながら謳う。

 

「死ねぬ体にした後、足先から少しづつ切り刻んでやろう。痛みだけを残し己の体が肉片に変わるのを永遠と眺めることになる。そうだ!捨てるのもつまらぬから養豚場の餌箱へ寄付するとしよう!」

 

徐々に声を上げながら背を反らし、夜空を仰いだ後───ニタリと笑い姿勢をそのままにグルリと首を回しアサシンを見る。

 

「僅かとはいえ心を許した者がそうなった時、君はどんな顔をするんだろうな?…あぁ、やはりダメだ。君が己の涙で穢れる姿を想像しただけで涙が溢れ出る!」

 

本当に嬉し涙を流す吸血鬼、ジェスターの姿を見てアサシンは我慢の限界を超えた。

そもそもジェスターの演説を聞くことすら害悪なのに己の快楽の為に正義を殺す行為が許せなかった。

 

(マスターすまない。魔力をかなり使うことになるかもしれない)

 

念で了承を得ようとしても回答は無し。

大通りの戦闘に意識を向けていると考え憤怒と共に魔力を込める。

 

「───黒剡(こくえん)を纏え。『非想巡霊(ザバーニーヤ)』」




今回は各陣営の様子とカルデアへの評価会でした。
群像劇である以上、出さないといけないけどまぁ出る人が多い多い。
アポよりも人間関係複雑な気がする…
そしてどの陣営からもチート判定されるカルデア。
人理から入店拒否られるだけあるわ!
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